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こちら傷の舐め合い追放冒険者組合  作者: ししゃも
第一章 追放冒険者と路地裏姉弟
2/17

第一話 そうだ、復讐をしようと被追放者は言った

第一話です。

「そうだ、復讐をしよう」


 ラルフが普段から買い物をしている街は、どこか薄暗く感じられた。

 普段であれば笑顔で街を行きかっている人々もどこか暗い雰囲気だ。


 なるほど気分が沈めば見える世界も変わるものだな、とラルフはいつもの街の変わりように少し驚きの表情を浮かべてしまう。

 なお、天気は今にも雨が降り出しそうな曇り。人々は復讐がどうとか道の真ん中でブツブツ言っている不審者に怯えている。

 そう、ラルフの心境とは全く関係無しに普通に天気も人々の気分も暗いのである。


「しっかし、どうしたものか」


 復讐をする。そう決意したものの、復讐とは何をするのだろうか?

 いくつか案を出してみよう、とラルフはその場に立ち止まる。


 その1。ヤツらを皆殺しにし、地獄の底に叩きこんでやる。

 ……無理、という回答が反射的に浮かび上がる。だって、仲良くやってきた仲間達に、そんな酷いマネはできないじゃないか、と。


 その2。落とし穴でも仕掛ける。

 頭に浮かんだのは泥だらけで怒り狂う幼い頃のルーナの顔だった。子どものいたずらレベルの事をやって何になるのか。


「……思いつきはするけどさ」


 こんな極端な二択でなくとも、ラルフが考えた方法はいくらでもある。

 証拠を掴ませず、ギルドに損害を与え、じわじわ苦しめていくやり方。


 しかし、これも違うな、と案を放棄するラルフ。

 こちらが何かギルドに干渉するやり方を取りたくは無かった。何故ならば。


「完全に自業自得だからな!」


 このクズ! と顔を真っ赤にして叫びながら腕を振り上げる昔馴染みの少女の顔が再びぱっと頭の中に出てくる。

 ラルフにはわかっているのだ。今回の件、全て自分が悪いのだと。

 自分が仲間に対して積み重ねた細かい悪事。無意識の内と、意識的にやった事、どちらも含めて。それが、結果として自分に纏めて、利息付きで戻って来た、それだけなのだ。

 そして、ルーナは自分という昔からの友人とギルドの仲間達を秤にかけて、皆の士気に悪影響を及ぼす自分という人間を追い出すという決断をしただけなのだと。

 

 俺は悪くない、俺を追い出したアイツらが悪いと罪の意識も何も無く、全てを押し付けるような真正の悪人だったなら、いっその事楽だっただろう。

 自分が悪い。紛れも無い事実が、ラルフの内心を苛む。


「ま、何はともあれ、新しいギルドを探さねえとな」


 懐から皮の袋を取り出し、口を開けひっくり返す。出てくるものは、何も無かった。

 ラルフの数十分前までの職業は『冒険者ギルド所属の冒険者』。


 冒険者。平民から国家まで、様々な立場の人々からの様々な依頼を受けそれを遂行し、その報酬で生計を立てる職業。その仕事内容は薬草摘みから荷物の護衛、古代文明遺跡の探索まで多岐に渡る。

 国に登録さえすれば誰でもなる事が可能で、それ故得体の知れない人間も多い。冒険者として登録した山賊が格安で護衛の依頼を受けておいて、護衛対象を襲撃するなどという問題も発生している。


 即ち、なり立ての個人としての冒険者は基本的に信用ならない存在だ、と判断され、ろくな依頼を受ける事ができない。

 そこで、いえいえこの人は信頼できる人間ですよ、と保証してくれるのが、冒険者ギルドという組織だ。


 十人ほどから数十人、多ければ百人を超える冒険者が集まって構成されるそれは、個人に加えてギルドという単位での別の評価枠が存在している。

 新入り冒険者の信用ならないヤツ、でもこのギルドが所属する事を許した人間ならば信用できるだろう、というお墨付きが貰える、というわけである。

 その為、新人冒険者がまずする事は、冒険者ギルドへの参加だ。

 ギルドの名の元依頼を受け、経験と信頼を積んでいけば、いずれはギルドの一員、では無く個人、としても信頼を持たれ、ギルドを離れたとしても様々な依頼を受けられるようになる。


