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エクトの秘密 

1章最終話です。

ちょっと長いです。

■次の日。宿



昨夜、酒場で食べ過ぎたため。

俺達パーティーは、宿でまったりしていた。

ティアもグラントもウィズも、同じようにまったり。



俺が本を読んでいると、ウィズが近くに来る。


「エクト、何読んでるんですか?」

「これか、これは魔法工学の本だ」


「魔法工学?」

「そうだ、精霊因子を数値データとして扱い、数列で意味を表すんだ」


「よくわからないのです」

「俺もだ」


グラントも頷く。


「ウィズは感覚派だからな。それでいいよ。それにこの国では、魔法工学が盛んでないみたいだから」


(ほとんどこの手の本をみたことがない)


「そういえば、エクトは東の国の出だっけ」


(おっ、ティアは俺の出身地を覚えていたようだ。前に話したことがあったかもしれない)


「あぁ、そっちからきた」


「そうだよねー。エクトは黒髪だし、肌もちょっと黄色いし。顔立ちも違う」

「まぁな」


「でも、エクト、よくこっちまでこれたよねー」

「ティア、というと?」


「大変なんでしょ、こっちの国と東の国の間には、大きな山、龍山連邦があるでしょ。あそこはドラゴンが多く出るって」


「あの山を徒歩で超えるのはさすがに無理だよ。でも、時間はかかるけど、船を使えばなんとかなる。海上で運良く魔物に襲われなかったらの話になるけど」


「へぇー。船か~、いいなー、わたしも乗りたいっ」


「ティア、船旅なんて、そう良いもんじゃないだろ」


グラントが呟く。


「あれ?グラントは船嫌いなの?」


「まぁな」

「私もです」


ウィズも頷く。


「というか、2人とも船にのったことあるの?」


「少しだけな」

「私もです」


「そうなんだー、そういえば、2人ともこの国の出じゃないんだよね」


(確か……そうだったな)


(前に言っていた気がする)


「あぁ」

「なのです」


「じゃあ私だけか…この国の出は…」


ティアは寂しそうに呟いてから、俺を見る。


(なんだ?)


「ねぇ、そういえば、エクトの名前って変わってるよね」

「そうか?」


「だって、エクト・ライヴって名前でしょ。後ろの名前?それか間の名前はないの?家名とか」

「ティア、何いってる?」


「ほらっ、東の国の人は、大抵3区切りの名前なんでしょ。東の国の有名な冒険者、アレン・アン・ハサウェイみたいに」


「そのことか…でも、俺にはないよ。ただのエクト・ライヴだよ」


(そう、今の俺には、この名前しかない)


(今の俺には……)


(エクト・ライヴ……この名前しかないのだ)




■同時刻 東の国 魔術学院 とある研究室



その研究室は、大きな城の地下室にあった。

室内には、巨大な装置が並べられている。


その装置の前では……小さな女の子。

研究助手であるラルカが画面を見ていた。

今年魔術学院を卒業したばかりであった。


すると……ラルカがピクッと動く。

データに異変を発見したのだ。


「賢者様、データを確認していましたところ、西の国にて拒絶反応を確認しましたっ!」

「んん?どこかの生産職が、調合でも間違えたのではないかのう?」


「いえ、連続して起こったみたいです。この間隔ですと…人為的に起こした可能性が高いです」

「そうかのう…ワシ達と同じ研究をしている者がいるかもしれんのう。ほほほっ」


老魔法使いは楽しそうに微笑む。


「しかし、そんなこと出来るのですか?余程特殊な加護持ちが、それも何十人もいて、尚且つ膨大なクリスタルでもない限り不可能ですよ。しかも、西の国は魔法工学後進国。私、できるはずがないと思いますっ」


「そうじゃのう…可能性は低いじゃろう」

「ですね。やっぱり」


「偶々計測できたとしても、処理能力がおいつかん。拒絶反応は繊細じゃ。少しでも計算を間違えば、大惨事になる。ワシらも、この装置、魔術演算装置と、莫大なクリスタルの処理能力、それに過去の研究の積み重ねで、なんとか配合割合を導き出せているのが現状じゃ。普通にやっては無理じゃ」


