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戦場2

残酷描写があります。

苦手な方はご注意ください。


容赦のない力と力が打つかり合い鬩ぎ合う。

そこだけは世界から切り離された。

目にも留まらぬ早業で繰り出される男の剣技。

それを神業の如き巧みな剣技が迎え撃つ。

双方ともお互い以外のものは目に見えていない。

ここが戦場だという事も、敵の事も味方の事も、もう全てどうでもいい事となり頭から吹き飛んでいる。

この男を殺す。

そして全てを終わらせなければならない。

その心情を見抜いたかのように男は笑った。

その笑みにはもう人間味など残っていなかった。

あるのは残虐にして暴虐な悪魔のように狂った笑みだ。

終わらせはしない。

逃がしはしない。

もっと苦しむがいいと痛烈にそのぐちゃぐちゃとした狂気が鎖となって巻きついてくる。

男の眼球はいつのまにか血のように真紅に染まり、瞳孔は縦一線に収縮していた。

その変化こそこの男が人外だという事を示している。

そして本性を現し始めている兆候だということを私は嫌というほど知っていた。

昂った男は舌なめずりをするように追い詰めてくる。

負けじと応戦したが勝敗は速戦即決だった。

私の呼吸が乱れた瞬間を男は見逃さなかった。

獲物に喰らいつく肉食獣のような凶刃が自分の身体へと食い込んだのを認識したと同時に痛みはやってきた。

鮮血が花弁のように飛び散り激痛に見舞われたが屈しなかった。

物理的な攻撃が成功した一瞬、動物には隙が出来る。

男もその例に漏れなかった。

そこを狙い渾身の一撃をもって襲来した。

白刃が一閃する。

がら空きだった男の左腕を斬りおとす。

思いもよらないことが起きたとばかりに男が驚きに目を見張り、地面に落ちた自分の左腕を一瞥する。

それから私を見た。

男は心底嬉しそうに笑った。

背筋が凍るような悪魔の笑みだ。

男は左肩から血をだらだらと流しながら、瞬時に私との距離をとった。


剣を投げ捨てて近くにいた兵士の顔面を殴りつける。

骨が砕ける音と肉塊が拉げる音がした。

その兵士は何が起きたのかわからぬまま絶命した。

強引に馬を奪い取った男はあっという間に馬上へと舞い上がった。

素早い出来事に体がついていくことができず、私は睨みつけることしかできなかった。

男が振り向いた。

私を見て眼を細めたが結局何も言わずに嘶く馬を片手で操って背を向けた。

去っていく男の背をただ睨む事しか出来なかった。

歯ぎしりが漏れる。

また、だ。

また逃げられた。

また始めからやり直しだ。

またあの男を追わなくてはならない。

また繰り返さなければならない。

憤然とするまま視覚も聴覚も、切り離された世界から元の世界へと戻った。

即ち戦場へ。

傷を負った私を好機と見たのか、敵がここぞとばかりに飛び掛ってくる。

さらに後退していったはずの敵兵が雄叫びを上げて向かってきた。

謀られた。

知略計略は戦の上等文句だが、あの男にとっては全て遊戯でしかない。

戦場で命をかけた正々堂々とぶつかる戦も、人間同士の諍いもあの男には関係ない。

ただの暇つぶしの道具であり、大きな盤上と駒でしかない。

遊戯の道具の一つ。

それを作り出して私へと差し出してくる。

この状況を「さあ、突破してみろ。早く追いかけて来い」と突きつけてくるのだ。

あの男にまんまとのせられて撤退を装い、相手が油断した背後を襲うなどという非難されてもおかしくない策を使ってくる敵総大将の正気を疑う。

だが、文句など垂れている暇はない。

敵の目的は自分の孤立だと直感する。

だから私は斬って斬って斬りまくった。

次から次へと湧いてくる敵を薙ぎ払い突き倒し、首を吹き飛ばしては斬り捨てた。

それが、自らが生きるための手段なのだ。

敵が怯んだのがわかった。

多勢に無勢では流石に不利である。

だから容赦のない殺し方で恐怖を植えつけることにした。

戦場は士気の良し悪しで状況がいくらでも変わる。

戦法は成功したのだろう。

空気が変わったのを敏感に体で嗅ぎとる。

生き残るためにそこから凄まじい孤軍奮闘がはじまった。



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