【公爵】炎龍のドレイク家
収まらなかったので、ちょっと長目です。
■ドレイク公爵領 火山都市=ラバ
火山都市のラバは、公爵領の中央都市である。
活火山である「ヒュドラ山」のふもとにある。
国内にある活火山は、今後の噴火の可能性や規模、社会的な影響を考慮され、その状態によってランク分けされている。
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◇火山の周期におけるランク分け
レベル5:常時、噴火を繰り返している火山
レベル4:10年以内に、噴火を繰り返す火山
レベル3:50年以内に噴火を繰り返す火山
レベル2:100年以内に噴火を繰り返す火山
レベル1:休眠火山。噴火の可能性は無い
◇火山の規模におけるランク分け
レベル4:大規模噴火をする。
レベル3:中規模噴火をする
レベル2:小規模噴火をする
レベル1:休止中
火山の周期&規模等を考慮し、レベル5~1の総合評価で評価される。
◇火山の総合評価
レベル5:極めて大規模な社会的影響を及ぼす
レベル4:大規模な社会的影響を及ぼす
レベル3:中規模な社会的影響を及ぼす
レベル2:小規模な社会的影響を及ぼす
レベル1:安全
レベル5の火山を領内に持つ領主は、常時観測する義務があり、国への報告義務が生ずる。
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そしてヒュドラ山は、総合評価、レベル5に属する山である。
又、そもそもヒュドラ山の名前の由来は、怪物の「ヒュドラ」である。
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その昔、9つの首を持つドラゴン、「ヒュドラ」が各地を暴れ周り、地上を灰に変えた。
9つの口から吐く炎もそうだが、その身に宿した不死の力が強力だった。
しかし、そんな化け物の「ヒュドラ」も無敵ではない。
やがて当時の勇者に追い込まれ、7つの首を切り落とされた。
ヒュドラの持つ9つの首のうち、一つが不死をつかさどっている。
その首さえ落とさなければ、ヒュドラは無限に再生を繰り返す。
しかし首を1つ失えば、その分だけ弱体化する。
勇者に追われ、瀕死状態になった「ヒュドラ」はこの山の溶岩の中に逃げ込んだ。
そして以後、地下に封印されているといわれている。
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そんな曰くのある「ヒュドラ山」のふもとの都市、火山都市ラバ。
その中央にあるのが…
魔導十家の一つ。
『炎龍のドレイク』こと…ドレイク公爵邸。
ここ数年で一気に領土を拡大した。
ドレイク公爵領を治める、ケルト・ドレイクの住まいである。
ケルト・ドレイクは30歳前後の年齢。
この国の名門魔法貴族、魔導十家、「ドレイク家」の当主だ。
しかし、数年前までその名を聞く者はいなかった。
魔導十家は、魔法を極めることを目的としており、各家が強力な能力を有している。
この国の要職に結びついている家もあるが、表立って権力争いに関わらない家もある。
つまり俗世、「世の中」に興味が無い家だ。
魔法の研究以外に関心を持たない家である。
「炎龍のドレイク家」も、影に隠れる家の一つだった。
決して火山都市から出てくることはなかった。
しかし。
つい数年前に代替わりして新当主になった途端、方針はがらりと変わった。
次々に周りの領土を侵略し始めたのだ。
これには周りの人々も驚いた。
ずっと引きこもっていた「ドレイク家」が領土を拡大したのだ。
それに何より…
ドレイク家の跡継ぎ、新頭首は凡庸だと評判だったのだ。
――跡取り『ケルト・ドレイク』には…致命的な欠陥がある
そう噂されていた。
病弱なのか、それとも加護がないのか分からないが。
有能な者ではない。
可能性がある者ではないと思われていたのだ。
「とうとう、名門ドレイク家」も終わりかと言われていたぐらいだ。
その噂もあってか、ケルト・ドレイクは決して人前に出ることは無く、彼の姿を見た者はいなかった。
誰も警戒も、注意もしていなかった。
だが。
人々が驚くまもなく、新当首になってからドレイク公爵領は拡大の一途を辿り。
今では4大公に届こうとしている。
4大公とは、4人の大公のこと。
