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傷心

孤児院。


俺はリンが買ってきた素材でポーションを調合していく。

猫耳っ子達が部屋に入ってきて事故らないように、一つの部屋を調合用の部屋としてもらった。

調合は素材を混ぜ合わせて物質構造を変化させるものであり、事故がつきものなのだ。

もし、調合中に集中力が乱れてミスったりすると、よきせぬ事がおき、最悪自分の体が吹き飛ぶ可能性も有る。


(まぁ、俺は精霊の加護のおかげが、幸い事故ったことはないが…)



「よし、できた」


俺は10個程ポーションを作ったので、気分転換に部屋の外にでると…


「エクトお兄ちゃーんっ」


(!?)


小さな猫耳っ子が抱きついてきた。

温かい塊が飛び込んできたのだ。

獣人族は人より体温が高いのでポカポカだ。


「エクトお兄ちゃん、一緒に遊ぼうよぉ。お遊びしようよぉ」


クイクイ俺の服をひっぱる猫耳っ子。

舌足らずな声を出す。


(しょうがない、少しぐらいなら良いか)


「いいよ」

「やったぁー。じゃあ、こっちこっち、こっちだよぉ」


「こらこら、あまり服をひっぱらないでね。伸びちゃうから」

「うん。わかったぁー。気をつけるねぇー」


俺は猫耳っ子につれられて運動場に移動する。



運動場にはいくつかの銅像が並んでいた。

騎士、剣士、魔法使い、魔物使いなど、有名な戦士の像だ。


俺はふと一つの像に目を留めてしまう。


(この銅像…誰かに似てるな…えっと…こ、これは…ティア?)


俺は女騎士像を見つめてしまう。

どこかティアに似ているのだ。

すらりとした体に、ふわっとした髪、気品の有る雰囲気

美しい女騎士の像だ。


でも…よく見ると違う。

似ているだけ…面影はあるが別人だ。

他の人が見れば似てるとも思わないかもしれない。


でも…でも…俺にはティアに見えてしまうのだ。

どうしようもなく、彼女の姿に見えてしまうのだ。

俺の中では女騎士=ティアなのだ…


だからか、ふいに彼女を見たからか…俺は悲しみに襲われる。


(…ティア…ティア…俺の……ダ、ダメだ)


俺はウルッときた。


孤児達を救って気持ちは離れていたが、再び悲劇を思い出してしまった。

ティアに裏切られたことを、ティアとグラントの衝撃シーンを思い出してしまったのだ。

俺の心は抉られる。


(ティア…ティア…俺のティア………優しくて綺麗なティア…俺の…ティア。俺が好きだった……ティア…)


心の中で叫んでしまう。

ティアのことを思い出してしまう。

頭には彼女のかわいらしい笑顔が浮かび、耳には綺麗な声が聞こえる。


俺はこっぴどくティアに裏切られたが、まだティアのことを好きだったのだ。


その証拠に…


ティアがいない寂しさで胸がうづく。

悲しくて心がキリキリと削れる。


何かが足りない…ポッカリと心に穴が開いていた。

ティアロスだ。


ポロリ


いきなり涙が出てきた。

心が震えて熱い想いが胸に湧き上がってくる。

目頭が熱くなってくる。


涙は止まらない。

ティアのことを思い出すと涙が出てくるのだ。


「エクトお兄ちゃん、どうしたのぉ?」


猫耳っ子が不思議そうに俺を見る。


「なんでもない…目に、ゴミが入ったんだ」

「そうなんだぁ。すぐにお水で洗った方がいいよぉ。リンお姉ちゃんがいってたぁ」


「そうだな。ちょっと水場にいってくる。すぐに戻るよ」

「うんっ。待ってるねぇ」


俺は猫耳っ子から離れた。

ここでは泣けなかった。

小さな子供の前では泣けなかったのだ。



水場に移動し、顔を洗う。

ティアの悲しみを洗い流すように顔を洗う。

でも、涙は止まらない。

悲しみは洗い落とせないのだ。


(ティア…ティア…俺の………ティア…栗色の髪の……ティア)


一度ティアのことを思い出すと、悲しみが止まらないのだ。

それだけ好きだった。

彼女と一緒にいるだけでよかった。

ティアがいない喪失感で、心は荒んでいた。

俺は空虚だった。


(ティア…なんで…なんで俺を裏切ったんだよ………なんで…俺を…俺を選んでくれなかったんだぁああっ!)


