孤児達を救え
俺とリンは孤児院に到着。
ボロボロながらも、小奇麗に手入れされた建物だった。
孤児達が書いたのだろうか、壁にはひまわりの絵があった。
温かい雰囲気が伝わってくる場所だ。
(きっと、リンが毎日手入れしているのかもしれないな)
「リン、中に孤児達はいるのか?」
「そうにゃー。こっちにゃー」
俺はリンと孤児院の中に入った。
中に入って大きな部屋。
そこには布団がたくさん床に引かれており、獣人族の子供達が寝込んでいた。
体の一部が石化している子もいる。
しっぽや猫耳が石化しているのだ。
(な、なんてことだ…ここまでひどいとは…)
俺は一瞬驚いて震える。
だが、すぐに意識を戻す。
(目の前の子供達を救わないとっ!)
「リンッ、石化病にかかった子供達はこれだけか?」
「そうにゃ、他の子に移らないようにこの部屋に隔離してるにゃ」
(そうか…それでリンにも石化病がうつったのかもしれないな)
俺は察した。
リンの症状は比較的浅い。
つまり初期段階。
最近石化病にかかった証拠だ。
石化病にかかった子供も誰かが世話をしないといけない。
だからリンが世話をして病気がうつったのだろう。
「分かった。今すぐ俺が石化回復ポーションを作る。だが…」
俺はアイテムボックスを確認する。
(やっぱりだ。素材が足りない…)
いくら精霊の加護で調合が出来るからといって、何もない状態からは作れない。
そこまで万能ではないのだ。
最低限の素材は必要だ。
俺は即座に石化回復ポーションを作るのに必要な素材を紙に書き込む。
「リン、ここに書いてあるものを買ってきてくれないか。石化病を治すにのに必要だ。素材は安いし、金はこれを売ればつくれるはずだ」
俺は素材メモと一緒に、ライフポーションをリンに渡す。
ライフポーションは体力を回復するもの。
体に出来た傷を癒す効果がある。
市場ではそれなりの値段で売れるはずだ。
「い、いいにゃ?受け取れないにゃ治してもらって…その上アイテムまで…」
「気にするな、それよりなるべく早く頼むなっ。子供達のためにもっ!」
「分かったにゃ。今すぐ行ってくるにゃ」
「あぁ、俺は今すぐ調合を開始する。今ある素材でも少しは作れるから」
「にゃ、ありがとにゃーっ!。なんて感謝して良いかわからないにゃ!」
「いいってことよ」
「すぐ戻ってくるにゃ」
「おう」
感謝を述べるリンは部屋を出て行った。
俺は子供達に向き直る。
(よし、やるか。全員…救うっ!)
俺は石化回復ポーションを調合する。
できたものは症状が重い子から使用していく。
すぐにリンも素材を買って戻ってくる。
めちゃくちゃ早かったので、本当に凄く急いでいたんだと思う。
俺はさらにポーションを調合し、子供達を救っていく。
そして暫くすると…
「にゃにゃにゃ、全員治ったにゃーーっ!」
「ふぅー。やったなリン」
「あっ、ありがとにゃー。ほ、ほんとにぃぃぃいー、なんてお礼をいったらいいか分からないにゃ。あ、あたし…もうダメかとぉおお…諦めていたにゃぁぁぁああああっーー!ありがとにゃぁぁあああー!」
俺の目の前でボロボロ泣くリン。
これまで明るく振舞っていた彼女も、やはり心の中では不安だったのかもしれない。
俺はリンの頭を撫でる。
「何度も言ってるだろ。リン、礼はいらない。当然のことをしたまでだ」
「全然当然じゃないにゃ…エクトがいなかったら、エクトがこなかったら、皆死んでいたにゃ。あたしも石像になっていたにゃ」
「でも、助かった。それでいいだろ」
「で、でもにゃぁあ…」
ボロボロ泣くリン。
俺は彼女の頭を撫でる。
「それにだ、リンがいなかったらこの子達も助からなかった。リンがこれまでこの子達を世話してきたからだよ。大部分はリンのおかげだ。俺はほんの手助けをしただけさ」
「違うにゃ、エクトのおかげにゃ。あたしは何もできなかったにゃ」
「なら、2人で助けた。それでいいだろ」
「でも、何かお礼をしたいにゃ。ここまでしてもらって、何もしないわけにはいかないにゃっ!」
リンは俺にすがりつく。
「何かをしたい!」「感謝を伝えたい!」という想いを強く感じる。
(うーん。リンはかなり今回のことを気にしているようだ。俺にとってはなんでもないんだが…)
(ここは何もしないわけにはいかないか。リンの気持ちのためにも)
「分かった。なら、ご飯を食べされてくれるか?それに俺をこの孤児院においてほしい。実は、戻るところがないんだ。孤児達のその後も気になるし」
「んにゃ?それだけでいいにゃ!?おまけに孤児達のことも…」
リンは俺の言葉にビックリしたのか…ピクピク瞬きしている。
猫耳をヒクヒクしている。
「あぁ、それだけでいい。で、リン、いいのか?」
「勿論にゃ。エクト、ありがとにゃぁあああー!!」
嬉しさのあまりか、俺に抱きついてくるリン。
猫毛がくすぐったい。
「こらこら、くすぐったいだろ。あまり顔をすりよせるな」
「ごめんにゃー。でもすっごく嬉しいにゃー!。おさえきれないにゃー、にゃにゃっ」
リンは頬づりしてくる。
ほっぺに猫毛があたる。
肉球でワサワサ抱きついてくる
「そうか。なら許すっ」
「エクト、ありがとにゃー」
俺はリンの頭を優しく撫でたのだった。
目の前では猫耳がピクピク動いていた。
俺は思った。
(人助けはいいものだと…)
それに喜ぶリンの顔を見ていると、傷ついた俺の心は回復していく。
澄んだ心が温かく満たされていくのだ。
ジュワーと満たされていくのだ。
(なんだか久しぶりの感覚だな…)
(それになんだろう…俺がリンや子供達を救ったんじゃなく…俺がリンたちに救われたんだな)
そう思ったのだ。