馬車~松・竹・梅
前話ですが…3500→4000文字に加筆しました。
最後の部分になります。
孤児院を出た後。
様々な店を回った。
公爵領への冒険のために、必要な素材やアイテムを買ったのだ。
何が必要になるか分からないので、多めに準備しておいた。
宿に戻ってくると、ウィズが宿の前で焼き鳥を食べていた。
「ウィズ、もうすぐ夕食だぞ」
「大丈夫なのです。焼き鳥はお菓子なのです」
「そうか。まぁ、いつも食べるてしな」
「夕食も食べるのです。でもエクト…何か変ですね?」
「俺が変?」
「ちょっとスッキリした顔をしています。とっても怪しいのです」
「そうか?」
「なのです。確か昨日は…孤児院に行ってきたんですよね?」
「そうだ」
「そうですか…答えは猫耳さんですか…」
妙な顔をするウィズ。
「別に何もないぞ。子供達にあってリフレッシュしたんだ」
「分かってるのですよー」
プイッと焼き鳥を食べるウィズ。
「それならよかった。ウィズ、中に入るか?」
「ですね。夕食の時間です。お腹ぺこぺこです」
「だな。俺もだ」
ウィズと宿の中に入ると…
隣から、「私も猫耳をつければ…」っと呟くウィズの声が聞こえてきた。
(ウィズ、一体何をする気だ…)
■
次の日。
つまり、公爵領への出発の日。
俺達は宿を後にし、馬車の停留所に向かう。
次の街。
公爵領に移動するのだが、急ぎなので馬車に乗る。
それに街から街へ移動する場合は、大抵の冒険者は馬車で移動するのだ。
街を拠点にして、そこから狩場orクエストの目的の場所まで行く方が良い。
野宿は魔物や盗賊に襲われる危険性が高く、生活環境も良くない。
馬車が通れないような場所に向かうのでもない限り、普通は徒歩での移動はさける。
馬車停留場。
受付。
元気のよさそうなおじさんがいた。
「お客さんっ、どのランクの馬車にする?美人さんが多いから、松かい?」
ここの停留場にあるのは3つのタイプのようだ。
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松:貴族向け :一番高い。馬は元気溌剌。馬車もピカピカ。移動速度&乗り心地も求めるタイプ。
竹:冒険者向け:真ん中の値段。馬は元気溌剌。馬車はボロボロ。移動速度は速いが、乗り心地は悪いタイプ。
梅:冒険者向け :一番安い。馬も貧弱。馬車はボロボロ。乗り心地や移動速度などは無視して、とにかく移動できれば良い人向け。
※松、竹、梅とは、高級度を表すのに使用される、上品な良い方だ。
大抵、『松>竹>梅』の順番で高級になる。
~~~~~~~~~~~~
「竹でいいんじゃないかな。馬が元気ならそれでいいし、豪華な馬車は襲われやすい」
そう。
豪華な馬車に乗ると、途中で山賊に襲われやすくなる。
それを使用する場合、大抵は護衛をつけて移動する。
「えー。エクト。私は松がいいなー。竹だと、お尻いたくなっちゃう」
「なのです。私も松がいいです」
「俺はエクトと同じ、竹でいい」
俺とグラントは竹。
移動できれば良い派。
ティアとウィズは松らしい。
乗り心地を求める派。
見事に男女で分かれた。
「ティア、座布団でも下にひいとけば、お尻は大丈夫だよ。アイテムボックスに入ってるだろ。なければ俺の座布団かすよ」
「そうだ。修行だと思えば良いだろ」
「えーーー。松にしようよー。お金いっぱいあるしー」
「お尻いたいの…嫌なのです」
「だよねー。乗り心地は大事っ」
「快適な旅が良いのですっ。私の魔力もあがる気がしますっ」
「私もウィズと同じー」
「なのです。エクトを信じているのですっ」
ティアとウィズがごねる。
「エクトー」っと、媚びるような声をあげ、ティアがちょっと泣きマネを始める。
うるうるの瞳だ。
最近のティアは涙もろいからな。
ウィズもニコニコして、期待の篭った目で俺を見てくる。
(ぐぐぐ……)
「お客さん、こりゃー、松ですかな?」
っと。
受け付けのおじさんも聞いてくる。
俺とグラントは顔を見合す。
お互いに「はぁー」っとため息をつく。
(しょうがないか……)
「分かった。松にしよう」
「そうだな、エクト」
「やったねー。ウィズ」
「なのですっ」
俺達は松、貴族向けの豪華な馬車を借りることにした。
「おじさん、松タイプでよろしくっ」
「まいどあり。若いのに立派だね。で、どこまで乗っていく?」
「まずは…公爵領の始めの街、コーン・シルクまで。その後は、そこで契約を更新するよ」
「まいどありっ」
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停留場で馬車を借りた場合、別に借りた場所に返さなくてもいいのだ。
各街に停留場があるので、目的の街の停留場で返却すればいい。
借りた場所からの距離によって、値段が大きく異なる。
又、あたり前だが…
途中で馬車を破壊したり、なくしたリしたら、借り主が弁償しなければならない。
なので担保として冒険者プレートで記録をとるのだ。
被害が出たら、冒険者ギルドを通して被害額を請求できるように。
