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パティーシアとバーギル

 飄々とすすき野が啼く荒野・・・

 二つの人影が争いを繰り広げていた。


 緑色の髪をたなびかせ漆黒のコートを身にまとう17,8歳の女。

 赤色の髪が目に覆わんばかりに隠れ、長剣を振るう24,5歳の男。


 女が呪文を唱え杖を振りかざすと空中にルーンの文字が浮き上がる。


 ルーンから次々と発射される炎の矢。


 男はそれらを回避し、長剣で叩き落す。


「貴様との決着を、今日つける!」


 男はそう叫ぶと一足飛びで女の下へと飛び込んだ。


 刹那、


 長剣が女へと振り下ろされる。


 …が、女は一瞬にしてその場から消え、そして男の頭上高くに姿を現した。


「フレイム」


 女がそう言い杖を下へと向ける。


 ルーンが表れ炎の矢が男の頭上を襲った。


 ゴゥ!


 男は長剣を薙ぎ、炎の矢を掻き消す。


「パティーシア!覚悟!!」


 そのまま男は女…パティーシアに突きを繰り出す。


「ミュラ」


 パティーシアがそう唱えると障壁が現れ長剣を遮った。


「フロテイン」


 ふわりとパティーシアの体が浮き上がり男のおよそ3m先へと着地した。


「あなたでは私に勝てないわ、バーギル…」


「なんだと・・・!?」


「わかるでしょう・・・?あなたがどんなに凄腕の傭兵だったとしても所詮は剣士、魔法使いには勝てないのよ」


 この世には魔法を使うもの、ウィザード、そして魔法を使えないもの、コモナーがいる。


 そしてそれに付きまとう一つの常識。


 コモナーはウィザードには勝てない。


 バーギルはそれを打開したくて傭兵になった。


 腕も磨いた。


 それはもう「赤髪のバーギル」と呼ばれるほどに。


 そして1年前、とある国の戦争に参加したバーギルの前に姿を現したのがパティーシアだった。


 バーギルにとって初めて見るウィザード。


 その力は圧倒的だった。


 2万対1。


 そのウィザードが呪文を唱え杖を振るう。


 落雷が落ちて、炎が飛び、氷塊がバーギルたちを襲った。


 ほぼコモナーの傭兵で統率された軍団は抗うこともできず、「魔法」という絶対的な力の前にある者は焼かれ、ある者は戦意を失い逃げ出した。


 2万いたはずのその数がほんの10分で1対1になった。


 最後に生き延びたのがバーギル。


 死を覚悟したその時、そのウィザードは

「飽きたわ、どうせもうほとんど壊滅状態だし、この辺でいいでしょう」

 と言って姿を消した。


 その日からバーギルは己の無力さを呪い、嘆き、更に腕を磨いた。


 打倒パティーシア、それだけが生きる目標になっていた。


「終わりにしましょう、バーギル、この・・・無意味な戦いに!」


 パティーシアが叫ぶ。


「フレーミア」


 杖をかざすとルーンが浮かぶ。


 そこから音速ともいえる勢いで光が奔った。


「く…おぉぉぉお!」


 すんでの所で横に避けるバーギル。


 ドッゴォォォォォン・・・・・・!


 光は遠くにある岩山に激突し岩山は木っ端微塵になった。


「俺は…俺は負けん!」


 長剣を構えなおすバーギル。


「これだけの力の差を前にまだ向かってくる勇気は認めるわ、だけど…時間ね」


 気づくと二人の周りに人影が2つあった。


「なんだ…貴様ら…!?」


 バーギルが叫ぶ。


「あなたも私も組織を抜けて追われる立場…さしずめどちらかの追っ手…かしらね」


 そう言うとパティーシアはふぅ…と溜め息をつき、


「いや、両方の…と考える方が妥当かしら」


 パティーシアが言うや否や二つの人影はパティーシアとバーギル目掛けて突っ込んできた。


「ちぃ…あの仕事を辞めたツケがこんな所で回ってくるとは…な!」


 バーギルは振り返り人影のうちの一つに剣を振り下ろす。


 しかし人影…30代くらいの男だろう…はその斬撃を避け「杖」をバーギルへと向けた。


(ちぃい…こいつ…ウィザードか…!)