 さて、それを踏まえた上で、現在のラルフの状況は。

 『無所属の冒険者』。持ち金、ゼロ。

 のたれ死にへのカウントダウンが始まった音が聞こえる気がする。


 この話を聞いていた新米冒険者がいたとして、いいや、と声を出すかもしれない。

 確かに自分みたいな新入りは信用されない、でも、ラルフさんは違うじゃないか! だって、数十人規模のギルドの創始者なんだから! とラルフに尊敬の目線すら向けながら。


 確かにそうだ。ラルフはギルドの立ち上げに参加した人間だ。

 仮に同じ創始者であるルーナがギルドを追い出されたとしたら、依頼を受ける事は容易だろう。

 『暴風のルーナ』と呼び恐れられる、数多くの戦闘が関わる依頼を完璧にこなして来た風魔法を巧みに扱う魔法剣士であれば、たとえ無所属だったとしても是非お願いします、とむしろ依頼主側から指名される事間違い無しである。


 だが、ラルフの場合は。前線に出る事も無く、ギルド立ち上げ以後は大きく出世する事も無く。最低限剣を振るう事と魔法の初歩の初歩、火種を少し出す程度の事しかできない。

 予算の管理を任されてはいたものの、体を使う作業が多い冒険者への依頼ではほぼ関係の無い技能だ。


 一番大きい問題なのが、ギルドの創始者ではあるが、知名度があまりに低いという点だ。立ち上げただけでその後は名も聞く事が無い人間にどれだけの信用があるのか。

 そもそも、『ルーンソード』というギルドの立ち上げ時代を知らない人間にとっては、ラルフは名も聞いた事が無い上弱いただの素性不明の怪しい冒険者だ。


「この辺にあるでかいギルドは……っと」


 ラルフがとぼとぼと十数分歩きたどり着いたのは王都の外れにある邸宅だった。

 有力貴族の邸宅にも劣らない、いやむしろ勝っているのではないか、と思わせる、庭だけでラルフの生まれ故郷の村ほどもある住居。しかし一方で、優美さを重視する貴族とは明らかに異なる、戦闘訓練用と思われる土が均された庭の一部分や、邸宅を守るように飾られた、鋭い眼光を放つ竜の石像。


 『バルガザルグ』。伝説に名高い邪竜の名を冠する、この辺りを行動圏とするギルドの中でも最大級の武闘派集団だ。

 規模が大きく正当な活動をしているギルドほど信頼は大きく、その上大規模なギルド間では勢力争いが行われる事が多いため、組織強化という理由もあり新入り冒険者も受け入れてくれやすい。

 

「大規模だから、って理由で新入りが入ってきて、またデカくなる……いやーこの世の摂理、ってヤツだなぁ」


 自分達にとっては雲の上の存在だったため評判はあまり聞いた事が無かったが、大丈夫だろう。さあ新たな門出だとラルフがその扉を潜ろうとしたその時。


「抵抗するんじゃねぇ!」


「……っ、待って、待って、ちょ、ほんとに!」

 

 ……内側から、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 荒々しい男の声と、それに抵抗するかのような女性の声。


 これは入っていいのだろうか、と新しい生活に心を馳せていたラルフの足が止まる。


「黙りやがれ! ボスの命令だ! ……って力強いなお前!?」

 

「あんまりじゃない! 若い子の方がいいからってクビはあんまりじゃない!!」


 波乱の予感。

 テンションが大幅にダウンしたラルフは、ただその会話の成り行きを聞く事しかできない。


「ぎゃふっ!」


 扉が開かれ、人が外に放り出される。聞いてはいけないような声をあげながら顔面から地面にぶつかる女性。


「もう来るんじゃねえぞ! ……ああ?」


 そして、扉から顔を出した、強面の大男。

 ラルフの存在に気付いた彼が、そちらに顔を向ける。

 

「……どもっす」


「おう小僧……ウチに入りたいのか?」


 先ほどの怒鳴り声と怒り顔はどこへやら、ニイ、とラルフに笑みを浮かべる男。

 笑ってはいるが元が強面すぎてあまり効果が無い。


「イエ、散歩中デ」


 対し、ぎこちなく答えるラルフ。

 この状況で入りたいです、とはとても言えなかった。

 この状況は一体なんなのか、とも質問できず。


「そうか、新入りはいつでも大歓迎だからな!」

 

 最後までいい笑顔で男は首を引っ込め、扉が閉じられる。

 

「ぅ゛ぅ゛ー……ぐずぅ……」


 扉の前、残されたのはラルフとひたすら泣きじゃくる女性のみ。

 どうすんだよこの空気、なあ、とラルフは空に向けて誰となく心の中から呟くのであった。

観覧ありがとうございました!

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