冒険者ランクアップ
その後。
報奨金を受け取るために冒険者ギルドに行き、ティアが受付の男と話をつけると。
「来たかい、報奨金の500万Gだ」
「ありがと。凄いお金っ♪」
(ティアの前にはたくさんの金貨が…)
(本当にいっぱいある)
「それと、冒険者ランクの件だが、審議の結果、グラントのランクがE級からD級に上がることになった。俺としては、C級まで上がるかと思ったんだけど、さすがに2階級特進はなかったな。残念だが」
「俺もティアと同じD級か…」
「よかったな。グラント」
「なのです。これでティアと同じ、2人目の中級冒険者なのです」
「私とは意味が別よ。私のは、皆のおかげでもあるし」
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そう。
ティアの言葉はある意味正しい。
ティアが1人だけ中級冒険者になっていたのは、ティアの実力というよりも…
俺達のパーティーの成果を、ティアの成果にしていたからだ。
なぜそんな事をしていたかというと…
パーティーの中で最もランクが高い者と、同等レベルまでのクエストを受けることが出来るからだ。
1人でもD級冒険者がいれば、D級クエストが受けられる。
そのため、ティアの冒険者ランクを優先してあげていたのだ。
よりレベルの高いクエストを受けるために。
これは、俺達だけでなく多くの初級パーティーで行われていることでもある。
ギルド側でも半ば黙認されていることだ。
実際のところ、クエストでは個人の力よりも、チームとしての実力が求められることが多い。
そのため、個人として弱くても、チームとして機能しているなら、ギルドとしても戦力と認めているのだ。
『個人戦力=加護者』などそうそういないため、チームとしての力がギルドの力でもある。
さすがにクにエストのレベルが上がってくると、パーティーの平均ランクが求められてくるので通用しなくなるが。
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「では、冒険者プレートを更新するから、預かって良いか」
「頼む」
グラントが冒険者プレートを渡すと、機械に通すギルドの男。
暫くして…
「はいよ。できた。シルバープレートだ。ピアピカだなっ」
「ありがとっ」
冒険者プレートを受け取るグラント。
プレートの色が、銅から銀に変わっている。
グラントは銀色に輝く冒険者プレートを目の前にかかげ…
「これで俺もシルバーか…」
と呟き、指でペチペチをプレートを叩いている。
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シルバープレート。
銀色の冒険者証。
冒険者プレートは、色によって、現在どの段階にいるか見分けがつくようになっている。
初級冒険者 (F,E級)は、ブロンズ=銅色。
中級冒険者 (D,C級)は、シルバー=銀色。
上級冒険者 (B,A級)は、ゴールド=金色。
そして。
殿堂入り (S級)は、プラチナ=白銀。
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「グラント、私と一緒だねー」
「だな、ティア」
ティアとグラントが冒険者プレートをカチカチと当てている。
(なんか、とっても仲がよさそうだ…)
(それに楽しそう)
~~~~~~~~~~~~~~~~~
実はこれ、げんかつぎである。
パーティー内の者が自分と同じレベルの冒険者ランクに上がったら、ああやって冒険者プレートをぶつけあるのだ。
そして運を分かち合う。
時々ギルド内で見る光景だ…
~~~~~~~~~~~~~~~~~
しかし…
(くっ、俺もティアと冒険者プレートぶつけたいっ)
(カチカチしたいのに……)
(羨ましい…)
と思っていると。
(んん?視線?)
俺に突き刺さる視線をたどると…横でウィズが俺を見ている。
冒険者プレートを取り出して、コソコソこっちをみている。
(しょうがない)
(ウィズも冒険者プレートをぶつけたいみたいだな)
(でも、恥ずかしくて俺に声がかけられないのだろう)
(ウィズは妙なところで気が弱いから)
「ウィズ、特に昇進してないけど、俺とカチカチやるか」
「えっ…その…エクトがやりたいなら、いいですよっ」
「自分は別にやりたくないけどね」的な、ツンデレ対応をするウィズだが。
「俺はやりたいかな」
「なら、いいですよ」
俺はウィズと冒険者プレートをぶつけ合った。
カチカチカチ カチカチカチ
「エ、エクト、プレートが指にあったたのです」
「悪いウィズ。手元が狂った」
「ならっ、私もあてるのです」
「や、やめろ、い、痛いだろっ。さっきのは故意じゃない」
「1回は1回なのです」
「いや、ウィズの方があててるだろっ。平等じゃないだろ」
「し、知らないのです」
俺とウィズがヒートアップしていると…
いつのまにか、ティアとグラントがこっちを見ている。
「エクト、ウィズ…お前ら…何やってるんだ?」
「そうよエクト。昇進してないのに…」
2人がジト目で見てくる。
「いや、それは…なんとなく、グラント達に合わせて…雰囲気でやってみた」
「なのです。エクトがしたいっていったからなのです。私じゃないのです」
「………」
「………」
一瞬、沈黙につつまれるが。
ティアもグラントも「ふふっ」と笑う。
「そっか。今回の昇進はエクトとウィズのおかげでもあるからな。俺もぶつけるか」
「私もー」
(まじか、ティアもか?)
「じゃあ、カチカチやるか」
「なのです」
カチカチカチ カチカチカチ
俺とウィズも、グラントと冒険者プレートをぶつけあった。
又、どさくさにまぎれて俺はティアとも冒険者プレートをぶつけた。
(楽しかった)
で。
暫くすると。
「よーし。じゃあー、皆、行こっか。公爵領にっ」
「そうだな。ティア」
「俺もD級になったし」
「なのですね」
俺達は冒険者ギルドを出た。
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次回は…
明後日、2月11日 (土)の夜に投稿予定です。
~孤児院~
※久しぶりに、猫耳リン登場です