勝利の宴2
食後。
冷たい空気を吸うために酒場の外に出ると……
「エクト…」
振り返るとティアがいた。
彼女も涼みにきたのかもしれない。
「どうした?覚ましにきたのか」
「うん。それもあるけど…その…あのね……今回はありがとねっ」
(なんだ、そんなことか)
(お礼を言いにきたのか)
「別になんでもない。ウィズとリンに頼まれたんだ。それに…仲間だしな」
「よくないよ。ありがとっ」
「どういたしま…うおっ」
ティアが俺に抱きついてくる。
ぎゅっと抱きしめられた。
(!?)
パッと離れるティア。
「ご、ごめんっ。エクト、なんだか抱きつくのが癖になってて。でも、そういう意味じゃないからねっ」
ばつの悪い顔をするティア。
(だよな……)
(すごくビックリした)
「いいよ。分かってるから。痛いほど悟ったよ」
今、俺とティアは既にアイテムボックスの共有設定を解除している。
ティアの方から解除したいと言ってきたのだ。
俺はそれを受け入れた。
だから俺の資産は自分で管理している。
お金も重要アイテムも自己管理だ。
「良かった。で、エクト、リンって誰?」
「孤児院の子だよ。俺があの日逃げ出してから、貧困街をうろついている時に助けてくれたんだ」
(ほんと、リンには色々な意味で助けられた)
(何度リンの胸で泣いたことか……数え切れない)
(数日会ってないけど、リンは今、何してるんだろう?)
「そうなんだ…その子…もしかして女の子?」
「あぁ…そうなんだ」
「ふーん」
プイっと意味深な顔をするティア。
「因みに猫耳がついてる」
「えっ……エクト、そういう趣味なの?」
「んん?」
ティアが引いている。
完全にやばい人を見る目だ。
(あれ、なんか勘違いされたかも)
「違う。コスプレとかじゃなくて、獣人族だ。猫耳族っ!」
「ふぅー。よかった。一瞬エクトが、孤児達に無理やり猫耳をつけてる変態さんかと思っちゃった」
(いや、さすがにそんなことしないよ)
(ほんとに……)
すると。
ティアはちょっと神妙な顔をして俺を見る。
真面目な話をするようだ。
「ねぇ、エクト、私のこと、まだ怒ってる?」
(怒ってるか…どうなんだろう。確かに裏切られたことには腹がたったけど…)
(今はそれよりも心が澄んでいる。色々頭の中が変わった)
「少しな。でも俺にも原因がある。とんでもない勘違いをしていたから」
「そうなんだ……エクト、ごめんね」
「いいよ。それよりティア、もう一度聞いて良いか?」
「何を?」
俺はティアを見つめて。
「今、俺のこと好きか?」
「………」
ティアは暫く間をおいてから。
「仲間として好きだよっ」
「……」
(やっぱり……そうか……そうだよな。察していた)
(でも、それでもいいか)
(今なら受け入れることができる)
(ティアが俺のことを、男として好きでなくとも)
(それでもいいと)
「ティア、これからも宜しくな、仲間として。今まではティアに頼りっぱなしだったけど、俺も頑張るから」
「うん。よろしくね。エクト」
俺はティアと握手する。
これでようやく本当の仲間になれた。
同じパーティーの一員になれたのだ。
(本当によかった)
数秒後。
ティアはふいにニコッとしながら笑いだした。
何か思い出して笑っているのかもしれない。
「どうした?」
「なんでもないよぉ。エクトを見てると、思い出しちゃったんだぁ」
(!?)
「だってエクト、ビックリすることいったでしょ」
「俺が?」
「うん。すごいこといったでしょ?」
(なんのことだろう?)
「ほらっ。私を助けてくれた時、『死ぬほど好きだっー』とか。あんな情熱的に告白されたの初めてだったから」
「……」
(確かに、俺は感極まって何か叫んでいた気がする。無我夢中であまり覚えてないが)
(うおっ!)
