【パーティー:ティア4 記憶】
1/21 追記 途中の展開修正
~~~記憶編:続き~~~~~~~~~
「よし、お前ら、入って来い」
カーライルの声に従って入ってくる男達。
全員高価な武具で武装している。
「目的のガキ以外は全員殺せ。執事もメイド、一人も逃がすなよ」
男達はちりぢりに屋敷の中に散っていった。
~~~~~~~~~
そして、すぐに。
「きゃああーー!」
「だ、誰かーーーー!」
「た、助けてーーーー!」
館中から悲鳴が聞こえてきた。
~~~~~~~~~
お父さんを刺した人。
カーライルは椅子に座っているお母さんの前に来る。
「さてと奥さん。机の上には4人分の食事。2人は奥さんと夫。残り2つ…このかわいらしい茶碗とスプーンは…子供用かな?」
「……」
「奥さん、2人の子供はどこにいるのかな?」
「……」
お母さんは何もいわない。
唇を閉じている。
カーライルは笑う。
「そうか…だんまりか。旦那さんに似て、奥さんも真面目なのかもしれないな」
お父さんを刺した剣で、ぽんぽんとお母さんの頭にやさしく触れる男。
お母さんの顔に、お父さんの血がつく。
顔から血がたれる。
「でも、心意気はかうが、現実が見えてないんじゃないかな。今、目の前で夫が刺されたというのに…」
「……」
お母さんは何も話さない。
カーライルは血塗られた剣でお母さんの頬をなぞる。
「で、奥さん、ガキはどこにいる?テーブルの食事は熱い。今までここにいたはずだ」
「知らないわ」
お母さんが口を開いた。
声は震えていない。
「そうかい。ハイド氏はそういっていなかったがな。この家には2人のガキがいる。それに1人は加護持ちだと。こちらの聞き間違えかな?」
「そうです。聞き間違えです」
「ふんっ。結構なことだ。母親は強いのかな」
カーライルは剣でポンポンとお母さんの頬を軽くなで。
それから…
スラッと剣で頬を切る。
お母さんの顔から血が出るが…声を出さない。
「斬られたのに、表情一つ変えないか…大したものだっ」
「……」
「もう一度聞くぞ、奥さん、ガキはどこだ?加護持ちのガキはどこにいる?」
「知りません」
「そうか…」
男が剣をお母さんの首筋に移動させる。
「今度はもっと痛いぞ。声を出さずにいられるかな…」
「……」
カーライルがさーっと剣を動かすと…
お母さんの首から血が出る。
トロリと流れ出る。
お母さんは声を出さない。
「おやおや、気丈なことだ。それで、子供達はどこにいる?このままじゃ、ドンドン首がうすくなるぞ」
「子供達は、おじいちゃんの家にとまりにいったわ」
「ふんっ、そうかそうか、おじいちゃんの家か…それは笑えるなっ」
「今頃、ヤギと遊んでるわ」
「ヤギか、かかかっ。まったく、強情な女だな」
「……」
カーライルは剣をお母さんから離し、剣についた血を吹き飛ばす。
部屋中に血が吹き飛ぶ。
「だが、あまり舐めてもらちゃ困るな。楽しいお話もしていたいが、こっちも時間がないんだ。今日はたくさん殺さないといけなくてね。リストがつまってる。生きててもらっちゃ困る者が多いんだよ」
「そう。私は楽しくないわ」
「ふんっ。もう一度聞く、奥さん、ガキはどこにいる?加護持ちのガキだ。今すぐいえ。次はないぞ」
「知らないわ。それにあなた達、どうせ生かして帰す気なんてないんでしょ」
カーライルはニヤリと笑う。
「なんだ、最初から分かってたか?」
「ええ」
「じゃあ、これ以上聞いても無駄だな」
「……」
「さよならだっ」
ブシュ
(お、お母さんーー!)
