表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら傷の舐め合い追放冒険者組合  作者: ししゃも
第二章 調停者は異世界では働きたくない
16/17

第三話 私、魔王みたいな何かだそうです

二章第三話です。

 "他世界人"。

 言葉の意味そのまま、他の世界の人間を差す言葉だ。

 

 古くからこの大陸では、他の世界からの穴が空く事がある、と言われている。

 言われている、と確定した事実として扱われないのは、何も無い場所から突如として物や生物が現れる、という未解明の現象だからだ。


 そうして現れるものの多くは、この大陸に生きる人間の理解を超えており、多くの知見を与えてくれる。


 魔法を一切用いていないにも関わらず、大陸の最新魔法理論でさえ再現が困難な絡繰り仕掛け。

 体系としては西大陸の言語に近い、未知の言語が記された物品。

 そして、人間。……両親から受け継がれる魂の色、種族や有する魔法の属性によって髪の色が決まるこの世界においてまともな存在であれば決してあり得ない、魔の国の王族、そしてその起源たる神代の怪物のみが持つ黒色の髪。



「へ、へぁ……? あの、ごめんなさっ」


 その場に集まったギルドマスター達は、ドームの天井に空いた大穴を一度見上げ、それから目線を直下、その破壊を行った少女へと下す。


 信じられない、というのが総意だった。

 何か不味い事をしてしまったのか、と事の本質を理解せずに謝り続ける少女へと、その場のほぼ全員が驚愕と警戒の目を向ける。 


 中小ギルドとは言え、その長となるからには相応の実力を持つ人間が殆どだ。

 冒険者であれば高位として認められる金等級や銀等級。研究者や商人のような戦闘を行わない人間もいるが、彼らは彼らで腕利きの護衛を連れている。


 不意打ちだった。商人のような非戦闘員を守る人間もいた。それらの諸要素も踏まえて何とか防御が間に合った、というのが現在の状態である。

 発掘会会場の中を荒れ狂った純然たる火の魔力の嵐。それだけで、広域魔法として見れば軍の魔法士として生計を立てる事ができる威力だ。これが得意技です、とアピールすれば中小ギルドとしては十分新たな仲間として迎え入れようか、と考慮に値するだけの。……だが。



「……あれが、余波、だと……?」


 アーノルドの呟きで、唯一この場で状況をわかっていなかったアレンは理解する。

 実際に戦争で運用される魔法に匹敵する火力。それが、放った魔法のただのオマケであった、という事実を。

 

「……わぁ、空、きれい」


 突然の事で頭の処理が追いつかないのか、天井の穴を見上げるアレンの隣に座っていた女の子。

 そう、放たれた魔法の本体は、天井を穿ったこの一撃だった。


 強者や巨大な生物の動きは害しよう、という意思が無くともそれだけで弱者、小さい者の脅威となる。

 巨竜の飛び立つ、という動作で起こる羽ばたきの風だけで、幼子が吹き飛ばされるように。


 今の一撃をその例に当てはめるならば、皆が必死の防御行動で防いだ一撃は、竜にとっては羽ばたいた際に起こる風、程度の動いたらついでに何か起こったよ、というものでしかないのだ。

 もし、アレが自分達に向けられていたら、防げただろうか。


 是、と自信を持って……いいや、もしかしたら、頑張れば、という憶測ですらも口にできる人間は、この場にはいなかった。


「……皆さん、私に任せてください」


 ……たった一人を除いて。

 相手の真意が掴めず皆が動けない中、唯一の遅刻者であった少女がクーと呼んだ弟子の女の子を庇う体勢を解き、騒ぎの渦中へと歩みを進める。


「え、壊しちゃダメ、でしたか……いやいやそうですよね!? 面接で部屋壊すとかマジありえねーって話ですよね! ごめんなさいでもお金持ってないんです! ここで何のお金使うかもわかんないし!」


 真剣な表情で近づいてくる少女に対して、騒ぎの渦中、ミヤモはあ、これあかんやつだと直感で理解する。

 

『確認、させてください』


「わひゃっ!? 何か耳に――」


 真顔で近づいてきた少女は小さく口を動かしただけ。

 何か喋ってるのかな? あっ、もしかして私と同じで初対面の人には「あっ、あっ」しか言えなくなるタイプの人? お友達? などと混乱しながらくだらない事を考えていたミヤモは、突然誰も傍にいないはずにも関わらず耳元へ届いた声にびくっと跳ねる。


「あっいえ何でも……」


 思わず驚きの声を出してしまうが、少女が自身の口に人差し指を立てるジェスチャー、即ち静かに、という意図をくみ取り口を噤む。


『あなたは、魔王では無く他の世界から来てしまった人、ですか? それも、つい最近に。もしそうなら、ゆっくりまばたきを一回。違うなら二回お願いします』


 魔王!? やっぱりファンタジー世界なんだここ! 

