勝利の宴
ギルドにギルデインを引き渡した後。
グラントは宿で絶対安静中。
ヘルハウンドとの戦いで怪我をおっており、俺が作った特性ポーションの副作用もあったからだ。
ティアも同じように宿で絶対安静中。
ギルデインとの戦いで怪我をおっていたからだ。
一応ティア用に調整して回復ポーションを作ったが、ティアの傷は大きいので完治するには時間がかかる。
いくらポーションといえども、自然治癒に勝ものはないのだ。
ポーションを使用すれば表面的には回復するが、無理やり回復速度をあげているので体に負担もかかる。
無理に回復を早めても色々問題が出てくるのだ。
こうしてグラントとティアはベッドに釘付け。
なので無事だった俺とウィズが、2人の看病をしたのだった。
そのため…
直ぐにはリンがいる孤児院に戻ることが出来なかった。
傷を負った2人を放置するわけにはいかなかったのだ。
だが、一応孤児院には連絡しておいた。
俺が無事な事と、パーティーの仲間が怪我を負ったので看病していると。
皆を心配されるわけにはいかなかったから。
◆
そして体が直った後、俺達は酒場に繰り出した。
「「「エクトッ! エクトッ! エクトッ!」」」
「「「エクトッ! エクトッ! エクトッ!」」」
酒場での飲み会。
ティアとウィズ、グラントが囃し立てる。
俺が影の功労者ということで、開幕一気飲みの栄誉をさずかったのだ。
「エクト、飲みますっ!」
「「「うおおおおおっ!」」」
俺は騒ぐ3人の前で、ジョッキーを一気に飲み干した。
「エクトがいっきにのんだっ!」
「なのです」
「いい飲みっぷりだなっ」
(ぐひっ…一気に飲みすぎた…)
(肺が…胃が…)
「じゃあ、エクトも飲んだし、皆で乾杯しよかった」
「なのですね」
「だな」
俺にも再びジョッキが回される。
「じゃあ」
「「「「かんぱ~い」」」」
皆でご飯。
机の上には、ウィズが好きな焼き鳥が山盛りになっている。
皆パクパクと食べ始める。
「ウィズ、唇にタレがついているぞ。食べる時ぐらい、ローブを脱いだらどうだ?」
「いいのです。後で魔法で綺麗にするのです」
(んん?)
「ウィズ、そんな繊細な魔法使えたっけ?」
(緻密な制御が必要になるのは苦手なはず)
「私じゃないのです。ティアが綺麗にしてくれるのです」
俺がティアを見ると。
「うん、わたしに任せてっ」
(まぁ、ティアは便利系の魔法が得意だからな)
「ティア、ウィズを甘やかすなよ。だからいつまでたっても魔法制御がへたくそなんだ」
「グラント。私は下手じゃないのです」
「そうだよねー、ウィズはよくできてるよっ」
「そうだな、ウィズは本当はできるもんな」
「エクト、ティア、お前らがいつもウィズを甘やかすからだぞ。小さいからって、もうちょっと厳しくしないと、ウィズのためにならん」
俺はグラントを見る。
「グラント、3対1だぜ。お前の負けだ」
「ちっ、過保護な奴らめ」
うっぷんを晴らすように焼き鳥を食べるグラント。
俺も焼き鳥、モモを食べる。
でも思う。
「ほんと、焼き鳥しかないな」
「あるのです。モモに、レバーに、ネギま、白いご飯も。焼き鳥ご飯もあるのです」
(いや、それは全部焼き鳥だろ)
「味噌ダレも、甘口も、辛口もあるのです」
「ほんと、美味しいね、ウィズ」
「ティアは味が分かるのです」
仲良く食べるティアとウィズ。
(まぁいいか、実際美味しいし)
(皆も楽しそうに食べているし)
すると。
ユラユラと酔っ払った冒険者が寄ってきた。
「おーいっ。美人の女騎士さんよー。オラと飲もうぜっ、えっ、オラとさー」
「いやよっ。あっちいって」
ティアがはっきりと拒絶を示すが。
