揺れる心
10話、【パーティー:ウィズ】の後半ですが。
はしょりすぎて不自然になっていましたので、加筆修正しました。
孤児院の前。
俺とウィズ。
リンは孤児院の中に戻り、俺とウィズを2人きりにしてくれた。
気を使ってくれたようだ。
「ウィズ、悪かったな。さっきはどなって。別にウィズにどなったわけじゃないんだ」
「気にしてないのです。いいのです」
「そうか、ビクっとしてたろ」
「してないのです」
「まぁ、そういうことにしておくな」
「ほ、本当にしてないのですよっ」
俺はポンポンっとウィズの頭を撫でる。
ウィズは嬉しそうに頬をゆるます。
「それでウィズ、詳しい話を聞かせてくれないか。ティアがどうしたんだ?」
「そうなのです」
ウィズは語りだした。
話を要約すると…
ウィズ達は俺抜きで「ヘルハウンド」のクエストに向かい、負けた。
そしてティアが魔物に浚われた。
(まぁ、調整済のポーションがなければそうなるだろう)
(それにしても、随分焦っていたようだな)
(何か理由があるのだろうか?)
(普段のティアなら、そんな軽率なことはしないと思うのだが……)
(この俺を騙すぐらい、したたかな女だからな)
「それでグラントは?」
「怪我をしたので、宿で休んでるのです」
「グラントが怪我を…それでウィズ、ティアがどこに連れ去られたか心当たりはあるのか?」
「多分。ヘルハウンドの巣です。でもまずはグラントに話を聞いた方が良いのです。急いでいて、まだ詳しい話は聞いてないのです」
「そうか。それとウィズ」
「なんですか?」
「いっちゃなんだが、なんで生産職の俺に助けを求めた?」
「それは…エクトが特別だからです」
「俺が特別?」
「はい。エクトは加護は持っていないと聞いていますが、私はエクトからは特別なものを感じます。数ヶ月も一緒にいれば分かるのです」
(確かに俺は加護のことは皆に黙っている)
(だがウィズは俺の加護に気づいたのか?)
(まさか…俺と同じように、相手が加護持ちかどうか分かるのか?)
「実は、私のお兄ちゃんも加護持ちなのです。炎魔法がとっても上手いんです。小さな頃から天才といわれていたのです」
「ウィズに兄がいたのか?」
「なのです。今は色々あって会えませんけど、小さい頃はずっといっしょにいました。エクトには、お兄ちゃんと同じ感覚があります」
「そうか……兄と同じか……」
(その程度の感覚なら、俺の加護のことはばれていないようだな)
「はい。よく指先から青い炎を出して、遊んでくれたのです。すごく器用なんです。全部の指で炎を出せるのです。魔法の杖も使わずに」
(媒体無しで、指先から青い炎?)
