エターナルコアの秘密
-メサイア共和国-
国民の数が20万を超える大陸第2位に位置する国である。
農産業が盛んで他国への輸出も行われている。
また、農産業をウィザードの魔法で行っているのも大きな特徴だ。
そのメサイア共和国の入り口にパティーシアとバーギルはいた。
「う~ん…ひっさびさの大きな国ね」
そう言うと大きな伸びをするパティーシア。
「ここでエデンの情報を集めるのか?」
腕を上げて伸びをしてるパティーシアにそうバーギルはたずねた。
「そうね…」
そうパティーシアが続きを言おうとしたところで
パティーシアの顔つきがげっと変わった。
バーギルがどうしたのかと尋ねようとすると、遠くからこちらへと近づいてくる足音が聞こえてくる。
近づいてくるのはポニーテールで黒髪の少女。
見た目14,5歳だろうか…
漆黒のマントを付けているところを見るとこの少女もウィザードのようだ。
「おねーさまー♪」
ばふっとパティーシアの胸に飛び込む少女。
「ク…クレシス…?な…なんでこんな所に!」
クレシスと言われた少女はパティーシアの胸に顔をこすりつけながら
「あら、お姉さま、私はここの魔法師営団1番隊隊長ですよ、お忘れですか?」
「う…迂闊だったわ…すっかり忘れて…た…っては・な・れ・な・さ・い・よー!」
ぐぐぐっとクレシスの頭を両手で離すパティーシア。
「い…いや…です…お姉さまと会うの何年振りだと…思ってるんですか…」
ぐぐぐっとクレシスは頭に力を入れまたパティーシアの胸へと持っていく。
「おい、パティーシア…こいつは誰だ?」
バーギルが呆気にとられながら話す。
その声にクレシスがギロッとバーギルを睨みつけた。
「お姉さま…?誰です?この野蛮そうなコモナーは…
仮にもお姉さまの名前を呼び捨てにしたようですけど…」
「あ…あぁ、こいつはバーギル、赤髪のバーギル、聞いたことあるでしょ?」
「赤髪のバーギル?あぁ、コモナーのくせに結構強いとかいう傭兵ですね、で・も」
クレシスがパティーシアから離れバーギルへと近づいた。
「なんで貴方、お姉さまを呼び捨てに?たかがコモナー風情が」
「けっ、俺がパティーシアのことを何と呼ぼうが勝手だろうが」
ぷいっとバーギルはそっぽを向いた。
「いいえ、いけないわ、お姉さまに対しての侮辱…と捉えますよ」
「何といわれようと変えるつもりはない」
バーギルのその言葉にクレシスはひくひくとこめかみをぴくつかせた。
「いいです、その腐った根性、死んで叩きなおして差し上げます!」
そう言うとクレシスは杖を抜く。
「テレポート」
クレシスはふっと消えるとバーギルの遥か頭上に姿を現した。
「ライトニング!」
クレシスが杖をバーギルに振る。
雷がバーギルに落ちる。
その雷をバーギルは避ける。
「私のライトニングを避けるとは…中々やりますわね、コモナー風情が…!」
「グラヴィオン」
「え?」
パティーシアの詠唱が聞こえたと思うと空に飛んでいたクレシスが地面へと落ちた。
「きゃあ!」
そのクレシスをバーギルが両手で受け止める。
「な…は…離しなさい!コモナー風情が!お姉さまも何故とめるんです!」
「離しなさいったってこのまま落ちてたらお前死んでたろうが…」
「私があの程度の高さから落ちたくらいで死ぬものですか!いいから離しなさい!!」
クレシスはドンッと両手で思いっきりバーギルを突き放した。
「クレシス、こいつはとりあえず私の味方よ、やめなさい」
「えー!お姉さま、こんっなコモナーとお付き合い…げぶっ!」
クレシスの言葉が最後まで続く前にパティーシアのグーのパンチがクレシスの顔面に直撃した。
「私は味方だって言ったの、誰がこんな奴と付き合ってるって?」
「けっ、俺の方がお断りだ」
「ふん、それは大変嬉しい言葉ね」
2人はにらみ合ってふんっと互いにそっぽを向いた。
「で、そいつは誰なんだよ?」
「クレシス・レイルモンド、私の1番弟子よ」
(ふむ…とりあえずお姉さまとこいつは憎からずも遠からず…といったところ…なら…)
「はじめまして、コモナーさん、私、クレシス・レイルモンド、14歳、お姉さまの1番弟子兼恋人です」
「だ…誰が恋人よ!」
パティーシアが怒鳴る。
「はぁ?なんだ、変態か、お前」
「へ…変態…?」
ひくっと口が動くクレシス。
「あのねぇ、バーギル!クレシスは私の1番弟子!それ以上でもそれ以下でもないの!」
「いやです、お姉さま、あんなに愛し合ったではありま…ぶべっ」
クレシスの台詞が最後まで続く前にまたもパティーシアのグーのパンチがクレシスの顔面に飛ぶ。
「さ、こんな子、放っといて宿へ行くわよ、バーギル、その後情報収集」
「あ…ああ」
「あぁ、お姉さまぁ…ま、待って~」
-メサイア共和国・宿屋【紅の坂月】-
「じゃあ、お姉さまたちはルシファーの復活を阻止するためにエデンの情報を求めているんですね?」
「そういうこと、だからあなたに構ってる暇はないのよ」
どんっとクレシスは自身の胸を強く叩いて胸を張る。
「そういうことならお任せください、お姉さま!
