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実家を継ぎたくない魔術師がなんだかんだで飛ぶ話  作者: 夏川ぼーしん


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鏑矢高校魔術部同窓会 第七話




 止血が上手くいっていないのか、流れ出る血液が笹塚の上着を刻々と染め上げていく。何も言わず武曽が走り出し、すぐに血相を変えた美憂ちゃんを連れてくる。一時エントランスは騒然とし、慌ただしく野木さんの応急処置が行われた。


 右腕に食い付かれ、振り回されて地面に叩き付けられたそうで、全身六ヶ所の骨折……食いちぎられた腕は回収できなかったそうだ。傷口を焼く匂い、布を嚙まされた野木さんのくぐもった悲鳴。施術場所に選ばれた従業員室から漏れ聞こえるそれに、笹塚は青い顔で耳を塞いだ。


 魔術師が二人付いていながらなんてザマだ。これじゃ野木さんの復帰は望めない。この状況で動かせる手が減るのは…………いや、まずは部長の考えを聞こう。俺は部長とメガネ先輩、それから久瀬と武曽を手招きしてリビングに向かった。リビングに据え置かれている大テーブルは、もう作戦会議を行う会議場としてお決まりになりつつある。


「魔物はそんなに強かったんですか?」


 俺のその質問に部長は静かに首を横に振った。


「なら、なんであんな事に」

「昨日の調査が不十分だったんだろう。土地の一部から瘴気が噴き出している……そのせいで攻撃されるまで気づけなかった」


 腐敗した土地には、魔物が寄り付きやすいと言われている。その原因の一つがそれだ。大抵の生き物は魔物が放つ魔力に敏感で、近くに魔物が居ればその気配を感じる事ができる。だが、瘴気の中だとその感覚が鈍る。いや、瘴気の持つ独特の肌触りと魔物の気配が混ざって、気づけないのだ。


「だとすると、自衛のできない非戦闘員が森に入るのは危険っすね」

「と言っても、今動ける人の中で戦えないのは笹塚君ぐらいだけどね」

「いや、そんな事よりも野木の離脱が痛い。奴の案内なしにあの森で十分な食料採取は不可能だ」


 この土地のオーナーとはいえ、部長は森の植生など把握していないという。相変わらずポーカーフェイスを保っている武曽。彼女以外の全員が苦い顔をしていた。山からの食料調達の手段が断たれたのだ、そうもなろう。


 まぁ、たかが一週間、物を食わなかったぐらいで生きるも死ぬもないが……いや、体力を失えば水汲みもできなくなる。そう楽観もできないのか?


「釣りも採取も無理となると、本気で備蓄を切り詰めていくしかなくなりそうですね」

「……魔物、釣り竿、折れた」


 武曽が当時のショックを思い出したのか、涙目で震えだす。お前は本当に二十六の成人女性なんだよな?


「…………………………ん? 釣り竿が、どうした?」


 あ、しまった。という表情で俺と武曽で顔を見合わせる。示し合わせずとも、俺も彼女も、この報告はもう少し落ち着いてきてからと考えていたらしい。追い打ちをかけるような話だったから、気を遣ったのだ。まぁ、それも今のうっかりで台無しだが。俺たちは諦めて魔物のせいで釣り竿が壊れてしまった事を部長に説明した。


「ウム……食料の調達が不可能となると、現状の備蓄で最悪一週間を乗り越えなければならないな」

「釣りの方は道具さえなんとかなれば…………笹塚に相談してみようかと」


 今は廊下で呆然としているアイツも、手を動かし始めれば落ち着くだろう。


「久瀬、午後からも海の監視を頼んだぞ」

「はいっす」


 真面目な表情で答える久瀬に、部長も満足げに頷いて席を立つ。


「沖田は水汲み作業の残りを、他は今日はもう休め……明日以降どう動いていくかは夕食後に皆の前で発表する」


 少し疲れを感じさせる部長の宣言に、各々が了承の意を伝えて、臨時会議は幕を下ろした。とはいえ、何かが決まったという事はなく、問題解決の糸口はまだ見えない。節電のために薄暗い別荘のリビングに、誰のものかも分からない溜息がヤケに響いて聞こえた。



