闇をさまよい、光におびえ1
クトゥルフ神話と書いてますが、どちらかといえばクトゥルフ神話TRPGのシナリオのような話です。クトゥルフ神話を知らない人のために解説を入れる予定ですが、クトゥルフ神話についてある程度知識があったほうが楽しめると思います。
--宮間浩二は変人である。
これは疑いようのない事実である。私が記憶している限り彼のような人間にはであったことなどないし、これからの人生でも出会うこともないであろう、そう断言できる。
--紹介が遅れたが私こと吉田麻耶はどこにでもいるなんの変哲もない高校一年生である。ごく一般の家庭に生まれ、特筆するような出来事もなく健やかに成長し、人並みに受験勉強に苦しみ、平均的なレベルの高校の普通科に入学した、どこにでもいるような一般人だったのである。
そこをどこで間違えたのだろうか。ちょっと他の人よりある私の好奇心が悪いのか、それともただ単に星のめぐり合わせが悪かったのであろうか、私の死ぬまで続くであろうと思われた平穏は宮間浩二、彼によって完膚なきまでに叩き壊され、かわりに奇妙でおぞましく狂気にとらわれた世界に突き落とされることとなったのだ。
セッション1 闇をさまよい、光におびえ
「連続焼死事件って知ってる?」
ある日の昼休み、友人である西条泉子が私こと吉田麻耶にそんなことを聞いてきた。
「まぁニュースでみてるからね」
そう言って私は少し顔をしかめる。少なくとも食事時に話すような話題ではない。
--連続焼死事件。巷でそう呼ばれているこの事件はここ阿迦霧市で起きている服だけ残して人間が焼け死ぬ怪事件のことである。
「それでね実はねその犯人がこの学校にいるんだって!」
私の様子など気にせず購買のパンを強く握りしめながら泉子がいった。
「は?」
この子は何を言ってるんだろうか。唖然とした私を気にせず、彼女は話を続ける。
「この学校ってやたら人が多いし、それに変な同好会とか、変な噂がある人とかいっぱいいるじゃない。だからその中に一人くらい今回の怪奇現象を起こせる人だっているって!」
まったくもってくだらない意見だ。私もそういう(オカルト)話は嫌いじゃないが、さすがに変な人が多いからって理由だけでこの学校にいるって考えるのは流石にアホすぎる。
「で?それは誰から聞いた話なの?」
私の友人にそんな法螺話を吹き込んだ間抜けは一体どこのどいつなのだろうか。
「部活の先輩だよ」
「え…それって…もしかして」
「そうだよ尼崎先輩」
目を輝かせながら話す彼女とは逆に私の顔は暗くなる。尼崎先輩とは、この学校の、特に女性にカルト的な人気を持つ3年生の女子である。彼女の占いは9割以上の高い確率で当たるとされており、連日恋愛相談やらなんやらの予約が殺到しており、噂によれば他の学校の生徒ですら、彼女のもとへ訪れることもあるのだという。まぁあ私は占いという分野自体がそんなに好きじゃないので関係のない話だが。
「それでね尼崎先輩、最近水晶玉変えたらしくて…」
「ごめん。ちょっとトイレ行ってくる」
彼女は自分の大好きな先輩の話になると、止まらなくなるので早めに話を区切っておく。
――私だってこの学校が無関係だとは思えないのだ。犯人はありえないとしても、この学校な誰ひとりとして関わっていないなんてそれこそまさにありえない話だ。そう断定できるほど、この学校は、この学校の人間はおぞましく不可解なのだ。
私はちらりとこのクラスで一二を争う『奇人』である彼の席へと目をむける。席の主は現在不在だが。
「麻耶ちゃんだよね?どうしたの?」
ぽやぽやとした幼さの残る声が聞こえて私は前をむくと、彼こと『奇人』宮間浩二がいた。
――私に背をむけて
宮間浩二、身長は高校生女子の平均より小さく、まるで途中で成長がとまったかのような幼い顔つきに目が悪いのか丸ブチの分厚いメガネをかけている。見た目は非常にかわいらしく、クラスのマスコット的存在になりそうな男子だが、いかんせん普段の行動があまりにも不気味で常軌を逸しているので、周りからは気味悪がれている。
「別に」
「あっそうならいいや」
彼はそう言うとそのまましばらく後退し、自分の席へ腰かける。
なんなんだよこいつ。イライラする。
たいして親しくもない人にいきなりちゃんづけして呼ぶその無神経さも腹が立つが、その意味のわからない行動にはもっと腹がたつ。私は意味のない行動とか、筋の通ってない話は大嫌いなのだ。
