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傷ついた白蛇を助けたら、翌朝イケメンに求婚されました

作者: 碧凛睡
掲載日:2026/08/24

森の奥で、リナは一匹の白蛇を拾った。

「うわ……血が出てる」

白蛇の身体には、獣に襲われたらしい傷があった。

蛇が得意というわけではない。

むしろ苦手だ。

それでも――。

「放っておいたら死んじゃうよね」

リナは白蛇を布で包み、家へ連れて帰った。

傷を洗い、薬を塗り、温かい布を敷いてやる。

「ほら。これで大丈夫」

白蛇はじっとリナを見る。

金色の瞳が、妙に人間くさい。

「そんな顔しないで。治ったら森に帰るんだからね」

白蛇は、ぺろりと舌を出した。

「……返事した?」

もちろん、気のせいだ。

その夜。

リナが眠りについたあと、白蛇は静かに目を開けた。

そして――。

翌朝。

「……あれ?」

籠の中に白蛇はいなかった。

「逃げたのかな」

少し寂しい気もしたが、元気になったのならそれでいい。

そう思った直後。

コンコン。

玄関を叩く音がした。

「はーい」

扉を開ける。

そこにいたのは――。

白銀の長髪。

金色の瞳。

長身。

整いすぎた顔。

まるで絵本から出てきたような美青年だった。

「…………」

「…………」

「……どちら様ですか?」

青年は跪いた。

そして――。

「俺と結婚してくれ」

「…………は?」

リナは扉を閉めた。

バタン。

「待ってくれ!」

ドンドンドン!

「怪しい者じゃない!」

「朝っぱらから求婚してくる人は十分怪しいです!」

「昨日、君に助けてもらった!」

「え?」

「俺だ!」

「…………」

リナは恐る恐る扉を開けた。

「俺だと言われても……」

青年は自分の胸を指差す。

「昨日の白蛇だ」

「…………」

「…………」

「嘘つけぇぇぇ!!」

「本当だ!」

リナは頭を抱えた。

「白蛇が翌朝イケメンになるなんて聞いたことない!」

「俺も人間になるのは久しぶりだ」

「久しぶり!?」

「三百年ぶりだ」

「スケールがでかい!」

青年は真顔だった。

「俺の名はシオン」

「……シオンさん」

「シオンでいい」

「じゃあシオンさん」

「なぜ一歩も譲らない?」

「警戒してるからです!」

シオンは少し傷ついた顔をした。

「昨日はあんなに優しく撫でてくれたのに……」

「蛇だったからです!」

「頭も撫でてくれた」

「蛇だったから!」

「『かわいい』とも言った」

「蛇だったから!」

「『元気になってね』とも」

「蛇だったから!」

シオンがじっとリナを見る。

「……蛇だったから、か」

「そうです!」

「では、人間の俺なら?」

「え?」

「頭を撫でてくれるか?」

「撫でません!」

即答だった。

シオンはしょんぼりした。

「……昨日は気持ちよかった」

「知らないよ!」

しかし、その直後。

シオンのお腹が――

ぐぅぅぅぅ。

「…………」

「…………」

リナはため息をついた。

「朝ごはん、食べます?」

「食べる」

返事が早い。

「何がいい?」

「君の作ったものなら何でも」

「じゃあ、パンとスープね」

「君の手料理……!」

シオンの目がキラキラ輝く。

「普通の朝ごはんですよ?」

「俺にとっては特別だ」

「……大げさだなぁ」

ところが。

食卓についたシオンは、スープを一口飲んだ瞬間――。

「…………」

「どうですか?」

「……結婚してくれ」

「スープで求婚するな!」

リナは思わずスプーンを置いた。

「なんでも結婚に結びつけないでください!」

「では、このパンを食べ終わったら」

「求婚しない!」

「……はい」

シオンは大人しくパンをかじった。

そして数秒後。

「……おいしい」

「よかった」

「やはり結婚――」

「するな!」

そんな二人のやり取りを、窓の外から白蛇たちが見ていた。

『人間の姿になった途端、求婚ばかりしている……』

『長は本当にあの娘が好きなんだな』

『しかし、あれでは一生結婚できないのでは?』

『……否定できない』

その日から、シオンの求婚攻撃が始まった。

花を贈れば、

「結婚してくれ」

薬草をもらえば、

「結婚してくれ」

お茶を淹れてもらえば、

「結婚してくれ」

雨の日に傘を貸しても、

「一生、俺の隣で傘を持ってくれ」

「求婚の方向性がおかしい!」

そしてある日。

リナが熱を出して寝込んだ。

シオンは大慌てで看病を始めた。

水を持ってきて。

薬を煎じて。

布を冷やして。

「大丈夫か?」

「……大丈夫」

「本当に?」

「うん……」

シオンはリナの手を握った。

「俺は君がいなくなるのが怖い」

「……シオン」

「だから――」

リナは少し身構えた。

「結婚してくれ」

「病人に求婚するなぁぁ!」

「今のは本気だった!」

「いつも本気でしょう!」

二人の声が家中に響く。

けれど――。

リナは布団の中で、こっそり笑っていた。

最初はただの変な白蛇だった。

それが今では――。

「……まあ、悪くないかも」

「何が?」

「なんでもない!」

「なら結婚――」

「まだ言うな!」

今日もリナの家には、白蛇だった美青年の求婚の声が響いている。

そしてリナがまだ知らないことが一つ。

シオンが人間になった理由は――

「愛する人間と結婚した白蛇は、一生人の姿で生きられる」という一族の掟があるからだった。

つまり。

シオンにとって、この求婚は冗談でも勢いでもない。

人生を懸けた、本気の恋だった。

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