 ミヤモは現地の人間に語られた言葉で、この世界を改めてそう認識した。

 いつの間にか別の世界に来た。手からレーザー出た。ここが小説やマンガ、アニメで見たような剣と魔法の世界なんだとは薄々考えていた。

 歩いて人里についたら、何か昔のヨーロッパっぽいカッコした人達が暮らしてた。

 どう見てもファンタジー世界です、本当にありがとうございました。


 本人の認識はこうだ。しかし、はっきりとそれを100%の確証を持って事実として受け入れるには、最後の壁があった。

 それは、現地の人からの情報が無い事と、それにより自分のこの能力がこの世界においてどのような地位なのかわからなかった、という部分である。


 しかし、前者はここで確定する。魔王なんて存在が大真面目に語られる世界。

 ここは間違い無く、俗にファンタジーと呼ばれる類の世界である、と。


 ただ、二つ目に関してはまだ確証は無い。


 手からレーザーが出る。異世界に飛んじゃってこれまで自分に無かった力が目覚めた、という点で彼女は混乱のさ中にチート能力、などと自分の中の知識からそれを認識した。

 でもよくよく考えればそれが自分だけが持っている力、とは限らない。この世界の人間一般が使える力なのかもしれないと。


 そんな、彼女の臆病と変な部分で楽観的に考えず根拠や証拠を求めたがる性分は、目の前の現実が確定した事による改めての驚きに塗りつぶされたせいで、少女の言葉の重要な要素を、普通ならば疑問に思う部分を見逃した。


 瞬きを、一回。魔王じゃないです。異世界の一般人です。そう、少女に答える。

 

『……今から、大事な事を言うので聞いてください。それと、私は剣を抜きますが危害は加えません』

 

 答えを受け取った少女は、一瞬目を伏せる。悲しみの色が浮かんだその意味はミヤモにはわからなかったが、次の一言、それに合わせた言葉通りの少女の動き、腰に差していた長剣を抜き構える。

 剣術云々の知識はミヤモには無いが、それでもわかるきれな構えだ。

 でも何で、構える必要があるんだろうか、と考える。


『きっと、不安だと思います。わけがわかんない、と思ってると思います。いきなり何を、と言われるかもしれません。でも、それでも……私を信じて、聞いてください』


 少女の言葉の通りだった。この子、何を言いだすんだろうと。いきなり異世界、自分に変な力が。その時点でミヤモの処理能力は限界なのだ。

 人里に降りてあれこれから自分どう生きていけばいいんだろう、どうやって帰れる方法探せばいいんだろうと初めて気付いて、何か採用会があるとかで人が集まってるから行ってみて、と流れるままにこの場所に来た。


 そこで、いきなり剣を抜かれて、自分を信じて、なんて。

 そう考えていた。でも、少女の目を見て、はっと気付く。真剣そのものの、曇りの無いその目に。 

 思わず唾を飲む。そうまでして伝えたい、ちゃんと聞いてもらいたい事があるのだ、と。


 その瞬間まで、ミヤモは気付かなかった。

 彼女が確証を持たない疑問、二つ目。自分のこの能力は本当にチート能力なのか、という点。

 答えは、もう既に先ほど少女から語られていたのだ。



『頭を隠して、逃げてください。できれば、この国の外まで。私が時間は稼ぎます。このままでは貴方は殺されます』


 この力が、魔王と勘違いされるだけのものであると。


「皆さん、避難を! ここは私が食い止めます! 早くここから離れてください! この件は私が内密に処理します!」


 瞬間、一瞬背後を振り向き避難を促す。

 直後、少女を核として砂塵が吹き荒れる。少女の体から発せられた突風が、砕けたドームの瓦礫と足元の砂を巻き上げたのだ。


 ミヤモとギルドマスター達の間を遮断するかのように形成されたそれは、傍から見ればミヤモという脅威からギルドマスター達を守った、という体に見える。


「えっ? あぇ……? その……」


「早くッ!」


 少女の言葉は、自分の事はいいから早く避難しろ、という意味に聞こえたのだろう。

 少女に加勢しようとした数人のギルドマスターが、鬼気迫ったその声に武器を下し、無茶すんなよ嬢ちゃん、危なくなったら逃げろ、と各々に声をかけながら背を向け避難する皆の殿へと向かっていく。 

