ルシファー本部へ
-ゲルステイン帝国-
1年前戦争によって滅ぼされかけたがパティーシアによって救われた国である。
よってパティーシアはこの国ではちょっとした英雄扱いだ。
ただし、その英雄扱いはあくまで一般市民に留まる。
パティーシアがこの国のウィザード組織「ルシファー」を独断で抜けたからだ。
「おう、パティーシア」
ぶっきらぼうにバーギルが言う。
「なに?」
「お前、なんでこの国の組織裏切ったんだ」
「真実の探求の為…」
「真実の探求…?前言ってた終端の阻止だかってやつか・・・」
「そうよ、私がやらなくちゃいけないことが見つかった、だからやめたの」
そう言うとパティーシアはバーギルの方を振り返り、
「この際だから教えてあげるわ、この国のウィザード組織『ルシファー』について」
「あのなぁ、俺は貴様とつるんでる訳じゃないんだ、内輪もめの話なら遠慮するぜ」
「黙って聞きなさい、ルシファーの存在意義は『神』の光臨にあるわ」
「…神?はっ、いかにもウィザードの連中が考えそうな宗教的なことだな」
ぴっとパティーシアは人差し指をバーギルの口元に添える。
「彼らの神、名はその組織名の通り『ルシファー』、そしてその復活に必要なのが…」
「『無限の核』よ」
パティーシアは左手を自分の胸に持っていき、
「『エターナルコア』は私の中に存在しているわ」
「…はぁ?」
「私は生まれ持って作られたウィザード『サタン』なのよ」
「作られた・・・?」
「そう、私に親はいない、試験管の中で生まれ生まれながらにしてルシファーの一員だった」
「そして神『ルシファー』復活のための道具なのよ」
バーギルは面を喰らった顔をした。
そして同時に納得もした。
パティーシアの底の無い魔力に…。
「で、貴様は自分の命欲しさに組織を逃げ出したのか」
そんなバーギルの問いにパティーシアは右人差し指をちっちっちと振り、
「神様が生まれたらまず何をすると思う?」
「あん?」
「世界の構築…」
「なんだって?」
「つまり今ある世界を壊して新たな自分の世界を創り上げるってことよ」
冗談にしては笑えない。
パティーシアの顔は至って冷静に、
「だから『ルシファー』が光臨したら真っ先にコモナーが滅ぶでしょうね」
「なんでだよ?」
「知恵も無い、魔法も使えない、品性も無い、とバークレイたちは考えてるわ」
「バークレイ・・・?」
「ルシファーの最高幹部よ」
「バークレイはコモナーを虫けら同然だと思ってる…同じ人間なのにね」
それを聞いてバーギルは虫唾が走る思いをした。
「虫けらだと…ふざけやがって!」
「それでバークレイは私の体内からエターナルコアを取り出して神『ルシファー』を光臨させ
コモナーを全滅させようと考えてるのよ」
「何でだよ?神とやらが復活したら今ある世界を壊すんだろ?
だったら自分たちだって危ないじゃないか」
「そこまでは知らないわよ、何かあるんでしょ、ウィザードだけが生き残る方法が」
そこまで言ってパティーシアは身を翻した。
「じゃあなんで貴様はこの国に帰ってきた?」
「復活の地を知るためよ」
「復活の地?」
「神『ルシファー』を光臨させるのに必要な場所のこと、同時にその地を封印すれば神の
光臨は避けられるってワケ」
「それどこに行けばわかるんだよ?」
「ルシファー本部よ」
「あぁ!?貴様正気か!わざわざ殺されに行くのかよ!?」
「あら、私は死ぬ気なんて更々無いわよ」
「けっ!俺は知らねぇぞ、そんな危ない組織に関わっていられるか!」
「あ、そ、いいわよ別に貴方は来なくても」
そう言うとパティーシアはひらひらと掌を振って歩いていった。
-ルシファー本部前-
(警備は3人…なんだ、意外と少ないわね…)
「|sommeil(眠り)」
パティーシアがそう呟くと警備の3人は次々と眠りに落ちていった。
-ゲルステイン帝国・宿屋-
部屋の中をバーギルはイライラした面持ちで右往左往していた。
「…パティーシアを殺すのは俺だ…ちっ」
-ルシファー本部内作戦参謀室-
「え~と…復活の地、復活の地…と」
そう言いながら慣れた手つきでコンソールを動かすパティーシア。
「出た、ビンゴ♪」
空中に立体的に文字が浮かび上がる。
『復活の地…エデンは東にあり』
(東って…これだけの情報しかないの?)