カーライルが剣をふると、お母さんが刺される。
胸に剣が突き刺さる。
床に倒れるお母さん。
血がドクドクと流れ出ている。
血の池が出来ている。
(お、お母さんが…死んじゃう)
(お母さんが…)
(死んじゃう…)
私は恐怖に震える。
体が動かない。
でも、声は出さないようにする。
必死に口を押さえる。
カーライルはお母さんから剣を抜く。
「よし、時間がない、子供を探し出せ。この部屋にいるはずだ」
部屋の中を探し回る男達。
足音が聞こえる。
ガシャンといろいろな物が壊される音も。
いつも綺麗だった部屋が、めちゃめちゃに荒らされていく。
(ど、どうしよう?)
(ここもばれちゃうかも?)
(そしたら、私もレネも…殺されちゃう)
(ど、どうしよう?)
迷っていると…
ガチャ
いきなりタンスに光がさしこむ。
武装した男の顔が見える。
「カーライルさん、見つけました。ここですよ」
「ふんっ、やっぱりいたか」
(あっ、ヤバイ)
(見つかったっ!)
(隠れなきゃっ!)
私が急いでタンスの扉をしめようとするが。
「ほら、ガキ、早くでてこい」
男が強引に掴んでくる。
「いやっ!」
「やだっ!」
私とレネは反対するが。
「ったく、てまかけさせやがって」
無理やりひっぱりだされる。
「いや、離して、離してっ!」
「いやっ!」
「おい、殴って黙らせろ」
「それが早いな」
ボシュ バシュッ
「「きゃっ!」」
殴られたところが、燃えるように痛い。
痛みで声が出ない。
「……」
「……」
「よし、静かになったな。で、どっちだ?どっちが本物だ?依頼のガキだ?」
(なっ、何いってるの!?この人たちっ!)
「目を見ろ。赤い瞳の方だ。見えないなら、泣かして加護を発現させろ」
「そうだったな。えっと…どっちだ?…おい、ガキ、目を開けろっ!」
(赤い瞳…レネが危ないっ!)
「いやっ!」
「んんっ!」
ティアとレネは無理やり目をつぶるが…
「おらよっ。目をあけろっ!目をつぶすぞっ!」
男達が無理やり目を開かせる。
すると、私の目にはレネの顔が見えた。
怖くて泣いているためか、レネの瞳が赤く輝いている。
(レネが不思議な力を出す時の瞳の色だ)
「確認した。こっちだ。こりゃこえー、本当に真っ赤な瞳だな」
「早く袋に入れろ。魔法は使えないように枷をはめてな」
「そうだな。ガキだけど加護持ちだからな。注意しねーと」
レネの両腕には、見たことがない腕輪がはめられる。
そして、男に担がれる。
「お、お姉ちゃーんっ!」
「レ、レネー!」
「暴れるな。ガキ」
「きゃっ」
レネは殴られてから、あざ袋に入れられた。
袋の中でモゴモゴ動いている。
「よし。これで依頼は終わりだ」
「まて、こいつ、もう一人のガキはどうする?」
「このガキか?」
私を指差す男。
「そっちは必要ない。依頼にないノーマル、加護無しだ。価値がない。荷物が増えると邪魔だ」
「そうだな。じゃあ、いらないんなら殺すか」
男が剣を私に向ける。
(………)
私は初めて本物の殺意を向けられた。
心底怖くて動けない。
腰が抜けてしまう。
「そうだな、殺せ」
「俺がやるよ」
ナイフを持った男が近づいてくる。
(やばい…殺される)
(でも……こ、声が出ない)
(う、動けない…)
男のナイフが私の頭上に掲げられた時。
「おい、何してるっ」
部屋の入り口から声が聞こえる。
全員がそっちを見ると。
「おやおや、ハイド氏、戻ってきたのですか?」
「あぁ、やっぱり最後まで見届けようと思って」
「そうですか。今は邪魔者を殺すところですよ。加護の子は回収しましたので」
「そうか…」
ハイドおじさんは床で血を流しているお母さんを見て、目を伏せる。
それから私を見る。
「その子は…俺にやらしてくれないか。けじめだ。俺が最後を与えたい」
「いいですよ。ハイド氏に譲りましょう」
カーラエルが男に合図すると、ナイフを持った男が離れる。
それから、ハイドおじさんが私に近づいてくる。
おじさんは腰のナイフを抜き、私の傍にくる。
「お、おじさん…」
「ティア、すまない」
恐怖で動けない私を、ハイドおじさんはぎゅっと抱きしめる。
でも。
すぐに、大きくナイフを振りかぶり。
「い、いやあああーーー!」
ブスッ
私に向かってナイフを振り下ろした。
血が吹き出る。
私は血に染まる。
私は死んだと思った。
(でも…あれ…)
(痛くない)
(全然痛くない…)
(なんで?)