 

 実際はその言葉が向けられたのは、別の対象なのだが。

 混乱するミヤモ。唐突で意味がわからないその言葉を、喉につかえさせながらゆっくりと飲み込んでいく。


 逃げる。この国の外まで。時間は稼ぐ。


 ……このままでは、殺される。


「あ、あ」


 血の気が、引いていく。少女の真っ直ぐな、自分には無い純粋できれいな目が、真摯なその表情が、疑う必要の無い事実であると伝えてくれたから。


 そこで、ミヤモの頭は回転し始める。

 分厚い、視界を塞ぐ砂嵐。この子が魔法的なので作ったもの。

 集まっていた人達は、勘違いしているんだろう。これは、あの子が自分という化物から自分達を守っているのだと。私のこれは、化物と勘違いされるだけの力なんだって。


「……っ!」


 ミヤモは背を向け、一目散に駆ける。お世辞にも早いとは言えないその脚で。

 逃げなきゃ。この国から。……この国から。この国?


 ここ、どこの国なの? どこに行けばいいの?

 必死に駆けるミヤモの、頭の中を埋めていたもの。


 それは、彼女がずっと味わってきたものと同じ、でもそこにジメジメしたものでは無い、ヒリヒリする干からびたものが入り混じった絶望だった。







「リネットさん、一体どうなって……」

「お師様、大丈夫かなぁ……」


 戦闘に巻き込まれないよう、ドームからできる限り離れる。

 大変な状況だとひと目でわかった。裏路地で磨かれた危機予測能力を万全に発揮し、アレンは隣に座る女の子、前に立った少女の弟子らしいスーと呼ばれていたその子の手を取り、素早く避難を始めていた。


「あの態度、恐らくは"調停者"になってしまった他世界人……それも、きっとこちらに来てしまった直後でしょう」


 隣を走るリネットに尋ねて返ってきた答えは、先ほどの言葉の補足だった。

 

「他世界人は基本的に魔力に乏しい傾向があります。それは、彼らが元々住んでいた世界には、魔法や魔力といったものが概念から存在していなかったから、などと本人達の証言から言われていますが……」


 こちらでの研究と合わせて考えると魔法の運用に関連した器官自体は他世界の人間にも存在するけど魔力が枯渇し存在していない、だから使い慣れていないだけでこちらに来れば使えるのだろう、と言われていますがね。

 そんな説明が続くリネットの言葉。


「っ……! じゃあ、何であんな事するんだよ……! それが本当なら……」

「……あの人は、故郷からいきなりこっちに来て困ってる人って事じゃないですかぁ!」


 アレンの言葉に繋ぐように同じ答えに辿り着き口に出したのは、ふらつきながらもアレンに手を取られて走るスー。

 

 その通りだった。アレンは直感と観察力から、スーはアレンよりは多い知識から、先ほどの状況、集まったギルドマスターたちが驚愕から立ち直り始めて取ろうとしていた動きを理解していた。


 制圧か、殺害か。どこまで至ろうとしていたかまではわからないが、あの女の人を攻撃しようとしていたのだ。

 だが、リネットの言葉を聞いているに、あの人はいきなり強い力を持ってこの世界に来てしまった、いわば迷子のようなものじゃないかと。何で、そんな人が狙われなければいけないのかと。


「彼女が"調停者"だからです。人間では到底及ばない魔力量とそれに見合った規模の魔法を生成できる才覚を先天的に持ち、黒髪……つまり、"魔王"と同じ特徴を持った」


「ッ……!」

「ぁ……!」


 子どもの二人は、それで口を噤んでしまう。

 幼子が一度は語られる、魔王と勇者の伝説。遥か昔の実話であるとされるその英雄譚の怪物が、今現在この世界に存在する末裔が目の前に現れて、そこでもし自分に力があったらどう動くか、と考えてしまったからだ。


