【パーティー:ティア5】
ティアは意識を取り戻す。
全身が痛い。
あの時と…レネが浚われて夜と同じ。
体中に傷がある。
体中が痛い。
髪と服は燃え、いたるところから血が出ている。
目の前には焼けこげたメダルがある。
ティアは再びメダルのネックレスを首にかける。
そして、なんとか気力を振り絞って立ち上がる。
(に、逃げなきゃ…妹、レネのためにも…私が…生きなきゃ…あの時と…同じように)
ティアはヘルハウンドから逃げようとするが……
ドスッ
「うっ…」
何十回目かのヘルハウンドの打撃。
ティアが地面に転がる。
再び、首からメダルのネックレスが外れて飛んでいってしまう。
ティアの少し先にあるネックレス。
ティアは地面にうつぶせになりながら思う。
(もう終わった…終わった……数年努力してきた。妹を助けるために頑張ってきた…何人もの人を騙してきた)
(つらかった…心が痛んだ…でも、妹のために頑張った)
(すべてはそのため…)
(あの夜から始った)
(そのために、それだけのために頑張ったのに…)
(でも…今回はダメ……)
(もう……助からない…かもっ)
ティアの脳裏に浮かぶのは、同じパーティーの顔だった。
不思議っ子の小さな女の子、ウィズ。
魔法は度々へんなところに飛んでいった。
いつもお菓子を食べていたっけ。
彼女はエクトを心配していたけど、私は嘘をついて彼女をなだめた。
(ウィズには悪いことをした)
人前では硬派な剣士、グラント。
自分の心の弱さから関係を持ってしまった。
本当は付き合う予定じゃなかった。
そんな彼にも、最後には魔物をけしかけてしまった。
裏切ってしまった。
(グラントにも悪いことをした)
そして…私が騙してきた生産職のエクト。
ずっと騙してきた。好意を抱いているフリをしてきた。
全ては彼を利用して、お金を集めるために。
でも、その過程で確かにエクトに好意を抱いてもいた。
生産職という裏方ながら、エクトの能力は際立っていたし、パーティーに貢献していた。
その力は認めていた。
本人は否定するけど…
(エクトはきっと加護を持っているはずだ)
妹のレネと同じ感覚があったのだ。
頼りないところも妹と似ていて、何故だが構ってやりたかった。
それにエクトが他の人に利用されないように。
(私が守ってあげたかった)
加護持ちだと周りにばれれば、エクトも妹のように浚われてしまうかもしれないと思ったから。
同い年だけど…
妹、弟の様に思っていたから、恋人のような関係にはなれなかった。
どうしても妹のこと、レネを思い出してしまうから。
だから私は変わりに…
毎晩エクトからアイテムを貰いながら、抱きしめた。
エクトのことを慰めるために。
そして感じだ。
(エクトは私の事を好きなんだと)
それは心地よくもあった。
人に好かれることは心地よかった。
妹に似たエクトに好かれることは、失った妹を取り戻したようだった。
でも、お金が貯まるうちに思った。
(本当の妹を救わないといけない)
(レネを救わないといけない)
(このままでは、目的を忘れてしまうかもしれない)
(私だけが、幸せになってしまうかもしれない)
だからエクトとの関係を切ろうとした。
多分…エクトは私とグラントの関係を知ってショックを受けたと思う。
泣いて出て行き、数日戻ってこないのだから。
(エクト・・・・ごめんなさい)
ティアは後悔する。
同時に、走馬灯の用にここ数年間の思い出が蘇る。
パーティーでの日々が蘇る。
~~~~~~~~~~~
「ティア、焼き鳥あげるのです」
「ティア、特別に、お菓子もあげるのです」
「ティア、お前、女なのに剣が上手いな」
「ティア、そんなに落ち込むなっ」
「ティア、できたよ、炎ポーション」
「ティア、ティア、はい、ライフポーション」
日常の一コマも思い出す。
「じゃあ、皆、帰ろっか。魔物もとれたし」
「そうだな。ザクザクだぜ。運動にもなりやしねー」
「そうなのです。わたしは魔法を使う機会もなかったのです。残念なのです」
「ウィズの魔法はどこに飛んでいくか分からないからな。それでよし」
「次こそはまっすぐ飛ばすのです」
「まっすぐ飛んでいくとこみたことないぞ。いつも変化球だろ」
「大丈夫、ウィズはちゃんとできるよな。本当はまっすぐ飛ばせるもんな」
「そうなのです。やっぱりエクトは信じてくれるのです」
~~~~~~~~~~~
(何気ない日常が楽しかった)
(それでよかった)
(でも、全ては妹のために)
(そのために皆を裏切った…)
(でも、全てが水の泡…)
(妹も救えないし…もう、あのパーティーにも戻れない…)
(わたしには…何もない…)
妹も救えず、皆を騙したまま終わる。
何もないまま終わる。
魔物に遊ばれて殺される。
(あんなギルデインみたいな奴に…全て奪われて終わる……)
~~~~~~~~
『はははっ』
『はははっ、ティア、はははっ』
『お前が弱えーのが悪いんだよ、はははっ』
『全て、よこせ、この俺になっ、はははっ』
~~~~~~~~
(奴の高笑いが耳に残る)
(あんな奴に……私の夢が壊されるっ)
(レネを救うこと…)
(それに世界一の騎士になること…)
(それが…あんな奴のせいで…)
ティアの瞳が歪む。
涙で歪む。
これまで抑えていた心が弱くなる。
決して人前で見せなかった弱い顔になる。
(…なんで…わたしが…こんなことに…)
(ねぇ…なんで……なんでわたしがぁ…)
(わたしはただ妹…妹のレネを救いたかっただけなのに…なんでぇ?)
