表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/38

戦場3

残酷描写があります。

苦手な方はご注意ください。


気がつけば周りに立っている者は一人としていなかった。

荒い息のまま、周囲を見れば屍の山が出来上がっていた。

私に付き従っていた騎士たちも半数以上が躯と成り果てていたが、僅かでも逃げられた者たちはいる。

その事実に安堵した瞬間、体中を激痛が迸った。

見れば防具の上から無数の傷跡を負っていた。

一番酷いのは胸元から腹へと走る斜め一線の傷だ。

あの男に刻まれたものだ。

無我夢中だったので今の間際まで忘れていた痛みが襲ってきた。

血肉は飛び出し、血液が流れ出ている。

傷つけられた太刀跡は深かった。

おそらく内臓を傷つけている。

このまま放って置けば確実に死ぬ。

だが自軍の陣営との距離があき過ぎている。

戻る最中に敵に襲われたらひとたまりもない。

素早く算段をつけると後の行動は素早かった。

身体に染み付いた生きるための本能が考えるよりも早く身体を動かしている。

刃毀れしていてもう使い物にならない剣を投げ捨てて、痺れの残る手で身体を締め付ける防具を脱ぐ。

近くに伏していた肢体から使えそうな、なるべく清潔な布を剥ぎ取り止血した。

巻きつけた布は見る見る間に血色に染まる。

噛み締める歯の隙間から唸り声が漏れたが痛みを我慢して縛る。

息を整えた頃、遠くから人の怒号が聞こえてきた。

落ちていた槍を拾い上げる。

腰を低く構えながら獣のように素早く移動し始めた。

敵の雑兵を蹴散らして人気のない場所まで逃走したが、体力もそこまでだった。

膝から崩れ落ちる。

這いずるように適当な大木の根元に倒れこんだ。

咳き込めば腹部からの鈍痛で苛まれた。

手が冷たくなっていくのに気がついたが、どうする事もできなかった。

枝の間から零れる光さえぼやける。

それでもまだ意識はしっかりしていた。


そういえば後方に待機していた味方の軍はどうしたのだろう。

殿の攻防を見ていたはずだ。

何とか逃れた自分の手兵から詳細を聞いただろうか。

思わず過ぎった感情を心の中で嘲笑した。

どうせ一時的に居場所にすぎないのだからどうでもいいことではないか。

むしろそうでなくては困る。

下手に情が沸けば去りがたくなるだけだ。

利用価値があった。

あちらにとっても自分は利用できる存在だった。

偶然出会いお互い利害が一致しただけの関係だ。

そうやって割り切らなければ今までやってこられなかった。

気持ちを切り替える。

もっと目の前の問題を考えなければならない。

今の一番の問題はあの男のことだ。

きっとこの戦場から早々に離脱しているに違いない。

あの男は自ら仕組んだ戦争の結果には興味を持たない。

今までがそうだった。

しかしこちらの出方は気になっているはず。

だが、肝心の私は動けずにいる。

そこをついてこないという事は…、ああ、そうか。

あいつは待っているのか。

そこでやっとあいつの考えに辿りついてももう遅い。

忌々しいことに負傷している私にはそれを阻むことはできない。

だからあの男は嫌いだ。

最低最悪で謀ばかり張り巡らせる陰険野郎だ。

この世で一番大嫌いだ。

忌々しいにも程がある。

取り逃がしたのが悔しく不甲斐ない。

あの男を殺せるのはいつの日になるのだろう。

思わず自嘲を零した。

弱気になっているのは目の前に迫る死の匂いのせいだろうか?

ずきずき、じくじく傷が疼く。

自分の血管が早く脈打つのがわかる。

急速に死へと向かう静寂の闇がこちらをうかがっている。

死の神が持つ鎌が首にかかっている。

そのままこの首を狩ってくれればいいのにと思いながら、同時にまだ死ねないと強く生を渇望する。

矛盾する自分自身に口許を歪めながら霞む視界から目を背けた。

重くなる瞼は重力に逆らわずに落ちていく。

束ねてあった黒髪が解けて地面に広った。

止血のために当てた布はもう役に立たない事は見るもあきらかで、負った傷から流れ出ている自分の血を見たのが最後だった。

私の世界は暗転した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