第5話
あれから森を抜けて暫くマップの示す通りに歩いてきた。
途中で森でエンカウントした魔物が魔法を使っていたのを思い出し自分も使えないか色々と試してみたが駄目だった。
『ファイア』
『フレイム』
など思い付く限りの名前をあげてみたが何もおこらない。
詠唱破棄が使えるはずだしこれで発動しないとしたら…
なんて考えているうちに視界に高く積まれた石の壁が見えてきた。
それは映画でしか見たことのない威圧感のある巨大な石壁でその石壁にそって視線をずらすとこれまた巨大な門と街に入る為の列が見えた。
みんな日が沈む前に街に入ろうと考えているのだろう。
俺も日没までに街に入ろう…と歩を早めるが夏音は気づいてしまった。
俺、無一文だし言葉通じないんじゃね?
しかも服はあちこち裂けてボロボロで全身泥だらけしかも裸足。
城壁にゲートを貼って着替えてくれば…いや1日に行き来は1度しかできない…ここは何とかなることを祈るしかあるまい。
おろおろしながら様子を伺おうと列に近づく。夏音の姿を見たヒューマンの冒険者達に笑われているような気がするがそんなことを気にせず後ろに自分も並ぶ。
どんな仕組みかはわからないがどうやら言葉の壁はなさそうだ。
無一文で言葉も通じないなんてきつすぎる。
夏音はほっと息をはいた。
中立都市アイリス
それが入ろうとしている都市の名前だ。
この都市はいかなる軍事力にも屈することはなくまた侵略をすることもないらしい。
大陸のちょうど中心辺りにありダンジョンや商業、学業を中心にかなり発展しているが商売を営むには税金が少し高い。
しかし入国する時の税がなく周りの国々からも多くの商人や冒険者、学業を学ぶ者が集まるため活気があるのでそんなに税を気にする商人はいないらしい。
聞き耳をたててみたが役にたった情報はそんなもんだ。
あとはこの街に可愛い女はいるかだとか早く酒が飲みたいだのしょうもない話ばかりだった。
なんにしろ街に入るためにお金がかからないのは助かる。
並んでから15分程で列も徐々に先に進み前のヒューマン達もいつの間にか門をくぐっていた。
夏音も街に入ろうとするが30代歳くらいの鎧を着た門番にとめられた。
「ギルドカードまたは身分の確認できるものを見せてもらえるか?」
夏音の時間が一瞬止まる。
身分証なんて持っているわけがない。
パニックになりそうな頭を必死に働かせて考える。
「実は盗賊に襲われて命からがら逃げてきまして…」
門番は夏音の格好を見ると納得したのか近くにいた他の門番に事情を話してくれている。
「身分証を持たないものは中に入れることは出来ないんだが…今からギルドに行ってギルド証は作れるか?」
野営なんてごめんだと夏音は間髪をいれずに頷いた。
「そうか。俺も仕事があがりなんだ。家に帰るついでに案内してやる。ついてこい」
惚れてまうやろぉぉぉお
異世界に着いて初めて会話をしたがなんていい人なんだろう。
ま、良く考えたらこれもこの人の仕事なんだろうけど。
門番について行き門をくぐると目の前には中世のヨーロッパを思わせる街並みがひろがっていた。
露天を開くものや屋台が建ち並びたくさんの声がでいる。
こんな光景を引きこもりニートの夏音は初めて見る。自分でも気づいていないがかなり驚いた顔をしていた。
「そんなに驚いた顔をしているってことはアイリスは初めてか?」
「えぇわかります?しかし凄い活気ですね」
「黒髪黒目なんて珍しいしな。やっぱりグラリム出身か?この街はどこの国にも属さない中立都市だから色んな種族やジョブの奴がくるからな」
グラリムって国は知らないが異世界なんて言えないし誤魔化しとくか…
「出身はグラリムですよ。門番さんはこの街出身なんですか?」
「海を渡るのも大変なのに遠いところから災難だったな。俺は生まれも育ちもアイリスだ。それと門番さんじゃなくてアーグストだ。門番だしちょこちょこ会うことになるだろ」
「アーグストさん…俺はカノンです。よろしくお願いします」
こんな話をしている間に周りの建物より一段と大きな建物の前に着いた。
「ここは冒険者ギルドだ。そう言えば何も聞いてなかったがギルドの希望はあったか?」
「いえ。冒険者ギルドで大丈夫ですよ。ちなみにギルドは掛け持ち出来るんですか?グラリムではギルドに所属してなかったので勝手がわからなくて」
「あぁ掛け持ちは大丈夫だ。登録に掛かる金額が少し高くなるけどな。ちなみに今回は状況が状況だし冒険者ギルドに立て替えをしてもらうからな」
なるほど…お金は仕事で返せってことか。
いよいよ異世界に来たって感じだな…
二人はギルドの扉をあけ中に入っていった。
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