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インダダァ

森に覆われた田舎のある一軒家。


その一軒家は禁足区域として指定されていた。


過去に何度も死者を出していたからだ。


有名な事件として、かつてその一軒家の所有していた男とその他村民たちによる13人焼死事件というものがある。


その男は事故物件に面白半分で住もうとする、いわばオカルトマニアの端くれであった。


その男がその一軒家に住んでから半日後、近くの村の集落で子供が行方不明になったという騒ぎが起こる。

集落の村民たちは一軒家の男に疑いの目をかけ、数人でその一軒家に尋ねた。

数人が一軒家に行ってから3時間ほど経っても誰も戻ってこなかった。

村で待っていた村民たちは念の為、警察に連絡した。

30分ほどで警察は村に着き、村民数人と警察官2人でその一軒家に向かった。


そしてそれから半日後、時刻は午前3時50分。

集落を囲むように聳え立っていた森の中で明るい光が見え始める。

たまたま早起きで散歩をしていた一人の老人がそれに気づいた。

その光は炎であり、森を焼き尽くそうと炎炎と燃えていた。

老人はすぐさま他の村民に状況を伝え、消防車を呼んだ。


午前6時、炎は消えた。

森も一部だけ焼け焦げたが、民家に影響はなかった。

死傷者はないかと思われた。

しかしその焼け焦げた灰の中から人の焼死体が見つかった。

その焼死体は全13体。

あの一軒家の主人の男と子供を含む村民と警察官たちの死体だった。


この事件の前にも連続首吊り事件、死体遺棄事件など多数の事件が発生していた為、警察が一軒家を調査したこともあった。

しかし、その一軒家は取り壊しなどはされなかった。


一軒家に住んでたった一日で男は死んだ。

その一軒家に何があるのか、何があったのか。

それを調べようと、ある研究チームが動き出した。


その研究チームは警察の調査資料なども確認し、この一軒家が特A級の事故物件であることを理解したうえで慎重に調査しようとしていた。


調査の話は進み、研究チームはその一軒家に行くことになった。


研究チームは白いバンに乗って高速道路を使って集落へ向かった。

バンの中で研究チームのリーダー、アスカは警察がまとめた調査資料を読み返した。


4年前、集落の隣にある町の交番の警察官Sが自分の子供を含む5人の子供達をその一軒家の中で銃殺した。

Sは子供たちの返り血を服につけた状態で交番に戻り、交番の前で立番に務めた。

たまたまおばあさんが交番の前を通りかかり、その際おばあさんに対して不気味なほどの笑顔で見つめてきたという。

おばあさんがあいさつをしても無言かつ笑顔であったため、おばあさんは不気味に感じそそくさとその場を後にしようと歩き始めた。ふと後ろを振り向いてみると、Sがゆっくりと近づいてきているのに気がつく。

恐怖のあまり走り出したおばあさんのところにたまたまパトカーが通りかかる。

おばあさんは道路に飛び出し、パトカーに助けを求めた。

パトカーは止まり、中から若い二人の警察官の男たちが出てきた。

二人はおばあさんを不審に思っていたが、すぐさま後ろから付いてくる血だらけのSを発見する。

二人はSに銃口を向け、止まって体を地面につけるよう警告した。

しかしSはポケットに入れていたナイフを取り出し、二人に向かって笑顔で走り出した。

二人は警告を無視したSに発砲した。

撃たれたSの顔に笑顔はなかった。


アスカが調査資料を読み終えると、バンはちょうど森の中に入っていくところであった。

緑豊かな場所で悪い気配は感じられなかった。

集落の入り口にさしかかった。

入り口の近くに列車の線路があった。

線路は集落とはまた別の方向へと繋がっているようだった。

バンから研究チームの男女6人が外に降りる。

研究記録のため、男の一人がカメラマンをしていた。

まず最初に村の民家を訪ねてみようとしたが、どこも木々が茂っていて家らしきものが見当たらなかった。


「ここで合ってますよね?」


カメラマンの男ササキが言う。


「ええ。間違いないわ。」


アスカが答える。


「ただ、記録と違うところと言えば、民家が一つも無いってところね。」


アスカは5年前に集落で撮影された写真を見ながら言う。

研究チームは集落にあたる場所を奥へと進んでいく。

あの一軒家に行くには一度集落に入り、その地形の横に面してる道からでしか一軒家にたどり着くことはできない。

一軒家の裏は山になっており、山を越えると隣の町に繋がる。

裏から行くとなれば一山越えなければならないから一般的な行き方ではない。


「チッ」


研究員の女の一人カヨコは携帯の電波が入らないのと、充電が無かったことにイラついていた。

カヨコはメガネについたゴミを見つけ、


「チッ」


と言いながら、ハンカチでメガネを拭いた。


「カシャッ」


カヨコの隣でカメラを撮っているのは研究員の女のマサミ。

マサミはホラー好きのオカルトマニアで心霊写真が撮れないか試していた。

マサミの後ろに一人怯えながら付いてきている男がいた。

研究員の男のサトシ。

サトシはドキュメンタリー映画の制作を兼ねて、この研究チームに入った。

ササキがカメラ担当で、サトシは監督。

サトシは映画マニアでもあるため、この手の作品(ブレアウィッチプロジェクト等)を知っている。

そのため自分が同じような体験をすることで映画の中で起きた恐怖シーンがフラッシュバックしてサトシを恐怖に陥れているのである。(ホラー映画の見すぎ)