◆◆◆



 九頭竜島サバイバル生活二日目。


 夜のうちに静かに掃除を終わらせた自動人形達が、充電設備へ戻っていく音が聞こえる中、くぁと小さく欠伸を零し、個室のベランダから庭を見下ろす。食料の供給がストップしたというのに、武曽は朝から無駄なカロリーを消費している。本当だったら、俺もあそこに居るべきだろう。これでも魔物の前では剣に命を預ける身、その技が錆び付かないよう、欠かさず磨き続けるのが俺の義務だ。だが、空腹の前にはそんな義務感など無に等しい。剣こそ人生という武曽のような武人タイプは違うのだろうが、俺にとっては剣はその程度のものなのだ。


 くぅと腹が鳴る。折角鍛錬をサボるのだからもう少し眠っていたいところだったが……どうにも腹の虫が俺を寝かせてくれない。広い景色を楽しめば、何か変わるかと思ったが……特に効果は無かった。


 それまでとは比べ物にならないほど、昨夜の献立は質素だった。切り詰めても三日が限界の備蓄食料と相談した結果だろう。俺たちはこれから、健康を害するレベルの空腹と戦う運命にあるのだ。笹塚も、そう簡単に釣り具は用意できないと言っていたしな。


 朝食の時間、席に着いた俺の前には質素な一皿。食パンのフレンチトースト、六枚切りの半分、それが今朝のメニューのようだった。とても美味しい。とても美味しいが、それはそれとしてボリュームに不満がないかと言えば嘘になる。


「皆さん今日の予定は……」


 美憂ちゃんのその言葉に、各々が今日の予定を語っていく。メガネ先輩と久瀬は昨日と同じで、部長はメガネ先輩の水汲みの手伝いだそう。武曽は山に入って竹を探しに行くそうだ。他のメンバーなら危険だやめろという話になるが、まぁコイツなら心配ないだろう。


「変なもん食うなよ?」

「そうだぞぉ……食えそうな見た目でも毒があったりするんだからなぁ?」


 という事で、美憂ちゃんはメガネ先輩と部長、それから武曽のために三つ弁当をこさえて渡した。外で活動するため、気持ち多めの昼食が入っているのだろう。正直言って羨ましい。まぁ、できる事もないのに外をうろついてもリソースの無駄になるだけだからな、俺は家の中でジッとしているべきなんだ。仕方ない。


 別荘の一階には、リビングや厨房の他にもランドリールームや大浴場があったりする。とにかく水回りというのは、特別な意味でもない限り一階に集めた方が効率的で安上がりだからな。


 そんな一階にある無数の部屋の中に書斎と呼ばれる場所があった。二階ぶち抜きの吹抜けがあり、左右上下、どこを見ても床と天井以外の全てが本に囲まれている。もう書斎というよりは小さな図書館と言った方が適当な気さえしてくる空間だ。


「ハァ…………息が詰まるなこの場所は、窓の一つもないなんてな」

「おいおい日光は本の敵だぜぇ相棒ぉ、むしろ俺はこいうの好感が持てるね」


 そういうものか。納得はする。確かにこれだけの本を収蔵している以上は、その管理には気を遣ってしかるべきだ。まぁ、納得したからと言って、この息苦しさが消えてなくなったりはしないのだが。


「なあ、笹塚」

「なんだぁ?」


 本に落とした視線を上げることなく、親友は気の抜けた返事を返す。俺は手に持っていた魔術理論の本を閉じ、少しの間、虚空を眺めていた。別に質問を忘れたとかアホな事を言うつもりはない。ただ、この疑問を口にしても良いのか、少し躊躇っただけだ。


