利他的我儘
愛と金と力があれば、死ぬまで幸せでいることが可能になると思う。
あとは、自分に正直に生きるだけ。
…。
何故意識があるのか?
俺は死んだはずだ。
目を開くと真っ白だった。
あぁ、やっぱり俺は死んでいるみたいだ。
ここがあの世か。
いろんなものが浮いている。
俺も浮いているのか?
周りを見渡してみると、人がいた。
「やぁ、初めまして」
あなたが神様か?
「君はどんな世界で生きてみたい?」
…無視、か。
「君はどんな世界で生きてみたい?」
会話が出来ない。
「フフッ冗談さ」
…質問に答えてくれ。
「私が何であるか?という様な質問には答えられない」
何故。
「答えを持ち合わせていないからさ。そんなことより、質問の回答は?」
答えることに何のメリットがある?
「分からないのかい?」
知らない。
「君はこれから生まれ直すのさ」
輪廻転生というやつか。
生まれる世界は自分で決めるものなのか?
「君は私の質問に答えることで色々と得るものがあるよ」
そうか。
なら、前世の自分と同じ世界がいい。
似たような世界でも構わない。
非科学的なものが在ろうと気にはしない。
「ふむ、では次の質問だ。願い事はあるかい?上限は3つだよ」
叶えるとでも?
「その通り、よく考えるといい」
…まずは、記憶力。
絶対に忘れない頭が欲しい。
「何故かな?」
答える必要性は?
「悪いことに使われたら困る」
…深い意味は無い。
忘れないため。
勉強もしなくてよくなるだろう。
才能というやつだ。
「努力は嫌いかい?いや、答えなくていいよ。次は?」
並外れた身体能力が欲しい。
正確に言うなら喧嘩に強い体だ。
当然、努力が必要ないもの。
「それも才能かい?最後は?」
それなりに裕福な家に生まれたい。
パーティばっかり開いているようなセレブな家でなくていい。
むしろ嫌だ、合わない。
少し金銭感覚が可笑しいぐらいでいい。
「現実的な我儘さだ。生きるのに一切困らないだろうね」
不安が減っただけ、完全な安心は無い。
運命がどう転ぶか、未来がどうなるかなど分かりはしない。
「強運や超能力を何故、選ばないんだい?」
運などという不確定的なものは持っているだけ無駄。
余計に不安が増えるだろう。
超能力は怪物呼ばわり、良くて実験台モルモットが落ちだ。
「どうだろうね。さて、これで終わってもいいけれど、一応最後の質問をしようか」
…。
「君は生まれ変わりたいかい?」
…NOと言ったら消滅でもするのか?
「いや、普通に生まれ変わるよ」
この質問に何の意味がある。
「契約書のサインみたいなものかな」
無くてもいいような口振りだっただろう。
「どうせ君は生まれ変わると言うだろう?」
…。
「言葉を付け足すなら"君がこれまでに答えた願い通りに"だね。普通っていうのは質問全てを無かったことにするのさ」
初めからそう言えばいい。
「それで?」
…あぁ、俺はその条件で生まれ変わりたい。
「後悔は?」
しないと決めた。
「それじゃあ、後ろを向いてご覧」
「そこが新しい世界への入口だ」
「振り返らずに真っ直ぐ進め」
「いってらっしゃい」
「 」
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オレは無事に生まれたらしい。
前世の記憶を持ったまま。
てっきり消えるのだとばかり思っていたが、よく考えれば絶対に忘れない頭を頼んだのだった。
それは前世も含まれるのだろう。
腹が空いた。
最初はどう泣けばいいか分からなかったが、本能が勝手に泣かせてくれる。
後の授乳も衝動に任せればいい。
今はまだ赤ん坊でいればいいだろう。
生まれてから3年半が経った。
オレは今、両親と共に近所の祖父母の家に遊びに来ている。
家というよりは、神社だ。
そういう家柄だったのか。
しかし、やることがない。
友達などいない、一人ぼっちである。
寂しいが、子どもに合わせるのは難しい。
そして、疲れる。
というか、合わせる必要など無いのだ。
子どもとは自分勝手なもので、意見のぶつかり合いだ。
どうにも前世の癖が抜けないようだ。
退屈だ、暇だ。
すぐそこの山にでも入ってみるか。
木に登って、辺りを見渡してみたり。
見つけた川で魚を追いかけ回したり。
虫を追いかけて、花畑を見つけたり。
童心に返ったようだ。
最後に大木の広場を見つけた。
御神木だろうか。
…?