賢者と呼ばれる老魔法使いの目の前には、巨大なクリスタルの集合体が存在する。

クリスタルに繋がれているのが、魔術演算装置。

魔法の力で高速&膨大な数の数字を扱い、計算し続ける装置。


この施設の研究目標の一つに、拒絶反応を起こすポーションの配合割合の算出があり、今現在実験中であった。


「しかし、何事にも天才、例外はいるからのう」

「例外ですか?」


ラルカは不思議に思う。

例外で済む話に思えないんだ。


「そうじゃ、そしてそういう者は大抵組織ではなく個人であろう。もし、この装置と同じ結果を個人、いや1人で出せるのなら…その者はまぎれもなく化け物じゃ」


「賢者様。そんな人がいるわけありません。多分データのミスです。時々入るノイズですね」


「そうじゃ。ノイズかもしれん。その可能性が大きいだろう。しかし研究者たるもの可能性を否定してはいかん」

「そうでした。この研究所にも紙がはってありました」


そう。

研究所のモットーの1つに「可能性の追求」があるのだから。


「そうじゃ、もし可能な者がいるとすれば……噂の人物ぐらいじゃろう」

「噂ですか?」


ラルカは驚いて賢者を見る。

噂など聞いたことがなかったのだ。


「数年前の話じゃ」

「賢者様、そんな話があるんですか?」


「君はここにきたばかりだし、この話はごく一部の者しか知らんからのう」

「賢者様。私、気になります。教えてください」


ペコリと頭を下げるラルカ。


「ほほほっ。そんなことせんでも教えるのじゃ」

「ありがとうございます」


再びペコリとするラルカ。

興味津々の顔で聞く。


「それで賢者様、噂とは何ですか?」


「数年前の話じゃよ。とある国、魔法工学発祥の地の、夢の計画じゃ。最も早く、精霊因子を数値データに置き換えて研究していた小国があったのじゃ」


「そんな話、魔術学院では聞きませんでした……魔法工学はうちの国で始ったと」


ラルカは頭の中の記憶を思い出しながら話す。

確かに、学院では魔法工学の発祥はこの国だと習ったのだ。


「そうじゃ、公式にはそうなっておる。この国で始ったとした方が、色々都合が良いのじゃ」

「そうなんですか…」


「だが実際は違う。この国の魔法工学は、かの国から流れてきて発展した、謂わば傍流。派生系じゃ。オリジナルではない」

「ということは、その国の方が研究レベルは高かったのですか?」


「そうじゃ。かの国には多くの錬金術師がおってのう、王族自体も優れた錬金術師であった。

 しかし周りの大国に攻められてな。

 錬金術は優れていたが、戦力の増強に遅れをとっていたのだ。

 研究力と軍事力は必ずしも同じではないからのう。

 通常の戦闘の場合、数は質に勝るのでな。


 だが、至急に戦力が求められた」


ラルカは賢者の話に聞き入っていた。

続きが気になったのだが…賢者は話を止めてラルカを見る。


「かの国は、どう対応したか分かるかのう?」

「そうですね……」


ラルカは少し考えてから。


「数=戦力ですから、優れた戦士を集めたんじゃないですか。錬金術が使えるのなら、報酬も用意できるかもしれません」


「いや、はずれじゃ。答えは間逆といっていいじゃろう」

「逆?」


予想とは違う答えに驚くラルカ。


「そうじゃ。錬金術師というのは、一種、理想家気質であるからのう。

 現実的な手段、数で勝つということをよしとしなかったのかもしれない。

 そこでその国は、現代の戦略とは間逆の方法を取った。

 数に対して、質をつきつめて勝とうとしたのじゃ」


「えっ!?でも、そんなことできないから、数=戦力になっているんじゃないですか?貴重な戦力、加護持ちはそうそういないと思います」


「確かに、普通はそう考える。

 だがその国は、より強い戦士、より強い魔法使い、より強い加護者を『開発』しようとしたのじゃ。

 それで国を守ろうとした。


 1人の戦士で、1万の戦士を相手にする。

 1人の魔法使いで、1万の魔法使いを相手にする。

 錬金術の力で、頂上の戦士、神の如き戦人を作り出そうとしたのだ」


「そんなことが……それで、それで結果はどうなったんですか?」