「霧花さんまだ起き上がってこれないのかな……」

「それ俺に聞くことかぁ? 影島妹に聞けよ」


 いや、そんな事したら心配してると思われるだろ。


「いやぁ、どう見ても心配してるだろうがよぉ」

「そう思われるのが嫌なんだよ」

「誰にぃ……?」

「………………霧花さんに」


 普段は涼やかな釣り目の笹塚が、お前マジかという顔で目を(みは)る。


「純愛……」

「違うからな? どういう間柄でもアレは普通心配するだろ」


 もう丸一日は寝たきりだ。ただの風邪という事は無いだろう。重い病気なら、一刻も早く本州の病院に連れていくべきだ。とはいえ、症状はよくある風邪症候群、長引いているというのなら気管支炎か、酷い場合は肺炎か。もしそうなら、命に係わる病気だ。一週間なんて悠長な事を言っているうちに、我が婚約者様は死んでしまうかもしれない。


「でもよぉ、あんだけ指環を取り合って、結婚するのを嫌がってた相手だろぉ? そんな相手でも思いやるんだなお前」

「別にあの人の事が嫌いなわけじゃないんだよ、コレでもな」


 案外、家の事とは関係のないところで出会っていたなら、俺の方から告白していたかもしれない。いや、それは言い過ぎか。何にせよ、彼女は俺の敵だが、俺は彼女を憎んでいたり、嫌っているわけではないという事だ。


「で、なんで心配されてると思われたくないんだよぉ?」

「あの人プライドが高いから、俺なんかに心配されたと知ったら後々嫌味を言われそうで」


 広い書斎に笹塚の高笑いが響き渡る。ムカついた俺は、奴にデコピンを打ち込み、弾き飛ばされた丸い体はピンボールのように書斎を駆け回った。


「分かったよ。情けない男だって言うんだろ? だったら、行ってやるよお見舞いに」

「ガタガタ言ってねぇでさっさと行けよ、バーカ」


 クソ、こういう時だけ普段のねっとり口調やめてハキハキ罵倒しやがって。



◆◆◆



 パイプ椅子に腰を預け、影島美憂は頭を掻いて眉間に皺を寄せる。作業台の上にノートを乗せ、明日からの五日分の献立を書き連ねていく。そして、その作業は十分足らずで終わる。終わってしまう。あまりにその内容が無いからだ。


 もう一日半、食料の供給がある前提で備蓄を消費してしまっている。そのせいで、シンプルに|一日三食五日分の九人分《百三十五食分》に食料を分割するだけで、断食メニューらしきものができあがる。これは由々しき問題だ。この緊急事態に遭難者の健康を預かる身として、何とかしなければと医者の卵は決意する。


 しかし、彼女は彼女で問題を抱えている。龍潮のせいで魔力のパスが遮断されていて、職場の人形と音信不通になってしまっているのだ。きっと今頃、シャットダウンされて死体みたいになっている自分の人形が先輩方の世話になっているに違いない。その事実が脳裏を過ぎるたびに、「あー忙しい」「飯が無い!」と別の問題で頭を悩ませて忘れようとしている。それが今の彼女だ。


 うーん、と唸り、材料の組み合わせやロスのないメニューを考えているところに、誰かが廊下を歩く足音が聞こえてくる。


「よ」


 あまりに簡素な挨拶で、その誰かは入ってきた。筋肉の付きが悪いわけではないが、背が高いせいでヒョロく見える。普段滅多に外さないキャップを手に取り、今は扇代わりにしている青年。兄の親友、それ以上でもそれ以下でもない、彼女にとっての憧れの人。鷹峰空理が何でもないような顔で現れた。


「霧花さんのお見舞いに行くから、何か持ってく物があったらついでにと思ってな」

「へ、あ……そうですね」


 急いで乱れていた髪を整えながら、あたふたと周囲を見回す。


「いや、無いんだったら良いんだけど」

「すみません……」

「なんで謝るんだ……?」


 まだ昼食を持っていくには少し早く、熱ももう氷枕が必要なほどでは無くなっていた。着替えや朝食の片付けも終わっており、本当に朝の仕事が一段落してから来たせいで、任せる仕事が無い。それ自体は悪い事ではなく、謝る必要もないのだが、如何せん今の美憂はテンパっていた。