何処からか鳴き声が聞こえる気がする。
見つけてしまった段ボール。
捨てるときの定型文すら無く置かれている、それ。
子猫だ。
元気とは言えないか。
「にゃ~」
拾わないという選択肢は初めから無い。
段ボールごとそいつを拾う。
「今日から君はオレのだ」
これが最初の出会い。
初めての友達。
いや、親友だ。
オレからの一方的な、と付くが。
こいつがどう思っていようと、どうでもいいのだ。
両親は思いの外、あっさり飼うことを認めた。
拍子抜けだ、初めて駄々を捏ねることになるかと思ったのだが。
やったことと言えば、飼いたいの一言、目を見つめる。
以上だ。
簡単に折れた。
これをチョロいと言うのか。
両親は親バカ?とかいうものではないと思っていたのだが、考えを改める必要があるかもしれない。
何はともあれ、これでこいつは家族だ。
名前は、そうだなぁ、黒色の毛をしているからクロにしよう。
「君の名前はクロだ」
「にゃ」
「気に入った?」
両親も祖父母も笑っている、何が可笑しいのか。
まぁ、いいか。
そんなことよりも。
「病院に行こ」
オレの所有物なのだから簡単に死なれては困る。
「ちょっと待っててね~、すぐに準備するからね」
そう言って母が頭を撫で回してくる。
そういえば、いつの間にかいなくなり、しばらく行方不明状態だったのだが怒られなくて済むのだろうか。
「帰って来てからお説教ね」
やっぱり駄目だったか。
4歳になった。
いまだに人の友達はいない。
公園には当然、母と共にデビュー済みだ。
幼稚園生活も二年目に突入している。
しかし、両方ともあまり近づきたくない場所だ。
既に出来た子どものグループによる鬼ごっこやかくれんぼなどの遊びを眺めながら、一人遊具で遊ぶオレ。
それを先生や母に如何にも心配してますといった目でママグループと共に見詰められるのだ。
居心地が悪いとかそういうレベルの話じゃない。
…。
オレはやりたいようにやっているだけだ。
何も問題はない。
…。
辛い。
今日は休日だった。
だから一人で行ってみた。
なんとなく。
気まぐれで。
寧ろ、偶然。
あの公園に。
…本当だ、嘘じゃない。
いつもと様子が違った。
いつものグループは公園の隅っこの方で大人しく一方向を見詰めている。
少し怯えている?
見詰める先を見ると、少し大きい3人組がいた。
一つか二つ、年上の子達だろうか。
笑っている。
何をして、
ボロボロの子犬が目に入った。
3人組の一人が石を投げた。
オレは何をしていたんだったか?
目の前には、蹲ってたり呻いてたり鼻血を垂らす3人組。
後ろを振り返ったら、傷だらけの犬。
…犬?
そうだ、犬を連れてかないと。
犬を抱えようとして、噛まれた。
まだ、元気そうだ。
「あんまり、暴れないで」
噛ませたまま、抱えて走った。
向かう先はあの時の動物病院だ。
「マズイ、マズイ」
噛まなくなって暫く経つ。
「はやく、はやく」
走る速度を上げる。
「はぁ、はぁ」
さっきからピクリとも動かない。
死んじゃうのか?
「ダメ、それはダメ、もうオレのもの」
所有物は勝手に死んじゃ駄目なんだぞ。
「みえた」
扉の前に着いた。
扉に手を掛けて、気づいた。
お金を持っていない。
折角、裕福な家に生まれてもこれか。
「ハルちゃん、どうしたの?」
「!…おかあさん」
ちょうど良いところに財布が。
「いぬ、なおしたい。あと、かいたい」
「そうなの、それは大変ね。急ぎましょうか。あと、飼っても良いよ。」
それを聞いて、今度こそオレは扉を開いた。
落ち着かない。
何も死を感じるのは初めてじゃないはず。
テレビで見た、他人の死には何の感慨も湧かなかった。
たまに参列した葬式も、同じようなものだった。
自分の死には、後悔が残った。
でも、焦燥も恐怖も無かった。
だから、大丈夫だと思っていた。
大したことないと思っていた。
でも、いざ目の前にすると、怖い。
ソワソワソワソワ
「大丈夫だよ~」
ナデナデ
「ハルちゃん、疲れたでしょ~?」
抱き寄せられる。
「お休みなさい」
背中をトントンと、
瞼が落ちて、
おやすみ
5歳になるまで、あと一月ほど。
今は神社に向かっている。
今日はプレゼントを集りに行く日。
事前にげーむを頼んである。
初めてのげーむだ。
前世では、げーむとは勉強に必要がなく、寧ろ邪魔で、時間の無駄だと、よく両親に聞かされ、嫌悪感しかなかった。
クラスメートがたまに話をしていたのを覚えている。
なんて悪い奴らなんだ、と思いながら見ていたが、本当に楽しそうでもあった。
オレもあの輪の中に入りたかったのだろうか。
考えても、分からない。
触れてみれば、分かるだろうか。
とても楽しみだ。
どうやらオレは動物に縁があるらしい。
特に、手負いだったり、衰弱している奴らに。
寧ろ、そういうのしかいない。
二度あることは三度あるとは言うが。
今度は烏だ。
羽に傷を負っているらしい。
道端にぶっ倒れてくれてやがる。
猛禽類みたいに大きい。
…オレが小さいだけか?