(ティア…ティア…なんで俺を………愛してくれなかったんだよぉっ!)



バシャバシャと顔を何度も洗っていると。


「エクト、どうしたにゃ?」


(!?)


(うぉっおおお!!!ビックリしたっ!)


いきなり声をかけられた。

全然回りに注意を払っていなかったので、ひやっとした。

完全に一人だと思っていたのだ。


(一体誰だ?)


俺は涙をこらえて振り返ると…茶色と白色の猫耳、リンがいた。

この色合いは孤児院にリンだけ。

鮮やかな色彩だ。


「なんでもない。目にゴミが入ったんだ」

「そうにゃ。それは大変にゃ。ちょっと動かないでほしいにゃ」


(?)


リンがぐぅううう~~~っと俺に顔を近づけてくる。

撫でるように、肉球の手で俺の顔をペタペタ触る。

プニプニした肉球がくすぐったい。


触れそうな程近い距離で俺の目を見るリン。

大きくてクリクリして、綺麗な目が俺を見つめる。


「うにゃ?大丈夫にゃ。ゴミは入ってないにゃ。よかったにゃ。何度も顔を洗ってるから心配したにゃ」


(どうやら…長い間見られていたのかもしれないな)


でもそれを感じさせず、明るく笑うリン。


温かい温もりのこもった手。

しかも肉球でプニプにして柔らかい。

おまけにフワフワの猫毛がほほをくすぐる。


(…あったかいな)


顔を触られているだけだけど、なんだか心を直接触れられている気分だった。

リンの暖かさが伝わってきて、俺の心は揺れる。

獣人族だから物理的に温かいってのもあるけど…違う。


(なんだろう…リンは太陽のように明るく、人を包み込む暖かさがある)


そんな雰囲気があるのだ。


(あったかい…ポカポカだ)


だからか……

リンの優しさと暖かさに触れると…


リンの温もりを感じると…


これまで抑えていたものが解けてしまう。


心が緩み…決意が緩み…こらえていた涙が再び流れ出そうとする。


(だ、だめだ…泣いちゃ…ダメだぁ……涙はみせられない…俺はこの孤児院を…守るん…だから)


(俺とリンが一番の年長者。だから俺が泣いている場合じゃない。皆の面倒をみる立場なんだからぁあ…)


(でも…でも……だけど…だめ…だぁ)



俺は涙をこらえることができなかった。


リンの暖かさに触れると…

ティアに傷つけられた心を癒されると…

どうしても涙が出てきてしまうのだ。


止まらない。


無理だ。


押さえ切れない。


涙をとめることはできない。


目頭が熱くてどうしようもない。


だから泣いてしまう。


ワンワン泣いてしまうのだ。



俺は泣いた。



「ううううぅぅぅうううううーーー!」



声を押し殺して泣いた。

唸るようにして泣いた。

口を閉じながら泣くが、声が漏れ出てしまう。


「うううううううぅぅぅぅぅぅううううううーーーーー!」


俺は泣きながらも…


唸りながらも…


悲しみに震えながらも…


ぺタッ


思わずリンの猫耳を触ってしまう。

涙を流してしまったせいか、それまでのおさえが利かなくなっていたのだ。


寂しかった。


悲しかった。


心細かった。


ティアを失った代わりに…何かに…温かいものに…どうしても触れたかったのだ。

だからリンのモフモフ、猫耳に触りたかった。


「くすぐったいにゃ」


俺に猫耳を触られて明るく笑うリンだが、嫌がるそぶりは見せない。


「リン…今は…触らせて…くれないかぁぁぁああ…」


俺は泣きながら声を出す。

涙を流し続ける。


リンは察したのか。


「…いいにゃ、あたしもちょうど耳が気になっていたにゃ」

「あ、ありがとぅううう…リンっ」


「なんでもないにゃ」

「うううううぅぅぅぅう…リン…ほんと、ありがとうぅうううーーー!!


