第二話〜〜もう一つの顔〜〜
師匠との特訓。そしてランペッジさんとの出会い。悔しい思いをしたのと同時に、憧れの人ができた喜びもあった。
「それにしても……わたしは慢心してたのかな」
『くらいついていけてた』なんて慢心以外何でもない。きっと師匠はそれを分かっていた。そしてランペッジさんにも教えられた。
「ふぅ。まだまだやる事がありそうだ」
ま、それはそれ。ひとまずその件は置いておこう。
今日は朝から姉さんカフェで仕事だ。自分のカフェを経営するという、姉さんの小さい頃からの夢。それを手伝うのもまた、わたしの夢。
カフェの看板娘。
それがもう一つのわたしの顔だ。
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「おはよう、姉さん」
「おはよう、サトリ」
そんないつものやり取りをして、カフェの掃除を始める。すっかり日常の一部となってしまった。
「このカフェもオープンしてからけっこう経つけどサトリのおかげでずっと綺麗ね」
「なーに言ってんの。掃除は二人でやってるでしょ」
そう。このカフェは姉さんだけでもなく、わたしだけでもない。二人で一緒に続けてきたのだ。
「さーてと、こんなもんかな」
店内はピカピカ。開店時間までまだ余裕がある。
「ところで姉さん。メニューの事なんだけど」
「メニューがどうかした?」
「この『アネ・コーヒー』とか『アネ・アイス』って普通のやつとなんか違うの?」
「そんなの一目瞭然でしょう?」
「?」
「名前が違うわ」
「それだけ?」
「えぇ」
うん。まぁ、いっか。うちのメニューは基本的に全部美味しいからね。注文さえしてくれれば満足してもらえる自信はある。
「開店時間ね。それじゃ、接客の方はお願いね」
「オッケー! 任せといて」
そうしてやってきた開店時間。このカフェは基本的にお昼と夜、二度のピークがあるがそれ以外は落ち着いている。いかにもカフェらしい穏やかな雰囲気だ。
それは今日も同じで。
カランカランー
「いらっしゃいませー!」
本日のお客さん第一号。午前中の空いている時間によく来る女の子だ。膝上丈のワンピース。そして氷のような綺麗な水色の髪をしている。
「おはようございます」
その一言を言ってからお決まりのテラス席へ座る。
「ご注文はお決まりですか?」
「はい。コーヒーとチーズケーキを」
「ありがとうございます!」
正直、注文も聞くまでもない。だけど接客として形だけはちゃんとやる。
注文を取ってから厨房に行くと既にコーヒーとチーズケーキが用意されていた。
「うわ、早っ!」
「いつもの子でしょう? なら分かるわ」
うむ、さすが姉さん。ピーク時でも一人で厨房回しちゃうだけある。
「それを言ったらわたしも似たようなもんか」
このカフェは姉さんとわたししかいないんだもんね。
「お待たせしましたー!」
「ふぁ……あ、どうも」
コーヒーとチーズケーキを持っていくとその子は大きなあくびをしていた。
「ふふ、寝不足ですか?」
「いえ、このカフェの雰囲気がとても落ち着いているものでつい……」
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞー」
それなら邪魔しても悪いので、わたしはその言葉だけ残してその場を離れた。
お礼を言ったのは『落ち着いた雰囲気』というのがわたしにとって褒め言葉だったから。やっぱりカフェはそうでないとね。
「良かったね、姉さん。ここは落ち着いた雰囲気だって」
「そう。よく分かってるわね」
一見、クールに決めてるが嬉しいのが丸分かりだった。素直じゃないなぁ。
穏やかな時間が過ぎていくにつれてカフェの雰囲気はだんだん賑やかになってくる。ピークが近くなってきた証拠だ。
「あ、おかえりですか?」
「はい、ごちそうさまでした」
あの女の子だ。だいたいピーク前には帰ってしまう。落ち着いた雰囲気が好きって言ってたもんな。
「ありがとうございました。また明日もお願いします!」
「はい」
そうして女の子は帰っていった。
「あ、ついまた明日もとか言っちゃったな。まぁいっか」
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次の日。
またその女の子は来てくれた。『また明日も』なんて言ってしまった手前、ちょっと恥ずかしい。
「それでもやる事は一緒だ。笑顔笑顔!」
なんであれ、来てくれたことには感謝だ。
「いらっしゃいませー!」
「ふふ、また来てしまいました」
うっ!? やっぱり気を使って来てくれたのかな?
「あ、違いますよ? どっちにしろ今日も来る予定でしたので」
良かった……いや。それすらも気を使ってくれてるだけかもしれない。いやいや、そんな事言ってたらキリがない……
「あの……」
「あ、すいません! ご注文どうぞ!」
「コーヒーとチーズケーキを」
「はい、ありがとうございます!」
いけない。接客中にぼーっとしてしまうとは。
厨房に向かうとまたしてもコーヒーとチーズケーキが。
「ふふ、また来てくれたわね?」
くぅ……ニヤニヤしちゃって! わたしだってちょっと気にしてるのに。
「お、お待たせしましたー」
「あ、どうも」
どうやら今日はあくびはしてないらしい。そんなしょっちゅうしてる訳ないか。
「ごゆっくりどうぞー」
わたしはいつものようにその場を後にした。
「ふぅ。やっぱり気にしすぎだよね。はやく切り替えないと自意識過剰系看板娘になっちゃうよ」
我ながらアホなことを気にしていたと思う。お客さんは来たければ来る。それだけの事なのに。
結局わたしはその後もずっとぶつぶつ言いながら過ごしていた。
そしてピーク前。
「ごちそうさまでした」
「ぶつぶつ……」
「あの……?」
「ぶつぶつ……」
「……とりゃ」
「冷たっ!?」
そこでようやくわたしは女の子の存在に気付いた。不覚……
「ごちそうさまでした。帰りますね」
「は、はいっ! ありがとうございましたー!」
そうして女の子はいたずらっぽい表情を浮かべながら帰っていった。
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女の子の後ろ姿を見送った直後。
「ん、そう言えばさっきのって魔法……? あの子、魔法使いかな?」
もしそうだとしたら魔女の身としては親近感が湧いてくる。
「今度、それとなく聞いてみようかな。なんだかいい友達になれそうな気がする!」
『友達』と呼べる関係にまでなるのはもう少し先の話ですが。