※因みに、冒険者のランクが上がれば上がるほど信用度があがるので、馬車が安く借りられる。
~~~~~~~~~~~~~~
「はい。冒険者プレート」
「どうも。頂戴します」
ティアが冒険者プレートをおじさんに渡す。
※ティアは冒険者ランクが高く、馬車を借りた回数が多い
※つまり、俺達の中では一番信用度が高く、安く借りられる。
記録をとるおじさん。
「記録したよ」
冒険者プレートを受け取るティア。
「でもお嬢ちゃん達、聞いた話じゃー、最近、公爵領の方は物騒だからね…」
「そうなの?」
「そうさ。公爵領はここの所大きくなってるけど、領土拡大のスピードと内政がおいつかず、いさかいも多いからね。馬車が襲われたって話もよく聞くんだよ、特に最近はっ」
「そうなんだ…」
「あぁ、嬢ちゃん達は松を借りてくれたから教えるけど、こういう商売してると、色々詳しくなるんだよ。聞いた話によると、どうも公爵領の内部ではごたごたが起こっているみたいなんだ」
「ごたごたって、内乱でも起こるの?」
「それもあるけど、物資の移動からみると、多分、どこかの領土を攻めるつもりだよ。軍備を拡張しているみたいだから。ほら、あれだろ、公爵領はここ数年で次々に領土を拡大しているから」
「また…大きくなるんだ」
ティアは悲しそうな顔をする。
何か悲しい過去を思い出したのかもしれない。
しかし馬車のおじさんの話だと、ここ最近公爵領の状況が変化したようだ。
これは、ティアの妹を助ける好機かもしれない。
「景気の悪い話しちゃったね。でも、冒険者ならこんな時こそ稼ぎ時だよ。公爵領では、冒険者の需要も多いみたいだから」
「そうね」
「それで、護衛はなくていいのかい?それとも他の利用者を待つかい?一緒に移動すれば、山賊に襲われる確率もへるよっ」
「私たちは冒険者だから護衛はいらないけど…他の人たちと一緒に移動する方が良いかも」
確認のために俺達を見るティア。
「まぁ、そうだな。大勢で移動した方がいいかな」
「俺はどっちもでいい」
「私は…多い方がいいですねっ」
「じゃあ、おじさん、他の人たちを待つわ」
「分かった。それじゃあ、馬車で待つと良いよ。他の人が来たら知らせるから」
「ええ」
「じゃあ、こっちだよ。馬車に案内するよ」
俺達は、借りた馬車に案内された。。
「これだよ。どうだい、松タイプ、よく磨いておきました」
元気良く紹介するおじさん。
俺達は馬車を見て呆然としていた。
「ほ、本当なのです。ピカピカなのですっ」
「確かに、光ってるな」
「まさに、襲ってくださいといわんばかりだな」
「変な紋章もついてるっ」
「いや、お嬢さん、お目が高い。これは私が彫った紋章なんです」
「どこかの貴族紋?」
有名な貴族には、大抵家紋があるのだ。
「いえ、特にどこの家ってわけでもありませんよ。でも、家紋があると山賊よけになりますよ。山賊だって、襲う相手は選びますからね」
「まぁ、いいか」
「ではっ、ごゆっくる」
おじさんは去っていったが…
「おじさん、ちょっと待った?」
「なんですか?」
俺はおじさんを呼び止めた。
「ふふっ、俺達も侮られたものだな」
「な、なんでしょうか?」
ちょっとドギマギするおじさん。
「この馬車、ここに傷がある。ちゃんとチェックしておいてくれよ。後で難癖をつけられるとたまらないからな」
「おっ、本当ですね。これは失敬。はいっ」
おじさんは去っていった。
「じゃあ、中に入ろっか」
「なのですっ」
俺達は馬車の中に入る。
豪華な馬車だ。
中にはクッションもたくさんある。
ふわふわだ。
(これなら馬車の揺れも軽減されるだろう)
「で、誰が馬車を運転する?俺とエクト、ティアはできるだろ」
「そうね。順番交代でいいんじゃない」
「だなっ」
「私も…少し覚えるのです」
(ウィズは身長的に馬車を運転するのはきつい気がするが…)
(でも、やってみるか)
「そうだな。じゃあ、ウィズは俺が運転する時に横に座るといいよ。教えてあげるから」
「なのです」
「決まったな。ならっ、最初は俺が馬車を運転する」
「グラントの次は私でいいよー」
「じゃあ俺はティアの次で」
こうして馬車の運転順番は決まった。
グラント→ティア→俺だ。
暫く馬車の中で和んでいると。
「嬢ちゃん達、他の人が来たよっ」
受付のおじさんが呼びに来た。
おじさんの指刺す方向を見ると…
どうやら、商人のおじさんも俺達と同じ街に行くようだ。
護衛の馬車も従えている。
「じゃあ、あの馬車たちと行こっか」
「そうだな。数日馬車で移動すれば、公爵領に入れるだろうから」
俺達は街を出ることにした。
商人のおじさんの馬車と一緒に、街を出たのだった。
―――いざっ、公爵領へ!
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次回は…
明後日、2月15日 (水)の夜に投稿予定です。
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月曜日ですので、23時に「七人の聖女~」更新です。