(今思い出すとブルッとするほど恥ずかしい)
背筋がブルッときた。
軽く黒歴史だ。
「でもティアだって、俺に泣きながらわめいていただろ。石だって顔に投げられたし。地味に痛かった。おまけに一発で当てるし。戦闘職怖いっ」
俺は頬をさする。
ここに石が当たったのだ。
尖った石で血まででた。
「エクトのせいだよ。私、色々パニックになってたんだから。助けに来るのがギリギリすぎなんだもん。もう少しでまるこげだったなぁーわたし」
「しょうがないだろ。どこにいるか分からなかったんだから。あれでも最速だったんだから」
(俺の加護の能力、『ウィンディーネの瞳』を使用してあのスピードだ)
(あの能力でティアの居場所をサーチした)
「分かってるよ。でもエクトに助けられて良かったな」
「そうか…」
「だってね、初めてエクトがかっこよく見えたんだもん」
「はっ、初めて……なのか?」
(おかしいな……何度もティアからカッコいいと言われた記憶があるんだが……)
(…………)
(くっ……これまでの俺は…一体何だったんだ……)
「だからね…エクト……」
「何だ?」
ティアが俺に顔を近づける。
目と目が合う。
「ほんのちょっとは、男としても好きだよっ♪」
「な、なに…!?」
「エクト、ありがとねっ。大好きっ♪」
俺はティアにキスされた。
頬にキスをされた。
(!?)
(俺とティアの…セカンドキス……か?)
俺は硬直する。
心臓が飛び出るかと思った。
詳しく聞き返そうと思ったら、手を離される。
「ここ寒いね~。中に戻らないとっ、冷えちゃう」
ティアは酒場の中に戻っていった。
(お、おい。ティア。どういうことだ?)
と思ったが……
彼女は酒場の中に戻った後だった。
(……)
俺はティアを追うことはせず、後姿を見て思う。
俺は高揚した心で誓うのだ。
(こうなったら……)
(ティアが知らない俺の部分を見せてやるっ)
(そして……ティア)
(俺のこと…好きにさせてやるよっ!)
そうして暫く、夜風にあたることにした。
冷たい風で頭が冷える。
そして俺は考える。
今回の事件のことを。
俺はティアが好きだった。
愛していた。
ティアもそうだと思っていたけど、実際は違った。
俺の片思いだったのだ。
かなり傷ついた。
何度も泣いた。
何度も枕をぬらした。
でもリンが、猫耳っ子達が癒してくれた。
傷ついた心を慰めてくれた。
それにリンからは、優しさと温かさを学んだ。
仲間思いのウィズは、俺を連れ戻しに来てくれた。
義理堅いグラントは、ティアの秘密に気づき、裏切れても見捨てない姿勢を見せてくれた。
そのおかげで、俺は忘れようとしていたティアに向きあうことが出来た。
(前までの俺だったら…)
(俺一人だったら……)
きっとティアを拒絶して終わりだったと思う。
ティアのことを受け入れられなかった。
絶対に向きあうことなどできなかった。
(俺は仲間に恵まれているな)
同じパーティーのティア、ウィズ、グラント。
それに孤児院のリンと猫耳っ子達。
皆のおかげで今回のことを乗り越えられたのだ。
(ほんと、皆のおかげだ)
(感謝している)
(ありがとうっ!)