俺はそっとリンの猫耳を触わり続けたのだった。

暖かくモフモフした猫耳は、ティアで傷ついた俺の心を癒した。


リンは俺をそっと抱きしめて、頭を撫でてくれた。

ポカポカの温かい毛並みに包まれる。


「ううぅうぅうぅううううう………」


リンの胸の中で泣く俺。

彼女の温かい胸から、鼓動が聞こえてくる。


リンは孤児達をあやすのに慣れているためか、「よしよしにゃ」と優しい声で頭を撫でてくれた。

何度も何度も、優しく俺の頭を撫でてくれた。

天使のような手触りと温もり。

俺の寂しく凍った心を癒してくれたのだ。


「よしよしにゃ、エクト、よしよしにゃ」

「りうぅううううう…り…リン…」


「エクト、泣いてすっきりするといいにゃ」

「うぅううううう…リン」


「あたしはずっとここにいるにゃ。どこにもいかないにゃ」

「ぅうううう…リン…うぅうううううう…リン」


何度も何度もリンは俺の頭を撫でてくれる。

そのたびに俺の心を解けていった。


リンの暖かさと優しさに絆されて…俺の心は緩んでいき…



「うぅええええええええーーーーーーーーーーん!!!」



ついに、声を出して泣いたのだった。


もはや声を押し殺すことすら出来なかった。

胸の中に想いを押さえ切れなかったのだ。


口をあけてワンワン泣いた。

俺はリンの温かい胸の中で泣いたのだった。

彼女の服を…胸を…涙でぬらしたのだった。


「よしよしにゃ、エクト、これまでよく頑張ったにゃ」


「エクト、何も気にせず、今は泣いていいにゃ」


リンは優しい言葉を繰り返しながら…

俺を抱きしめながら…背中を優しく撫でてくれる。


「エクトは自分に自信をもっていいにゃ」


「あたしがそばにいるにゃ。一人じゃないにゃ」


「ここにあたしがいるにゃ」


リンの言葉と温もりが俺の心につきささる。

ジンジンと心に刺さったのだ。


(とても…とても心地よかった…とっても…暖かくて、心地よかった)


心が癒された。


俺は泣き続けたのだった。

涙が枯れるほど、リンの胸の中で泣いた。

ティアによって与えられた悲しみを、全て吐き出したのだった。


俺はリンに包まれていた。

彼女の優しさに包まれていた。





暫くして…俺は泣き止んだ。

すべて吐き出してスッキリしたのだ。


すると…


(!?)


(うおっ!)


俺は唐突に正気に戻った。

自分が何をしているか認識すると、顔から火が出るほど恥ずかしかった。


(俺、リンに抱きしめられて…頭を撫でられて、泣いていた…この俺が…)


すっとリンから離れる。


「にゃ?」


突然の俺の行動に、リンが不思議そうな顔をする。

今まで抱きしめながら、「よしよしにゃ」と俺の頭を撫でてくれた彼女が驚く。


胸を貸してくれたリンには感謝しているが…

冷静に見られると…


(なんだか恥ずかしいな…すっごく)


(俺、とんでもなく情けないことをしてしまった)


(醜態をさらしてしまったな)


だから俺は言う。


「リン、その…今のは皆に秘密で頼む。誰にも言わないで欲しい。理由は言わんなくても分かると思うけど」

「分かってるにゃ。誰にも言わないにゃ」


(よかった。まさか同い年の猫耳少女の胸で泣くことになるとは思わなかった)


(でも、胸の中にたまっていたモノがなくなってスッキリした)


「リン。その…ありがとなっ!」

「あたしはなにもしてないにゃ」


いつも通りのリンだ。

笑顔がまぶしい。


「そうか、よし、じゃあ、俺は運動場に戻るよ。子供達と遊ぶ約束したから。だいぶ待たしちゃったかもしれない。怒ってるかも」

「そうにゃ。元気になってよかったにゃ」


(リンのおかげだ)


「おう、じゃあリン、ほんと……ありがとなっ」

「いいにゃ、ばいにゃー」


「おう」


それから俺は運動場に向かい、猫耳っ子達と遊んだのだった。



――エクトは、人の優しさと温もりを学んだのだった。



WEB拍手&感想&評価ありがとうございます。


皆様のおかげで、日間2位になりました。

嬉しく思います。

ですので、本作をシリーズ一覧「日間総合トップ5以上になった作品」に追加しました。


明日も投稿です。

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