「確か最後には追い詰められて。人体実験を繰り返し、禁忌にもふれていたと言われておる」


「禁忌?」


「人体実験もそうじゃが……【精霊や魔物との融合】、【加護の開放と再取得】などじゃ。普通はリスクが高すぎてやらないこと。1回の実験で、何人、何百人も死ぬからのう」


「そ、そうなんですか……」


ラルカは思い出す。

禁忌と言われていることのリストを。

学院の禁書棚で見たことがあったのだ。


そこには今賢者がいったように、【人体実験】、【精霊や魔物との融合】、【加護の開放と再取得】などが書かれていた。

しかし抽象的な記述ばかりで、具体的なものは1つもなかった。


「そうじゃ、その恩恵を今ワシらも受けておる。犠牲は今に繋がっておるのじゃ」

「え?」


(今に……)


「ワシらの使っている魔導具に印がついておるじゃろう。雷の矛のマーク」


賢者は自分の杖を掲げる。


「これですか。たしか、凄い効果を発揮する魔道具には大抵ついていますね」


ラルカは杖についているマークを見る。


「そうじゃ。この印は、はるか昔。

 世界創生の時、天空界、神々の世界を圧倒的な力で治めた最高神。

 全能の神ゼウス。

 かの者の武器。

 いくつもの神や魔神を一瞬で葬ってきた最強の矛。

 世界にたった一つしかないといわれる伝説の武具。

 最強の武器、神の一撃、『雷蹄』が彫られている。

 これはかの国の魔導具の印じゃ」


「賢者様、その国ってもしかして?」


ラルカの頭にある考えが浮かんだ。

一つの国の名前を思い出したのだ。

数年前に滅んだ国の名前を。


「そうじゃ。ワシらの国が滅ぼした」


賢者は悲しそうに告げる。


「でも、よく勝てましたね。そんな国に」


ラルカは「雷の矛のマーク」がついた魔導具の力を知っていた。

どれも効果がずば抜けている。

開発元の国に勝てるとは思わなかったのだ。


「戦争の実体はよく分かっていないのじゃ。こちらの国にもかなりの被害が出たようで、情報は秘匿指定されており、閲覧および開示権限の申請は許可されていない 」

「そうですか」


ガッカリするラルカ。

滅んだ国に興味が湧いていたのだ。

魔導具の効果が高いので、よほど技術力が高いのだろうと。

研究者のラルカにとっては興味深い話題だった。


「それに確かだが、行方不明者も多いはずじゃ。こっちの兵士もそうだが、相手の国の王族も、何人かの実験成功者も今だ行方不明のはず。S級、最重要指名手配されておる」


(!?)


「実験が成功した人がいたんですか!?」

「いたらしい。噂じゃがな」


「それに、指名手配ってことは、懸賞金付ですか?」


「そうだが、懸賞金は桁違いじゃ。しかし指名手配したどころで、そんな化け物、1人で万を相手にするような輩を倒すには、軍隊が必要になるからのう。賞金稼ぎ、個人で倒せる相手じゃなかろう」


「そうですね…ち、因みに、実験成功者の名前は分かるんですか?」


ラルカは賢者を期待に篭った目でみる。

今のことについて、後で色々調べてみようと思ったのだ。


「そうじゃの……確か……1人、若い王族がいたはずじゃ」

「教えてください。賢者様」


ペコリと頭を下げるラルカ。


「ふむ。その者は、加護を与える全ての精霊を支配下におき、強大な能力を得ようとした一族。

 特に5大精霊や、3神霊を全て使役しようとした一族の出だ。


 確か……彼らはいっておったな。

 精霊を統べるもの、精霊を支配し、人を超える者。

 地上を離れ、神の一族になると。


 その名も……



 ―――グランドエクストラ家



 グランド…地上の統べてを


 エクストラ…超えるものという意味じゃ。


 神に挑もうとして堕ちた、罪深い一族じゃ」




■同時刻 宿



「ほらっ、東の国の人は、大抵3区切りの名前なんでしょ。東の国の有名な冒険者、アレン・アン・ハサウェイみたいに」


「そのことか…でも、俺にはないよ。ただのエクト・ライヴだよ」



エクトはティアに話しながら思う。



(そう、今の俺には、この名前しかない)


