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パッセンジャー

目が覚めると、僕は電車に乗っていた。

ゆっくりと傾いた体を起こして、あたりを見回した。

昼間の電車は案外空いていた。

僕の斜め左前に年寄りのおばあさんが座っていた。

僕は寝起きの頭を左右に動かしながら大きくあくびをした。


「あ~~~~」


あくびをした瞬間、目をつむった。


「ピンポーン!ピンポーン!」


僕はハッとした。

外を見て急いで立った。

いつの間にか目的地に着いていたのだ。

僕は電車の外に出た。

あれ、


「・・・あれ」


ポケットがやけに軽かった。

僕はいつもポケットに財布を入れていたんだ。


「まさか」


「プシューーーーーッ」


遅かった。

電車の扉が締まった。

徐々に電車は動き出す。

僕は電車に少し近づいて、元の席を確かめる。

財布はお行儀よく、席の上にあった。

僕は財布をあきらめ、改札口へ向かった。

幸い、ライナポーリング(ブレスレット型の乗車パス)を付けていたから駅を出ることはできた。

駅は大きなデパートと隣接していた。


「財布が無いんじゃ何もできないな。どうしよ・・・」


とりあえず僕はデパートの中を散策して、当てもなく店を見て回ることにした。

なかなか都会に来ることがないので、新鮮な感じだ。

おしゃれな服屋が多い。

僕はふと、このデパートの最上階にどんなお店があるのか気になって行ってみることにした。

最上階は5階。

5階でエレベーターを降りると、ガラーンとした静かなエリアに出た。

2階や3階は服屋でいっぱいだったのに、5階はまるで違う世界。

ところどころ白い壁が見えた。

少し進むと1箇所だけ店があるのに気付いた。

その店はなんというかジャンクな物を売ってる店って感じだった。

まさにヴィレヴァンそのもの。

僕の好きなタイプのお店だ。

店の中はまさにヴィレヴァンって感じだが、装飾品はあまりなく、白を基調とした店内だった。

汚いわけではないが、店内の電気が薄暗いため、不気味。

店内を見回しても不思議なことに誰もいなかった。

これもまた不気味。

何気なくハロウィンのコーナーを見つけた。

ハロウィンの仮装マスクが気になった。

特にヴァンパイア。

でも金が無いんで諦めた。

一通り店内をぐるっと回ったところでお店を出ることにした。


「財布・・・やっぱ探すか」


財布が無いんじゃ、何も買えないし免許証も入ってるから色々困る。

僕は警察署に行ってみることにした。

近くにあればいいけど。

こういう時にスマホが使えればと思うが、持ってくるのを忘れていた。

何してんだ僕は・・・

とりあえずデパートの1階に降りて近くに地図が無いか探そうと考えた。


1階に着いた。

1階はやはり5階と違い、人が多い印象だ。

服屋をすり抜けて外に出ようとした。

するとその時、見覚えのある人物が僕の前を通ろうとしていた。


「あ!マキ!」


妹のマキだ。

なんでここに?

買い物だろうか。

マキはワイヤレスイヤホンをしていて聞こえていない。


「お、おい」


手を振ってみた。

マキが気づく。


「なんですか?」


まるで変な他人を見るようにマキが僕を見て言った。


「は?え、僕だよ。」


「あ、何してるの?」


気づいてちょっとホッとした。

いや何だよそれ。

ま、いいや。


「さっき電車の中に財布忘れちゃったんだ。ロク主に電話したいからスマホ貸してくんない?」


※僕が乗った電車は『ヴァルトライン』と言って北から南まで一歩通行で一日一回しか通らない電車なんだ。ロク主っていうのは『ヴァルトライン』の運転手さんのこと。


「ん、それだったら駅でパストロン乗った方が早いよ」


※『パストロン』はすっごい速い新幹線の一つ。チケットが高い。


「あぁ、確かに。じゃあ、さ、お金貸してくれる?」


「いいよ。じゃあ乗り場まで付いてってあげる。」


「ありがとう!」


助かった~

まさかパストロンのチケットが買えるほどお金を持っていたとは思わなかったぞ。

10歳離れた妹なのに、しっかりしてるね~

ダメな兄だな・・・僕は・・・


サイドレールの駅から徒歩10分ほどでパストロンの駅があった。

にぎやかな都会の街の真ん中にパストロンの駅はそびえ建っていた。


「すごぉ」


パストロンの駅の外装には『Pastron!!→』とでっかく壁画が描かれていた。

中に入るとサイドレールの駅とはまた違う近未来的な雰囲気の内装になっていた。


「すみません。パストロンのチケット1枚」


マキが駅員からチケットを買っている。


「はい、チケット。」

「ありがとう!」


これでヴァルトラインに追いつける!

時刻は15時半。

ヴァルトラインは15時45分にアサルトヴァイト駅に着く予定だ。

パストロンで行けば15時40分にはアサルトヴァイト駅に着く。

やったぜ。


「プシューーーーーッ」


パストロンの扉が閉まる。

外でマキが手を振っていた。

僕も手を振り返した。


15時40分。

時間通りアサルトヴァイト駅に着いた。

ここも初めて来る駅だ。

よし、これで財布があれば一件落着だ。

財布さえあればそのまま家に帰れる。


15時45分。

こちらも時間通りヴァルトラインがアサルトヴァイト駅に着いた。

一目散に扉の前に行く。


「プシューーーーーッ」


僕は同じ車両の同じ席を確認する。


無い。


財布が無い。


「マジか…」


ヴァルトラインは車内に駅員が入ることは少ない。

落とし物として保管されてる可能性は0に近かった。


「やったわ…」


落ち込んで席に座った。


「ねぇ…ねぇ…」


左斜め前から声がした。


「ねぇ坊や、これ君のかい?」


顔を上げると目の前に杖をついた年寄りのおばあさんが立っていた。

おばあさんの手元には僕の財布があった。


「あ!!!そうです。僕のです!…ってあれ?あなたは最初にも乗ってた…」

「そうそう、最初に乗ってたわ。あなたが財布を忘れていったの見てたわ。それでね、途中で人がいっぱい入ってきてね。居ても立っても居られず、あなたの財布を手元に保管していたのよ。」

「あぁ、助かりました。ありがとうございます~」

「い~え、ちょうどアサルトヴァイト駅で降りる予定だったのよ。ギリギリだったわ。」

「この御恩は一生忘れません!」

「ふふっ、恩だなんて。この出来事を忘れなければいいのよ。そうすればもう忘れ物をすることもなくなると思うわよ。またね。」

「はい!ありがとうございました!」


おばあさんはヴァルトラインの扉を出て、去り際僕に背を向け手を振った。


(かっけ~…)


僕はこの出来事を忘れないよう心に刻んだ。

忘れ物はしょうがないけど、少ない方が身のためになるよね。

本来の目的は達成できなかったけど、何か大切なことに出会えた気がする。


家に帰るにはあと13個先の駅で降りて、マルドラインに乗り換えて4個先の駅で降りて帰れる。

結構遠いのよ。

まぁいいや。

なんだかんだ、楽しかった。

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