私が魔法師営団の方に情報を提供するよう働きかけます」
「ルシファーのデータベースにも無かった情報が一ウィザードが知ってるわけないと思うけどな」
バーギルが胸を張るクレシスに冷めた目線を向けて言い放つ。
その言葉にまたひくっとこめかみをひくつかせるクレシス。
「コモナー…あなたは一々、言葉が多いですね」
「本当のことだ」
「ふん、まあいいです、役に立つかどうか、そこに座って見てなさい」
そう言うとクレシスはパティーシアの方に振り向き小さくお辞儀する。
「それではお姉さま、また後ほど…」
「テレポート」
そうクレシスが唱えるとふっとクレシスの姿が消えた。
「で…俺たちはどこから当たるんだ?」
バーギルが消えたクレシスの場所を見ながら呟いた。
「そうね、エデンの事だから…まず一般市民は知らないでしょうし…」
手を顎にあて、うーんと首を捻る。
「国王に、会ってみましょうか」
「はぁ?貴様アホか、仮にも一国の国王がそう簡単に会うわけなかろう」
呆気にとられた顔をしたバーギルにちっちっちっと指を振るパティーシア。
「私を誰だと思ってるの、バーギル」
「アホ女」
「クレシスじゃないけど…口の減らない男ね…まぁ、いいわ、付いて来なさい、すぐにわかるから」
そう言ってパティーシアとバーギルは城の方へと向かった。
-メサイア城・門前-
「はーい」
門番に向かって軽く手を振るパティーシア。
「パ…パティーシア様!」
「お久しぶりです!」
門番の2人が慌てたように敬礼をする。
「おいおい…どうなってんだ、こりゃ」
「私、この国で前に農産に関する魔法の手解きをしたことがあるのよ」
パティーシアはそう説明すると門番に
「メサイア国王はいるかしら?」
「国王様ですか、もちろんいらっしゃいます」
「会える?」
「暫くお待ちを…」
そう言って門番は足早に城の中へと入っていく。
5分後…
「お待たせしました、国王様がお会いになります、謁見の間へどうぞ」
「ありがとう、さ、行くわよ、バーギル」
「あ…ああ」
スタスタと歩き出すパティーシアに驚きを隠せない様子で付いていくバーギル。
2人は謁見の間へと入っていった。
メサイア国王、本名をグラガンドル・キューシャ・メサイアという。
御年65歳。
白髪に立派な白髭。
精悍な顔立ちは一国王としての威厳を十分に放っていた。
「お久しぶりです、グラガンドル国王閣下」
そういうと膝をつき、礼をするパティーシア。
「おお、パティーシア、久しいの、ルシファーに狙われていると聞いて心配しとったが…」
「お気遣い感謝いたしますわ」
「そなたはこの国の恩人じゃ、そう堅苦しい挨拶などいらんわい…で、用件はなんじゃな?」
「エデン…という地名をご存知ないかと」
「ふむ…エデン…か…」
グラガンドルの眉間に僅かにしわが寄る。
「確か『神』が光臨する土地…じゃったかな」
「その通りです」
「エデンはここメサイアより更に東の土地にある」
「東…というのは知っております」
「ふむ、もうちょっと詳しく話そうかの…」
「このメサイアより東へ120km…そこの遥か天空にエデンがある…
という言い伝えが家伝として残っている」
「天空…?」
「『神』が光臨する土地じゃて…普通にはない場所なんじゃろうな…」
「で…行く方法は…?」
「無い」
「…そうですか…いや、場所が分かっただけも有難かったです」
「エデンへと赴いて何をする気じゃ?」
「『神』を封印します」
凛とした眼差しでパティーシアは言った。
「『神』の封印にはエターナルコアが必要じゃ…それが意味するところを知って…言っておるのか?」
「はい、それが私に与えられた『運命』ならば…その覚悟は…もう出来ています」
「おい、どういう意味だ…?」
バーギルは会話の意味がよくわからず堪らず質問した。
「『神』は光臨するにしても封印するにしてもエターナルコアが必要不可欠なのよ」
「あぁ?それって貴様が死ぬってことじゃねぇのか!?」
「そうよ」
「そうよ…ってお前…」
「時間が惜しいわ…行くわよ、バーギル、国王閣下、失礼します」
「うむ…」
「お、おい…」
スタスタと歩いて謁見の間を出るパティーシアを呆然と見つめるバーギル。
「その方、傭兵「赤髪のバーギル」じゃな?」
「!…は…はっ!」
グラガンドルに問われ思わず背筋を伸ばすバーギル。
「あの子は…本気じゃ…それまでの間、守ってやってくれぬか?」
「…ホントに封印したら、あいつは死ぬんですか?」
「…十中八九、逝くじゃろうな…」
「………」
ぎりっと歯をかみ締める音が謁見の間に広がった。
「…ルシファーは新しいエターナルコアを持つ試験管ベイビーを製造中と聞く…
猶予もないのもまた事実なのじゃ…」
「そうだ!それが完成したらそいつを奪って封印すれば…!」
その案にグラガンドルは静かに首を横に振る。
「それはきっとあの子が許さんじゃろ…同じ試験管ベイビーとして、利用されるための存在として
産まれるものが自分の代わりになるなど…優しいあの子には耐えられんのじゃ…」
「だからって!あいつが死んで、それで終わりなんてこと…あってたまるか!!」
「主の気持ちも分かる…があの子の覚悟は本物じゃ」
「………」
くるっと国王に背を向けるバーギル。
「そんなこと…認めねぇ…絶対に他の方法を探し出して見せる…
国王様…俺はパティーシアを死なせない…あいつを殺すことができるのは…俺だけなんですよ…
それ以外でのあいつの死なんて…俺は絶対に認めない…」
そう言うとバーギルは走ってパティーシアを追いかけた。