この国の重鎮で、支配地はかなり広い。
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この国のシステムは簡単だ。
身分としては…
王族。
4大公。
公爵。
辺境伯。
伯爵。
子爵。
男爵。
領民。
となっている。
子爵以上である貴族が自分の領地を治め、より上の貴族の庇護下に入る見返りに税金を納める。
つまり、領民は子爵に税金を納め。
子爵は男爵に。
男爵は伯爵に。
伯爵は公爵に。
公爵は4大公に治め。
4大公は王族に治める。
しかし、ここで例外になってくるのが魔導十家だ。
建国の歴史に貢献したとして、魔導十家には特権が与えられている。
特権とは、特殊な立場である。
魔導十家には名義上公爵の地位が与えられ、その上、資金面でも優遇されている。
形式上税金を直接王族に納めることになっているが…
その額は他の貴族に比べると小額で、ほぼポーズだけのもの。
税金を治めている形式をつくるためだけのものだ。
つまり王族の直接加護下入ることで、歴史の経緯も合わさり、準王族のような扱いになっている。
しかしその反面、通常魔導十家の領地は狭く、名誉公爵と呼ばれており、影響力はそれ程無い。
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だが今のドレイク家の領土は、4大公とほぼ変わらないレベルにまで拡大している。
数年前まで引きこもっていた家としては、異例のスピードでの領土拡大だ。
公爵の中でも抜きん出ているのだ。
これは、次々に4大公の領土を侵食していった結果だった。
ドレイク家の領土拡大に対して、勿論4大公は警戒していた。
領土は力と富の象徴。
みすみす手放す者などいない。
しかしそんな大切な領土を奪われつつも、4すくみの状態で中々手を出せずにいたのだ。
自分が動けば、他の大公に隙を狙われると考えていたからだ。
それに何より、王族直下の魔導十家なのだ。
4大公は領土の大きさでは上だが、立場の上では魔導十家は同等。
同じように王族に使えているため、手を出すとまずいと考えていた。
そのため4大公は、『ドレイク家の侵略行動』に対して、王族に何度も抗議するのだが…
抗議は却下された。
魔導十家に配慮してなのか、王族が動くことはなかった。
明確にドレイク家を援護するわけでも、非難するわけでもない。
『抗議は受領した』
といった返事のみが4大公には返ってきた。
それだけ。
王族が実際に何か動くことは無かった。
何度4大公が抗議をしても。
『協議中』
『追っ手連絡するまで、積極的な行動はつつしむべし』
の一点張り。
中途半端な状態を王族は貫いていた。
噂では、王族が「ドレイク家」に何か弱みを握られていると流れる程に。
そして、じりじり4大公の領土は削られていった。
その中で、当然侵略される側の領地は黙っているわけではなく自衛するのだが…
王族に『積極的な行動はつつしむべし』と釘を刺されているので、表立って全面的にドレイク家と争うことはできない。
王族に反する謀反になるからだ。
そのため4大公は、ドレイク家に狙われる領地に対して影で支援した。
しかし、ドレイク家の武力は優れているのか、次々に4大公の領地は陥落していった。
これは、ドレイク家が他の領地を侵略際に、電撃作戦を多用する面があり、4大公が事前に十分な援護ができなかったからでもある。
その結果。
『ドレイク公爵領の武力は強大』というイメージが先行し、他の4大公は、誰かが倒してくれるのを待っていた。
正面からぶつかることを避け、自分の所の戦力を温存するために。
そんな状況の中、今がある。
ドレイク公爵領は、今では伯爵領を20以上も治めているのだ。
領民の数は、2000万を超える。
この数は、4大公に匹敵する数だった。
そのため国内では…4大公ではなく、ドレイク家を含めて、5大公と噂される程だった。
■ドレイク公爵邸 公爵室
トントン
「失礼します」
「入れ」
公爵室に正装をした成年男性が入ってくる。
歳は40代半ば。
ドレイク公爵領を治める文官のトップである、公爵府長官、ドミトリ書記官だ。
物流から財源管理、治安維持まで、領地の内政を全てとり仕切っている。
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ドレイク公爵領は公爵をトップに、以下の組織体制になっている。