「らしくないな、どっちかと言うといつも冷静なタイプだったろ」

「私は冷静ですよ」


 と、本人は言い張るが、先ほどの挙動不審は誤魔化せない。何かあったのではないか? 疑いを向ける空理は彼女の顔色が悪い事に気づいた。血色が悪く、目の下にはクマが見える。明らかな不調のサインである。


「疲れてるなら少しぐらい休んでも良いと思うぞ……!」


 グッと親指を立てて笑う空理。本当に、これは無責任な男である。そんな事を言ったって、この島に怪我人の面倒を見れる人間が他に居るわけでもなし、休める筈もないのだ。


「疲れてませんって!」

「なら良いけど」

「大丈夫です」


 笑顔で嘘を吐く美憂に、どこか納得の行っていない顔の空理。


「手伝える事があったら、なんでも言えよ…………俺は基本書斎に居るから」


 そう言って彼は去っていった。自分を心配するその言葉が嬉しく、厨房を歩くその足音が知らずと弾んだ。しかし、作業台の上のノートを思い出し、再び頭を抱える。問題は何も解決していないのだ。暫くこの事で頭を悩ます事になりそうな影島美憂であった。



◆◆◆



 ノックをして扉を開ける。


「帰って」

「まぁ、そう言わず」


 俺の顔を見るなり帰れと発した霧花さん。喜ばれないだろう事は分かっていたが、ここまでハッキリ言われると逆に笑えてくる。温度、湿度共に最適、それに清掃も行き届いている。病人が療養するのに過不足ない環境が整えられている。ずっとここに居たいぐらいだが、ベッドの上だと言うのに無理に体を捩ってそっぽを向いているパジャマの君を見るに、そういう訳にもいかないのだろうな。


「調子はどうです?」

「最悪よ」

「その体勢つらくありません? 顔は見せなくて良いから、横になってください」


 俺さえ居なければもっと楽なのに、的な嫌味を言いつつ、彼女は横になって布団にくるまった。俺に弱った姿など見せたくは無かっただろう。だが、現に弱っている以上は、俺も心配せずにはいられない。彼女の動きは緩慢で、倦怠感を隠せていない。手足に痺れがあるようで、布団を持った手が震えていた。


「無茶するからこんな事になるんです。これに懲りたらもう少し大人しくする事です」

「うるさいのよ……私と結婚する気もないくせに」


 それは今は関係ないだろう。と言っても、病人には分かるまい。病は気からと言うが、こんな状態で体が言う事をきかないのだ、気も病むと言うものだ。


 昨日まで、彼女の病名は不明、おそらく風邪だろうという事になっていた。だが、こうして会って、進行した病状を見ればその原因は一目瞭然だった。彼女から流れ出す魔力は、完全に腐っていた。全身の魔力回路が毒に侵されているのだろう。原因は、恐らく龍脈接続による星の魔力の逆流。時期が悪かった。龍潮発生前後の龍脈は魔術的な毒素の塊だ。人間とは相性の悪い邪の要素が強く出ている時期だからな。


 少し前までは魔術師に高額報酬を支払って儀式で祓うしかなかった症状だが、今は普通に病院で治療可能だ。現代医療というのは、本当に偉大なものだ。しかし、この島にその現代医療の恩恵は無い。原始的な応急処置しか、できる事は無いのだ。故に、彼女の復帰もまた見込めない。


「なんとか言いなさいよ」

「うるさいと言われたので」

「あなたのそういうところ、本当に嫌いだわ」


 どういうところだろう? 心当たりがありすぎて逆に分からない。ただ考え事をして黙っていただけの事を、彼女に言われたからやってたと偽った事だろうか? 少し嫌味が過ぎたか。


「壁を作って、お客さんのように扱って、それで私を尊重しているつもりになっているところがよ」


 首を傾げた俺に、彼女はすぐにそう返した。だが、その内容には納得がいかない。それの何がいけないというのか、俺と彼女は恋人でもなければ、友達でもない。大人として、男として、彼女を丁重に扱うのは最低限の礼儀だろう。それは間違いなく彼女を、遠城家の代表として尊重しているからに他ならない。つもりになっているなんて言いがかりをつけられるのは心外だ。


