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「どうしたの……?」


 明後日の方向を見て固まっている僕を見て、マリアが不思議そうな視線を送ってくる。


「んー?気にしないで」


 ルーンコードが動いているのなら、僕はウィアドとして動くべきかな。

 ゼノンの方はゼノンの方で身代わりをここに置いていかないとな。いきなり消えるとまたパニックを引き起こしてしまう。


「じゃあ、マリア。僕はそろそろ自分の部屋に戻るね」


「えっ、ちょ……!」


「んじゃ」


 やることが出来た僕はまだ話したそうにしているマリアを無視してさっさと彼女の前を去る。


「無駄に広いところなようで」


 僕たち学生はリゾートホテルの一室で一夜を明かす予定となっている。

 普通の生徒は二人で一部屋となっている中、僕だけは特別。自分ひとり用の部屋だった。

 それも、恐らくは一番グレードの高いスイートルーム。僕一人で泊まるとは思えないほどに広く、窓からの景色も良かった。


「無駄なお金を使わせてしまっている感じがして申し訳ないね」


 僕が男であるからという理由で特別に用意してもらった部屋だが、あんまり使うことはなさそうだ。


「これで良し」


 魔力に質量を持たせ、自分そっくりの身代わりを作り、ある程度自立して動くよう設定した僕の身代わり人形の出来に満足して頷く。


「魔力のための部屋。無駄でしかないね」


 この魔力人形の過ごす場所がこの豪華な一室。無駄もいいところだ。


「出来るだけ早く帰ってこようかな」


 この魔力人形も完璧に僕の代わりをこなせる訳じゃないからね。


「行ってきます」


 そんなことを思いながら僕はこのホテルを後にするのだった。



 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎



 それは、偶然の衝突だった。

 ウィアド様より与えられたある深海の座標。そこを調べろという命に従い、ベルカナを始めとするルーンコードの面々は遥か深海を調べようと海に潜ろうとしたその瞬間。

 それは、突然現れた。


「侵入者はひとりだけ、か。貴公らは……別の手合いか」


「「「……ッ!?」」」


 気配は無い。魔力も、感じない。

 そんな男が、隣に立っていた。


「……何者で?」


 金髪碧眼の若い男。

 見慣れない黒い装束を身にまとった男に対し、この場にいるルーンコードを代表してベルカナが口を開く。


「……それを、貴公らに語ることはない。私の興味は、貴公らにないのでな」


 ベルカナには視線を向けず、男は胸元から一つの小さな四角い箱を取り出す。


「……」

 

 それを、ベルカナはただ見つめる。動くに動けない。男の異質な空気感が、ベルカナたちに安易な動きを許さなかった。

 タイミングがかち合ってしまった。

 立ち入れないはずの場所に、侵入してきた者。それが何者であるか、確認する為に訪れた男。その男が訪れてきたタイミングにたまたま、ベルカナたちはかち合ってしまった。

 もう少し、ベルカナたちの動き出す時間が遅ければ、両者が向かい合うことはなかっただろう。

 そんな、偶然の両者の衝突が渦中の人物を再び、この場に引きずり出す。


「へぇ……懐かしいものを使っているようだな」


「……ッ!?」

 

 魔力が吹く。


「ウィアド様ッ!」


 この場に今一度、立つのはゼノン。

 ゼノンは男の手にあった小さな箱───スマホを奪い去り、男の背後に立つ。


「最初は王都の方に行こうと思っていたんだけど……こちらの方が面白そうだね。スーツ。久しぶりに見たよ」


「……ほう?」


 スマホとスーツ。

 今、この世で出るはずのない二つの単語を口にするゼノンに対し、男は興味深そうに眉を上げ、これまで俯かせていた顔をようやく持ち上げるのだった。

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