表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/31

第17話 襲撃

 ――いつ雪が降ってきてもおかしくない。そんな寒い朝だった。


 男は数人の部下を従え、双眼鏡で見下ろしている。


「おい、お前。あのツタに覆われた建物らしきものは何だ?」男が横柄に聞く。


「はっ、あそこには生徒二人が潜伏している模様です。昨日確認したところによると、二年の男子と一年の女子だそうです」


「ほう、そうか。こんなところに生息しているとは、なかなか厄介そうなヤツらだな」


 部下の男達が顔を見合わせ、うなずいた。


「やれ」それが合図となった。


 * * * * * *


 ここ数日の日課だが、ジュンヤは足繁く小川に足を運ぶようになっていた。ライムのことが心配だが、銃を持っているので大丈夫だろう。彼女にも、薪を集めたりする仕事がある。


 ――突如、小屋に向かって火を灯した弓矢が放たれた。何本もの矢が放物線を描き、屋根の草葉に着弾していく。束ねられた矢は強力で、瞬く間に小屋全体が炎に包まれていく。


 その光景を、ジュンヤは小屋のふもとから見た。虫の知らせなのか、随分と今日は簡単にノルマの魚が捕れたので、意気揚々と引き上げてきたのだ。


 現実のものとは思えない光景。メラメラと業火を上げる小屋。昨晩まで寝食をしていた場所が、炎によって破壊される。


「ライムさん!」ジュンヤは川魚を放り投げ、燃えさかる小屋目がけて走り出した。


 何も考えずに扉まで全速力で走った。豪炎をまき散らす惨状を見て、ジュンヤは確信した。誤って出火したのではない。誰かが意図を持って火を放ったのだ。ジュンヤは周囲に目を凝らす。


 すると獣道を走る男二人の背中が見えた。その後ろ姿には見覚えがある――リクトとムラだ。いかにも大慌てで逃げ去ろうとしているように見えた。


 ジュンヤは茂みの中に隠していた自転車を素早く駆り、二人を追った。金狼熊から頂戴した如意棒を引き抜き、猛然と二人に襲いかかる。


「何をしたんだっー!」実にジュンヤらしくない猛り狂った声を出し、如意棒を振りかざした。背後から襲撃されるかたちになったリクトとムラは、丸腰同然だった。


 ビシィイッ! 如意棒がグンと伸び、天誅の如き一撃が二人を襲う。一応ジュンヤは手加減をしたつもりだ。それでも、もんどり打って転げる二人。やがてリクトは背中を押さえながらゆっくりと立ち上がり、ジュンヤの方を見た。


「バカ野郎、何を勘違いしてんだっ! 俺達は、お前の連れの子を追ってたんだぞ! あの子は徒党を組んだヤツらに連れ去られたんだ!」


「あーあ。リクト君。見失っちゃいましたよー」とムラが情けない声を出す。


「えっ、そんな……」とジュンヤ。


「ったく、しょうがねえなあ。お前は。まあ、見境がなくなるのも分かるけどよ。まずは落ち着いて話を聞けや」


 リクトの話によると、偶然ジュンヤ達の小屋を見つけたので小躍りして近付いたところ、突如弓矢が放たれたそうだ。それには火が付けられていて、瞬く間に炎に包まれたという。


 しかし少し離れた場所に、抱えられて連れ去られている人影が見えた。そしてムラが、ライムだと気づいたそうだ。素早く後を追ったが山の斜面でリクトとムラの足が絡まり、反対に滑り落ちた。やっとの思いで体勢を立て直して獣道に戻ったところを、ジュンヤに追い立てられたのだという。


「聞けよジュンヤ。あいつらの行き先には、心当たりがある。多分、山の中腹を越えた辺りだ」


「そこには何があるの、リクト君! もしかして、敵のアジト?」


「まあ、そんなところだろう。ただ厄介なことに……そこは……」


「そこは……」ジュンヤは唾を飲み込んだ。


「入り口が洞窟になってんだ。少しだけ覗いたんだけどよ……、あれは多分ダンジョンだ」


 ――この冬一番の北風が、ジュンヤの鼻先を通り過ぎていった。


 ジュンヤは動揺を見せないように平静を装った。ダンジョンは、ジュンヤの得意とするRPGになぞらえると、鍵を握る場所になる。しっかりと装備を揃え、仲間を見つけてから乗り込むべき難所なのだ。


 仲間……か。ジュンヤはリクトとムラを見た。一緒に助けに行ってくれとは、とても言えない。するとリクトが、思いがけない台詞を口にした。


「お前、何かいい武器を仕入れたか? さっきの棒切れみたいな奴とか。あったら貸せよ。手ぶらでダンジョンに乗り込むわけにはいかねえだろ」


「リクト君……それって……」


「マジっすか、リクト君。俺は嫌っスよ! 何でこいつのために、あんなおっかなそうな場所にいかなくちゃならないんスか」ムラが必死の抗弁をする。


「だったら、お前はスリッパ片手にここで突っ立ってろよ。俺は助けてやんねえからな。お前の水や食糧を、誰が見つけてきたと思ってるんだ」


 リクトは数個の白い魔界石を、ポンポンと浮かしてみせる。


 ――さすが。こういうことに抜け目はないな。ジュンヤは感心した。彼なりのサバイバル術で、ここ数日を戦い抜いたのだろう。時間感覚はとうに失われているが、三日か四日は経っているはずだ。


「これなら、あげられるけど……。如意棒がリクト君で、ムラ君は……手榴弾だけど平気かな?」


 ライムを奪還するために、リクトとムラが同行してくれるのであれば心強い。やはり人数は多いに越したことはない。ただし、二人に渡せそうな武器はこれしか残っていない。


「上等! ただ、お前の愛しの人を取り返して元の世界に戻ったら、そんときは礼を奮発しろよ。焼きそばパンを三つはもらわねえと割に合わねえや」と言いながら、早速渡された如意棒を振り回すリクト。


