幕間 ユリィはイズナを可愛がる 前編
試練が終わった後、皆は生暖かい視線を送りながら帰っていった。
なんでだ? 俺はおかしな事を言った覚えは無い。
だって俺は本当に男だし!
そんな事を考えながら俺はユリィさんと試練の後片付けを行っていた。
「イズナちゃん、今日はもう暗いし私の家に泊まっていきなさい!」
「お、良いんですか? じゃ、お願いします。それはそれでちゃん付けはやめてくださいよ! 言ったじゃないですか!俺は男だって!」
「いぇーい泊まり決定ね! はいはい。イズナちゃんは男の子男の子~分かった分かったわ~」
「分かったなら良いんですけど……」
いや、絶対に分かっていないな、返事が適当過ぎる。
納得は行かないが、そのうち理解してくれるだろう。俺の溢れる男気で……ね!
「イズナちゃん。お風呂が沸いたから先に入って良いわよ」
「あ、どうも」
「タオルと着替えは後で私が持っていくわね~」
片付けが終わるとユリィさんは俺に風呂を勧めてくる。
ならばありがたく先に入らせて貰おう。
風呂場で俺は黒装束の装備を脱いで裸になる。
タマモの面を残して……
『最悪肌に密着さえしていれば私とお前の繋がりは切れん。
顔を洗うときだけ膝の上にでも私を置くが良い』
認識阻害と髪と目の色をタマモが変えてるのでなるべく手放さないようにしている。
会話も聞こえなくなるしな。
「おー。風呂場が広いな。俺の家の二倍は広いんじゃないか?」
『一人で入るにはちと広いな。見ろ、湯船もかなりの大きさだ。私も肉体があればな……』
「タマモって結構風呂が好きだよな。一番最初も一緒に風呂入ったし」
『あぁ、肉体があった時は住み処の近くに温泉が有ったからな。暇さえ有れば入ってた位には好きだな。さぁ風呂に入れぬ代わりに私をキレイに洗ってくれ』
「あいよ」
俺は一度狐面を外し、石鹸で泡立てたタオルで優しく洗ってやる。
世話にもなってるし、顔に身につける物だからと、しっかりと洗ってやる。
「イズナちゃんタオルと着替え置いとくねー」
狐面を洗っているとユリィさんの声が脱衣場から聞こえてきた。
どうやらタオルと着替えを持ってきてくれたみたいだ。
俺は引き続き狐面を洗いながら答える。
「はーい、ありがとうございます」
「イズナちゃんお風呂上がったら冷やしたミルクがあるから一緒に飲もうね」
「はーい」
「イズナちゃん入るね!」
「は……いっ!?」
ヤバい。
狐面を洗うのに背後の気配に一切気が付かなかった。
ユリィさんは会話をしながら服を脱いでたようだ。
ガラッと音をたてる扉。
俺は咄嗟に狐面を顔に抑える。
しかし洗い流して無かった泡が容赦なく目と鼻に入る。
「ぐおぉぉ……」
「背中を流しに来ました~なんてね。って、ちょっとイズナちゃん! 大丈夫!?」
「あ、泡が目と鼻に入ってしまって。お構いなくっ!」
「! あら大変、シャワーで洗い流すわよ! ちょっとお面取るね!」
俺を心配したのかユリィさんは慌てて俺が顔に押さえてた面を奪い取る。
泡まみれの面は簡単に俺の手から滑って離れていった。
「『あ……』」
俺とタマモの声が重なったと思ったら、タマモの声は聞こえなくなる。
しかし、状況を確認する前にシャワーで顔を洗い流される。
俺は回りを見ることも喋ることも出来なかった。
「ほら~落ちたわよ~って、あれ?」
泡を洗い流された自分の顔を恐る恐る目を開けて目の前に備え付けられている鏡を見る。
鏡の向こうには美少女がいた。
腰まで届く長い濡れ羽色の髪がしっとりと濡れていて幼げな容姿だが色気を感じる。
石鹸の泡が入り、涙目の瞳は黒―――オニキスのような輝きを放っているて、反対に肌は透き通るような白。
陶器のように繊細な滑らかさを持っている肌は石鹸の泡とのコントラストで見事に映える。
瑞々しい唇はシャワーを浴びてうっすら血色の良くなった桜色で、まぶたの幅より小さく結ばれている。
将来は美人になる事が確定してるような可愛さだ。
あ、あああ、ま、まずい。タマモー! タマモ助けてくれー! どうすれば良いんだー!