公爵府: 全てを局と省を取り仕切る部署。
法務局: 法律の作成&運用。
財務局: 資金の管理維持&運用。
運輸局: 領地内の物流管理。
外務局: 領外との対外関係を維持。
民政局: 領内の内政管理。調停者を各地に派遣し、助言を与える。
国土資源局: 領内の資源を調査・開発する。
軍務省: 領地内の治安維持、国土防衛、対外戦力。冒険者ギルドとの関係維持。
※格付けとしては、府>省>局である。
全てを取り仕切る公爵府はともかく、力の要である軍隊は軍務局ではなく、軍務省になっている。
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ドミトリ書記官は、部屋の中をみて硬直する。
床の上には死体が2つも転がっていたのだ。
ドレイク公爵の別名は『血の公爵』。
残虐な行為で有名だった。
常に血の匂いを漂わせていた。
ドミトリは文官。
公爵の近くにいると死体を見る機会が多いが、未だになれずにいた。
そのため死体から目をそらす。
書類を机の上に置くドミトリ。
「公爵様、領内、各地の報告書をとりまとめました」
「分かった。後で目を通すのでそこに。それで問題は?」
「小さな問題は数多くありますが、これといって大きな問題はございません。しいてあげるとすれば、聖女様の姉妹のことでしょうか」
「聖女…レネの姉、ティアか?」
「はい。聖女様の姉にあられられます」
そう。
ティアの妹レネは、特殊な加護を持っており、それ故、領内では聖女として認知されていた。
「ティアは…今は…冒険者だったか」
「はい。ギルデイン殿が会いにいったようですが、逆に彼女に捕らえられ、ギルドに拘束されました」
「ギルデインか…それで処理は?」
「はい。終わったようです」
「それならいい。不安の種は、早期に消しておかなければ」
公爵はポツリと告げる。
今の一言で、ギルデインがどうなったか悟ったのだ。
「それで、ティアの加護は発現したのか?通常のままならギルデインを倒せはしないだろう」
「それが…倒したのはティア殿ではなく、同じパーティーの仲間のようです」
「そうか…ティアは…まだ加護を発現しないか…。もう、発現しないのかもしれないな」
「はい。姉妹での加護発現の因果関係は確かに強いですが、あの年齢で加護が発現しないとなると、難しいでしょう」
「レネのために殺さずに泳がしていたが、これ以上待っても無意味かもしれない」
「はい」
公爵はしばし考える仕草をしてから…
「それならティアには懸賞金を出せ。捕らえてつれてくるんだ。加護のためにも、少し荒療治をする」
「了解しました。領内に手配します。同じパーティーの者も同様の手配でよろしいでしょうか?」
「他の者の対処は任せる」
「了解しました」
「それより今は、ティアに構うのではなく、計画を進めなければならない」
「はい。順次進めております」
「いつまでも公爵の立場でいるわけにはいかない。俺は王になる男だっ」
「ははっ」
「古き4大公には、そろそろご退場願わなければ。時代錯誤の老人が上にいたら目障りだ。隠居してお茶でも飲んでる方がいいだろう」
「とすると、狙いますのは…」
「勿論、4大公の1人、土龍の爺さんだ」
「やはりか」とドミトリは心の中で頷く。
4大公の戦力を内密に調査し、戦闘した場合のシミュレーションしていたが…
戦った際に一番勝率が高いのが、『土龍の爺さん』こと土龍公だった。
「しかし公爵様。土龍公を討つとなると、十分な戦力が必要となります。老いたとはいえ、元魔導十家の一つ。しかも生物系加護最強ともいわれる、ドラゴン系の加護です。「土龍の加護」はかなりの力です」
「分かっている。土の爺さんは直接俺が倒す。他の露払いを頼む」
「了解しました。交戦理由はどうなさいましょうか?伯爵等の下級貴族と違い、大公相手になると、もっともらしい対面が必要になりますが」
「あれがあったであろう。近々外交で、うちの配下の伯爵を大公領に送るはず」
「はい。近日中になります」
「そこで伯爵を暗殺し、「大公が殺した」と濡れ衣をきさせる。大義名分になればいい。細事は任した」
「ははっ。手配します。しかし、周りの反応が…」
ドミトリは懸念する。
大公と争うとなると、他の大公、それに…特に王族の反応が気になっていたのだ。
