王子と出会ってしまった件について。
「姫様ぁ〜!どこにいらっしゃるのですかぁ〜!」
「あら、ベルク。どうしたの?」
「『あら、ベルク』…じゃないですよ!!!一体今日を何の日だとお思いですか!」
「何の日だったかしら?そんな事より、そろそろお茶の時間よ。ティーセットを用意して頂戴」
「全く貴女って人は!隣国のピクトから王子御一行がお見えになると言っていたではありませんか!大事なお客様なのですよ!」
「んもう、うるさいわね。わかったわよ、会えばいいんでしょ、会・え・ば〜」
「そうです、会えばいいんですよ、会・え・ば〜」
こんにちは。ベルクです。執事をやっております。このだーらしない姫君はムジカ王国第一王女メロディ・アインザッツ、16歳。この国で成人は15歳からなので、姫様も公務をやらなければならないのですが…。察しの良い方はもうおわかりだと思いますが、
全くもってやろうとしないのです!そんなこんなで、私は姫様の怠惰と日々戦っております…。
それはさておき、この世界には七つの王国が存在します。まず、本国ムジカ王国【音楽の国】、隣国ピクト王国【絵画の国】、デリシオ王国【料理の国】、メディー王国【薬品の国】、スタディオ王国【勉学の国】、マーチネ王国【機械の国】、そして、未だ謎の多いミスタリア王国【…】。各国間では協定やら何やらで繋がっているため、それぞれの国で栄えている文化を伝え合ったりしているのですが、ミスタリアはどこの国とも協定を結ばず、この世界唯一無二の独立国としてその名が広まっています。
今日訪問される王子はピクト王国第二王子アーテ・フォント、16歳。もちろん彼も成人してますが、きっとウチの姫様よりしっかりしているに違いありません、はい。
「姫様、そろそろ応接間へ参りましょう。王子は到着済みだと先程連絡が入りましたので」
「はいはい、わかりましたぁー」
…なんと憎たらしい
「なんか言いました?」
「いいえ、何も…?」
焦ったぁ〜…。姫様は勘が鋭い…
この城はこの世界の中(六つの王国の中)で最大級の大きさを誇っていて(まあ国自体が最大級なのですが)、別の部屋へ移動する際にかかる時間もそれなりなわけで。よく、城へ来るお客様で迷子になってしまう方がいるので、私達使用人は部屋の配置から何から何まで把握し、主人だけに仕えるのではなく、お客様がいらしたら帰る時まで付き添うのが鉄則です。今王子のもとにいるのは、メイドのメスト、年齢不詳の謎の女。以前からこの城に仕えているらしいですが、話によると昔とさほど容姿が変わっていないらしい…。メイド長をしていますが、彼女の自己紹介は一風変わっていて…「仕事もテキパキとこなすメイド一のクールビューティー!城の事なら何でも聞いて!頼れるみんなのアイドル!メイド長のメストですわ!」大抵のお客様はこの自己紹介を聞いて、どこぞのアイドルか、もしくはプ○キュアか何かの変身かよと、どん引きしてしまいます。まあ、それでも仕事ができるので問題ないでしょう、きっと。
ギィー…
大きな音を出しながら重たい扉を開けると、そこには豪華な装飾が施された長テーブルと、また同じ様に豪華な椅子が並べてある他、静かにティーカップへ紅茶を注ぐメストに、大きな椅子に見合わないサイズの王子の姿がー…。
…え?あれ?こんなに小さいの?
「…ちょー可愛い!!」
え?ちょっ姫様??
「金髪碧眼、なんて美しいの!?あぁ〜!白い肌に薄紅の綺麗な唇…まるでお人形さんだわぁ!ん?お人形?おにんg?え?おに?お?…お人形やんけ!」
「姫様!言葉遣いに気を付けてくださいませ!っていうかこの方が王子ですか…?」
「そうですわ、この方がアーテ王子。随分と遅い登場ですわね、ベルク。メストは怒ってます。…姫様ぁ〜!今日も麗しゅうございますわ!」
「はいはい、ありがとう」
扱いの差がひどい…もうっ、ベルク泣いちゃうっ!
おほんっ。なんですか?冗談に決まっているではありませんか。
「王子はお人形だったのねぇー…。まあいっか!可愛いし相手するのも楽だし」
「え?作用でございますか??」
「ハァーッハッハッハーーー!皆の衆!私はここにいるぞ!!」
「こっ!この声は…!!!…誰だ?」
ばさっ!と思いきりカーテンを開けて飛び出した…がコケるという可哀想な登場。そしてビリビリと裂け始めるカーテン…。あぁなんてことをしてくれたんだ…泣
「おぉぉぉい…!なんて奴らなんだ…泣。私の名はピクト王国第二王子アーテ・フォントだ!どうだ!恐れいったか!?」
「「「いえ、全然」」」
「ガクッ…」
「恐れながら全くもって恐れいりませんね。まあ、一執事が言ってはいけないことくらいわかりますが…。カーテン壊しといて何なんですか!!!」
「そうね、カーテンは弁償してもらうわ」
「メストも流石におこ!ですわ」
これは嵐の予感…うつになりそう泣