「…ファイアボール」


 男が唱える。


 咄嗟に目を瞑るバーギル。


 しかし何時まで経っても炎の塊は襲ってこなかった。


「…?」


 男は不思議そうに杖を振りなおす。


「サイレンス…ウィザードならこの魔法…知ってるわよねぇ?」


 サイレンス、それはウィザードが魔法を失う「沈黙」の魔法。

 尤も、1流のウィザードなら戦いの前にサイレンスに対する事前策を打っている。

 このウィザードにサイレンスが効いた事からパティーシアは

 「このウィザードは3流だ」という認識をした。


「何故…赤髪のバーギルを助ける?」


 男はパティーシアに向かって言う。


「あら、だって2対2でしょ?」


「ふざけんな!誰が貴様なんぞに!」


「貴方の相手は『これ』よ、バーギル」


 槍を構えた男がパティーシアに突進してくる。


「貴方との決着は後回し…まずはこいつらから、ね?」


「…ちっ」


 バーギルは長剣を構えなおすとパティーシアの後ろへと移動し槍の男の突きを薙ぎ払う。


「ここは組んだ方が得策だわ、コモナーはコモナー同士、仲良くやりなさい、

 私はこの間抜けなウィザードの相手をしてあげる」


「どうやら…そうらしいな!」


 バーギルの長剣が唸る。


 槍を凌ぎ、攻める。


 その光景を見てからパティーシアはウィザードの男に振り返る。


「さて…貴方の力…見せてもらいましょうか…?」


 不適な笑みを零しパティーシアが跳んだ。


「アニュレーション!」


 ウィザードの男は沈黙の魔法を解除する。


 そして杖をパティーシアへと向ける…がそこにパティーシアの姿は無かった。


「ルット モイ」


 パティーシアがそう唱えるとパティーシアの姿が10に分裂した。


「…!」


 ウィザードの男は増えた目標に向かって炎の矢を所構わず叩き込む。


「リフレクション」


 ウィザードの男とパティーシアの間に障壁が発生し炎の矢を弾き返す。


 そのまま炎の矢はウィザードの男に直撃した。


「ぐぁあああああああああああ!!!」


「止めよ…3流のウィザードさん」


 そう言うとパティーシアは杖を掲げる。


「ニフィリティー!」


 パティーシアが唱えるとウィザードの男の中心に闇が出現した。


 そのまま闇はウィザードの男を飲み込んでいく。


「どうかしら、虚無の味は?」


 ウィザードの男は何も語ることなく闇へと消えていった。


「円月斬!」


 丸く弧の字を描く様に長剣がバーギルの周りを奔る。


 槍使いの槍は真っ二つに斬れて地面へと突き刺さった。


「おおおおお!」


 ズバッ!!


