暗黒商会
暗黒商会。
その、安直過ぎるネーミングは他所に、その実態は実に恐ろしいものだった。
禁忌とされている男の誘拐販売。人を容易に壊す薬物の売買。貴族をも嵌める詐欺事件。
数多くの惨劇と悲劇を長い歴史の中で生み出してきたのが暗黒商会であり、その真に恐ろしいのは世界を相手にしても今日まで潰れることなく残り続けてきた、その歴史である。
「……何を、言っているのかわからないね」
その歴史を受け継ぐリリボン商会の商会長。
腰にまで伸びた長い赤髪を靡かせるモードレッドが首をかしげる。
「真実、とな?……それに道?それと、森?何の話をしていることやら」
「世界を相手にして、ただの商会が生存し続けられるわけもないでしょう?」
モードレッドが口にする疑問に対し、淡々とベルカナは言葉を続ける。
「その裏には大いなる力が働いています」
「そんなことはない。我らは、我らの力で己を守っている。世界中の、王侯貴族のありとあらゆる弱みを、私たちは握っている」
「その程度の何が問題なのですか?」
「……うん?」
「たかが商人の言葉です。ねじ伏せるのは容易です。どんな裏を晒せようとも、王侯貴族なのであれば、開き直ってしまえばいい。何処までも堂々と、ド派手に、です」
「……へぇ、つまりは、だ。見たこともない、ぽっと出の君たちがこの私よりも世界について詳しいと?私さえも、この暗黒商会も知らない、自分たちを操る存在を知っているとでもほざくつもりかい?」
「いいえ、私たちは何も知らない。既に道の上に立つあのお方と違い、私たちはまだ立ててさえいない。だけど、私たちは立たなきゃいけない───それを、求められているから」
親に裏切られ、友に裏切られ、ありとあらゆるものから捨てられた果てにたどり着いた森の中で見つけた光。
その光の言葉を、ベルカナは目を閉じれば昨日のように思い出せる。
『……目的?……、……、……あぁ……うん。そうだね。道を、語ったことは覚えている?』
『この世界の闇のすべては、ある道に通じている。一つの運命に導かれている』
『僕は今、その道を一人、歩いている───なれど、その道が正しく果てに繋がっているのか、歩き方が合っているのか。それを知らない』
『故にこそ、期待しているのだよ。君たちが、僕のいる道と同じレベルにまで来るのを。どの道を進むのか、どう歩くのか。多角的な、視点が欲しい。期待しているよ。ベルカナ。どうか、……ここまで』
必ず、あの人と同じ場所に立たなきゃいけない。
それがあの人に助けられた自分のすべて───そして、その時に聞きたいのだ。初めて会った日。戯れに語っていたあの言葉。
『今の僕の姿は仮初だよ。年齢も、名前も、性別も、そのすべてが偽りさ』
本当の貴方は、何ですか……?
そう、尋ねたいのだ。そう、尋ねられるだけの資格を欲していた。
「……理解できないな」
過去に浸り、思いを馳せていたベルカナの前で、モードレッドは理解できないとばかりに首をかしげる。
「まさか、……まさかだ。良質な男を捕まえ、売り払おうとしただけだというのにこんな狂人集団にぶち当たるとはな」
そして、嘆息を一つ。
「とはいえ、狂人の癖に腕は立つようだ。何とも面倒な話だが……仕方あるまい。切り札を一つ、切ってあげるとしよう」
椅子に腰かけた姿のまま、モードレッドはけだるげに、緩慢に動いて懐から一つの札を取り出す。
その札を軽く投げた時。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
この場に獣の叫び声が響いた。
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