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旅立ち ~冒険の始まりと日記~

 「本当に外に出るのかい?」

 おばあさんが心配そうに私に尋ねる。

 「うん。このままここにいても分からないことだらけだし、自分でこの世界のことを知っていかないといけないと思うから。ここに留まっているより、前に進んでいきたいんだ。」

 あの手紙が届いてから三日が経った。おじいさんとおばあさんは見ず知らずの私を居候させてくれた。おかげて転生先で衣食住に困ることはなく、なんとか今日まで生き延びられてこれた。だけどこの世界がクエストファンタジアの世界だと分かったこと以外は、これといった進展がなかったのも事実だ。

 だから自分でこの世界を歩いて行かない限り、私は元の世界にも戻れないしただここで時間を浪費するだけになえる。それを許容するのは私の性格上無理だ。何よりあの時プレイした広大な世界を、自分自身が冒険することができるのだと思うとワクワクが止まらないのだ。元の世界に戻りたくはないのか?と言われるとそりゃ戻りたい感情はあるけども、それでもやっぱりこの衝動こそ生の活力そのもの!それを閉じておくだなんて生きるのを否定するに等しいじゃないか!

 ということで、まずはこの地域の王様に謁見するために身支度を整えた。この山の麓から城下町まで徒歩で片道約三時間。決して遠すぎる距離ではないが、この世界での初めての旅になる。どんな危険があるか分からないので、動きやすい服装とエネルギーを満たすためのお弁当、重りにならないほどの十分な量の水、そしてもし魔物と遭遇した時のための護身用の武器としておじいさんが芝刈りに使っていた鎌を用意した。

 さて、これで準備は整った!これから冒険の始まりだ!

 と、その前にこの三日間お世話になったおじいさんとおばあさんに感謝の言葉を伝えなければならない。私は荷物を整えると、おじいさんとおばあさんの前に立って、ペコリと頭を下げた。

 「短い時間ではありましたが、3日間この世界で生きてこれたのはおじいさんとおばあさんのお陰です。ありがとうございました。今は何も返せないけど、元の世界に帰る前には何か恩返しができるように残せるものがあったら絶対またここに来るから、どうかその時までお元気で。」

 そう言って、私はおじいさんとおばあさんの手をぎゅっと強く握った。

 「御琴ちゃん......」

 おばあさんは思わず声を漏らす。しっかりと名前を呼ばれたのは、これが最初で最後かもしれない。そう思うと嬉しくもあり、寂しくもあった。

 「御琴や、ちょっと待ってくれ」

 おじいさんはそういうと部屋の本棚を漁って、一冊の本を取ってきた。

 「おじいさん、これは?」

 受け取った本をペラペラとめくってみると中身は真っ白だった。日記帳......といったら分厚いような、こんな感じの本は見たことないというか、初めて持った感じの書籍だ。

「まぁなんというか、旅であったことはここに定期的に書き留めていったらいい。もし旅の途中で何かあった時に、この本が役に立つ時が来るかもしれない。とにかく日記代わりに使っていけばいいんだ。それだけで君の旅はより豊かなものになるはずだよ。」

 何かあった時とはなんだろう。ここまで立派な本に書き記すことなんて、それこそ本物の学術的な内容くらいじゃないだろうか。それともこの先の旅がこの本を埋め尽くすものになるくらい長い長い旅になるのか......まぁいいや、寝る前に日記をつけるように使っていったらいいだろう。

「もし城下町で私たちの娘に会うことがあったら、よろしく言っておいておくれ。それじゃあ、無理のないような!」

「うん、ありがとう!行ってきます!」

 こうして私は老夫婦からもらった謎の本と共に、一人の旅人としてこのファンタジー溢れる世界の冒険に一歩足を踏み入れることになった。






 この世界がどのような場所なのか、つまりクエストファンタジアというゲームがどのようなゲームなのか、ここで改めて説明したい。

 このゲームは日本のコンピューターゲームにロール・プレイング・ゲームというジャンルを根付かせ、国民的な支持を得るに至った国内で最も有名なRPGである。

 ファ〇コン時代から長くナンバリングが続く老舗タイトルでもあり、ゲーム好きなら一度は必ずプレイしているであろう作品だ。

 とかいう私もこの作品を好んでプレイしている愛好家の一人であり、だから魔王や世界の深層というキーワードから自分がいる世界がクエストファンタジアⅠであるということを特定するに至った。

 まさか飛ばされた先がよりにもよって初代とは。紛れもなく国産RPGの処女作じゃないか。なんなら、日本で一番最初に西洋ファンタジーを本格的に描いた作品ではないのかとすら思う。

 あらすじはこうだ。とある城下町の孤児院で育った『あなた』はある日その城の王様から極秘に呼び出されることとなる。話によれば、この世界の深層から魔王が出現し魔物が世界に溢れるようになった。この世界のとある場所にヒノモトという国があり、『あなた』はその国の創設者の先祖であり、伝説の剣である草薙剣を扱える唯一の血族なのである、と。だからあなたはここを旅立ちこの世界を冒険しその旅を共にする仲間を集め、そして帰郷を果たし三種の神器を揃えて世界の深層に潜入し魔王を討伐せよ......という話だった。

 三種の神器のうち、八尺瓊勾玉は世界の深層に突入するための「鍵」となり、八咫鏡はまさかの作中最強の盾として装備できてしまうという......もちろん、草薙剣は作中最強の武器であり、主人公のみが装備できる。