よくみると、ハイドおじさんは自分の腕を刺している。
私の腕を刺してはいない。
他の人には見えないようにしている。
多分、他の人には私を刺したように見えている。
ハイドおじさんが耳元で呟く。
小声で。
「ティア、今から突き飛ばす、死んだフリをしろっ」
私が答えるまもなく。
ドカッ
ハイドおじさんに突き飛ばされる。
体中に血を浴び、私は床に転がった。
同時に、私の首からメダルのネックレスが飛んでいく。
(おじさん、な、なんで…こんなこと…)
私は混乱しながらも、生きたい一信で死んだフリをする。
ピクリとも動かないようにした。
そして、周りの様子を伺う。
目の前にうつる景色を見た。
「ハイド氏、まさかご自分で知人の子供を殺すとは…そこまでしなくとも良かったのですがね。でも、これで仲間ですね」
「あぁ、そうだな」
「さすが、一番に裏切ってくれたことだけはあります」
「……」
「ではっ…」
カーライルはハイドおじさんから視線を外し、仲間を見る。
「面倒だから家は燃やせ。証拠は残すな。全て消せ」
「任せろ。俺の魔法で燃やす」
ボワッ
男の一人が炎魔法を使うと、両腕から青い炎がでてくる。
家が瞬く間に燃えていく。
高温と煙に包まれる。
家中から炎がでている。
床に転がったメダルも燃えていく。
(お父さんから貰ったメダルが…)
(炎の中で燃えている)
(全て燃えていく……)
私は死んだフリをしながら、燃えるメダルを見続けた。
「よし、引き上げる。火は回った。これで十分だ。長居は無用。俺らにはまだ他の家も残ってるっ」
「そうだな。人が集る前に」
「ほーう、よく燃えてるな。毎回燃やすのは、なんとも楽しい」
男達は家を出ていった。
炎に燃える家。
私はあの男達が戻ってこないことを祈りながら。
暫く死んだフリを続けた。
恐怖で体が動かなかったのだ。
(………)
(………)
でも。
(そ、そうだっ!)
(逃げなきゃ、それに…)
「お、父さん、お母さんっ!」
私は恐怖から復活して起き上がる。
すぐさま2人をみる。
床の上では、お母さんとお父さんが燃えていた。
でも、お父さんには僅かに息があった。
だからお父さんに駆け寄る。
「お、お父さんっ!」
「て、ティア……グホッ……」
「お父さんっ!」
「ティア……に、逃げろ…分かってる……なぁ」
「お父さんもっ!一緒に逃げようよっ!」
「むっ、無理だ……もう……た、助から…ない……」
父の胸からは大量の血がでている。
生気もほとんどない。
「お父さんっ!お父さんっ!」
「いいか…ティア……泣くな……よ」
「お父さんっ!!!死んじゃだめっ!」
私の瞳からはいつの間にか涙が出ていた。
ボロボロと涙が出ていたのだ。
お父さんは必死に口を開く。
伝えたいことがあるようだ。
「ティア…お、お前の…名前の由来の話は…覚えている……なっ」
「……うんっ」
~~~~~~~~~
私の名前の由来は「涙」。
悲しい時に出てくる涙だ。
私が『なんで涙なの。悲しいのはいや』っと聞くと、いつもお父さんはいってくれた。
『違うよティア、涙は悲しい時にだけじゃない。嬉しい時にも出るんだ。きっとこの先、ティアに嬉し涙を流させてくれる人がでてくるはずだから。その時まで、待ってるといい』と。
それにこんなことも言っていた。
『いいかティア、お前達姉妹は2人で1人りだ。右の目の涙がティア、左の目の涙がレネ。2人で1人だと』と。
~~~~~~~~~
(でも、そんな時こないっ)
(こんなことになって、お父さんと、お母さんは死にそうで。レネは連れ去られちゃった)
(悲しみの涙しか出ない)
(悲しくてたまらない)
(こんなのいやっ!)
