表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

第3話 ライフル男

 えっ? 嘘だっ。僕、こんなに……あっけなくやられちゃう? まだ何も力を出せてないのに。しかも、こんないかれた奴に? 嫌だ、そんなの嫌だ!


 ジュンヤは尻もちの体勢のまま、じりじりと後ずさりをする。その周辺は、クモの子を散らすように人が離れていき……助けようとする者はいない。


「そこーっ! お前ら、何やってるんだ!」体育教師がホイッスルを吹きながら、駆け寄る。


 するとライフル男は素早く振り返った。ドゴゥウッ! 何のためらいもなく、今しがた装填した弾をぶっ放した。腹部に直撃し、その衝撃で後ろに吹き飛ぶ体育教師。


 その威力を見る限り、やはり普通のライフルではなかった。まるでダンプで引き飛ばすように、はるか後方の体育館の壁まで吹き飛ばしたのだ。そのバズーカ砲並みの銃弾を放っておきながら、細身の銃身やニキビ男への反動は見られなかった――魔界の武器に他ならない。


 男は思い出したかのように、地面にへたり込んでいるジュンヤに向き直り、ライフルの銃口を再度向けた。


 ジュンヤは血の気が引きながらも、相手の意識に思いを馳せていた。彼が僕を先に狙うのは、自分の力を誇示して戦局を有利に進めるためなのだろう、と。自分の武器の恐怖を知らしめることで、周りの戦闘意欲を奪うつもりなのだ。


 しっかりと銃口を見つめた。その黒い穴はギラついた獣の目に見えた。誰がこの世界の支配者になるべきかを思い知らせる。そのためにお前を、いかにも残酷な方法で殺してやる――そう言っているように見えた。


 シュイン! それは、何かが通り抜ける気配として聞こえた。ジュンヤはその音がライフルの発射音だと覚悟し、反射的に目をつぶった。


「あが……あが……はが……。何だ、これ……。声が、ごふっ、おかしい。俺って、どんなになってる……」ライフル男が装填の手を休めて聞いた。それは標的であるジュンヤに聞いていた。


〈え? 何あれ? どうなってるの?〉周りのささやき声が大きくなる。


 ライフル男の首元に一筋の線が入り、やがてジワリと朱に染まった。そこからは一瞬だった。スプリンクラーのように鮮血が飛び散り、壊れた彫像のように頭部がゴトリと床に転げ落ちた。


 ウギャアアアアア! 周りの悲鳴が一段と大きくなった。


 ライフル男が、立ったまま体を硬直させて死んでいる。


「フ……フフ……。こいっ! 次は誰だっ。俺は野球部じゃエースになれなかったけどなぁ。これだったら、誰にも負けないぞ。死にたい奴はかかってこい!」


 ジュンヤは声のする方角を見た。そこには血みどろのブーメランを持った、坊主頭の生徒が仁王立ちしていた。


 声を震わせながら、右手に握ったシルバーのブーメランを上空に掲げて周囲を威嚇する。あれは、ただのブーメランじゃない。八つまたに翼を伸ばした、キラースライサーと呼ばれる投てき武器だ。


 ライフル男は油断していた。デストロイヤルは次々に、強者が入れ替わっていくシステムなのだ。油断は即――死につながる。全員が敵と理解しなければならない。目の前のブーメラン男もそうだろう。


 だが、彼の対戦者はすぐには現れなかった。誰しもが彼らのように武器を出現させられた訳ではないのだ。もちろん、ジュンヤもその一人だ。


 ――ハア。ハア。ジュンヤは運良く標的が外れたのをいいことに、逃げ惑う群衆の中へ紛れた。群れに飛び込むのは、狙われやすくなるので決して賢い策ではない。だが、敵の武器がスライサーという、単体攻撃向きの武器だということを見逃さなかった。万一この一団を狙われても、攻撃が当たるのはこの中の誰かだ。イワシの大群の気持ちになりながら、普通の状況では許されないであろう安全策に賭ける。


 ピュン! ジュンヤの後方で、空を切る音が聞こえた。それを振り払うように走り、渡り廊下を駆け抜けた。


 ジュンヤは玄関前に出た。ここは考えなくてはならない。校舎の外に出るか、中に止まるかだ。体育館から逃げ出した者の多くは、校舎の外へ向かっている。それはそうだろう。何しろ敵は全ての生徒なのだから。少しでもばらける方がいいに決まってる。


 だがジュンヤは、ここで異なる選択をした。


 ――こういう場合は、みんなの逆をつかなきゃいけない。みんなが外に出ているならば、あえて中だ。


 ジュンヤが得意なゲームのひとつに、FPS(ファーストパーソン・シューティング)があった。これは、自分からの視点をメインにするシューティングゲームで、銃を持ち合って戦うものが多い。そこでは射撃スキルだけではなく、発想の柔軟性と奇抜さが同じぐらい重要になる。常に相手の裏をかくように行動しなければ、戦場を生き残れないのだ。


 ジュンヤの優れたオタク知識は、ファンタジーとゲームの世界におけるものだったが、この世界では十分に役立った。


 実際、外に出た瞬間に、校舎の二階から弓で狙い撃ちされている生徒が多くいたのだ。一歩間違えば、あの屍の山に加わっていたに違いない。


 ――まずは、僕も魔界石から何かを出現させなくちゃ。息を切らせて、裏手の非常階段から二階へ上がった。



◆確認された魔界石


 キラースライサー〈死の投てき〉

 レア度:★★★

 カテゴリ:投てき〈スライサー〉

 攻撃力:180

 攻撃範囲:A

 戦闘の相性:剣などの打撃系……○、魔法などの範囲系……△、その他特殊系……△

 説明:切れ味鋭いシルバーブーメラン。八つの刃を持つ。斬り倒した後に、追尾能力で戻ってくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