【パーティー:ウィズ】 ウィズの戦い
ウィズ視点。
■パーティー:ウィズ
森の中。
ウィズがティアにライフポーションを使い、傷を癒していると。
ボワッ
炎の玉が飛んでくる。
(!?)
「シェルっ」
ウィズはとっさに魔法防御の壁を張る。
透明な壁で炎攻撃を防いだのだ。
(ふぅー、危なかったのです)
(でも…)
「だ、誰なのですか?」
「そうよ、誰よ、いきなり魔法攻撃してきたのは?」
ウィズとティアが炎が飛んできた方向をみると、一人の男が出てくる。
「随分魔法発動が早くなったな、ウィズ」
「その声…まさか……お兄ちゃん?」
現れたのは、ウィズと同じように黒ローブをかぶった男。
服に刺繍されている絵柄は同じ。
背中に大きなサクラの文様。
同じ一族の印。
「ウィズ、久しぶりだな」
ウィズの兄が挨拶する。
「え、ウィズのお兄さん?」
ティアが驚いてウィズをみる。
「はい。でも、どうして、アルお兄ちゃんがここに?」
「ふん」っと軽く笑ってから。
「ウィズ、そこの女をこっちに渡せ。それがウィズのためだ」
「だ、だめなのです。ティアは渡せないのです」
「ウィズ、兄に逆らうのか?」
「それは……」
困り顔のウィズ。
「ウィズ。一度も俺に勝った事がないだろう。素直にいうことを聞け、それがウィズのためだ」
「でも…私もお兄ちゃんがいなくなってから、随分成長しました」
「あまり背は変わっていないようだがな」
「魔法が上手くなったのです」
「いいだろう。それでは、ウィズがどれだけ成長したか試してやろう」
ボワッ
男の指先から青い炎が出る。
5つの炎が指先に宿っている。
「え、何あれ?ウィズ、お兄さん、杖無しで魔法使ってるよ」
ティアが驚く。
それもそのはず。
媒体無しでの魔法使用など、ほとんどの者はできないのだ。
「お兄ちゃんは加護持ちです。それに、単純に魔法を使うのが上手いのです」
「上手いってレベルじゃ…」
ウィズは青い炎をじっとみる。
「ウィズ、話してないで構えるんだ。そうでなければ、すぐに消し炭になる」
「ティア、私の後ろに隠れてください」
「う、うん」
ウィズは魔法の杖を構える。
「ウィズ、まずは小手調べだ……これから始めよう…乱れ撃ちっ」
ボワッ ボワッ ボワッ
青い炎の塊。
青い弾丸がウィズに向かって5つ放たれる。
「シェルっ」
ウィズが防衛魔法を使う。
透明な壁にはばまれる炎。
「ほーう。少しは防げるようだな。だがウィズ、相変わらず大雑把な魔法だ。広範囲に魔法を展開している。それでは、これには対処できまい」
ボワッ ボシュ ボワッ
炎の塊がウィズに飛んでくる。
だが前回と違い、同じ場所に向かって3発。
一箇所を狙い打ちにしてきたのだ。
「シェルっ」
ウィズが同じように魔法防御をはるが。
――パリンッ!
2発目の炎で魔法防御はなんなく打ち消される。
同じ箇所を連続で狙われると弱いのだ。
そして…残りの1つ。
青い炎がウィズを襲う。
ボワッ
「ウィズっ」
「きゃっ」
とっさにティアがウィズを倒し、攻撃をさけさせた。
あのまま立っていれば、ウィズは炎で燃えていただろう。
ウィズの兄、アルは倒れているウィズを見下ろす。
「ウィズ、こういうことだ。広範囲だからこそ、魔法防壁の密度が薄くなる。だから容易に破られる。いつもいっていたろ。魔法は殺しの道具だ。心臓、頭を細い線で打ち抜けば良い。全身を焼く必要はない。もっと効率を追求しろ」
「……」
「ウィズ、大丈夫?」
ティアがウィズを心配するが
「ウィズ、もう一度やるぞ。次失敗すると、体が焼けることぐらいは覚悟した方が良い。痛みで学べ」
「あなたねー、それでもウィズの兄なのっ?妹にこんなことして」
ティアがアルに向かって行こうとするが。
「や、やめるのです。ティア」
「でも」
「ティアは今、怪我してるのです。それにこれは、私の問題です。ヘルハウンドの時も、私が魔法制御を出来ていれば、ティアがさらわれずにすんだのです」
「ウィズ…」
ウィズが立ち上がる。
「ウィズ、いくぞ。次はちゃんと防ぐんだな」
アルが指先に青い炎を宿すと…
ボワッ ボワッ
連続した青い弾丸がウィズにむかって飛んでいく。
「シェル」
ウィズが魔法防御を張るが。
――パリンッ!
