悲しみのプロローグ
あらすじで「あっこいつだめなやつだ」と思われたのにも関わらず本文を読もうとしてくださった読者の皆様、大変感謝いたします。
「いたたたた」と思われた読者の皆様、何も間違っていません。拙作はこのようなテンションでお送りいたします。
真面目にあらすじを言うと『ギルドを追放された貧弱系主人公が同じくはぐれ者達を集めて新しいギルドを立ち上げてあれこれする』といった感じです。
流行りの題材で一つ書いてみよう、と始まった見切り発車、しかも月単位で更新が空いてしまう事もある不定期更新な作品ですが、よろしければお付き合いください。
なお作者の癖の悪さによりギャグを書こうとしているのに暗めの話が出てくる傾向にあります。
「悪いけど、アンタには出てってもらうから」
広々とした中に素朴な調度品が整えられた一室。
そこで、彼は少女に冷たい目を向けられていた。
椅子に座る少女。新進気鋭のギルド『ルーンソード』のリーダー、ルーナ。
土下座する少年。新進気鋭のギルド『ルーンソード』のメンバー、ラルフ。
彼らの現状の関係を言うならば、ギルドマスターと下っ端。
この状況は、下っ端が首を切られるという悲しくはあるが世間においてごくごく普通にあり得る全うな場面と言えるだろう。
「そんな……待ってくれよ、ルーナ!」
ここに二つほど情報を付け加えるとすれば、それはこのギルドが立ち上げから半年もかかっていないにも関わらず構成員五十人を超える目まぐるしい成長を遂げ、今も発展を続けている組織である事と、
この二人はその創設者であり、ラルフも現在は違うが元々ルーナと共にギルドを立ち上げ共同でギルドマスターを担っていたという事。
「止めて。もう、呼び捨てで呼ばれたくない」
さらにもう一つ付け加えれば、彼らは幼いころからの親友だった。
辺境の小さな村で冒険者になる、という夢を持ち、最終的にはギルドを立ち上げよう、と夢を語りながら共に研鑽を重ねて、ついにその夢は叶った。それなのに、何故こうなってしまったのだろうか?
「限界なの」
「何が、だよ。具体的に言えよ」
ルーナが何故自分を追放しようとするのか、ラルフには理由について、概ね見当が付いていた。
彼女は、自分の事を疎ましく思っているのだ。そう考える。
「この前、ニベルガルドの方に遠征行ったでしょ」
「ああ」
あの時の記憶は、ラルフの中にはっきりと残っている。厳しい任務だった。
大陸南部、凍てつく気候の砂漠、という不毛の極みのような土地で希少な金属『魔練鋼』の採掘。
死者こそ奇跡的に出なかったものの、凶暴な原生生物との戦闘が起こり多くの仲間が傷を負い、生の食材は早々に無くなり不味い保存食に苦しんだ。
自分が出した成果は、中の上、と言ったところだ。ああなるほど、薄々わかってきた、とラルフは内心で溜息をつく。
こいつは、自分の立場が脅かされると思っているのだろう、と。
この時、ルーナは別の依頼がありそちらに向かっていたため、採掘のパーティにはいなかった。
魔練鋼は非常に重要な資源だ。単純に強度が高い上魔力に対する感受性が高いため、切った相手を燃やす剣、などというような魔法的属性を付与した武具を作るには必須。付与魔法も取り付けやすい。
そして、大陸の一部、それも危険な地域でしか発見されていないため、その有用性と相まって市場での相場も高く安定している。
売って資金にするも良し、激しい戦闘を伴った任務を請け負う実戦部隊の武具の材料にするも良し。
その大量入手はギルドそのものの力を強める重要な活動だ。
全くやれやれ、権力闘争なんてバカバカしい。俺は別にお前の立場を奪おうなんて思っていないし、現状に不満も無い。これからもお前をリーダーとして立てるつもりだ。昔からそうだっただろ?
