第四話〜〜風と氷の共同戦線〜〜
先日、新たなる発見をした。
カランカランー
「お、いらっしゃい! ルノちゃん」
カフェによく来る女の子。
「おはようございます、サトリさん」
この女の子の名前はルノちゃん。ただの常連客だと思っていたこの子は、わたしと同じ魔女だった。
ルノちゃんの注文の品。いつものコーヒーとチーズケーキを持っていった。
「それでさ、討伐の日程の事だけどさ」
「え……?」
「えっ、忘れちゃったの?」
「いえ、そうではなくて……サトリさん。お仕事は?」
あぁ、そういう事か。現在のわたしは仕事中にもかかわらず、コーヒー片手に呑気におしゃべり。不思議に思われて当然だ。
「大丈夫大丈夫。この時間は空いてて暇だし。ほら、今だってルノちゃん以外お客さんいないでしょ?」
「そ、そうですね。サトリさんが平気なら全然いいんです」
「うん。でね、討伐に行くの明日なんてどうかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
「よっし。んじゃ明日の朝に村の入口に集合ね」
「分かりました。明日は色々な魔法を見せてくださいね」
「もちろん! ルノちゃんもね」
こうしてわたし達は初めての共同戦線をはることとなった。
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翌日の朝。
約束の場所に行くと既にルノちゃんが来ていた。いつものような膝上丈のワンピース。その上にはローブを羽織っている。三角帽子は被っていない。あれ、邪魔だからわたしも被らないんだよね。
「ごめんごめん。待たせちゃった?」
「いえ、今来たばかりですよ」
「それなら良かった。んじゃ、行こっか?」
「はい」
そんな恋人同士のようなやり取りをして出発する。
山に入って数分で黄色っぽいスライムに遭遇した。この辺りではほぼスライムしか出てこない。
「さっそく出たね。お先に行かせてもらうね!」
「どうぞどうぞ。……ん?」
「おりゃ!」
ビュオオオ!
「あっ……!」
初の見せ場ということもあって少々気合いが入りすぎた。風の魔法を一発。スライムを周りの木数本ごと吹き飛ばしてしまった。
「ちょっとやりすぎたかな」
「ぽかーん」
「ん?」
ルノちゃんがぽかーんとしている。ふっふっふっ……確かにわたしの風の魔法は強力だからな。
「サトリさん……」
「ふふん。何かな、ルノちゃん?」
「さっきの金ピカスライムでした」
「えっ……!?」
わたしは『この魔法見て驚かないの!?』と『いきなり金ピカスライム!?』の二つの意味で驚いた。
「マジかぁ。運がいいのか悪いのか……」
「まぁ、今日は金ピカスライムが目的じゃないですし忘れましょう」
「ルノちゃんはたくましいね」
それからは先程のようなミラクルが起きる事はなく、普通のスライムばかりだった。
「では、いきますよ。とりゃ」
バキン……!
あの時見た魔法だ。氷の槍が突き出している。
周りにはまだスライムが残っている。なら次は……
「おりゃ」
ガシャーン!
雷の魔法がスライムを貫いた。
そんな感じで、わたしは風だけでなく、火や雷、水など様々な魔法を披露した。一方、ルノちゃんは氷の槍、氷の弾丸など、氷の魔法を中心に使っていた。どうやら氷の魔法が得意みたいだ。
そんな事を思っていると……
「サトリさんはすごいですね」
「え、そう? ルノちゃんこそ氷の魔法パンパじゃないね」
「私、氷の魔法しか使えないんです」
「え?」
「氷の魔法か好きでそればっかりやってたんです。あ、勘違いしないでくださいね? ほかの魔法も一応は使えますよ?」
そう言ってルノちゃんは火を『ボッ』と、出したり、風を『ヒュン』と、おこしたりした。
「た、たしかに使えてるけど……じゃあ氷は?」
「はい」
バキャッ! バキバキッ!
「……」
まるで氷の魔法にスキルポイントを全振りしたような威力。一体どれだけ氷の魔法に夢中になっていたのだろうか……わたしの風の魔法を見ても驚かないわけだ。
「あれ? じゃあさっきわたしの事すごいって言ってたのは……?」
「いろんな属性の魔法を使えてすごいですね」
「そういう事か!」
なんだか軽くショックだ。わたしも風の魔法が得意な魔女として自負しているつもりだが、ルノちゃんの氷の魔法ほどのレベルではない。
わたしがだんだんとマイナス感情に支配され始めた時……
「いや、でもほんとに羨ましいですよ。もし良かったら火とか水とか色々教えてください」
「え……」
「私もサトリさんみたいに、色々な属性の魔法使えるようになりたいです」
ほ、ほう? 悪くない……悪くないぞ! まさか尊敬される立場になるということがこんなにも気分がいいなんて!
「ふ、ふっふっふっ。仕方ないな。そういうことならわたしの弟子に……」
「あ、そこまでガチじゃなくて大丈夫です」
「ズコッ……」
「ふふ、冗談ですよ。ぜひ教えてください」
「ふ、ふふん。仕方ないなぁ!」
そうしてわたしはルノちゃんのちょっとした師匠になった。
が、しかし。
「とりゃ」
ボォォォッ!
「とりゃ!」
ザバァァァン!
我が弟子は非常に優秀で、教えた魔法をすぐにものにしてしまった。既に火の魔法、水の魔法をわたし並に使えている。いや、わたし以上か? もはや立場がない。
「……」
「うーん、風の魔法はサトリさんにはかないませんね」
それが唯一の救いだった。得意の風の魔法まで追い抜かされたら魔女をやめたくなる。
「得意って意味じゃ、やっぱりルノちゃんの氷の魔法は桁が違うね」
「そうですか? それなら夢中になってたかいがあります」
そう言って微笑む我が弟子。まったく……とんでもない子を弟子にしてしまったものだ。
「と、まぁ今日はこの辺にしとこうか。スライムもほとんどいなくなっちゃったしね」
「そうですね」
こうしてわたし達の初めての共同戦線は終わりを告げた。
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現在は討伐の帰り道。
「いやぁ、それにしても今日は楽しかったよ!」
少しのショックも受けたが。
「こちらこそ、自分以外の魔女の魔法が見れてとても勉強になりました。ありがとうございます」
「はは、それなら良かったよ」
「今度は雷の魔法を教えてくださいね」
「え、そうなるとわたし、風の魔法しか取り柄がなくなっちゃうよ?」
「ふふ、そんなことありませんよ。カフェの仕事だって立派にこなしてるでしょ?」
不意打ちだった。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
「ふっふっふっ。仕方ないなぁ! 次の討伐の時にね!」
「はい、よろしくお願いします」
この日以降。わたし達はちょくちょく一緒に討伐に行くようになった。そしていつからか、魔法を見せて欲しい。とか、魔法を教えて欲しい。とか関係なく、ただただ友達と遊びに行く。そんな気持ちになっていた。
そういえば少し前に『いい友達になれそう』なんて思ってたな。見事に現実になった。
そんな風に話しているとあっという間に村に到着した。
「んじゃ、今日は楽しかったよ! また明日……かな? わたしはカフェでお仕事だけど」
「ふふ、それならまた明日ですね」
そうしてわたし達は笑顔を交換して別れた。
『また明日』そんな何でもない普通のやり取り。だけどそれは確かに友達同士のやりだった。