 そのまま一閃。


 バーギルは槍使いの体を切り払った。


「余計な手間をかけさせやがって…さぁ、続きだ、パティーシア」


「残念ねバーギル、まだみたいよ」


 そう言うとパティーシアは杖を振るう。


 すると一体何人いるのだろうか…とんでもない量の軍勢が2人を取り囲んでいた。


「たかだか2人に…大層なもてなしだな…!」


「それもウィザードばかり…これはどうやら私の追っ手ね」


 パティーシアはクルリと周りを眺め、


「私はまだ死ぬわけにはいかない…やるべきことがあるから…」


「やるべきこと…?」


「えぇ…30秒、あの軍勢に耐えられるかしら?バーギル」


「たかが30秒で何が起こせる、パティーシア」


「あら、嫌だ…1年前のこと、もうお忘れ?」


 ふふっと笑みを零し


「この天才ウィザード、パティーシアの本気…見せてあげるわ」


「ちっ…嫌なこと思い出させてくれる…30秒だな!」


「ええ!」


 そう言うとパティーシアは杖を天高く掲げる。


「Je le fais d'après un contrat et c'est le résident de l'esprit mauvais

(契約に従いし魔性の住人よ)…」


「おおおおおお!!」


 パティーシアが詠唱を開始したと同時にバーギルは地を蹴った。


 刹那、何百本という炎の矢がバーギルを襲う。


「なめる…なぁああああああああ!!」


 必要最低限の炎だけを避け前へ前へと突進するバーギル。


「Je n'apporte pas pluie de la lumière d'après un contrat du tu ici maintenant

(汝の契約に従い今ここに光の雨をもたらさん)…」


 バーギルの剣は障壁によって弾かれる。


 その隙を縫うかのようにまた、何百という炎の矢がバーギルを襲う。


「がぁあああああああああ!!」


 ウィザードの軍勢が一斉にパティーシアへと杖を向ける。


「させるかぁ!」


 炎に包まれながらバーギルは叫んだ。


「蛇波斬!」


 凄まじい勢いで唸りを上げる長剣。


 それとともにバーギルを包んでいた炎がウィザードの軍勢へと押し返される。


 しかし、それでも削ったのは100分の1にも満たなかった。


 パティーシアに向けて放たれる何百という炎の矢。


 バーギルは無我夢中でパティーシアの前に立った。


 数百の炎に焼かれるバーギル。


「Je retiens chaos et un tourbillon de la lumière dans cette

 main et ne fends pas maintenant ouvert!(混沌と光の渦をこの手に宿し、今、弾けん!)」


 かっと見開くパティーシアの目。


 その目は右側が銀色に左側が赤色に染まっていた。


「エクスプロージョン!」


 詠唱を唱え終わった直後、パティーシアを中心に半径10kmが光の爆発に包まれた。


 唱えられたエクスプロージョンはウィザードたちの障壁を容易く打ち砕き、粉砕していった。




「……う……」


 何分くらい気を失っていたのだろう。


 バーギルは目を覚ました。


「あら、目、覚めた?」


 バーギルの体に風穴や火傷のあとは無かった。


「治癒の魔法をかけたわ」


「…ふん」


「なんか、興が削がれちゃったわね」


「…貴様のやるべきこととは…何だ?」


 バーギルは仰向けのままパティーシアに問いかける。


「…終端の阻止…よ」


「…言ってる意味がわからん」


「はぁ、これだからコモナーは学が無くって嫌なのよね」


 そう言うとパティーシアはコートを翻し、


「ついて来る?追われる立場同士…」


「…何を馬鹿な…」


「いつでも好きな時に私の命が狙えるわよ?」


「………」


 少し考え込んだ後バーギルはむくりと起き上がった。


「勘違いするなよ、あくまで決着をつけるためだ、つるむ訳じゃない」


「あ~ら、怖いこと、いいんじゃない?貴方にも今に分かるわ…この世の真実…っていうのがね…」


 そう言うとパティーシアとバーギルは荒野を後にした。




 -某所-


「パティーシアの殺害に失敗」


 報告にドン!と机に拳が叩きつけられる。


「おのれ、パティーシアめ…あれだけの数のウィザードを葬るとは…!」


「バークレイ様…どうやら赤髪のバーギルがパティーシアについた模様です」


「ふん、コモナーの1人くらいどうとでもなる…が、」


 バークレイはぎりっと歯を噛み締め、


「パティーシア…あの女は何としても殺さねばならん…我らが『神』のためにもな…!」


「奴の体内にある『無限のエターナルコア』…何としてでも奪い取れ…!」


 バークレイは漆黒のコートをバッとたなびかせ、


「いいか!奴がかの地に向かう前に叩くのだ!どんな手を使っても構わん!!」


「はっ、全てはバークレイ様のために!」


 そういうとバークレイの部下はスッと姿を消した。


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