「ここよ。」


集落の奥へと行き、ついに一軒家への抜け道を見つけた。


「薄暗い…」


一行は抜け道を進んでいく。

そして遂に一軒家へと到着した。

一軒家の外観は全体的に暗く、蜘蛛の巣や植物のツルがいっぱいだった。

一階のみの構造であった。

戸を開けると、最初に目に入ったのはいろりだった。

昔ながらの古民家の内装になっていた。

ほこりまみれの座敷で広がっている。

6人は皆土足の状態で座敷の上に上がった。

研究員の一人アバシリが懐中電灯を置いていく。

ササキとマサミはカメラで室内を撮影していく。

アスカはおもむろに横の部屋を開ける。


「ガラガラガラガラガラガラ…」


そこは座敷で、いろりの間と似ていたが、そこにはでかでかと仏壇が置いてあった。

仏壇は立派な木造建築の小さいお寺のような見た目をしていた。

カメラは仏壇を撮影していく。

一瞬、ササキのビデオカメラに何かが映った。


「わっ」


と驚くササキ。


「どうしたの?」

「何か映った。確認します。」


仏壇の部屋で6人はビデオカメラを確認する。

確かに何かしらの影が映っている。


「虫じゃない?」


カヨコが言う。

スローモーションでもう一度見る。

するとそこには、叫んでいるような白く長い顔が映っていたのだ。


「うっわ」

「これはヤバいこれはヤバい」


サトシが焦り出す。


「ちょっと落ち着けって」


すると、仏壇の部屋の戸が一斉に締まり始めた。


「バタンッバタンッバタンッバタンッ」


6人の顔が一斉に強張る。


蛆槇咫万主うじまきたまんしゅだ。ダメだ皆死ぬんだ。」


サトシが膝から倒れ込んだ。

蛆槇咫万主とは、サトシがたまたま見つけたネットの怪談話の一つで、白く細長い顔をしたお化けの総称である。

蛆槇咫万主は禁足地で多発する神隠しのお化けであり、禁足地に入った者はどんなに逃げても追いかけて蛆槇(極楽)に連れていくといわれる。


「おい、どうする。」


ササキがアスカに聞く。


「戸を開けるしかないでしょ!」


6人で戸を開けようとする。

戸はなぜかギッチリと閉まっていた。

すると次の瞬間、仏壇の中から大きな瓶の容器が出てきた。


「ハッシュバウンドだ。」


サトシは血の気の引いた目でその容器を見つめる。

ハッシュバウンドとは日本のホラー映画の一つで終盤、女の主人公が白いエントランスに閉じ込められてしまう。

5つの出入り口があるが、どこを通っても白いエントランスに戻ってきてしまう。

そのエントランスの5つの出入り口それぞれから大きな瓶の容器を持った白い手が出てくる。

白い手は容器をエントランスの中に置いたら手を引っ込める。

主人公は恐怖のあまり泣く。

そして容器の中に何があるか確認する。

容器の中には人体の一部がそれぞれ液体の中に入っていた。

それぞれ変色していてピンク、黄緑など気味の悪い色になっていた。

主人公は何か察したのか一つの容器の中身を流し、別の容器を割り、割った容器で自分の脇腹を刺した。

主人公は痛みで叫ぶ。

出てきた血を空の容器に入れていく。

やがて外からパトカーの音が聞こえてくる。

白いエントランスのループは終わり、刑事が助けに来る。


サトシはこの状況と同じだと察知し、持ってきていたカッターナイフで脇腹を刺そうとする。

しかし、映画とは違いリアルな痛みを恐れるサトシ。


「くくっくぅ!」


ササキはサトシが何かしてるのに気づく。


「ガシャン!」

「お前何やってんだよ!」

「やめろー!やらないと出られないんだ!止めないでくれぇ!」


サトシとササキが揉み合いになる。

揉み合いは激しくなり、近くにいたマサミにぶつかる。


「痛っ!!!」


マサミが叫ぶ。

マサミの眼球にカッターナイフが刺さった。

皆驚き、固まる。

サトシはマサミの眼球に容器を近づける。


「何やってんだ!やめろ!」


ササキがサトシを張り倒す。

容器の中に数滴血が入る。

アスカはマサミを看護する。


「大丈夫よ。マサミ。死にはしないわ。大丈夫。」


アスカは涙を浮かべながらマサミに寄り添う。

ササキはサトシに馬乗りになって殴りかかる。

アバシリは途中までササキを止めなかったが、さすがにやりすぎだとササキを止めにかかる。


そんな絶望的な状況の中、カヨコは仏壇の後ろの戸が少し開いているのに気づく。

喪神状態のカヨコは戸の隙間に近づく。

体を横にして入ろうとするが狭い。

カヨコは試しに顔を入れてみた。

