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リリボン商会

「いい毛並みだ。素晴らしい毛並み……あぁ!すべすべだ!馬は良い。いくら眺めても飽きがこないッ!……こいつは雄で、こっちは雌か。この世界、人類以外は男女比が狂っていないんだよなぁ……ふふっ、揺れておる!馬のぶつが!フハハハハハ!」


 馬車を引く馬二匹。

 その体にへばりつき、ゴキブリのようにその体を這って移動して僕はその生命の神秘を堪能していく。


「ちょっ、何しているの!戻ってきなさい!」


「いやぁぁああああああ!落ちちゃう!落ちちゃうよ!」


 そんな僕は馬車の中にいるお姉ちゃんたち二人が必死な形相でこちらへと手を伸ばしてくる。


「捕まえたわ!」


「あっ」


 そんな言葉、無視して馬の体を堪能していたのだが、その途中で僕はうっかりアスカねぇに首根っこを掴まれ、そのまま引き上げられてしまう。


「……あぁぁ、楽しんでいたのに」


「せめて走っていないときにしてちょうだい!」


「それじゃあ、楽しくないんだよ。走っている馬の筋肉の動き方。それがいいんじゃん」


「何を言っているの、この子は……!」


「フハハハハハ!」


「意味のわからないところで高笑いをあげないで!」


「お願いだから、大人しくしててよぉ!」


「ほら、ゼノン。貴方の好きな魔力操作に関する書物よ。これでも読んで静かにしていて頂戴」


「わーい」


 自分のことを捕まえているアスカねぇの手元から脱出を企んでいた僕は本を渡され、大人しくその本を広げる。

 馬の神秘はある程度堪能した。

 今度はこの世界特有の魔力の神秘に触れる時間か。

 

 魔力は素晴らしい。

 この世界の万能薬たるこいつの操作を極めれば、右フックで山を消し飛ばせるようになる。僕は一度、やってしまった。

 僕が見てきた世界のように。

 僕が主人公として、ライバルキャラとして、影の実力者として、ラスボスとして、多くのものになってこの世界を楽しみ尽くすにはやはり、実力が必要不可欠だからね。

 主人公はまぁ、ともかくとして、他の三つとかは必須じゃん?僕は自分の実力を鍛えるのを怠ったことはない。


「ふぅ……ようやく大人しくなってくれたわ」


「……まって!アスカお姉さま!ゼノンを膝の上に置いて一人占めしないで!」


「私が掴んだのよ!」


「だとしても許されないわ!」


「譲らないわ!」


 うぅん……上の二人がうるさい。

 別にうるさくするのは良いけど、僕の体を揺らすのは辞めて欲しいんだけど。本が読みにくくなる。



 ■■■■■



 元々読みかけだったアスカねぇがくれた本。

 それを読み切ったところで僕たちは目的地である隣街に到着していた。


「「「きゃぁぁああああああああああああ!」」」


「ふふふっ」


 隣町を進む馬車の中。

 その窓から顔を出し、僕が手を振れば、隣町の市井の人たちが黄色い歓声をあげてくれていた。


「……私の弟は何をしているのよっ」


「普通、男子って女を嫌っているんじゃないの?何でこんなにもノリノリで手を振っているの?」


「むふふ」


 アイドルになったみたいだ。

 僕、この世界でアイドルになろうかな。ストーカーに刺されてみたい。


「ずいぶんお派手な登場で」


 男に飢えている女性たちによる歓声を一身に受けながら進んでいた僕たちの馬車は一つの大きな建物に止まる。

 この建物は母上が統治しているフリューゲル伯爵領で最も大きな商会である『リリボン商会』の本部だ。


「うちの弟が申し訳ありません」


 自分たちを出迎えてくれたリリボン商会の副会長の苦笑に対し、アスカねぇが謝罪しながら馬車を降りて、握手を交わす。


「……うぅむ」


「ゼノン。勝手に何処かへと飛び出していこうとしないでね」


「ありゃ」


 バレてしまった。

 軽く隣街を観光しようと思っていたのに。あれだけ歓声をあげてくれた人たちにファンサの一つや二つした方が……。


「商会長を直ちにお呼びいたしますので、まずは応接室の方へとお待ちください」


「ありがとうございます」


「ほら、行くわよ。アスカねぇが真面目にしている後ろで私たちが格闘しているのはカッコ悪いわよ?」


「うぅむ……」


 かっこよさは大切か。

 この商会でも何かイベントが起きる可能性もあるもんな。ちゃんとイベントに相応しい場を用意しておくのも大事か。


「こちらにございます」

 

 そう判断した僕は大人しくアスカねぇたちについていく。


「それでは、およびしてきますので、ごゆるりとおくつろぎください」


「ありがとうございます」


 副会長から応接室へと通されたお姉ちゃんたち二人は何も疑うことなく部屋へと入っていく。

 だが、僕はすぐにこの応接室の違和感に気づいた。


「……おや?」


 罠だな。

 一歩、部屋の中に踏み込んだだけでわかる。


「へぇ?」


「ゼノン?」


 少し、後ろに振り返ってみれば、最後に入った僕が閉じてもいないのに扉がいつの間にか閉まっていた。


「「……ッ!?」」


 なんて悠長なことを思っていたその瞬間、プシューという気の抜ける音と共にこの部屋中に毒霧が噴射される。


「こ、これはっ……毒!?マズイ……もうっ!」


「あっ、!?あっ!?」


「……」


 これじゃダメだな。

 この毒霧。僕が大昔に食べたキノコを加工して作っているな。普通に僕がそのキノコへの耐性を持っているせいでこれじゃあ、気絶出来ない。


「……あっ、……ぜっ」


「ゼノ……」


 お姉ちゃんたち二人が倒れていく中。


「ふきゅうっ」


 僕もわざとらしくお姉ちゃんたちに続いて倒れる。

 このまま罠のことなんて無効化して大暴れしてもいいけど……ここは一旦罠にかかった方が面白そうだな!


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