(今の俺は…ただのエクト・ライヴ)


(これが今の俺だ)



でも俺の……


俺の……


俺の本当の名前は・・・



―――『エクト・ライヴ・グランドエクストラ』



エクトはエイト…8に由来している。


そのため名前の意味は。


8回生きた者。

8つの命。

8つの魂。


家名と合わせると……


8回生き、地上の全てを超えるもの。

8つの命で、天にあがるもの。

8つの魂で、神に挑むもの。



―――そう、エクトの名前は


―――数多の優れた錬金術師達の希望と夢……


―――多くの犠牲と努力の上になりたった名前……



―――今は滅びた国


―――魔法工学発祥の地



―――亡国の王子の名前だった




そう。


だからエクトは思う。


多くの犠牲と命の上になりたっているから。


奴らを倒さないといけないと。


国を滅びした奴らを……絶対に倒さないといけないと。



他の加護を超越した三大神、三神霊の加護の持ち主。



――戦争と死の神、戦神オーディンの加護


――精霊の支配者、精霊王フレイヤの加護



そして……



――神々の王、万能神ゼウスの加護



この3人の加護者を倒し、国を復活させると。




そのために…


命の危険をかけてまで。


多くの犠牲の上に生きてまで。


西の国、この国に来たのだから。



必ず3人を倒すと。


エクトは強く誓うのだった。



【1章 完結】


ドンッ!


1章 「衝撃の日:エクトの決意編」 完結です。

10万文字超えていました。



感想&評価&ここまでお読みくださりありがとうございます。


私の長編作品を読んだ事がある人は予想していたかもしれませんが、毎回恒例の後書きタイムです。


本作品は、元が短編なので、連載予定はありませんでした。

皆様のおかげでここまで膨らませることが出来ました。

ありがとうございます。


一応私の場合、毎回連載作品には必ずテーマを設定しています。

今回の章は、「少年の成長:失恋からの回復」です。

泣いて成長します。

pt関係無しに、これを書くのが目標でした。


具体的には。

「自分の好きな人 (自分のことを好きだと思っていた人が)自分のことを好きでないと分かった時、どうするか?」です。

諦めて拒絶する、友達になる、想い続けてストーカーになる等、色々選択肢はあると思いますが。

そんな簡単に気持ちは消えないと思いますので、何かするでしょう。



本作品の続き、2章【公爵領編】については…

3日後、2/7(火)から始めたいと思います。



色々参考にしたく、

1章について感想がありましたら、どうぞ宜しくお願いします。



~~~~~~~~~~~~~~~


二日前に投稿したエッセイですが。

過疎ジャンルなこともあり、ジャンル別日間2位になりました。

宜しければ、どうぞっ!

「恋人がいない人は、これをちょっと見て欲しい」




~~~~~~~~~~~~~

又、過去の完結「ざまぁ」作品をリンク付けしました。

癖があるかもしれませんが…「ざまぁ」は決まっているはず。

一応両方とも2000ptは超えているので、読みやすいはずです。

※ページ下部にリンク有


「彼女が二股していたので、腰が砕ける程衝撃を受けた。」

9万文字程なので…1,2時間ほど。


「ビューティフルざまぁ~公爵令嬢、悪役令嬢への道を歩む~」

26万字程なので…3,4時間ほど。

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こちらも連載中【毎週月曜:23時更新】↓【元月間異世界転生/転移:恋愛3位】
7人の聖女召喚~料理スキルLV80の俺は、おねえちゃんと世界最強になる

 

【1/17】連載再開です。世界最強ものです↓
転生したら吸血鬼さんだった件~チートで世界最強です~

 

【ざまぁ】【8/19 完結しました】↓
彼女が二股していたので、腰が砕ける程衝撃を受けた。

 

【ざまぁ】【8/4 完結しました】↓
ビューティフルざまぁ~公爵令嬢、悪役令嬢への道を歩む~
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