「お父さんっ!」
「ティア…な、泣くな……」
「お父さんっ!」
「そして……忘れるなよ……涙はぁ……」
「あっ、お父さんっ?お父さんっ?」
「……」
「……」
お父さんは動かなくなった。
目から光が消えた。
息も止まった。
「お父さん!…お父さんっ!お父さぁああああーーーーーーんっ!!!」
燃える家の中で、私は泣き叫んだのだった。
殴られて痛んだ体、炎でやける家の中。
高温が肌を焼く中で、叫んだのだった。
暫く呆然としていると…
燃える部屋の中に誰か入ってくる。
(誰だろう?)
(奴らが戻ってきたのかも?)
炎と煙の中をよく見てみると……
(!?)
(ハイドおじさんだっ)
(お父さんを裏切った人だっ!)
(家をこんなことにした人っ!)
(でも、私を救おうとした人っ!)
私は感情がごちゃまぜになっていた。
何が何だか分からなかった。
(悲しくて…怖くて…憎くて…)
(熱くて…痛くて…心と体が痛くて…)
色々な感情が湧いていた。
よく分からなかった。
ハイドおじさんは体中にやけどを負っている。
それに、彼の左手は血に染まっている。
私を刺すフリをして、自分の腕を刺したのだ。
「ティア、大丈夫か?」
「あなた、おじさん、お父さんを裏切ったっ!」
「仕方なかったんだ」
「殺してやるっ!卑怯者っ!」
私は床に落ちていた割れた瓶の破片を拾う。
そして、おじさんを斬りつけようとするが…
「きゃっ」
私はハイドおじさんに抱え上げられる。
「卑怯でも、死ぬよりはましだ」
「離して、離せっ!バカっ!」
「ティア、暴れるな、いいからこい。助かるにはそうするしかない」
「離してっ!いいから。あなたと一緒にいたくないっ!」
「ティアは助ける。ハリスのためにもな」
「お父さんを、裏切っておいてっ!」
「ハリスはどうして助からなかった。これしか方法がなかった」
「離せっ、ばかっ!アホッ!」
「ティア、ハリスがレネを差し出すと思うか?」
「するわけないでしょっ!おじさんじゃないんだからっ!」
「だからだ。いいからこの家を出る。ここにいたら死ぬ」
「わたしもここで死ぬっ!」
「ティア、お前の両親の死を無駄にするな」
「はなせーー!」
「おい、暴れるなっ」
私の目にメダルが入る。
炎の中で燃えているメダルが映る。
(あ、あれは、お父さんがくれたもの)
(あれだけは…持って帰らないと)
(あれだけは…)
「ちょっと、アレ、あのメダルは必要なのっ!」
「どれだ?あの燃えてる奴か。とけてるぞ」
「いるの、必要なのっ!」
「分かった、っち、しょうがないなっ!」
ハイドおじさんは炎の中に手を突っ込んでメダルをとり、床に置く。
「お、おじさん…手から煙がでてる。それに血も…」
「大丈夫だ。それにしても熱いなっ」
「だ、大丈夫?」
「メダルは俺のアイテムボックスにいれる。後で返す。ティア、それでいいな?」
「え、あっ、うん…」
「じゃあ、出るぞ」
「だ、ダメ、お父さんと、お母さんっ!」
「もう無理だっ」
「いやあぁ、離してっ!」
暴れる私を抱えながら、ハイドおじさんは燃える屋敷を出た。
そして次の日から、私の生活ががらりと変わった。
ティア、12歳の記憶。
両親を失い、妹が浚われた夜だった。
そして、冒険者としての初まりの夜でもあった。
記憶編終了です。
近づいてきました……
WEB拍手&感想&評価ありがとうございます。
明日も投稿です。