(どこかで見た気が……)
(確か、数日前に……)
(いや、今は関係ない話だ。考えないようにしよう)
「そうか。わかった。じゃあ、一先ず宿に向かうか」
「なのです」
(でもその前に…)
「ちょっと待ってな、孤児院の皆に挨拶してくるから」
「エクト…そういえば、なんで孤児院にいるのですか?」
ウィズが不思議そうな顔をする。
確かにこれまで俺と孤児院は何の関係もなかったから…当然か。
「それは…いろいろな理由だよ」
「そうなのですか…猫耳さんとは随分仲がよさそうなのですね」
「リンは…良い奴だからな。じゃあウィズ、ここでちょい待ち」
「なのです」
俺が孤児院の中に戻るとリンがいた。
俺が来るのを待っていたようだ。
「リン、暫く出てくるよ。パーティーの仲間を助けに行ってくる」
「そうにゃ。エクト、さっきはああいったけど、あまり危険なことはしないで欲しいにゃ」
「わかってるよ。リン」
「本当はずっとここにいて欲しいにゃ。でも、仲間を見捨てても欲しくないにゃ」
「リンは気持ちは分かってるから」
「詳しいことは分からないけど、危なかったら直ぐに戻ってきて欲しいにゃ」
「ああ、そうする」
心配そうに俺を見るリン。
本当に俺のことを心配しているのだろう。
(リンは優しいからな)
「でも、エクトには何か特別な力があるはずにゃ。調合を見てても分かるし、たくさんの孤児達を見ていれば、特別な人とそうでない人は分かるにゃ」
「リン……」
(まさかリンも俺の加護に……)
「でも、特別な力があっても、それは関係ないにゃ。エクトはエクトにゃ。他の人のために尽くす必要もないにゃ」
「あぁ、俺の意思で助けに行くんだ」
(そのことを、俺はよく分かってる)
(自分で決めたんだ)
(リンとウィズのために、ティアを助けに行くと)
「そうにゃ、なら、孤児院は任せるのにゃ」
「あぁ、すぐ戻ってくる。子供達には…リンからよろしくな」
(その方が良いだろう。俺が今から子供達に話をすると、いらぬ心配をかけるかもしれない)
「あたしが上手く言っておくにゃ」
「任せた」
「エクト、こっちにくるにゃ」
「なんだ?」
「いいからくるにゃ」
「そうか…」
俺がリンのそばによると…
「こうするにゃ」
リンが俺をぎゅっと抱きしめる。
モフモフに抱きしめられる。
「り、リン…何するんだよっ」
「エクト成分を補充するにゃ」
リンが俺の背中を肉球でなでる。
ポンポンっとゆする。
温かいリンの体に包まれる。
「怪我しないで帰ってくるにゃ」
「あぁ、大丈夫だ。気をつける」
「エクト、ここで待ってるにゃ」
「すぐ戻るよ。すぐになっ」
そしてパッと離れる。
俺はリンと向かい合う。
「じゃあ、リン。いってくる」
「ばいにゃー」
こうして俺は孤児院を出た。
出口でウィズに合流する。
「よし、ウィズ、いくかっ!」
「……」
じーっと俺を見るウィズ。
「なんだよ?どうした?」
ウィズは俺の服を触って何かを取る。
指に何かを掴んでいる。
「エクト…服に猫毛がついているのです」
「そうか…きづかなかった」
(リンのものだろう。さっき抱きつかれたから)
「こっちにもついてるのです。こっちにも、こっちにもです。たくさんついてるのです」
「そう…だな…」
ウィズは次々と猫毛をとる。
手にリンの猫毛を集めていく。
そして再び俺をじーっと見る。
「やっぱり、猫耳さんと仲良しなのですね」
「まぁ、そこそこな。仲が良いのは…良いことだろ?」
「……」
じと目のウィズ。
「なぁ、なんで無言なんだよっ」
「エクト、行くのです。お菓子はあげないのです」
プイッとするウィズ。
ポケットから飴玉を取り出して食べる。
口の中でもごもごしている。
(なんだか分からないが、ウィズの機嫌が悪い)
(まぁ、そのうち直るだろう)
「ウィズ、何だか分からないけど、すねるなよ」
ポンポンっとウィズの頭を撫でる。
ウィズの頭は俺の胸の辺りにあり、ちょうどいい位置にあるのだ。
撫でやすい。
「すっ、すねてないのです。それに危ないのです。撫でられると、飴を飲み込みそうになったのです」
「そうだな。悪かった。じゃあ、宿にいってグラントに会うか」
俺とウィズは宿に向かった。
◇◇◇
泊まっていた宿に到着。
中に入ると…頭によぎるのは嫌な記憶。