「災難だったねアレに話かけられるなんて」
私がトイレに行ったあと席に戻ると泉子がドンマイと声をかけてきた。顔をしかめてるとこを見るとどうやら彼女も彼のことが苦手らしい。
「私が思うにアレが犯人だと思うんだよね」
まだその話続けるのかよ。
「あーそれで根拠は?」
「アレって時々見たことないような言語で書かれた古ぼけた手書きの古い書物読んでるじゃん。あれ先輩がいうには魔術書らしいんだよ。そんなもの読んでるようなやつだよ、きっと私たちや警察が想像もしないようなおぞましい魔術とか儀式とか知ってるんだよ!」
…私が思っているより彼女はアホなのかもしれない。
「ここだよね。一人目の犠牲者がでたのは…」
放課後、事件のことが気になり独自に調べることにした私は第一の犠牲者が出た廃工場を訪れていた。薄暗い工場の中は、警察があらかためぼしい証拠品は持ち帰ってしまったのかがらんとしている。ここで被害者となった女性は占い師(自称)をしていて生計を立ててていたらしい。
「どうしてこんな所で占いをしていたんだろう?」
普通占い師は駅前などの人の多いところにいるイメージがあるが、この廃工場は駅から離れているし、周りに人が集まるような施設があるわけでもない。こんな所にくるとしたら、この占い師にあう目的で訪れるしかないのではないか。
つまり、常連客または口コミや常連客の紹介で訪れる客だけで生計がたてれるほど彼女は優秀な占い師だったのだろう。
彼女については明日にでも泉子に聞いてみよう。高名な占い師ならあのオカルト、噂好きの彼女ならなにか知っているはずだ。
「まぁいいや、今日はもい帰ろ」
そう呟いた瞬間
「ちょっと待ってよ麻耶ちゃん」
ぼやぼやとした幼さの残る声が背後から聞こえた。
驚いて振り返ると
「宮間・・・浩二!」
彼が立っていた。今度は後ろを向かず、私にまっすぐ顔を向けて。
「どうしてこんなところにいるの?」
けがれのない無邪気そうな顔で聞いてくるが、私はその顔になぜか言葉にできないような不安を、得体のしれない恐怖を感じた。
「それはあんたにもいえることでしょ」
自身の中に芽生えた感情を悟られないようにそっけなく返す。
「まぁそれもそうか。こんなところにくるとしたら目的はひとつだよね」
私の感情を読み取ったのか気付かなかったのかはわからないが、その話題について興味が失ったように彼はつぶやいた。
「まぁそれより麻耶ちゃん」
「気安く名前を呼ぶな。親しくもない人にちゃんづけとか失礼すぎない?」
苗字で呼ぶか、最低でも麻耶さんだろ。そんなことを考えていたのがいけなかったのか、私は彼の言葉をとめることができなかった。
「親しくはないだろうけど僕は君のことをよく知ってるよ」
「え?」
「吉田麻耶15歳、千丹田高校一年一組所属、家族構成は両親のみで兄弟姉妹はいない。趣味は読書。学力は中程度だが、その反面身体能力は優秀であり、特に陸上分野においては中学生の時全国大会の短距離競技で上位入賞するほど。高校入学後も陸上を続けると思われたがなぜか特定の部活に所属せず、現在無所属である」
「な…」
「これであってるよね?麻耶ちゃん」
彼が言ったことはけして隠していたことじゃないし、調べようと思えばすぐにでもそれこそ一日もかからずに入手できる情報だろう。しかし逆にいえば調べようと思わなければ、意識しなければ知りえない情報である。
「な…なんで知っているの?」
ここで私は聞くべきではなかった。ここで私は逃げるべきだったんだ。そのままさっさと家に帰って、布団の中でブルブルと震えて、翌日友人や先生にストーカー被害にあっているとでも報告して解決してもらえばよかったんだ。そうすれば私は退屈だけど穏やかな平穏へと戻れたんだ。だけどもう遅い、この瞬間私は足を踏み入れてしまった、世界の裏の真実に。人間が知ってはいけない裏側の世界を知ってしまうきっかけになってしまったのだ。
「そう。僕のことをおそれずにそう聞いてくれるからこそお願いしたいんだ」
彼がこれからいつも私を誘うとき、私を裏の世界へといざなう言葉を笑顔で言う
「僕に協力してよ麻耶ちゃん」
犯人や黒幕の神話生物についてわかったら感想までお願いします。正解かは答えれませんが、どの程度の人が、どこでわかるのか個人的に気になるので、何回でもあなたの推理をお聞かせください。
もちろん普通の感想もお待ちしています。