 こんな感じでこの世界のことはある程度説明できたと思う。なによりこの世界を(ゲームの中ではあるけども)一度旅したことがあるのが私である。新鮮さは無いかもしれないが、一度その過程を知っているのであれば本物の世界として旅をするということになっても、比較的迷わずに進んでいけるだろうと思うわけである。

 今の所、道を歩いていても魔物に襲われるような事態は起きていない。道も平らになってきて歩く道は平原と呼んでいいものに変わってきたのがわかる。

 あと30分歩けば城下町に着くことができるだろうが、なんだかおなかがすいてきた。ここでおばあさんが作ってくれたサンドウィッチ弁当と食べたいと思う。

 正直、クエストファンタジアの時代設定が中世ヨーロッパではあるので、食べ物の味が壊れていないか最初は不安だったが、居候している間に食べたおばあさんの料理はどれもおいしかったので、その点の不安は特にない。

 遠足で使うようなシートを草原に敷いて弁当籠の開いてみれば、視界に広がるのは色鮮やかなサンドウィッチたち。食べる前からおいしいのが分かるものだった。

 「いただきます!」

 私は喜々としてサンドウィッチを頬張る。美味しい!心の中でそう叫びながら思わず拳を握ってしまった。

 私はサンドウィッチを食べながら、今自分が置かれている状況を改めて整理することにした。私が置かれている環境。それは俗に言う異世界転生的なもので、その世界もまさに王道な、いわゆる西洋ファンタジーの世界。ただここは実在するゲームが元になっているだけで、根本的なところは変わらない。よくある話だと言ったら変かもしれないが、そんなよくある物語の一人に私が選ばれただけなのだろう。

 そしてそこから物語は主に二方向に分離する。そのままその世界で生きることになりその世界での問題解決に注力するか、それとも元の世界に戻るためにやるべきことを成していくか。

 私の場合、それは後者になるだろう。そしてどうしたら元の世界に戻れるか。これもだいたい察しが付く。魔王を倒せばいいのだ。

 光あるところに闇もまたある。今回の魔王復活の話と私がこの世界に転生させられた理由、決して関係がないはずがないのだ。

 しかしそうなると疑念はもう一つ前の段階に転がり込むことになる。

 私が草薙の剣を扱えるのか......つまり、私が勇者としての素質を持ち合わせているのかどうかということだ。

 クエストファンタジアの設定上、プレイアブルキャラクターのスサノオ以外は草薙剣が扱えないということになっている。しかしスサノオは魔王との最後の戦いで討伐こそはできたものの、魔王によって浴びせられた闇の怨念によって深手を負い、最期は凱旋の宴の終わりに気が付いたら行方をくらまし、仲間たちも彼の消息をしらないままどこかで孤独にその生涯を閉じたと言われている。

 つまりこの世界にもうスサノオはいない。つまり三種の神器を扱える人間がもうこの世にいない可能性があるのだ。

 しかしヒノモトの創設者の血を持つ者だけしか三種の神器を扱えないのか、と言われたらそうではない。むしろその親族でもほとんどの人間がそれを扱えないのが実状である。

 では誰が「勇者」としてこれらを装備するに至れるのか?答えは単純で、"最も光の力を宿した人間"にそれが与えられるという。

 というのも、クエストファンタジア終盤の世界の深層で明らかになるのだが、勇者と魔王は光と闇のにあり、どちらかが産み落とされると世界がその均衡を守るようにその対極の存在が生まれるという。故に両者は同時多発的に存在することとなり、どちらかのみが生まれるということはない。つまり、今回魔王が復活したということは、同時に勇者もどこかで生誕しているということになる。

 そうなると一番怪しい存在になるのが私である。どうして私がここに呼び出されたのか?しかも魔王が復活したというこのタイミングで、である。

 いやもっと適材適所にできただろというか、まじでなんで私なんだ。世の中にはもっと光輝いている人はいっぱいいるし、ボクシングとか軍隊に入ったりとかしてて腕っぷしが強い人も沢山いるはずである。

 どうしてこんなどこにでもいるような何の変哲もない普通の、なんならか弱いほうの女子高生がこんな世界に放り出されることとなったのか。明らかに選出ミスであるかのように思う。

 それとも()()()()()()()()()()()のか。私のファ〇コンが特殊な力を持っていて、そこで生成された世界に引きずり込まれていった感じなのか。

 それにしても、一番不可解なのはここ最近の私の記憶が消し飛んでいるところである。本来、転生する直前、転移する直前のターニングポイントというのは一番鮮明に記憶できているはずなのに、どうしてその近辺だけが抜け落ちているのか。家族のことも友人のことも学校のことも、今までの記憶はしっかり頭の中に入っているのに、どうして一番大事な部分だけが欠落しているのか......本当にどうして?"まるで、意図的にくり抜かれたかのように"。

 なににせよ、この先の旅で明らかにしていかないといけないことが沢山あるのは言うまでもないだろう。上等だ。どれもこれも、冒険の素晴らしいスパイスになる。

 私は最後のサンドウィッチを口の中に頬張ると、私は鼻息を鳴らして胸を張った。

 さぁいこう。探究の旅は、まだ始まったばかりだ。

 私はリュックを背中に背負って再び道を歩んでいく。しばらく進むと円状に囲まれた壁とその中央にそびえる城門を見据えた。

 始まりの城下街、アルメシア王国。ここが「冒険」の始まりとなる。

 こういう厳かな西洋建築を見るのは初めてな気もして、その豪快な石壁の威圧感に武者震いがする。

 「待ってろ、世界。」

 そう言って私は門へと向かって走っていった。

 

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