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魔術の名家に生まれたが、人権意識がカス過ぎる(旧題:実家を継ぎたくない魔術師がなんだかんだで飛ぶ話)  作者: 夏川ぼーしん
蔵空村人狼事件編

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蔵空村人狼事件 最終話




「本当に……やってくれたな」


 十月十日金曜日。蔵空村の薬師家本邸の玄関前に、複数人の男女の姿があった。まだ朝早く、吐く息が白い中で、薬師家の人々は誰一人欠ける事無く見送りに来てくれていた。祖父の隣に立った久宜伯父さんは、寝不足で青白くなった顔でグチグチと文句を言っている。霧花さんが神社を燃やしてしまった事で、この村はとんでもない被害を被った。現在村の魔術師総出で復旧作業にあたっているが、あの場所に信仰が戻るのはまだまだ先の話だろう。それまで、この隠れ里は休業しなければならない。


 退魔連の関係各所への皺寄せの事を考えると、俺も申し訳ない気持ちが湧かないでもなかった。


「本当だよ、人狼は生け捕りにして欲しいって言ったのに…………死体は霧花ちゃんに炭になるまで燃やさせちゃうしさぁ! 可食部残ってねえよ」


 この人は、人狼の正体を知ったうえで平気でそんな事を言う。正直、気が触れてるとしか思えなかった。


「泰富……黙ってろ」


 そんな泰富叔父さんを軽く(はた)いて黙らせた久宜伯父さんは、ジッと俺の顔を見てこう言った。


「今回の件、問題にはしないが……お前の決断が多くの犠牲を払うものだった事は忘れるな。ただでさえ、魔物討伐の現場はカツカツなんだ。戦力の不足はそのまま魔物被害の増加を意味する」

「分かってます」


 昨夜から何度聞いたかも分からない説教に深く頷く。別に、俺に彼の小言に反発する意思はない。言っている事はごもっともだと思うし、良いことをしてやったなんて思い上がった気分で帰るつもりもない。


「久宜、小言はそれぐらいで言いだろう」


 祖父の一括で、話が前に進む。いつまでも、こうして玄関先で立ち話している訳にもいかないのだ。俺たちはもう東京に帰るのだから。


「空理、今回は本当に世話になった……帰ったら暖かくして寝なさい」


 そう優しく声を掛けてくる祖父に頭を下げて、俺たちは薬師家を後にした。来た時に乗った村役場の公用車で駅まで走る。


「こうして見てもここの紅葉は綺麗ね」


 そうしみじみ呟く霧花さんに俺は、うーんと唸って外を眺めた。来たときは胸をザワつかせた山の紅葉も、今は平穏な気持ちで見ていられる。この景色が見れただけでも、この村に来てよかったと言ってしまって良いかもしれない。そんな事を思った。



◆◆◆



 十月の秋空の下、休校になった秘匿学校の生徒達の姿が村の中にちらほら見られる。期せずして四連休を手に入れた彼等は、意気揚々と街で遊びまわっている。多くは村の数少ない娯楽施設であるショッピングモールと某ボーリング・アミューズメント施設に集中しているが、中には街中を散策する今時珍しい高校生の姿もあった。


 鷹峰来翔はそのどれでもなく、ただ一人で村の入り口にあるゲートの前に佇んでいた。ようこそ蔵空村へと印字された錆びた鉄骨の塊に背を預け、通り過ぎていく黒塗りの高級外車を見送る。それが、彼の兄を乗せた車である事を彼は知っている。小さく手を振る彼に、車はなんの反応もなく山道を走っていく。これが十年ぶりに会った兄との別れと思うと、何とも言えない寂しい気分にさせられる。


 本当は会ってもっと話したかった。けれど、それはできないのだと知った。あの日……学校に遠城霧花がやって来たあのフェンス際で、兄がこの村に来ていると告げた彼女は……来翔に色々な話を言って聞かせた。空理の身体に取り憑いた霊、それが鷹峰本家の監視である事、空理と来翔が接触すればそれが本家に筒抜けになる事。