それより、どうするか。
正直言って、最悪だ。
烏は害鳥だ。
この個体が人に迷惑を掛けたかどうかは関係が無い。
多くの人間にとって存在そのものが迷惑なのだ。
保護対象ではなく、駆除対象。
助けても、誰も褒めはしない。
助ける必要が無い。
助けてはいけない。
いつか誰かが被害を受けることになるだろう。
それは反社会的行為になるのではないだろうか。
見なかったことにしよう。
見捨てよう。
そうしよう。
…目が合った。
「…」
本当にいいのか。
「…そんな怪我、どうってことないでしょ」
もしかしたら、鳥にとっては致命傷かもしれない。
「…どっか行け」
後悔するぞ。
結局、拾った。
やりたいようにやると、あの時決めたのだった。
周りの目を気にしてどうする。
自分の知らないところで野垂れ死ぬのは嫌だ。
見つけてしまったから。
死ぬまで見ているのも嫌だ。
まだ助けられるのに。
じゃあ、どうする?
最初から決まっていた。
悩むだけ時間の無駄だった。
この烏、びっくりするほど大人しい。
「ちょっとは暴れたら?」
「…」
鳴きもしない。
何をしても大丈夫そう。
「カ?!クァーッ!?」
本能的に何か感じたらしい。
オレを傷つけないように器用に暴れている。
抜け出す気は無いらしい。
烏とはこんなに頭がいいのか。
それとも生存本能?
「着いた」
恒例の病院送りである。
「先生~?」
ここの動物病院は何故、いつも人がいないのだろうか。
…評判が悪いわけじゃないはず。
この町はペットが少ないのだろうか。
そんなに来ているわけじゃないし、もしかしたら別の日は混雑しているのかもしれない。
「またハルちゃんか、今度は何を拾ってきたんだい?」
「烏」
「そうかい、ちょっと待ってな、すぐに終わるから」
「治ったら、逃がしてあげて」
「えっ、飼わないのかい?」
「えっ、飼えないでしょ?」
何を言っているのか。
「ほら、あれだよ、合法的に飼うやつ。一生保護みたいな」
「なにそれ」
「こいつもハルちゃんに懐いてるみたいだろ?大人しいし。元いた群に帰るのは難しいぜ?」
「むぅ」
「今ならなんと!カラスの飼い方を教えて上げるよ!」
「ふーん」
なんでこんなことになってるんだ?
早くげーむがしたいのに。
「あれ?」
気づいたら病院の外。
手の中に烏。
断る気でいたはず…
いつの間に言いくるめられた?
「あれぇ~?」
先生、恐るべし。
5歳の夏休み。
来年には小学生。
まさかのいまだに友達ゼロ。
友達ってどう作るんだっけ…
いや、前世と同じだと駄目だ、失敗する。
でも、何かしないと…
帰って来たトラウマの巣窟。
公園である。
友達が出来ない、子犬虐待事件。
両方とも精神攻撃という。
陸なことがない。
二度あることはなんとやら。
今度はどんな出来事が待ち受けているのやら。
オレは冗談のつもりで言ったんだ。
確かに起こってくれれば良いなって思ったよ、良いことが。
また、あいつらだ。
またあの3人組+αだ。
ちょっと増えてる。
今度は人間のようだ。
よくもまぁ飽きないな。
可哀想な奴らだ、苛められている子も含めて。
オレも前世で苛められたことはあった。
しかし、両親、教師、友人があった。
だから、あの苛められっ子の気持ちは理解できないだろう。
でも、分かることはある。
血が出たら痛いだろう。
首を絞められたら苦しいだろう。
悪口を言われたら辛いだろう。
辛かったら泣くだろう。
それは当たり前だからだ。
じゃあ、あいつはなんだろう。
ずっと表情が変わらない。
誰かに助けを求めない。
されるが儘。
本当に人間か?
人形みたいだ。
なんだか腹が立つ。
助ける気なんてなかった。
動物と違って人間は嫌いだ。
でも、あいつに言いたいことが出来た。
これは人助けじゃない。
邪魔な奴らを追い払って、言いたいことを言いに行くだけだ。
俺たちの戦いはこれからだ!(打ち切り)
子どもは意外と親を見ていますよね。
主人公は意識的にできる限り、親を見ないようにしています。
親は当然、子どもを見ていますよね?
母親は主人公をいつも見守っています。
ええ、いつもです。
バレたことはありません。