「地図検索、エデン」
『該当情報なし…検索エラー』
その時、後ろから声がかかった。
「久しい顔だな、パティーシア、探し物は見つかったか?」
パティーシアは、はっとして後ろを振り返る。
「ロンド…」
ロンドと言われた黒髪の男はそっと眼鏡を持ち上げた。
「それにしても贄が自ら来るとはな、君はもっと賢い女性だと思ったんだがな『サタン』?」
「私と一戦交えようっていうの?『ウリエル』」
「そりゃ君を殺して無限の核を抜き出せばバークレイ様もお喜びになるからな」
くくっとロンドは喉を鳴らし、
「だが君とサシで戦うなんて無謀なことはしないさ、出てこいお前達」
ロンドが合図を送ると5人、ぞろぞろとウィザードが出てきた。
「さぁ、殺させておくれ『サタン』」
そう言ってロンドが杖を抜く、同時に他の5人も。
と、その時、更に後ろの方から声がした。
「悪いがそいつを殺すのは俺の役目でね、お前らヘボウィザードなんかにゃくれてやらないよ」
声の主はバーギルだった。
「バーギル!来ちゃダメよ!雑魚5人はともかくロンドは他のウィザードと同じ扱いしちゃダメ!」
「珍しく慌ててるじゃないか、パティーシア」
そう言いながら長剣を抜くバーギル。
「邪魔なコモナーだ…下等生物の分際で、このルシファーまで来るとは…ね」
「んだとこら、俺はパティーシアとの決着をつける前にあいつが勝手にくたばるような真似をさせないだけだ」
「ファイアボール」
バーギルの言葉を完全に無視してロンドは魔法を唱えた。
大きな大きな炎の塊がロンドの前に広がっていく。
(んだ!?これがファイアボールの大きさかよ!!?)
「死ね、コモナー」
ボンッと音を立てバーギル目指して炎の塊が飛んでいく。
(ちぃい…避けきれねぇ…!!)
「ムーブメント!」
パティーシアの声が跳ね上がる。
同時にバーギルの体は瞬時に1人のウィザードの横に移動した。
「へっ…余所見してんじゃねぇよ!」
ズバッ!
一閃。
ウィザードの1人が床に崩れ落ちる。
と、同時に壁に炎の塊がぶつかる。
炎の塊は壁の沸点を楽に越えて壁を蒸発させた。
ロンドはパティーシアを睨みつけた。
「信じがたいな…君ほどのウィザードがコモナー1人助けるなんて」
「助ける?気のせいじゃないの、ロンド、私はバーギルと決着をつけてない、それだけよ」
「決着?ウィザードとコモナーが戦って決着一つ、つけられないのか、こりゃ傑作だ!」
「何言ってるのよ、今そのウィザードの1人がそのコモナーにやられたじゃない」
「それは君が『座標移動』を使って不意打ちに成功したからだろう?」
ロンドは眼鏡を上げなおすと、再び杖をかざす。
「どうやら君を買いかぶっていたようだな、君1人殺すのなら僕1人で十分だ」
そう言うとロンドは詠唱を始めた。
「C'est intervalle de l'espace un courant de temps(時の流れよ、空間の狭間よ)」
地面が激しく揺れ始める。
「ちっ、おいパティーシア!奴は何おっぱじめる気だ!?」
「空間湾曲…どうやら自分自身と私を異次元に移動させる気ね」
「Un espace-temps ne vous tente pas dans la surface courbée où ..... est maintenant nouveau(今時空は一つとなりて新たなる曲面へと誘わん)」
「丁度良いわ、私はロンドをなんとかするからあなたは残りの雑魚を頼むわね」
「勝手ほざいてんじゃねぇぞ!」
「決着…つけたいんでしょ?」
そうパティーシアが言ったところでロンドの詠唱が完成した。
「コー ベ スパス」
ぐにゃりとロンドとパティーシアが円を描いて曲がり消えてった。
「ちっ…くたばんじゃねぇぞ!」
バーギルは長剣を構えなおす。
残った4人のウィザードに向けて。
「俺も…決着をつけるまでは死なねぇ!」
バーギルは吼えた。
-???-
「ふふふ…どうだい?僕の異次元空間は」
パティーシアとロンドの周りは何もなくただ灰色の空間だけが広がっている。
「悪趣味ね」
パティーシアは肩を竦めるとそう言った。
「おや、お気に召さなくて残念だよ」
そう言うとロンドは杖を構える。
「ここが君の墓場となるのに…ね!」