「だから、彼はアナタに会う事はできない」

「そう…………ですか」

「でも」


 でも。そう言って口ごもる霧花。彼女のその苦しげな表情に、来翔は気付かない。気付く余裕が無い。そうか、兄は会いに来てくれないのか、薄々感じていたその事実が、思ったよりも深く彼の胸に突き刺さっていた。この村の子供たちには家族が居る。学校を卒業したら、継ぐべき家がある。家業がある。彼らはそれを嫌だ、退屈だと嘆くけれど、来翔からしたら羨ましい事だった。自分には何もない。頼るべき家族も、頼ってくれる家族も、会いに来てくれる家族すら居ないのだから。


「それはおかしいんじゃないかしら…………いいえ、おかしいのよ」

「……へ?」

「家族が家族を想ってるなら、それを伝えるべきだわ」


 ぱちくりと、目をしばたたかせる来翔に、霧花は優しく笑いかけた。彼女なりのシンパシーだった。あの朴念仁の想いが通じず、寂しい思いをしているという意味では、彼女も来翔の同類だ。だから……


「私はアナタに伝えたわ。彼の想い、アナタのためにここまでやってきた、過保護なお兄さん心って奴をね」


 アナタに伝えたい想いはないの? 最後にそう聞く霧花に、来翔は暫く放心して、それから(おもむろ)に呟いた。


「あります……」


 言いたいこと、知ってほしい気持ち、伝えるべき言葉。


「霧花さん、お願いがあるんです。協力……してくれますか?」



◆◆◆



 危穂の駅前から真っすぐ伸びる黄色のメインストリート、掃除が進んだためか異臭はせず、空理達はその景色を純粋に楽しんで歩いた。体の芯に残った疲労感が心地よく、十五分ほどの散歩道と都会の喧騒が二人に”帰ってきた”という実感をもたらす。


「そう言えば霧花さん大学は大丈夫だった? 急に依頼に付いてきてもらう事になったけど本当は忙しかったんじゃ」

「あら、心配してくれるのね」

「そりゃ、一応保護者として君を預かってる身だからね、留年とかさせるのは流石にマズい」

「……大丈夫ではないけれど、いざとなったら空理さんが責任をとってくれるから平気よ、ね?」


 どんな責任をとらされるのだろう? 戦々恐々とする空理は、やがて見慣れた雑居ビルに入っていく。


「ん……?」


 一階に並んだポストの中から、四階の鷹峰空位宛てのチラシの中に一通の手紙が混ざっている事に気が付く。差出人名義は()()()()、彼の弟からのものだった。



―――――――――――――――――

兄さんへ


堅苦しい挨拶はいらないと思うけれど、一応書いておきます。

秋の始まり、朝夕の風が涼しく身に刺さる季節になりました。兄さんは元気にしていますか。僕は、おかげさまで元気にしています。


兄さんに命を救われてから、もう十年が経ちました。

この村での暮らしにもすっかり慣れて、学校では友達にも恵まれました。


このあいだの秋祭りでは、クラスのみんなと出し物をやって、恵まれない子どもたちのために二万円以上の募金を集めることができました。

僕のように親のいない子どもが、ランドセルを買ったり、給食費を払ったりするための資金になるそうです。


一人で暮らすのは寂しいし、兄さんに会えないのは正直つらいです。

でも、それでも僕は、この村で幸せに暮らせています。


いつか、あの家の目を気にせず会えるようになったら、そのときは兄さんにこの生活を見てほしい。

兄さんが守った鷹峰来翔は、ちゃんと幸せに生きているんだって、直接伝えたいから。


どうか約束してください。

そのときが来たら、また会いに来てくれるって。


最後にもう一つだけ。


助けてくれて、ありがとう。

これからも、誰かのヒーローでいてくれる兄さんでいてください。


鷹峰来翔より

―――――――――――――――――


 手紙を読み終え、空理はそっとそれをデスクに置いた。その紙のうえに、ぽたり、ぽたりと雫が落ちる。あの事件の決着から、一度も泣くことのなかった男が泣いていた。自分が何を守るために戦って、何を犠牲にしたのか。


 母を斬りたかったわけじゃない。


 あの選択が“正しい”なんて、今でも言い切れない。


 それでも。これで良かったんだ、と。ようやく、その言葉が胸の奥で形になった。人として。魔術師として。どれだけ失うものが多かったとしても…………


 鷹峰空理が守ったものは、確かにここにあった。



 蔵空村人狼事件 ─完─

 前回よりだいぶ短くまとまりました。今回のお話はここで区切りとなります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


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