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エクトの決意

―――「知らん!勝手にしろっ!俺は孤児院の運営で忙しいっ!!!」



俺が叫ぶとウィズは硬直した。

だが、ウィズはティアを助けたいのだろう。

すぐに緊張を解く。


「エクト……一緒に来て欲しいのです。ティアを助けるのを、手伝って欲しいのですっ!」


目の前のウィズは必死だ。

焦燥感が伝わってくる。

本気でティアのことを心配しているのだろう。


だが俺は……ティアのことを忘れたかった。

俺の心はティアに深く傷つけられたのだ。

思い出すだけで心が痛む。

悲しみが沸き起こってくる。


ティアに関わりたくなかったのだ。


だからウィズには悪いけど…


(今、ティアに会うことは…できない…できないんだ……彼女には会いたくない)


(彼女のことを思い出したくない)


(まして…会うだけでなく…俺の傷つけたティアを救うなんて……ありえないっ!)


だから返事をする。


「悪いウィズ、他をあたってくれ」


「エ、エクトォ……」


ウィズは悲しい顔をする。


普段は表情が読めない彼女だが、今は分かりやすい。

目が潤んでいる。

彼女の気持ちが伝わってくる。

ティアを助けたいという気持ちが。


でも、その思い叶えられない。

俺はウィズのことが好きだがら、悲しむ顔は見たくないけど。


でもそれよりも…もっと…もっと大きな気持ちがある。


俺はティアを助けたくなかった。



「悪いな、ウィズ。そういうことだ」


俺が孤児院の中に戻ろうとすると…


「エクト…助けに行ってあげてほしいにゃ」


(!?)


建物の中から声が聞こえた。

孤児院の中からリンがでてきた。


「リ、リン…」


(もしかしたら、今の話を聞かれたのか…)


「あたしが頼める話じゃないのは分かってるにゃ。それにエクトは行きたくない理由があるかもしれないけど、できたら助けてあげて欲しいにゃ」


リンが告げる。

俺の心は動揺する。


ティアなんて助けたくない。

彼女のことを忘れたい。

だからウィズに頼まれても拒否した。


でも…リンに頼まれると心が揺れるのだ。


(俺はリンに癒された…ティアに傷つけられた分と同じぐらい、リンに助けられた)


(何度も泣いているところを癒してもらった)


(だから…だからリンの願いなら何でも叶えたい)


(でも…そもそも俺を傷つけたのはティア……今更ティアを救うなんてことは…できないっ!)


俺は迷う。

ティアへの拒絶と、リンとウィズへの気持ちで迷う。

好きと嫌い。

好きな人と嫌いな人。

相反する感情。


すぐには結論が出なかった。


「エクト、お願いなのです。もう時間がないのです。魔物に連れ去られたら、早く助けないといけないのです」

「エクト、お願いにゃ」


ウィズとリンが俺を見る。

2人共、ティアを助けることを俺に求めていた。

ウィズは必死だし、リンも真剣な顔をしている。


(…リンとウィズのことは好きだ。でも…俺は…あんな女…ティアだけは……助けたくないっ!)


ここ数日俺はティアのせいで涙を流し、辛い日々を送ってきたのだ。

何日も泣いてきた。

枕を涙でぬらしてきた。

心には深い傷を負った。


(だから…もう……ティアに関わりたくないんだっ!)


(ティアのことは忘れたいんだ…)


(せっかく忘れようとしていたんだから…)


俺が迷っていると、リンが傍に来る。


「エクトは子供達を石化病から救ってくれたにゃ。だから、人を救うという意味が分かってるはずにゃ」

「リン……」


リンが俺の手を握る。

俺を抱きしめ、何度も優しく頭を撫でてくれた手で触れてくる。


(あったかい)


「エクト、誰であっても助けてあげて欲しいにゃ」


(助ける…俺がティアを…俺にひどいことをしたティアを……助ける…だと)


「きっとティアって子も今つらい目にあってるにゃ。あたしが石化病で死をまっていた時と、多分同じ気持ちにゃ」



(…………)



ここ数日涙を流し続けてきたが、その原因を作ったのはティアだ。

俺を騙してきた女。

俺を愛しているフリをしながら、これっぽちも愛していなかった女を。


(その相手であるティアを……俺が助けるだと…)


(しかもウィズの話では相手は強力な魔物だ…ならっ、俺が危険を犯すことになる…)


(ティアのために……俺を騙したティアのために……)


心情的には納得できなかった。

どうしてものめない。

そんなこと無理だ。


正直ティアを見捨てたかった。

もうほっておきたかった。

もう二度とティアとは会いたくなかった。



でも、ウィズとリンが俺に頼んでいる。

ティアを助けて欲しいと。


2人のことは好きだから、2人の願いは叶えたい。


(でも…でも…ティアを救うのは……)


俺は考える。



(……)



リンに握られている手から温かい温もりを感じる。

泣きそうなウィズの顔と、俺を信じるように見るリンの顔が視界に入る。


(……)


(……)


(……くっ)



俺は唇を噛みながらも、心を乱しながらも決意する。

心の中で乱れる想いに決着をつける。


「分かった。俺が行く!ティアを助けに行くっ!」


(俺はウィズとリンのために、ティアを助けるんだっ!)


(決してティアのためじゃない。ティアのためなんかじゃないっ!)


そう心に折り合いをつけた。

心に宣言した。

ティアのためではないと、強くいいきかせた。


「エクト、ありがとなのです」

「さすがエクトにゃー」


喜ぶウィズとリン。

リンは俺の手を強く握ってくれる。


だが俺は複雑な気分だった。

これ決断が正しいかどうか分からなかったのだ。




―――こうしてエクトは、ティアを助けに行くことにした。


―――心の中では迷いながらも、ティアを助けにいくのであった


揺れる心。




WEB拍手&感想&評価ありがとうございます。

一時、検索除外で枠外に消えましたが、皆様のおかげでランキングに戻ってきました。



明日も投稿です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] エクトが傷ついてるのになぜリンは無責任にも助けて欲しいとか言い出したのか
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