すると、顔がすんなりと入った。

喜びの笑顔になるも逆に顔が抜け出せなくなっていることに気づく。


「ちょ、ちょっと。」


カヨコはだんだん深刻な顔になっていく。

戸がだんだん閉まってきていたのだ。


「助けてぇ!!!!!助けてぇ!!!!」


カヨコが叫ぶ。

カヨコの叫に気づいたアバシリがアスカとともにカヨコの戸を開けようと試みる。


「ぐぐぐぐぐっ!!!」

「く、苦しいぃ…」


カヨコの限界が近づいてきた。

アスカが叫ぶ。


「カヨコォォ!!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「ズッッパンッ!!!!!!!」


戸が勢いよく閉まり、カヨコの頭が切り落とされた。

残されたカヨコの体から血しぶきが舞う。

カヨコの血しぶきがアスカとアバシリに降りかかる。


「うわああああああああああ」


正気を失ったアバシリが叫ぶ。

そして上半身裸になって戸を叩き始める。

地獄だ。

そう思ったアスカは、ササキとサトシとマサミの元に行く。


「バンッ、バンッ、バンッ…」


ササキとサトシとマサミの方から破裂音のような音がした。


「…マサミ?」


アスカは仏壇の影から覗き込むようにササキとサトシとマサミの方を見た。

ササキがサトシを殴っていた。

それも顔の原型が無くなるほど殴っていた。

恐らく死んでいる。

破裂音はササキがサトシを殴っている音だった。

隣にマサミが倒れていた。

カッターナイフは口に刺さっていた。

アスカはこのうえない恐怖のもと仏壇の影に隠れるしかなかった。


「…ん?アスカ?アスカだよなぁ?マサミを呼んだかぁ?マサミなら死んだぞぉ…アスカ?なんで俺のこと呼んでくれないんだぁ?」


アスカは口を手で覆い、息をひそめる。

額に汗が流れる。

恐怖におびえしゃがみ込む。


「よいしょっと…」


ササキが立ち上がる。

知っていたかのようにササキはしゃがみ込んでいたアスカを見つける。


「何隠れてるんだ?」

「ひっ」


ササキはアスカの腕を掴んで引きずり出す。


「キャーーーーーーッやめてぇ!!!」

「なんで俺の名前を呼ばないんだ?あ!?俺のことを呼べよ呼べよ呼べよ!」


ササキはアスカの両腕を押さえ込み、ズボンをおろした。


「いやぁ…いやぁ…」

「今やってやるからよぉ…おらぁ、呼べよ。俺の名前を呼べって!!」


ササキは今にもアスカを犯すところであった。


「た、助けて…ア、アバシリィィィ!!!」


すると正気を取り戻したアバシリが瓶の容器を持ってササキの後ろに立っていた。


「ガンッ!!!!」

「うごっ…」


アバシリに容器で殴られたササキは頭から血を流して倒れこんだ。


「お、俺を…呼べ…」


ササキは息絶えた。

アバシリは持っていた容器をササキの頭に被せた。

アバシリは放心状態だった。

アスカはそんなアバシリに抱きついた。


「ありがとう。アバシリ。本当にありがとう。」


アスカとアバシリの足元に血だまりが流れ込む。

アスカはアバシリの顔を見た。


「ごめん。アスカ。俺もう立ってらんない。」


アバシリは血だまりの床に倒れこんだ。


「アバシリ!?」


アスカの膝の上に倒れこむ。

アバシリは発作を起こしていた。


「ハァハァハァハァハァハァハァ」

「アバシリ!ねぇしっかりして!一人にしないで!」

「ごめんよハァ、アスカ、ハァハァハァ最後まで、ハァ生きて…」


アバシリの発作は止まらず、やがて息を引き取った。

アスカは涙を流し、アバシリを抱え込んだ。

そしてアバシリの目をそっと閉じた。

ふとあたりを見回すと、座敷の戸はいつの間にか全て開いていた。

アスカは懐中電灯を一つ取って外へと向かう。

家の扉を出ようとした時、誰かが背後で語りかけてきた。


「ったね…」


暖かい言葉に感じすぐさまアスカは振り返った。

そこにはいろりで火を灯している白髪のおばあさんが座っていた。

そしてアスカに向かって言う。


「よく頑張ったね」


アスカは涙を流しながら扉を閉める。

白髪のおばあさんは扉が閉まる最後まで笑顔でこちらを向いていた。

アスカは重い足取りを運んで行く。


「ガシャガシャガシャガシャーーーンッ…」


後ろで何かが崩れる音がする。

でもアスカは振り返らない。

ただひたすら歩き続ける。

夜を照らす月光のもとへ

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