そう、ラルフは目の前の友に言おうとし。
「……あんた、コジローの夜ごはんこっそり盗み食いしたでしょ」
固まった。
「えっちょ」
予想外の言葉に混乱するラルフの頭の中に、変わった意匠の長剣らしきものを常に腰に差している古参ギルドメンバーの顔が浮かぶ。
いやまさかそんな。
「あと、鉱脈の情報持ってきたのあんただけどさ、アレ、エイミーが現地走り回ってやっと手に入れた話だったらしいじゃない」
次に、気弱そうな盗賊の少女の顔が。
待て、待ってくれ。
「ああ、後……クリスのパンツ盗んだの……この変態!」
それから次々と、いくつもの具体例が挙げられていく。
何故、何故? ラルフの頭を、ルーナが話に出していく仲間達の顔がぐるぐると回る。
……何故。
「く……そっ!」
何故、バレた?
いや確かにコジローの持ってる故郷の料理美味しそうだし自分はもう保存食しか残ってないし丁度トイレ行ったし少しもらっちゃおうかなー、とか思ったけど! 結局全部食べちゃったけど!
あのいつもびくびくしてるエイミーがぶんぶん手を振って興奮気味に話してくれたイチオシ情報、俺が先にルーナに報告しちゃったけど! あたかも俺が入手した情報です、みたいに言っちゃったかもしれないけど!
あとクリスのパンツは盗んでないから! アイツそもそも野郎だろうが! そこだけは否定するから!
悪態をつく一瞬で、ルーナの話した事例、その全ての心当たりがラルフの記憶から鮮明に蘇ってくる。
若干の濡れ衣はあるけれど。
「……ま、待ってくれ!」
弁解の余地は無し。だが、それでもと何かを言おうとするラルフをルーナは手で制する。
「あんたとはさ、昔からわちゃわちゃやってたよね。単純な性格の私と違ってさ、悪知恵が良く働いててさ、イタズラも、腹立つ連中への仕返しも、いっつもあんたが考えてくれた」
「……おう」
「正直、楽しかったよ。時々ドン引きするようなやり方してたけど、そんなあんたのクズな所、私は嫌いじゃなかった」
畳みかけるような、振り絞るような言葉の後、ふと、ルーナの表情が変わる。失態を繰り返した構成員に罰を言い渡す厳粛なリーダーのものから、ラルフの昔からの親友である、一人の少女の顔に。
「でもさ、大人数のおっきな集団になるとさ、ダメなんだよね……アンタのそういうとこ、今度は内側に向いちゃうみたいで」
反論として出せる言葉など無い。目線をルーナから床へと落とすラルフの頭の端を昔日の光景が掠める。
腕っぷしの強いお前と狡賢い俺、組んだら最強だ! と二人で肩を組んで笑っていた、泥まみれになりながら日が落ちるまでイタズラに駆けまわっていたあの日々の事を。
「だから、残念だけど、ラルフには出ていってもらいたい……昔からの友達を見捨てるのはすごく悔しいけど、このギルドのためなの」
「クク……昔馴染みでも容赦なく切り捨てる、そんな事を知ったら、構成員の皆はどう思うかな? 冷酷なリーダーさんよぉ!」
「そういうとこよあんた」
「……冗談だよ」
ちょっと思い留まってくれないかな、などと期待したのは内緒として。
立ち上がりラルフは友に背を向ける。
ひらひらと手を振り、せめて別れくらいはカッコ良く、などとそのまま扉に手をかけ、急ぎ足で部屋を出ようとするラルフ。
「ラルフ!」
「……餞別とかはいらねえ。頑張れよ、強い強いギルドマスターさん」
呼び止めるような感情が伺える大きな声に一瞬だけ背後を振り向き、しかし振り切るように再び向き直る。
最後にその名を呼べず、嫌味を言ってしまった事に少し後悔をしながらも、こうして追放された少年は新たな一歩を……
「ポケットに隠した宝石を出しなさい」
「はい」
……こうして、追放された少年は新たな一歩を踏み出すのだった。
観覧ありがとうございました!