「加えて、"調停者"を一ギルドが所有する事は固く禁じられています。……発掘会に調停者が参加している事自体が、我々の立場を危うくするのです」


 戦場を焼き払う広域破壊魔法。友軍全てに通信のパスを繋ぐ。

 優れた魔法士は戦場の趨勢を左右する存在だ。


 その中でも"魂核保有者"と呼ばれるこの世界における調停者に近い存在である偶発的に力を授かる超人とそれを遥かに上回る魔力出力を有する"調停者"は単騎で戦局を覆す力を有しており、その数は国家の軍事力の指標の一つとなる程の影響力を有している。


 そのような存在の中でもひときわ強大な調停者をギルドという民間で武力を振るう事ができる集団に所属させる事を国家が許容するだろうか? 答えは否、である。


 加えて。ギルドに加入させる人員を選ぶ会に調停者が参加している。参加させたという事実が、国家にはどう映るか。


 国家の転覆を考えていると考えられるだろう。

 何を大げさな、と笑い飛ばせないだけの力が調停者にはある。


 そのため、ギルドメンバー発掘会に調停者がいた。それは国には公にできない事実なのだ。


「ええ、だから。スーさん。貴女のギルドマスターさんは、凄いお方ですね」


「……へ?」


 急に話が自分の師匠の事に代わり、あまりにもあの人がかわいそうだ、と憤っていたスーはぽかんと口を開ける。


「この事は我々に公にできないとわかっていた。調停者の事情も、知っていた。だから、あの人が可能な限り逃げやすいようにああしたのですよ」


 意図が理解できていないスーに、リネットは説明する。

 己が読み取った、スーの師匠の動きと、その意味を。

 

「調停者……もしかしたら魔王かもしれない相手に一対一で立ち合う。それは、相手を抑え込めるだけの実力に裏打ちされた自信が無いとできない事です。その上で、相手が不幸な偶然で今ここに居て害を成そうとする気は無いと知り、逃がそうとしたのですよ」


「へ……師匠が……?」


 心配そうなスーの表情は、リネットの言葉で徐々に和らいでいく。


「他の皆さんとあの人を区切るように、わざわざ視界を妨げる埃風を起こして。公にできない、という私達の事情をさらに念押しして……一見すれば純粋に我々を守る為に動いて、でも同時にあの人が逃げるのをサポートした。混乱して暴れても我々に害を及ばせず、そうでなければ無事にこの場を逃がす事ができる。国家に介入させる事もない。私にはそのように映りました」


 リネットの言葉は彼女の推測だ。実際にそうなのかはわからない。

 だが、半ば確証を持っているかのような態度でリネットは続ける。


「ふふ。もしそうなら、あんな真面目で純粋そうな方にちょっと狡いやり方を織り交ぜた方法を教えた人でもいたんですかね?」


 苦笑いしながら、アレンを見る。もう既に、ドームはかなり小さくなる距離。

 そろそろ大丈夫だろう、と。答え合わせの時間だろうと。


 脚を止め、リネットは疲れた様子のスーへと微笑みかける。


「ご挨拶が遅れました。自分はまだ名称は未定ですが……先日立ち上げられたギルドの補佐役、リネット・アソユーズと申します」


「俺、そこのギルドマスターの弟子のアレン、アレン・アーネット! よろしくな!」


 子どものスーに対しても、礼儀正しく丁寧に頭を下げるリネット。

 同年代の知り合い、それも同じギルドマスターの弟子、という人間がいて嬉しいのか、テンションが上がった様子でスーに笑いかけるアレン。


 そんな二人に、初めてのご挨拶、いまここにいないお師様の事も一緒にちゃんと紹介しなきゃ、と慌てながら、スーは緊張で声を震わせながら、しかしキチンとリネットが確証を持っていた情報も合わせて、自己紹介をするのだった。



「ご、ご丁寧に……! 私、スーリア・ハウゼントといいます! お師様……ルーナさんのギルド、『ルーンソード』にお世話になってます! スーって呼んでください!」


観覧ありがとうございました!


今回の説明には無い「命を狙うのに国の戦力として有用なの?」については次回以降で!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