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誘い

 ナターシャは男嫌い何だそうだ。

 ちょくちょく彼女から向けられていた敵愾心のこもった視線も、そんな理由があるのなら納得だ。

 

「ねぇねぇ、王女様が護衛もつけずに王都を歩いて何をしているの?」


「……」


「暇なの?流石にそれはないよねぇー、何か予定があると愚考するよ!……うーん。でも、何かなぁ?」


「……」


「仏頂面で向かう予定なんて……楽しいものではなさそうだよね?普通にお仕事とか?それならさ、楽しくないお仕事とか無視して僕と遊びに行かない?」

 

 そう、納得した上で。


「なぁんでずっと話しかけてくるのよ!」


 彼女の横にぴったりと張り付き、話しかけ続けていた僕にナターシャがキレる。


「ちょっと。そんな風に叫ばないでよ?ただでさえ、男の子である僕が話しかけている中で、ナターシャが無視している珍事に何事かと視線を集めているんだから。これ以上の注目を浴びようとしないで?」


「その、男という特権意識を持っているのがムカつくのよ」


「事実じゃん?」


「……それが、忌々しいのよ」


「まぁ、わかるけどねぇ」


「……わかるぅ?何、理解者みたいなポジションにいるのよ。男という特権階級に居なきゃ何も出来ないのに」


「んー?そんなのなくとも僕は問題ないけどねぇ?」


 むしろ、ちょっと邪魔になっているところもある。


「はぁ?」


「それに、そもそも特権意識とか言っているけど、ナターシャもバリバリに特権階級じゃん。何不自由のない生活を生まれながらに与えられている分際で何を言っているの?って話じゃない?」


「……えぁ?」


「死ぬよりはいいんじゃない?知らんけど。この世界、割と餓死で亡くなる方多いからねぇ。明日食べる食べ物がリアルにない、なんて人も多くいる」


 ルーンコードのメンバーとかそこらへんだよね。

 僕が拾ってなかったら赤ん坊にして野垂死んでいた層だ。この世界は地球じゃない。何の生産性もない僕を人道という名の元に生かし続けていた優しい日本とは違う。


「特権階級ど真ん中に生まれた奴が、特権意識について文句を垂れている図は滑稽に見えるけど?」


「……」


 僕の言葉を受け、ナターシャは顔を伏せて黙ってしまう。


「ちょっ……そこで黙らないで?僕が悪いみたいじゃん!」


 その反応はちょっとダメだろう。

 僕が一方的に悪者になってしまうじゃないか。


「……確かに、その通りだと思って」


「まぁ、でも、ほら、実際この世界の男たちは酷いもんだしね。でもさ!僕もそれと一緒くたにされたら困るんだよね。普通に僕は命を助けたことがあったの忘れた?そこらの奴より強い自信があるんだけど?」


「……むぬっ。それは……そうね。ごめんなさい。ちょっと……頭から抜けていたわ」


「抜かさないでよぉ。まったく、僕を他の男の人たちと一緒にしないでよね。厄介度で言えば僕の方が遥かに上だよ。娯楽で色仕掛けするし」


「いろ……っ!?い、いい歳をした男の子が何を言っているの!?」


「もー、散々男だから特別意識持つなぁー、って言っておきながら、僕が男ってだけで下ネタ言うな、っていうレッテル張ってこないで?矛盾しているよ?」


「うぐっ」


「ってなわけで、ちょっくら遊びに行こうか」


「あ、遊びに?!」


「そっ!遊びに!ほら、ついてきて!」


「ちょ、おい!」


 困惑しているナターシャを他所に、僕は意気揚々と表通りから裏路地へと入っていった。

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