再び破られる。
青い炎がウィズを襲う。
「きゃっ」
なんとかよけるが、服がこげるウィズ。
「だめだな。まだ未熟だ。ウィズ、何故その程度の腕で里を出てきた」
「それは……」
「俺を間近で見てきたはずだ。なら、今の自分の実力が劣っていることぐらい、容易に想像がつくだろう」
「……」
「まぁいい。ウィズ、お前の冒険はここで終わりだ」
ボワッ ボワッ ボワッ
ボワッ ボワッ ボワッ
青い炎を両手の指先にともす。
明らかに数が多い。
全部で10個。
ティアが一歩前に出る。
「分かった。私が行くわ、そっちにいくから。ウィズには手を出さないでっ」
ティアが声を上げるが、炎は消えない。
男はティアには目をくれず、ウィズを見たまま。
「さらばだ、愚鈍な妹よ。ウィズ。炎で燃えてなくなれ」
青い炎がウィズに向かって飛んでいこうとした瞬間。
「ウィズー、どこにいる?帰ってきたぞ」
エクトの声が森に響く。
アルの動きが止まる。
「あの生産職。やはり……ギルを倒してきたか……あの感覚は…本物か…」
アルは指先の炎を消す。
攻撃をやめる。
そしてウィズを見る。
「ウィズ、お前の腕は未熟だ。その程度の腕では、遅かれ早かれ死ぬことになる。自分の実力を自覚しろ。お前は弱い。劣っている」
「お兄ちゃん…」
「待ちなさいよ、あんた。さっきから好き勝手いって」
「……」
男はティアに一瞬目を向けるが。
すぐにウィズに視線を戻す。
「ウィズ、特にその女と一緒にいると死亡率があがる。今のウィズの実力だと、加護持ちには苦戦するだろう」
「……」
アルは無言で指から炎を出す。
「な、なによっ」
ティアが叫ぶが。
「ウィズ、お前は劣っている」
ボワッ
アルは地面に炎をぶつけ、土煙を起こす。
「きゃっ」
「ちょっ、何?」
土煙が消えると、アルの姿は消えていた。
「お兄ちゃん…」
「いなくなっちゃった…」
ウィズとティアが呆然としていると…
「ウィズ、ティア。どうかしたんだ?こげくさいけど」
「そうだ。ここで何かあったのか?」
エクトとグラントが戻ってきたのだった。
縄で縛ったギルをつれて。
■エクト
俺がウィズ達の下へ戻ると、何故か焦げ臭かった。
で、訳を聞くと。
「ウィズの兄?」
「そう。いきなり襲ってきたの」
ティアが心配そうな顔でウィズを見ている。
ちょっと服がこげているウィズ。
「ウィズ、大丈夫か?服、あれだけど…」
「はい。私は大丈夫です。服はこげましたが、この服には魔法防御がかかっているのでノーダメージです。里の優れものです」
「そうか、よかった」
「心配したぜ、ウィズ」
俺はウィズの頭をポンポンする。
するとティアが俺達の足元に気づく。
縄で縛ったギルデインだ。
「って、エっ、エクトっ!本当にギルを倒してきたの?」
「あぁ、正確にはグラントが倒したんだけど」
「いや、俺は最後のとどめをさしただけだ」
「でも、凄いよっ。2人ともよくやったねっ。ギルって元B級なのに」
「まぁ、それは…運がよかったんだ」
「そうだな。運だな」
ウィズは不思議そうにグラントを見る。
「あれ。でも、なんでグラントがここにいるのですか?宿にいたはず…それに怪我も」
「エクトのポーションのおかげだ。それに、俺だけベッドに寝てるわけにはいかないだろ」
「なのですね」
頷きあうウィズとグラント。
ティアはその様子を見て…
「ほんと…皆…ありがとね。エクトも、グラントも、ウィズも。私が悪いのに…皆、私のために…」
自分がしたことを思い出したのか、泣きそうになるティア。
だが俺は、ティアの頭をポンポンと軽く撫でた。
「気にするなよティア。なぁ、グラント」
「そうだティア。俺も気にしてない。泣くなよ、エクトじゃないんだから」
「ちょ、グラント、何言ってるんだ、お前、俺がいつ泣いた?見たのか?ええ?いつどこで見た?」
「それは…知らん。なんとなくだっ。エクト、なんでそんな過剰反応するんだ?」
「別に…何でも…ない」
(くっ)
(つい焦ってしまった)
(最近、孤児院で泣きはしたが、一応ティア、グラント、ウィズの前では泣いてないはずだ)
(泣いてる頼りない奴と思われないようにしないとな)
(特にティアの前では)
(男らしくしないと…)
「そうなのですよ。ティア。私も気にしてないのです」
ウィズもティアに優しい言葉をかける。
「皆、ありがとう…本当にっ…ありがとう…」
泣きそうになりながら感謝を述べるティアだった。
暫くすると…
ティアの湿っぽい雰囲気がなくなり、いつも通り笑顔になる。
(ティアには笑顔が似合うな)
「エクト、いつまで私の頭を撫でてるの?」
「お、悪い」
俺は手を戻す。
するとティアは俺の足元、縄でグルグル巻きになって気絶しているギルデインを見る。
「じゃあ、まずは私のアイテムを返してもらいましょうか。この毛皮に。それに、さんざん私をなぶってくれたお礼をしないとねっ」
その後。
半ば強制的にギルデインからアイテムを回収し、ティアがちょっとばかし痛めつけた後。
ギルデインを冒険者ギルドに連行した。
色々誤字直してみました。
WEB拍手&感想&評価ありがとうございます。
次回は…
明後日、29日の夜に投稿予定です。