直接言いたいがユリィさんが居るため、俺は必死に心の中で叫ぶ。
しかし、俺はテレパシー等使えないし、俺の手元から離れたタマモはどうすることも出来ない。
完全に変装が解けてしまい、恐る恐る鏡越しのユリィさんの表情を見るとユリィさんは口を開いて唖然としている。
しかし、ユリィさんの大事な所はうまく俺の体で隠れている。
「ユ、ユリィさん……? め、面を返して……」
「かっ……」
ユリィさんは一言呟くと手を滑らせと狐面を落としてしまう。
カランと音を立てて床に落ちる狐面。
しかし、俺が手を伸ばしても届かない位置に落ちてしまった。
「可愛いわ!可愛いわよイズナちゃん!」
ユリィさんは思わず俺の後ろから抱きついてくる。
裸でだ。
背中に二つの柔らかい感触が強く押し付けられる。
お、大きい! 夕食の時に抱きつかれた時も思ったが、ユリィさんはかなり着痩せするタイプのようだ。
「ユリィさん! むむむ胸が当たたたって!」
「イズナちゃんの素顔見るためにお風呂に入って正解だったわ! こんなに可愛いなんて! あぁもう! 家の子にならない!?」
ユリィさんは俺の体をまさぐって話を一切聞いていない。
ギュッと抱き締められる度に変わるユリィさんの胸は柔らかい……じゃねぇ!
「お肌もスベスベで髪も艶々! こんなに素材が良いのにあの黒い格好なんて勿体無いわよ! あぁ! もっとイズナちゃんを輝かせるファッションなんていくらでも有るのに!」
「ユリィさん!俺の話を聞いてくれって!」
「……あら?」
ユリィさんはしょうきをとりもどした! しかし抱きつくのを止めない!
「と、とりあえず離してくれませんか?」
「あ、ごめんね」
俺はようやくユリィさんから解放される。
同時に二つの柔らかい感触も離れていく。
「さっきも言ったでしょう? お、俺は男なんです!」
「え? …………でもどう見ても着いて無いわよ?」
「えーと? 良く分からないですけど、それでも男なんです! 少なくとも心は!」
ユリィさんが俺の下腹部を見ながら言おうとしていた事は良く分からないが、しかし俺が恥ずかしいと思うことには変わらないので反論をする。
「…………ふーん。あぁ、そう言うことね~分かったわ」
「おぉ、分かってくれましたか!」
「お姉さんは全部分かったわ! えぇ、何も言わなくて良いわよイズナちゃん。そう、これは確かにしょうがないわ。そんなに可愛いもんね!」
「……ユリィさん?」
「皆まで言わないでイズナちゃん! お姉さんは全て理解したから!」
本当に理解してくれたのだろうか?
何か大きな勘違いをしている気がするが、何か言おうとすると必ず「分かっているわ!」と言われて会話にならない。
「さぁイズナちゃん!お姉さんが頭と体を洗ってあげるわよ」
「いやいやいや、俺は自分で洗えますから!」
「良いの……良いのよイズナちゃん。お姉さんに全てを任せなさい。少しずつ、少しずつで良いのよ……」
あぁ……タマモ……助けてくれ。コレは完全に詰みだ。
もう俺にはどうしようも無い。
さよなら俺のプライド、ようこそ天国。
その後、滅茶苦茶全身を洗われた。
明日はユリィ視点です。