「じゃあ、尊重しないで欲しいと?」

「違う……お客さんじゃない、私を見てよ! 尊重しろなんて偉そうな事を言うつもりもないの、ただ私だけがあなたを覚えているのが辛い」

「……………………」


 直感的に、押し黙る。不用意な発言はよくない。感情が昂っている相手に、変に説得しようだとか事情を聴きだそうだとか思ってはいけない。ただ、相手が何を考え、どういう思いを抱えているのか、想像するだけだ。


 俺のあまりデキのよくない頭が必死になって答えを探す。帽子のツバを掴み深く被り直す。そうすることで視界をシャットアウトし、思考に集中できる。俺は何かを忘れている。その事で、彼女を傷つけた。俺は悩んだ。どれだけ記憶をさらっても、心当たりがない。俺と彼女が初めて出会ったのは両家の顔合わせ兼食事会、今から六年前の東京の料亭での事だ。その頃から今の今まで、俺の彼女に対するスタンスが変わった事は無い…………と思う。


 ツバをあげ、チラとベッドの方を確認する。時間切れか、コレ以上の沈黙はマズい。霧花さんのそこはかとなく切なげな雰囲気を感じ取り、俺は決断する。


「なんか面倒くさいから、この話はやめよう」

「…………は?」


 ようやく彼女の顔が見えた。そっぽを向いていた顔がこちらを向き、何言ってるんだコイツという視線が突き刺さる。


「要するに敬語がダメなんだな? 分かったよ、これからは控える」


 霧花さんの信じられない男を見るような顔に、思わず笑ってしまう。


「そんな事より」

「そんな事より??」

「一日中部屋に籠ってちゃ暇だろ? 本持ってきたんだ」


 そう言って、脇に置いてあった三冊の文芸本を彼女の前に差し出す。意外にもあの書斎の主はミステリ好きらしく、推理小説が山ほどあった。その中から特に俺が気に入ったものを持ってきた。前中後編で三冊の長編だ。彼女は胡乱な目のままそれらを見下ろし……


「…………これクローズドサークルよね? この状況で?」

「クローズドサークルの中でクローズドサークルを読むなんて中々できない体験だろ?」

「神経を疑うチョイスね」


 なんて文句を言いつつ、彼女は本を手に取って読み始める。俺は地面に腰を下ろしたまま、その光景をボーッと眺めていた。


「今スッピンだから、あまり見ないでくださる?」


 なんて彼女は言うが、病床の令嬢が静かに本を読むだなんて、中々様になる絵だと思う。俺は暫くその光景を見てから部屋を後にした。


「ん?」


 と、廊下に出たところで足元に置いてあるお盆が目に入る。霧花さんを気遣ってか、消化の良い食材ばかりを使った昼食だ。美憂ちゃんが持ってきたものだろうか? こんなところに無言で置いていくなんて……普通に入ってきて渡してくれればいいものを、どうしたのだろう? まぁ良い、俺はそれを持って引き返し、霧花さんに渡して、今度こそ戻る事にした。



◆◆◆



 その日は特に、何も起きる事無く終わった。外に出ていた三人、とりわけ森深くに出向いていた武曽も無事に帰ってきた事に俺たちはひとまず胸をなでおろした。水汲み作業は滞りなく進んだが、竹の探索は苦戦しているらしい。そもそも、この島にあるかどうかすら分からないそうだ。大昔に、竹を持ち込んだ記録があったとか無かったとか野木さんは言っていたが、彼自身はそれを見たことは無いらしい。それから、海を監視していた久瀬が海はまだまだ賑わいそうだと伝えて会議は終わる。と思われたが…………


「あ、そうだ……明日の天気なんすけど」


 終わり際に久瀬が言う。


「海の風が湿ってますから……多分すけど明日は嵐になります」











 九頭竜島サバイバル生活三日目。


 島は災害級の暴風雨に襲われていた。

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