封神の剱
『神』は6枚の黒い翼を纏い、銀色の瞳を輝かせ、邪悪な暗黒の光とともに
エデンの中心へと降りる。
パティーシアとロンドは神の姿に確かにロンドの今の姿を重ねた。
ロンドは喜びに打ち震えながら神の元へと急ぐ。
「神よ!」
「余を…復活させたのは…貴様か…?」
「そうです!我らルシファーの働きによって、貴方様を目覚めさせることが出来たのです!」
「そうか…それはご苦労だった…」
神は左手をロンドの頭へと乗せた。
「勿体なき…お言葉…」
「だが、これで貴様も用済み…というわけだ」
「は…?」
ロンドが疑問を口にしようとした瞬間、
凄まじい電撃がロンドを襲う。
「ガ…ハァ…!…な…ぜ…?」
神はニタリと笑うと更に電撃をお見舞いする。
薄れ行く意識の中、ロンドが聞いた神の台詞はこうだ。
「余が望むは全ての無、人間など1人もいらぬ、
余を復活させて何を企んだのかは知らぬが、安心しろ、全ての動植物を現世より消してやろう」
神の台詞が全て終わる前にロンドの意識は無くなっていた。
「くくく…余の姿を真似したところで、所詮、人間か」
ボロ雑巾を投げ捨てるかのようにロンドは神によって放られる。
「あー、すげえいい」
バーギルは震えながら笑っていた。
「バーギル?」
「やっぱ敵ってのはああいうクソみてぇな野郎じゃねえとスッキリしねぇよ、
ミカエルのように純真に縛りつけたような敵じゃなくてよ、
己の絶対的力を誇示して他人の消滅を願う、そんなクソ野郎が神だよ」
バーギルは左腕で剣を構える。
「パティーシア…ミカエルを治してやれ、その間俺が時間を稼いでやる」
「本気で言ってるの…?見たでしょ、今のあいつのデタラメな強さ…」
「本気も本気、あのクソ野郎をぶった切りゃあ、全ては終わるんだ、終わらせてやるよ!」
バーギルは飛んだ。
音速をも超えるスピードで剣を振り下ろす。
ガギィイイイイイイイイイイイイイン!!
神が右手を出し、その剣を止めた。
「ほぅ…貴様、封神の剱を使いこなせるのか」
神が右手から雷を放つ。
雷は剣の宝玉に残さず吸い込まれた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ぐるりと反転し、その勢いのままバーギルは神の横腹に剣を叩きつける。
神に剣が当たった直後、宝玉が光り輝き、剣の先から先ほどの雷が迸り神を襲った。
パティーシアは懸命にミカエルへと治癒魔法をかけていた。
並の人間なら即死であろうその傷は少しずつ、少しずつ塞がっていく。
「皮肉なものね…エターナルコアであることが、こんな形で役立つなんて」
パティーシアはミカエルの傷口から僅かに見えるエターナルコアの核の部分を見ながら呟いた。
パティーシアはただ治癒魔法をかけているわけじゃない、
自らのエターナルコアの魔力もミカエルに連結させていた。
同じ波動を持つもの同士だから出来る治癒の方法。
「目覚めるなら早くなさい、ミカエル…いくら変な剣持ってるからってバーギルの不利に変わりは無いんだから…」
神の放つ魔法は封神の剱に吸い込まれる。
封神の剱は神の魔力を吸い取り、バーギルにそのままの力を与えた。
「全く厄介な剣だな…その剣は…」
雷球を次々と発射させながら神は言う。
「世界に一つだけの封神具、余の復活とその使い手が現れるのが同時とは…運命を感じるぞ、人間」
「知ったこっちゃねぇよ、クソ神様よ!」
雷球を吸収し、時には避け、時には斬り、バーギルは神へと接近する。
「1000年前に余をその剱に封じたのも貴様のような赤髪の男だったなぁ!」
バーギルの太刀筋を避けながら神は叫ぶ。
「嬉しいよ!子孫とはいえ、直接恨みを晴らせるのだから!!」
神は6枚の翼を展開させ、その羽先をバーギルに飛ばす。
一度に500以上の攻撃がバーギルを襲った。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
バーギルは吸収した雷球のエネルギーを拡散して放つ。
8割の羽先が消滅したが、2割はそのままバーギルへと突き刺さった。
「がはっ…!」
「余の最大の敵は貴様というわけだ、人間」
そう言って神はバーギルを指差した。
ぺっと血の塊を吐き出し、バーギルは神を睨む。
「嬉しくないね、俺にとっての最大の敵ってやつぁ、もう決まってるんでな」
バーギルは剣を構えなおす。
「ぜってぇ、テメエなんかより強いぜ、あのクソ女は」
そう言ってバーギルは笑った。
「女…?あそこにいる人間か…確かに他の人間とは比べ物にならん波動を感じるが、
所詮人間のレベル、余の敵ではない」
すっとバーギルに指された指をパティーシアに向ける。
「証拠を見せてやろう」
ビッと一筋の閃光が放たれた。
「しまっ…!」
バーギルはパティーシアの方を見る。
閃光はパティーシアに当たる直前、2つの大きな障壁によって防がれた。
「…なんだと…?」
障壁を展開させたのはパティーシアとミカエル。
バーギルはそれを見て安堵した。
「間に合ったか…」
「間一髪ってところ…かしら…?」
「『サタン』…私は間違っていたのでしょうか…私は全ウィザードのためになると言われ
神の降臨に全力を注いでいました…なのに、その神は…コモナーどころか人間全てを
滅ぼすと…」
「間違えなんて誰にでもあるわよ、ミカエル、大事なのは過去を見ることじゃなく今を見ること」
パティーシアはミカエルに手を差し伸べる。
「生きましょう、私たちも、寿命が何よ、エターナルコアの使命が何だってのよ、ふてぶてしく、
人間らしく、最後まで足掻いてやろうじゃない」
「『サタン』…」
「あいつの…受け売り、だけどね」
そう言ってミカエルにウィンクを飛ばす。
「不思議な…コモナーですね、あの人は…」
ミカエルは笑ってパティーシアの手を掴んだ。