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オースティン王国

 フリューゲル伯爵領を抱えるのはユースティア大陸の西に大きく領土を構えるオースティン王国だ。

 豊かな農耕地帯に鉄鉱山までその領内に有するオースティン王国は間違いない大国の一角だった。


 そのオースティン王国を語る上で外せないのが王都に威を構えるオルブル学園だ。

 自国内の全王侯貴族の子息子女は当たり前として、他国からも多くの留学生を招き入れる世界最大の教育機関であるそこは人材の育成へと大きく寄与し、オースティン王国が誇る優秀な人材を担保している。


「……まさかっ、こんなことになるとはっ」


 そのオルブル学園へと通う最初のミッションはまず、馬車に乗って自分の生まれ育った地から王都に向かうことであった。

 未だ治安が良いとは言えない世界。

 盗賊が跋扈している世界で、最低限の護衛と自分の力を活用して王都に向かうのは立派な試練であるといった。


 だが、その試練にも例外はある。

 男子に、そんな試練を与えるわけにはいかなかった。

 女と男とでは、狙われる確率も、捕まった時の危険度も段違いだ。故に、その年に入学する男子が居れば、王族の女子が物々しい護衛と共に向かいに行くというのが通例となっていた。


「シーアッ!そっちはどうですかっ!?」


「か、数が多くっ!」


 フリューゲル伯爵家の長男。ゼノン・フリューゲルを迎えに行くため、王都を出発した少女。

 オースティン王国の現国王、ターニャ・アルベルトが長女、ナターシャ・アルベルトは今、襲撃を受けていた。


「お前らは何なんだっ!?」


 自分の前に立つ黒ずくめの女に対し、ナターシャは声をあげながらその手にある剣を振るう。


「……」


 黒ずくめの女はそのナターシャの言葉には答えないまま軽く剣を振るってナターシャの剣を受け流し、半歩。ナターシャとの距離を詰める。


「ぐっ!?」


 柄でナターシャの顎を叩くことで彼女の足取りをふらつかせた黒ずくめの女は更に腹へと前蹴りを叩き込んで軽く吹き飛ばす。

 態勢を崩しながら吹き飛ばされていくナターシャへと止めを刺すべく黒ずくめの女は剣を構えて地面を蹴る。


「舐めるなぁッ!」


 それに対し、剣だけは手放さなかったナターシャが大きくその剣を振るうことで黒ずくめの女の歩みを一時的にも止める。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 息を切らし、態勢を整えたナターシャは歯噛みする。


「(こいつ……強いっ)」


 ナターシャはゼノンと同じ、今年学園に入学する新入生であり、まだ若い少女だ。

 それでも、その実力は折り紙付き。

 既に一端の騎士とも模擬戦で勝利出来るほどの実力を持っている才女。神童であった。


「……くっ」


 その、ナターシャよりも上を行くこの黒ずくめの女はただの盗賊なんかではないだろう。


「(……状況は、悪いな)」


 敗北の二文字がちらついているのは、ナターシャだけじゃなかった。

 自分たちの馬車を襲撃した黒ずくめの女たちは全部で三十は超えようかという人数だった。

 それに対して、こちらの人数は二十行くか行かないかというところ。数では大きく負けている。


「くっ!貴方のようなならず者にッ」


「えぇい!引くなっ!引くな!我らが何たるかを思い出せ!」


 その上で、質もまた拮抗していた。

 こちらはオースティン王国の上澄みの騎士を連れてきているというのに、その騎士たちに黒ずくめの女たちは手を届かせていた。

 一対一を長く続けられれば、こちらの騎士が勝つ。

 だが、数は向こうが上。二対一。三対一を強いられている者も多く、誰かが倒れるのは時間の問題で、時間をかければかけるほどこちらが不利だった。


「……私が、一番最初に負ける可能性が高いか」


 だが、周りの心配をしていられるほどの余裕はナターシャになかった。

 まず間違いなく、今、この場で最初に脱落する可能性が高いのはナターシャであった。


「……あまり、時間をかけるわけにもいきませんか」


 互いに動きを止めている間、周りの状況の確認をしていたナターシャの前で、ぼそりと黒ずくめの女が口を開く。


「何?」


「あまり、被検体は傷つけたくありませんが……」


「はっ……?」


 その、言葉を聞き直そうとしたところで、目の前の黒ずくめの女の出力が跳ね上がる。

 今まで感じたことのない魔力を感じたその次の瞬間。


「ごぼっ!?」


 腹部に衝撃が走り、自分の体が後方へと吹き飛んでいく。


「ぐっ!?」


 それでもなお、相手の姿を見ようと視線を回せば、すぐ自分の上に黒ずくめの女の姿があった。


「ぁぁっ!?」


 反応は出来なかった。

 さらに蹴り上げられ、もう一度後方へと飛ばされ、地面を転がる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 息を切らしながらも、全身の痛みをこらえて立ち上がってみれば。


「腕の一つくらいは良いでしょう」


「……ッ!?」


 自分へと、黒ずくめの女が振るった剣の一振り。

 魔力を帯び、離れたところからひとりでに空を駆け抜ける剣閃が迫ってきていた。


「ははっ」


 その、剣閃より感じる魔力は異次元、そのもの。

 対処できるわけない。そう、一目で理解してしまったナターシャは諦めの笑みを漏らす。


「おっ、イベント発見っ!」


 そんな、一撃を膨大な魔力が叩き潰した。

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