「そんなこといわずにさー、なぁー」
酔っ払いがティアに近づこうとすると。
「おい、酔っ払い、俺達に近寄るな」
グラントがギロっと睨む。
「おっ、あーん、俺様が誰かしってるのか?、俺様はなー、D級冒険者様のぉ……んんっ?」
酔っ払いがグラントを見て硬直する。
「も、もしやぁああ…あ、あなたさ様は…つ、つい最近、上級冒険者を倒しなさった、グ、グラント様っ…」
「そうだ、俺がグラントだ。それがどうした?」
ガクガク震えるよっぱらい冒険者。
一気に酔いが冷めたのか、赤かった顔が真っ青になる。
「ひええええええーーー。ま、誠にすみませんでしたっあああー!お許しをー!」
必死に謝ってさっていく酔っ払い。
完全に酔いがさめたようだな。
周りでは…
「みたか。あれが上級殺しのグラントだってさ。やべーよ、あいつ」
「危なかったな」
「上級でもムカついたら倒すらしいぞ」
「グラント様~~」
何やら怪しげな噂が囁かれている。
「ったく、なんだこの周りの反応は」
迷惑そうな顔をするグラント。
「グラント、いいじゃない。名前がうれてさっ」
「そうなのです。パーティーの1人が有名になることは良いことです。パーティーもそのまま有名になるのです」
「そうだグラント。恥ずかしがるな」
「エクト、あれは俺の力じゃ…」
(グラントのいいたことは分かるが…)
(今の状況は俺としては助かる。俺に注目があつまらずに済むので)
「まぁ、グラント、すぐに噂なんてやむよ」
「そうだといいがな」
飲みすぎたので、俺が顔を洗いにトイレにいくと。。
「おっ、人気パーティーの金魚のフンじゃねーか」
(くっ、また酔っ払いだ)
(酔っ払いが多い店だな)
(まぁ、酒場だからしょうがないか)
「いいよなー、おめー。どうやってとりいった?」
ふぅーっと酒息をかけてくる男。
(酒臭い)
(まったく、この手の奴はどこにでるもいるな)
「実力だ」
「ほーう、じゃあ、戦ってお前に勝てば、俺がパーティー入りかな」
「それができたらな」
「俺はお前より冒険者ランクが上だからな。がはははっ。容易よっ。おらよっ」
いきなり殴りかかってくる男。
酔っていてタカがはずれているようだ。
俺はひょいっとパンチをよけて、足をかけて男を倒す。
「ぐはっ」
床に倒れる男。
「あれ、俺が倒れて…相手は生産職で…俺は…酔ってるのか?」
床に倒れながら呟いている男。
加護を使わなくても、この程度の相手なら容易だ。
格闘術だけでどうにかなる。
俺は水で顔を洗い、トイレを後にした。
◇
席に戻り、暫く焼き鳥を食べていると。
「エクトーー」
「なんだウィズ?」
「エクトには、私の特性ブレンドだれを使わせてあげるのです」
ウィズは、アイテムボックスから壷をとりだす。
壷を机の上におき、たれをすくって小皿のうえにのせる。
とても甘そうな匂いがする。
甘口だれかもしれない。
「はい、なのです」
「ありがとなっ」
俺は小皿を受け取り、ポンポンとウィズの頭を撫でる。
で。
ウィズ特性たれにつけて、焼き鳥を食べる。
「う、うん。美味い」
(なんだろう。甘いんだけどコクがある。確かに…焼き鳥にあうな)
「エクト、どうですか」
「いや、本当に美味しいよ」
「よかったのです」
嬉しそうなウィズ。
グランドがチラリとこちらをみる。
「美味そうだな。ウィズ、俺にもくれ」
「嫌なのです。グラントにあげないのです」
「はぁー、なんで?エクトにはあげてるだろ?」
「理由なんてないのです」
「くぅうううう…このガキ……」
グラントが苦い顔をする。
「まぁ、落ち着けグラント」
「そうだよ。グラントが悪いよっ」
