プロローグ
昔からよく言われていた。どうしてそんなに自信がないの。どうしてそんなに下ばかり向いているの。どうしてそんなに暗いの。
そうなってしまった理由を俺自身はもう知っている。そうなってしまった理由、それはいつも同じ家で暮らして、いつも会話している。
気づいた時から、家が少し嫌になった。いつも比べられている事実がつらかった。卑屈な自分が嫌だった。
俺はいつも出来のいい弟を自慢に思いながら、憧れて、そして少し憎いと思っている。
「おはよう。兄貴」
そういって朝から学校中の女の子達が見れば、下手をすれば卒倒するかもしれない笑顔を振り撒くのは弟の時斗。
俺がこうなった一因。
「今日はちゃんと起きたな。雪斗」
「あら珍しい。今日は雨かしら」
そういって微笑む父と、こちらに目を向けず台所で手際良く朝食を作りながら、話す母。
この二人もきっと一因。
息子の俺から見ても美男美女夫婦と、その息子の誰が見ても美形とわかる双子の弟。
朝から随分華やかな空間。綺麗な空間。
「たまにはちゃんと起きるよ。俺でも」
寝ていたまんまの上下ジャージの姿でリビングの入り口に立っている俺。
鼻辺りまで伸びた前髪。痩せ型の細っこい体にどことなく根暗な空気。
綺麗な空間に存在する醜い存在。
白鳥の群れの中になぜか生まれてしまった醜いアヒルの子。
ちゃんと自覚している。場違いって事。優しい両親がたまに、
どうしてあの子はあんなに暗いのか。
なんで時斗みたいにしてくれないのか。
と嘆いている事も知っている。
変わるべきかもしれない。いつもそう思う。でも結局変われない。
変わって何も変わらない可能性がたまらなく怖いから。
だから、結局このまま。明るく振舞うのを拒否した。
表面上は開き直って、いつも過ごしている。
心の中はずっと不安で不満で不自然なままで。
自分で思い込んだもっとも自然なままで、
「おはよう」
そういって髪で隠れそうな口元を少し歪める。
晴れた場所を知ってなお、俺は曇り空の下にいる。
まだ、俺は素直になるのが怖くて。ほんとの自分がわからなくて。
少し、醜い自分に甘えている。