カルナシティ
雪が降り積もる街。
明け方、キャプテンBが自販機で缶コーヒーを買う。
冷たくなった手を缶コーヒーで温めながら自販機をあとに歩き始める。
ヒーローは雪が降っていようが街の平和のために警備に努める。
キャプテンBはカルナシティのヒーローである。
「……うっ」
キャプテンBの足取りが止まる。
何かを踏んでしまったようだ。
足元には粉々になった空き缶だったものが散らばっていた。
その空き缶から少し離れた場所では別の空き缶が落ちている。
「これは?」
落ちていた空き缶を手に取るとキャプテンBはそれをまじまじと見つめた。
どうやら誰かが意図的に捨てたものらしい。
だが一体誰が? ゴミ箱ではない場所に捨てられたそれはまるで警告のようにも見える。
「……」
しばらくあたりを捜索していると
「ガシャン!!」
「キャーーーーッ!!」
物音と叫び声が聞こえた。
キャプテンBは自分で買ったコーヒーの缶と拾った空き缶を両手に持ち、叫び声がした方へ走った。
現場に着くとそこには若いカップルらしき男女がいた。
男は女を押し倒して馬乗りになっている。
「なんだてめぇ!」
男が叫ぶ。
「お楽しみ中申し訳ないんだがな……」
キャプテンBはそう言うと持っていた空き缶を投げつけた。
空き缶は男の顔面に直撃し、男はその場に倒れ込んだ。
倒れた男の横をすり抜け、キャプテンBは女の肩に手を置いた。
「大丈夫か?」
「え……あ、はい!ありがとうございます」
女は顔を赤らめて答えた。
「怪我はないみたいだが、念のため病院へ行くといい」
女は深々とおじぎをしてその場を去った。
キャプテンBは倒れた男の方に振り向く。
そして拾った缶を差しだす。
「これは君のか?ポイ捨てはダメだぞ」
差し出された缶を見て男は体を起こして目を見開いた。
「あぁ...知らねぇよそんなの...」
と男が言った。
その次の瞬間、
「バシュッ!!!!」
「グシャッ!!」
喋っていた男の顔が一瞬にして粉砕されてしまった。
「!!!」
キャプテンBは返り血を浴びた。
驚きのあまり、粉砕された男を黙って見ている時間が何秒かたった。
「...んあっ!」
キャプテンBは振り返り、後ろに何かの気配があったことに気が付いた。
走って街の大通りまで出た。
街には車が通っていた。
雪が降っていてもお構いなしといった感じだ。
「逃したか」
キャプテンBは人目を避けるように路地の方へ向かおうとした。
するとその時、
「バンッ!ドンッ!」
「キキーッ!ガシャン!」
大通りで騒音が鳴り響いた。
「逃がさんぞ!」
キャプテンBは大通りに戻ると、空で浮遊する何者かがいた。
ジェットパックのようなものにグレネードランチャーのようなものを装備していた。
キャプテンBはすぐに奴の正体に気づいた。
「久々の登場だな。ヴァルキリー」
上空にいる人物に向かって叫んだ。
「ハハッ、俺の名前を呼んでくれるとは珍しいな。嬉しいぜ」
「んー?それは新武器か?」
「そうさ、空き缶を弾にしてるんだ。リサイクルだろ。へへ」
「いーや、お前は逆に街を汚しているぞ。今すぐお前を懲らしめてやる」
「ハハッ、お前飛べないだろっ!」
キャプテンBはすぐに走り出し、目の前に止まっていたタクシーを踏み台にヴァルキリーに向かってジャンプした。
「バカめ!死ね!」
ヴァルキリーは手榴弾のような物を投げてきた。
空中で身動きが取れなくなったキャプテンBはそのまま爆破されると思われたが、
「ブォンッ!」
なんと彼は拳を振り回して爆風をかき消したのだ。
「はぁ!?何やってんだよ!」
驚くヴァルキリーの前に着地したキャプテンBは再び駆け出した。
「今度はこっちの番だ!」
キャプテンBはヴァルキリーの腹を思いっきり殴った。
「うごぉおおおっ!!」
殴られた衝撃でそのまま地面へと落下していく。
「覚悟しろ。悪党め。二度と悪さできないようにしてやる」
「...ハハッ」
血を吐きながらうすら笑いしているヴァルキリーの両腕を掴んだキャプテンBは一気に
「ボキッ」
とその両腕を折った。
「ぐああああああああああ」
ヴァルキリーは叫ぶ。
「お前には過去の罪もある。長い刑務所生活を楽しむんだな。」
キャプテンBは知り合いの警官に連絡をしてヴァルキリー逮捕の要請をした。
こうしてキャプテンBは今日も一仕事終えたのであった。
場所は変わり、B009旅客航空機 オビロン→カルナシティ行き 機内。
満席の客席に、一人 風変わりな男が座っていた。
男の名はトガー。
マジシャンが使うようなシルクハットを深々と被っていた。
真っ白な景色が窓から見える。
トガーは手持ちの本を開き読み始める。
本のタイトルは「バリソン・ウェイカーのオビロン事件簿」。
トガーは最初の一ページ目を開く。
するとその時、前の座席に座っていた男が目開きマスクを被って立ち上がった。
手にはライフル銃があった。
男は言う。
「お前ら!全員おとなしくしろ。この機体は今から俺たちの物だ。勝手なことしたら容赦なく殺すぞ!わかったな!」
その言葉を合図に同じ目開きマスクをした男たちが立ち上がった。
「キャーーーッ」
「わああああ」
男たちの姿を見た乗客たちはすぐに慌てふためく。
「ドガガガガガガガガッ!!!!!!!!!」
男は近くにいた乗客複数人に向かって銃を撃ちはなった。
「黙らねぇと同じように殺すからなぁ!!」
「ーーーーー」
あたりは一瞬にして静寂に包まれた。男はさらに続ける。
「乗客どもは通路に出てもらうぞ。抵抗するなら……わかるよなぁ?」
男の指示に従い、旅客たちが通路にぞろぞろと出る。
その様子を見て男は満足そうに微笑むと、自分の席に戻った。
するとその時、一人通路に出てこない者がいるのに男は気が付いた。
「あぁ?なんだおめぇ。」
一人黙々と本を読む男がいた。
トガーだ。
「お前殺されたいのか?」
目開きマスクの男がトガーに銃口を向けた。
トガーは言う。
「そっくりそのまま」
次の瞬間、目開きマスクの男に向かってシルクハットが飛んできた。
「!」
目開きマスクの男は何もすることができなかった。
「ゴトッ...」
目開きマスクの男の生首が転がる。
トガーは続けて言う。
「...お返しするよ」
目開きマスクの仲間たちが一斉にライフルを構える。
「て、てめぇ!」
「くらえ!」
彼らは一斉に銃を乱射した。
他の乗客は皆後ろに走り出す。
トガーは席を盾にし、もう一度シルクハットを投げた。
「シューーーーーーッ、ジャッ、、、ジャッ、、、ジャッジャッ」
「ボタッ、ゴロッ、、ゴトッ」
銃声は消え、乗客は前の席の方に振り返る。
頭のない男たちの体が立ち尽くしているのが見えた。
トガーは何事もなかったかのように本の続きを読み始める。
彼の能力は「トリックハット」。
シルクハットを限定に自由自在に投げて攻撃することができる。
キャプテンBと同じく、彼もまたヒーローである。
二人のヒーローがカルナに集う。