 ジュンヤはその冗談を「この世界では」嬉しく思った。


 ――そのダンジョンは、いつも水を汲む小川を越えた、遥か先にあった。人間を丸飲みするかのように、ぽっかりと空いた不気味な洞窟。ただし、人の気配は立ち込めていた。入り口に、門番らしき男が立っていたからだ。その手にはハンドガンを携行している。


「どうするよ? いっそ、どかーんといくか?」


 洞窟に手榴弾を投げ込める程度の距離から、リクトが言う。三人とも、体を茂みにすっぽりと隠している。リクトの提案に、ジュンヤは首を振って答えた。


「その武器は、肝腎なときに取っておいて」そしてリクトとムラの肩をポンと叩いて言った。「僕が行く」


 ジュンヤは茂みから身を覗かせると、両手を上に上げた。得意技と言いたくはないが、服従するような愛想笑いを浮かべた。


「おいっ! そこのお前! 止まれっ」門番はすかざすハンドガンの照準を向ける。


「すいません、道に迷っちゃって。人を探してるんです……」ジュンヤは敵意がないことを示しながら、ゆっくりとした足取りで進む。


 門番の男は、頭の中で自分の基礎的な知識と照らし合わせた。両手を頭の上に載せた状態で攻撃できる人間はいない――と。


 ジュンヤが息がかかるほどの距離に迫ると、門番は胸元にハンドガンを突きつけた。


「よし、そのまま動くな。後ろを向け!」ハンドガンを突きつけたまま、念には念を入れて後ろを向かせる。


 そうした浅はかな知識が命取りだった。この世界の武器には、想像を軽々と超える武器が存在する。ジュンヤのトラップクリエイターがそのひとつだった。


 シュン! ジュンヤは迷ったが、落とし穴でも鉄柵でもなく、吊り上げ網で門番を仕留めた。


「う、うわぁあああ、何だこれ!」門番が声を上げる。


「ごめん。とりあえず、この銃はもらっておくね」網の隙間からハンドガンを抜き取る。


「おーい、リクトくーん、ムラくーん」ジュンヤが手を振る。


「バカ、声がでけぇえよ。……で、これ、どうやったんだ?」リクトが意外と小心者の発言をし、首を傾げた。


「さぁ、自爆?」とジュンヤが答えた。


 ――洞窟内は、薄暗くじめっとした空気が蔓延していた。しばらく進むと、自然の壁ではなく人工的な煉瓦造りの壁に変わっていった。中世の城の地下に造られた、正に地下迷宮の様相を呈していた。


 道なりに進んでいくにつれて、ジュンヤ達は驚きを禁じ得なかった。壁にたいまつが掲げられ、辺りが照らされていたのだ。人を手招きするような通路が続く。


 入り組んだ道だったが、ジュンヤには進むべき道が分かった。それは、ダンジョン系RPGの知識からきていた。人が存在する空気の流れを、判断に迷うたびに確認した。三差路であっても、最深部へと続く正解の道が分かった。それは巧妙に足跡をカムフラージュしてあっても隠しきれない、いわゆる人間の痕跡や息づかいだった。


 ジュンヤが先頭を歩き、リクト、ムラと続いた。ジュンヤはハンドガンを握り締めている。その構えは堂に入ったもので、FPSで鍛え上げたものだ。目の前にコウモリが不意に横切っても、銃口を向けるだけで誤射はしない。敵と認識したときのみ、射抜くのだ。


「そうだ、屋上でゴンズ君に会ったよ。怪我してたけど、次の日には大分よくなってたから、安心して」ジュンヤが歩きながら、間を埋めるようにリクトに言った。


「いいよ、あんな奴。もう仲間でも何でもねえよ。メイゲツの野郎もだ。ロクに連絡もよこさないでよ!」とリクトが悪態をつく。そう言いつつも顔がほころんでいる。無事が聞けたのは、嬉しいのだろう。


「でも、仕方がないんじゃないかなぁ。だって、連絡の取りようがないでしょ。携帯もつながる訳じゃないし」


 ジュンヤは常に圏外になっている携帯端末については、早い段階でゴミ箱に投げ捨てていた。荷物になるだけだからだ。リクトはその無駄な文明の利器を、後生大事に首から提げていた。


「お前、ちょっと見ない間に、俺に意見するようになったなあ」


「そ……そうかな?」


「別にいいけどよ……」


「もう、何て言うかその……ちょっとした腐れ縁みたいな感じっつうかよう」


「リクト君……それは、過大評価しすぎじゃ」と、ムラが茶々を入れる。


「うるせえ、お前なんて何の役にも立ってねえじゃねえかよ。こいつは一応武器の出し方や、ゴンズのことも教えてくれたろうが。それと、自転車も一台くれたしな。まあ、あれは木に突っ込んで……壊しちまったけどよ」


 その言葉に、ジュンヤは苦笑いするよりなかった。そして、少し気が緩んだ瞬間にそいつが現れた。



◆確認された魔界石


 SW ハヤブサ〈完成された銃撃〉

 レア度:★★★

 カテゴリ:射撃〈ハンドガン〉

 攻撃力:250

 攻撃範囲:B

 戦闘の相性:剣などの打撃系……○、魔法などの範囲系……○、その他特殊系……○

 説明:ブラックスティールで軽量化を図った、SW社のフラッグシップモデル。ほぼつなぎ目のない一体形成モデルは故障が少なく、NA軍でも正式採用している。銃弾は有限。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