第9話
異世界の朝は早かった。
部屋に荷物を運び汗ふきシートで汗を拭う。
顔や体を拭くとすーっとした爽快感にさっきまでの汗でベタついた不快感が消えた。
荷物を整理しそれが終わる頃には朝の金が8つ鳴り始める。
するとこの鐘を合図にしたように屋体や露店から元気な声が響いてきた。
「よし。道具屋に向かうか。」
今回はちゃんと皮のブーツを事前に履いて来たのでブーツの紐をしっかりと結びなおした。
あの変な違和感はなくなり不思議とフットワークが軽くなりそうな気がする。
改めて靴の必要性に気づかされる。
フロントまで行くとまた店の親父は座って寝息を立てている。
「親父!」
ぱちんっと耳元で手を叩くとものすごい早さで起立する。
「やっと起きましたか。昨日もそうですが寝すぎでしょ。」
「いや、少し考えごとをだな…。」
俺は親父の口から垂れるものを指差しながら言ってやった。
「口から涎が垂れてんですよ。」
仕事だというのにこのだれっぷりは何なんだ…
これが仕事中にしては駄目だってことくらいニートだった俺にもわかる。
「うっ…体を動かしてないと眠くなってしまってな。しかもこうも暇だと余計だ。」
こんなんじゃそりゃ暇だろうな。むしろ忙しくするつもりはあるのだろうか。
「やっぱり暇なんだな…向いてないんじゃないですか?まぁそんなことはいいや。近くに道具屋はないですか?」
夏音は情けないおやじに目をおおりたくなる。
改めて親父を見るが体もガチムチのマッチョだし正直なところ宿屋じゃなくて冒険者のほうがしっくりくる。
「俺も少し気づいてはいたが…そんなこと言わないでくれ…。露店も含めるとたくさんあるな。何が欲しいんだ?」
親父の声は少しだけ元気がなくなっていた。少しストレートに言い過ぎたかな…。ちょっと罪悪感がでてきた。
「道具袋が欲しいんですよ。」
「なら商人ギルドがいいんじゃないか?」
「商人ギルド…?ですか。」
「あぁ。種類もたくさんあるし全ての露店がそうじゃないが足元を見られることもない。場所はここを出て右に真っ直ぐ行けば大通りにでるからそこを左に行けばすぐにわかる。」
「なるほど…。じゃあ商人ギルドに行ってきます。」
いまだに眠そうな親父に見送られ夏音は商人ギルドへ向かった。
「くそっ!あの寝ぼけ親父め!」
言われた通りに向かったが大通りにはついたのだが左に曲がってしばらく歩いても見つからない。
仕方なく通行人に道を訪ねると逆方向だと言われたのだ。
通った道をとぼとぼ引き返して商人ギルドにつくころには折角拭いた汗はまたベタつきを取り戻していた。
「すいません。道具袋が欲しいんですが。」
ってエルナさん!?
目の前にはエルナさんそっくりの職員がいる。
夏音はつい声を出して驚いてしまう。
「ようこそ商人ギルドへ。エルナをご存知なんですか?エルナは私の双子の妹なんです。ちなみに私の名前はエレナです。」
エルナにエレナに紛らわしいがこれが都市伝説だと思っていた美人姉妹しかも双子か!
「カノンです。エルナさんかと思ってびっくりしました。」
「未だに間違える冒険者さんや商人さんもいますから。っと道具袋でしたよね。何種類かありますがどれにしますか?」
エレナさんは笑いながら話すがそりゃ1度しか会ったことのない俺が間違えるわな。
「どんな種類があるんですか?」
夏音はエレナに問いかけるとすぐに3種類の道具袋を見せられる。
「1つは普通の道具袋であとの2つは魔法具の道具袋になっています。これが100kgまでこれが300㎏まで収納が可能です。それ以上になるとオーダーメイドになりますがいかがいたしますか?」
きたきた!俺が求めてたのはそれだ!さすが異世界!
「魔法具のほうを見せていただいてもいいですか?」
夏音は2つを手にとってみるが特に変わった様子のない革袋だ。
「その2つは一見ただの革袋ですが時空魔法がかかっています。100㎏が金貨3枚で300㎏が金貨8枚になります。」
そんな大金あるわけない…
夏音の顔色はかわり額に汗が浮かび始める。
あの荷物を宿から運ぶこともできないし家に置いておいて欲しい時になんて都合のいいこと出来ない…
「すいません。ちょっと資金がないのでまた来ます。」
「わかりました。こちらの袋は常にストックがありますのでいつでもお越し下さい。」
夏音は礼を言って商人ギルドを後にした。
その足で冒険者ギルドに行き依頼を探す。
ランク的にできる依頼はまだ荷物の配達や建材の運搬などしかないが文句を言うほど金もないので配達の依頼を3つほど受ける。
全てが街の中なので地理を覚えるついでにお金が貰えるなら一石二鳥だ。
「配達の依頼3つで銅貨6枚になります。」
エルナに依頼書を持っていき依頼を受ける。やはり姉妹はそっくりだなとエルナを見ているとエルナは首をかしげていたが視線の理由を話すと笑って納得してくれた。
はぁ…しかし銅貨6枚って安いな…
配達は地理がわからないのもあり思いのほか時間がかかってしまい夕方になってしまった。
依頼の達成書をギルドに持っていき銅貨を受けとる。
銅貨が日本円の1000円だとしたら6000円か…
働かずとも日本ではお金に困っていない夏音からしてみれば働くことの大変さがわかるいい薬になっただろう。
別に大した仕事をしたわけじゃないのに宿についてベッドに横になるとそのまま眠りについてしまった。
翌朝、宿屋に宿泊の延長を頼み部屋に戻る。
やけにフロントが騒がしくて見に行くと親父とエルナ?エレナがそこにいた。
「えーっと…どっちですか?それに何かありました?」
「商人ギルドのねーちゃ…」
親父の言葉を遮るようにして割り込んでくる。
親父…どんまい。
「エレナです!カノンさん!探しましたよ!説明して頂きたいことがありますので一緒に商人ギルドに来てください!」
エレナは昨日会った時とは全く違い興奮したように夏音の手をとるとひきずるようにして商人ギルドへと引っ張っていった。
「あ、あの…自分でちゃんと歩きますから離して下さい!」
エレナははっとして手を離す。
「ご、ごめんなさい!ちょっと興奮していて!今は説明している場合じゃありません!悪いようにはならないです!お願いですから商人ギルドまでお願いします!」
夏音はエレナのあまりの勢いにただごとではないなと思ったが悪いことをした覚えもないし悪いようにはならないと言われたのもあって商人ギルドまでついていくのだった。
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