でも、俺の中にはまだティアへの気持ちが残っていた。
俺はまだティアのことが好きなのだ。
この気持ちは、これからもずっと消えないかもしれない。
でも、やっとティアと向き合えたのだ。
これからは、まずは仲間としてやっていこうと思う。
ティアに頼るのではなく、自立した冒険者として、ティアに関わっていこうと。
―――こうして生産職のエクトは
―――彼女だと思っていたティアを寝取られて
―――パーティーを抜けて
―――冒険者として、精神的に一歩自立したのだった
だが、まだ終わっていない。
これは始まりだ。
ティアがあんなことをした理由。
俺達を裏切った理由。
ティアの妹はまだ救われていないのだから。
ティアのためにも、仲間として、彼女の妹を救うおうと思ったのだ。
◇
エクト達が酒場で騒いでいた時
■冒険者ギルドの牢屋
ギルデインはギルドの牢屋に捉えられていた。
魔法を使えないように、腕には魔封じの腕輪がされている。
すると…
コツコツ コツコツ
一人の人物が牢屋に近づいてくる。
「お前、何者だっ!どこから入った!?とまれっ!」
看守が気づいて叫ぶが。
ボワッ
看守が一瞬で燃やされる。
コツコツ コツコツ
侵入者は何事もなかったように進み、ギルデインの牢屋の前で止まる。
ギルデインは侵入者の魔法使いを見て笑う。
知っている者だったのだ。
この街に、ティアを一緒に探しに来た仲間だった。
「はははっ、アル、助けに来てくれたのか?待ってたぜっ!」
「用事が終わったからな」
「用事?そういえば何だったんだ?」
「妹を見てきた」
「お前に妹なんていたのか?」
「………」
「まぁいい、なんでもありがたい。早く牢屋から出してくれ。退屈で死にそうだ」
「それはできない」
「はぁ?」
ギルデインは戸惑う。
「公爵様から、消せって命令でな」
「!?」
「失敗した奴は要らないとさ」
「なっ、何故!?」
「ギル、お前、自分が何をしたか分かっていないのか?」
「俺が……」
「そうだ。F級のルーキーに負けるような雑魚はいらないんだ。公爵様の対面に関わる」
アルの手に炎が宿り始めた。
火炎魔法を行使し始めた。
青く光る炎が指先から出ている。
アルの言葉は本気だった。
ギルデインは炎を見て焦る。
「ち、違うっ!奴は特別なんだっ!F級なんてレベルじゃないっ!そうだ、奴は加護もちでっ!」
「ギル、分かってないな」
「はぁ?」
「相手の実力はどうでもいいんだ。奴らはD~F級で構成された下級パーティーだ。周りはそう認識している。そのパーティーにお前は負け、ギルドに持ち込まれた。つまりお前は最底辺に負けた。これが、周りが認識している事実」
「だ、だが、奴は……本当にっ、化け物でっ!」
「ギル、お前が正しいかどうかはどうでもいい。自分が正しいと思うんなら、力で証明しろ。負けたら終わりだ」
「だ、だが、そうだ、俺は加護持ちだぞっ!俺は使えるっ!次は負けないっ!」
「ふふっ」
「何だ?アル、どうした?」
「ギル、ばれてないと思っていたのか?」
「!?」
「お前に加護がないことぐらい、とっくに知ってる」
「ぐっ……」
唇を噛むギルデイン。
焦りで額から汗が出る。
「そういうことだ。ギル、公爵様の部下に、負け犬はいらない。まして加護無しはなっ」
「ばっ、ばか、よせ、アル。お、俺は………仲間だろっ!」
「確かに。だけど……元なっ」
アルの手から青い炎が飛び立つ。
ボワッ
ギルデインが燃えた。
――こうして…
――冒険者ギルドの牢屋で
――ギルデインは塵となったのだった
数秒後。
カイカイカイ~
アルの腰につけている貝殻が声を出して震える。
通信貝といい、遠距離で連絡を取り合うことができる特殊な貝殻である。
アルが貝を耳に当てると…
「終わったか?」
貝から声がする。
「ギルデインは処理した」
「了解」
「ギルデインを倒した者達の写真を送る。3枚だ」
「了解。こちらで対応する」
アルは貝殻の中に、3枚の写真を入れたのだった。
「完」…
ではありません。
まだ続きますよっ。
WEB拍手&感想&評価ありがとうございます。
次回は…
明後日、2月4日 (土)の夜に投稿予定です。
~『エクトの秘密』です。
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エッセイ投稿しました。
↓
「恋人がいない人は、これをちょっと見て欲しい」
現代に恋人がいない人が多い理由は、これなんじゃないかと思って書いてみました。
宜しければ、どうぞっ