(ねぇ…誰か…教えてよぉ…)
(私が、何をしたっていうのよぉ…)
(どこで歯車をまちがえたっていうのよぉ……)
(これなら……エクトを裏切らなければ……そうしていればぁ……)
だが後悔しても遅い。
ティアの目の前では、ヘルハウンドが口の中に炎をためていた。
炎が吐き出される直前だ。
口から炎が溢れている。
炎の熱が伝わってくる。
(あれが直撃すれば…わたしは終わり)
(消し隅になる)
(終わり…最後の瞬間……残り数秒の命…)
(最後の時間…)
(…………)
(なんで……なんでよぉ…わたしがぁ……こんな目にぃ……)
思わず涙がこぼれる。
父の言葉が頭に響く。
~~~~~~~~~~~~
『涙は悲しい時にだけじゃない。嬉しい時にも出るんだ。きっとこの先、ティアに嬉し涙を流させてくれる人がでてくるはずだから。その時まで、待ってるといい』
~~~~~~~~~~~~~
(とうとう……その時はこなかったなぁ……)
(嬉しくて泣いた時なんて…一度もなかった)
(こないと分かっていても…心のどこかで…期待していたのに……)
「GUOOOOOOOOOOOO!!!」
ヘルハウンドがティアに向かって炎を吐いた。
向かってくる炎の塊。
高温が空気を震わす。
ティアは涙を流しながら、心の中で声にならない叫びをあげる。
(…誰か……たす……けてぇ)
ティアが自らの命を諦め、初めて神に心から祈った時。
シュ
何かがティアと炎の間に投げられた。
シュパーっと音がし、ヘルハウンドの炎が消えていく。
ティアを焼き殺そうとした炎が消える。
(!?)
(えっ?な……なに?)
とっさに物が投げられてきた方向を見る。
涙でかすむ光景。
でもその歪んだ景色の先からは……
「ざまーねーな、ティアっ!」
叫び声が聞こえる。
聞き覚えの有る声がする。
(!?)
ここにいるはずのない人の声。
絶対にいるはずのない人の声。
そして声の先から現れたのは…
なんと……ティアには信じられない人物だった。
ティアが騙してきた男…
ずっと騙して裏切ってきた男……
エクトだった。
(な、なんで…)
ティアは驚愕に震えたのだった。
エクトはティアを見る。
「ティア、俺を騙してその姿かっ?」
「……」
「それに勘違いするなよ、ティア。俺はお前を助けにきたんじゃない、罰しに来たんだ」
怪しく笑うエクトだった。
エクト登場っ!
次回、エクト視点に戻ります。
話を切れないので、ちょっと長めです。
――スッキリ!!!
WEB拍手&感想&評価ありがとうございます。
明日も投稿です。
■1/21 追記
以下の部分修正しています~~~~~~~~~
話数:『エクト・ライヴ 衝撃の日』『リンとの出会い』
修正内容:3G周り
話数:【パーティー:ティア4 記憶】
修正内容:途中の展開、一部変更
その他、誤字脱字等を修正。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
■感想欄の設定変更について。
現在、山場を迎えている
&
WEB拍手で毎日10件以上感想を貰っていますので。
なろうユーザーでなくとも、どなたでも感想を書ける設定に変更しています。
※今まで通り、WEB拍手の方でもかまいません。