「はぁ、なんで?俺のどこが悪いんだよ」
「グラントが悪いよねー、ウィズ」
「そうなのです」
頷づき合うティアとウィズ。
「ウィズ…まさかさっきチャカしたことを、まだ根に持って…」
「知らないのです」
「くっ」
こうして、和やかに食事は進んでいった。
で。
話は俺とグラント、ティアのことになる。
具体的には、ティアとグラントが隠れて付き合っていたことだ。
この件が今回の騒動の原因でもあったから。
さすがにウィズにも隠しておけなかった。
ウィズもパーティーの一員なのだ。
知っていた方が良いだろう。
で。
話が進むと…ティアが宣言する。
「私たちは別れることにしたの。グラントとは、ただの仲間に戻るから」
「そうだ」
グラントも頷く。
「そ、そうか……」
「うん、今は一人になりたいから。一人でもやっていけると思うから」
(まぁ、それがいいのかもしれないな)
(俺としても、ティアが1人身になってくれて嬉しい)
(でも、まさかと思うが……)
「ティア、もしかして、俺と付き合うために……」
「なわけないでしょ」
(そうですよねー。知ってた)
なので俺は気を取り直して、ウィズの頭をそっと触る。
「なら、俺はウィズと付き合おうかな」
「な、なのですかっ!?」
手から焼き鳥を落とすウィズ。
めっちゃ動揺してる。
「エっ、エクト、あんたっ…」
「おいおいエクト」
ティアとグラントもちょっと動揺。
「その、エクト、付き合うのはですね……ちょっと、ちょっとだけ…ほんのちょっとだけ早い…かもなのですぅ」
顔を赤くして、もじもじするウィズ。
(んん?どうしたんだウィズ?)
(反応がおかしいな)
ここは早めに言っておくほうが良いか。
「冗談に決まってるだろ。ウィズは俺の妹みたいなもんだからな。付き合うわけないだろ」
(本当に)
ポンポンとウィズの頭を撫でる。
ウィズは放心している。
「え、冗談、じょ、じょ、冗談……」っと呟いている。
「なに本気にしてるんだよ。まったく、ウィズはかわいい奴だな。よしよし」
俺はさらにウィズの頭を撫でる。
すると……
ウィズが顔を赤くして…
プルプルと震えだして…
「え、エクトの、馬鹿なのですっ!」
グサッ
俺の腕に焼き鳥の串を突き刺した。
(い、いたっー!串が刺さったっ!)
(腕に焼き鳥の串がっ!!!)
(くぅうううーーーーっ!!)
「やれやれ」と呆れ顔のグラント。
「はぁー」とため息をつくティア。
「ティ、ティア、回復魔法で癒してくれ。刺さってる。垂直に刺さってる。串が立ってるからっ!」
「……」
あれ、ティアの反応が悪い。
軽く無視されている。
(なんで?)
でも数秒後。
「エクト、動かないでね」
フォーン
すぐに傷が癒えた。
(よかった。さすがティアだ。回復魔法が上手い)
「ティアありがとな。っていうか、ウィズなにするんだよ。いきなり刺すなよ」
「エクトのせいです。妙なこというから悪いのです」
焼き鳥を食べるウィズ。
「そんなわけ…ただの冗談で……」
俺は同意を求めるようにティアとグラントみるが、2人は黙々と焼き鳥を食べている。
そして。
「エクトが悪いな」
「そうだよっ。エクトが悪いよ。ウィズは悪くないよっ」
2人とも敵に回った。
(え?俺が悪いのかっ?)
「3対1なのです」
ウィズが呟く。
(くっ、なんで……)
そう疑問に思いつつも、俺は焼き鳥を手に取った。
俺も皆と同様、黙々と食べたのであった。
焼き鳥は美味しかった。
「「「「エクトッ! エクトッ! エクトッ!」」」
忘年会みたいなノリでした。
WEB拍手&感想&評価ありがとうございます。
次回は…
明後日、2月2日 (木)の夜に投稿予定です。