大公同士の争いとなれば、それはほぼ内乱に等しい。
そんなことを王族が許すとは思えない。
しかしこれまでは、『不思議』と、他の領地に対する侵略行為に対して、王族の不干渉を勝ち得ていたのだ。
そしてこれまで王族との交渉は、全てドレイク公爵が自身で行っていた。
『なぜ、王族の不干渉を勝ち取れていたのか』を分からないドミトリにとって、王族の反応が懸念だった。
「確かに、大公との争いが表面化すれば、これまで静観していた他の大公が動くはずだ。しかし、王族は動かん」
「その点が分かれば安心です」
ほっと胸をおろすドミトリ。
懸念点が一つ消えた。
いや、最大の懸念点が王族だったのだ。
「他の3大公が出てくる前に、迅速に土龍公を撃つ。そうすれば、あとの言い分などどうとでもなる。敵の首をとるぞっ!」
「はい。しかと受け取りました。しかし大公程になると相手にも加護者がおり、電撃作戦だとしても、作戦の成功が確率がやや下がります」
「分かっている。そこはジーク殿の力がある」
「錬金術師のジーク様ですか…」
ドミトリは、瞬時に領内の予算案を思い出す。
表には出していない裏帳簿だ。
「確か予算書では…かなりの額の資金を研究にとうじているようですが…」
「案ずるな。土龍公に勝てば資金は問題ない。回収可能だ。作戦をすすめよっ」
「ははっ。では、失礼します」
公爵室を出ると、ドミトリは自分の執務室に戻る。
そこには彼の部下がいた。
「どうでした?」
「予想通り、土の大公領への工作を加速させる」
「しかしドミトリ様、いいのですか?」
「というと?」
「試算でも出ている通り、もし戦争になれば、予算の面では戦線を長期間維持できません」
「勿論分かっている。この公爵領は、戦いの連続で領土を広げてきたものだ。領地も再編に次ぐ再編をしている。今ではなんとか他の領土を吸収し続けることで、どうにか公爵領として維持していくだけの資金を得ている」
「つまり…戦い続けて領土を拡大しなければ、内部分裂で自滅するということですか?」
「そうなる。勝つことこそが、この領土を安定化させるための唯一の方法だ。そうでなければ伯爵領として財政は成り立たないし、公爵様の求心力が失われ、内地で反乱が起こる」
「確かに、一部では反乱の兆しがあります」
「仕方が無い。侵略地も基本は侵略前の統治体制を維持し、民政局からは調停者を送って中央の影響力を増大させているが、大多数はここ数年で支配地に入った住民だ。生え抜きの私達と違い、忠誠心が弱いのは当然だ」
「ですね」
「だが、もう止まることはできない。土の大公領への工作を加速させる。数日後に大公領に向かう伯爵を、大公領にて暗殺する」
「…とうとうですか」
「勿論、暗殺者は足がつかないように後で処理する。相手の国から金で誰かを裏切らせる。確か、子飼いにしていた土の大公の部下がいるだろ」
「はい。数人います」
「その者で対応し、処理しろ」
「分かりました。手配します」
「又、大公を撃つ準備を加速させる。領内の軍隊を大公との領堺に配備する」
「全面戦争をするのですか?」
「いや。電撃的に急襲し、大公の首脳部のみ瓦解させる、領界の部分は脅しだ」
「了解しました」
「それと、少数精鋭の偵察部隊を大公領に送り、今以上に破壊工作を進め、注目をそらす」
「使うのは…どれにしましょうか」
「そうだな…正規軍ではない者を。数が足りないなら、依頼の出所や、真意が悟られないように冒険者ギルドを使え」
「了解しました。各地に伝令を飛ばし。軍務省に掛け合います」
「あぁ、私からも、軍務省のトップ、カーライルに言伝しておく」
「そうすると、助かります」
ドミトリが話していると…
トントン トンッ
扉がノックされる。
ドミトリは思う。
(この時間に来客の予定はなかったはず…)
(それにこの戸を叩くリズム…重要人物のようだ)
通常の場合は面会者が来た時に秘書が告げる。
もし、その時間がない場合は、ノックの音で来客の重要度を決めていたのだ。
つまり、今来ているのは緊急&需要度の高い来客である。
ドミトリは緊張して部下と目線を合わせる。
部下もこの合図を知っているのだ。
「ドミトリ様、私が出ますね」
「頼む」
部下が扉を開けると…意外な人物が入ってきたのだった。
WEB拍手&感想&評価ありがとうございます。
次回は…
明後日、2月17日 (金)の夜に投稿予定です。
~【公爵家】の続きです