そう言うと共にゴゥ!と音を立てて炎の塊が杖の先端から迸った。
「グレイスバックラー!」
パティーシアは咄嗟に唱える。
巨大な氷の盾がパティーシアの目の前に現れる。
炎と氷がぶつかり合い相殺し蒸気となって2人の間を飛び交った。
「驚いたかい!ここは僕の庭、ここでは僕は魔法の詠唱など必要ないんだよ!」
「くっ…」
「しかし流石だね、ここでは他のウィザードは力を制限される、それで僕のファイアボールと同等とは!」
「このくらい丁度いいハンデよ!フレーミア!」
音速の光がロンドに向かって飛ぶ。
しかしロンドは杖を傾けるだけで目の前に障壁を発生させた。
「!」
「見えるかい?リフレクションだよ」
「ムーブポイント!」
はね返った光を座標移動で避ける。
「ははっ、楽しいなぁ同胞!ここでこの『ウリエル』ロンドとやりあえるのは君くらいさ『サタン』!」
「同胞なんて笑わせるわ!同じ試験管ベイビーってだけじゃないの!」
「同胞だろ!?『創られた者』同士潰しあう、バークレイ様もさぞお喜びになるだろう!」
「その減らず口…二度と叩けないようにしてあげるわ」
「君が死ぬからかい!?」
そう言うとロンドは杖を振る。
五角形の図形が空間に浮かび上がりそれぞれの頂点から光の弾が飛ぶ。
「ルット モイ…ムーブポイント」
パティーシアの体が6つに別れ、そのうち1つだけが座標移動で空間を転移する。
光の弾は5つの分身に当たり閃光と共に破裂した。
「C'est un éclat de lumière enterré dans le tonnerre moulu pour donner le jugement à(審判を下す雷よ地に埋められし閃光よ)」
「Lame .... je de la lumière ne détruis pas maintenant d'ennemi(今、光の刃となりて我が敵を討ち滅ぼさん)」
「遅いよ!」
ロンドは振り向きざまファイアボールを3発連続で発射する。
「ピック フレーミア!」
パティーシアがファイアボールに向かって杖を振る。
地面から光の刃が無数に連なりファイアボールを砕きながらロンドへと迫る。
「ふん!」
しかしロンドはいとも簡単に座標移動で避ける。
「ディスパーション!」
パティーシアが唱えたと同時に光の刃が無数の流星になって四散した。
「なっ!?」
流星の一つがまともにロンドの右胸に決まる。
「ぐはっ」
「詠唱破棄が出来るくらいで勝てると思ったのかしら?」
ロンドの右胸から血が止まらない。
「くそ…魔法に魔法を融合させるなんて…」
「止めよ、さよならロンド」
瞬間、空間が捻じ曲がった。
「今回は素直に負けを認めよう、だがこのまま無様に終わる僕じゃあない」
「空間湾曲…?これも詠唱破棄出来るっていうの!?」
「今度あいまみえる時があればそれが君の最後だよ、覚えておくがいい」
ぐにゃりと曲がる空間と消えていくロンドを見るパティーシア。
「捨て台詞が3流ね、ロンド、でもいいわ覚えといてあげる」
空間が消滅するとそこにはズタボロに座りこけたバーギルと5人のウィザードの死体があった。
「…よう…奴は…?」
「逃げられたわ」
言いながらパティーシアは治癒の魔法を詠唱した。
バーギルの体がみるみる癒されていく。
「行くわよ」
「行くあては見つかったのかよ?」
「東…とりあえずそれだけよ」
「東…か、メサイア共和国があるな」
「じゃ、とりあえずそこまで行きましょ」
そう言うとすたすたとパティーシアは歩き出した。
「あ」
突然バーギルの方に振り返るパティーシア。
「なんだよ?」
「あ、ありがとう…来てくれて」
「あ!?な、なに言ってんだ貴様!忘れたのか!
貴様は俺が殺すんだ!それを横取りされたくなかっただけだ!」
「でも貴方が来てくれなかったら、私は多分殺されていたわ、
6対1、ましてやその内1人がロンドクラスだと他の5人の相手は出来ないもの」
「…ちっ…もうどうでもいいぜ、それよりメサイア共和国だろ」
「そうね」
そういうと漆黒のコートを翻し、またすたすたと歩き出す。
「ま…決着がつくまでは…守ってやらあ」
そうバーギルが小さな声で呟くとパティーシアを追って歩き出した。