ティアとグラントがいちゃついている映像だ。
なぜなら今俺達が向かっているのは、2人がキスとか、色々いたしていた部屋なのだから。
(気にしない…気にしない…気にしないぞー)
俺は悪いイメージを頭からさっと払う。
「グラント、エクトをつれてきたのです」
ウィズが部屋の中に入る。
俺も遅れてはいる。
「ウィズ…本当にエクトを連れて戻ってきたのか」
「なのです」
グラントがベッドから起き上がる。
包帯グルグルだ。
結構大きな怪我を負っているようだ。
ライフポーションを使用しても完治していないのだろう。
ライフポーションは元の自己治癒能力を高めるだけ。
なので大きな傷の場合、一瞬で傷が治ることはない。
体で作り出されるエネルギーには限度があるからだ。
「よう。エクト。戻ってきたな」
「あぁ、グラント。久しぶり」
俺はグラントと挨拶を交わす。
俺が最後に見た時、グラントとはティアと部屋にいた。
扉の向こうから楽しそうな声が聞こえてきた。
頭に浮かぶのは、被害妄想かもしれないが、グラントとティアがキスしている光景。
(………)
(……くっ)
思わず唇を噛みそうになる。
心が痛い。
ズキズキする。
グラントはティアと関係していたのだ。
つまりティアが俺を利用している、騙していることを知っていた。
(それにそもそも、ティアとは俺の方が早く知り合ったんだ)
(グラントより俺の方が早くティアと出会ったんだ…)
(それなのに…新参者のグラントに…ティアを……俺のティアを取られるなんて…)
(くっ、なんで……)
そう思うとでふつふつと怒りが湧いてきた。
3重の意味で、グラントに対する怒りを感じる。
・1つ、ティアが俺を騙していたことを黙っていたこと
・2つ、俺の方がティアと先に出会ったのに、グラントがティアと付き合ってること
・3つ、あの衝撃の日、ティアに触れたり、キスとか……色々羨ましいことをしていたこと (これが最大理由)
(ぐぐぐっ、グラント…絶対に許せんっ!)
だがしかし。
ここには何も知らないウィズがいる。
なのでいきなりグラントに殴るわけにもいかない。
俺とティア、グラントのことは、このままウィズには知らせたくない。
だから平静を保つ。
俺も大人だからな。
「グラント、それで、ティアの話を聞かせてくれないか?どこに連れ去られたか、心あたりはないか?」
「そうだな…ずっとベッドの上で考えていた。つれさったのはデカイヘルハウンドだ。並みの魔物じゃない。明らかに上位種だ。だから多分、あのあたりに巣でもあるんだろう。ヘルハウンドは獲物を巣に持って帰る習性があるから」
「…そうか」
「でもエクト、俺達が勝てなかった魔物だ。生産職のお前が勝てるのか?」
当然の質問だろう。
だが俺には考えがあった。
「あぁ、ちょっとした策が有る」
「そうか…そうだよな。エクトがいた時は倒せたヘルハウンドに、俺達は負けたんだ。そういえば、ポーションが全然効かなかったぞ」
「少しは効いてはいるはずだ。だか、調整していなかったからだろう」
俺は調整のことを話した。
魔物ごとに属性効果を調整していたと
多分、そのせいで今回グラントとティアは魔物にダメージをあたえられなかったと。
「そうか…やっぱり、エクトは凄いな。そんなこと聞いたことがない、エクトの他には誰も出来ないだろ」
グラントが頷く。
調整のことにうっすらと気づいていたのかもしれない。
「だが、調整のことは内密に頼む」
(あまり知られたくないからな。俺の秘密に繋がることは)
「分かってる。言わないよ」
「私もです」
(よかった)
「じゃあ、俺はウィズと助けに行ってくる。早くいった方がいいだろうからな」
「なのです」
「だな。2人とも…ティアを頼む。難しいとは思うだろうけど、出来たら助けて欲しい」
「あぁ」
「はいなのです」
俺とウィズが部屋を出ようとしたところ……
「ちょっと待ってくれ」
グラントに呼び止められた。
(!?)
WEB拍手&感想&評価ありがとうございます。
特に、感想欄は参考にさせてもらっております。
感想欄には【良い点、悪い点、一言】の3つがありますが、現在、何故か【一言&悪点】に偏っております。良点を書いて頂いても大丈夫ですよ。
明日も投稿です。




