3, 食べ物を探して
やっぱり明るい方に行くしかないよね。
下は暗い。しかも……なんかこう、「ホラー映画はここから始まります」みたいな空気が漂ってる。
うん、決まり。上に行こう。光の方がきっと希望がある……はず。
というわけで、私は白くておしゃれな螺旋階段をくるくる登り始めた。
ふくらはぎが悲鳴をあげ始めた頃、その先に広がっていたのは……
ガラス。
そう、四方八方ガラス張り。完全なるスケスケ展望スペース。
丸見えである。
すごい……まるで空の上にいるみたい……
ここって塔の最上階だよね。
ガラスの近くに行くのはちょっと怖いので、螺旋階段のそばで身体の向きだけ変え、眼下の景色を眺める。
東西南北はまったく分からないけど、とりあえず目に入るのは――
青い海。白い山。緑の森。そして……茶色い壁。
え、壁!?
どこかの方向だけ、まさかの景色ゼロ。
どうしてあそこに壁があるの?
まるで、この広い森と向こうに広がる世界を隔てているような。
もしかしてこの森ってなんかやばいの?
とんでもない猛獣がいるとか……
いや、深く考えてはいけない。
とにかく今は状況把握に集中するのだ。
でも、どの方向を見ても、全く知らない風景ばかり。
日本地図のどこを探しても見つからない。
塔のてっぺんっぽいこの場所からは、360度異世界ビュー。見渡す限りファンタジー。
なんとなくそんな気はしてた。けど、頭の中では否定してた。
でも、この景色を見せられたら――もう認めるしかない。
異世界進出、確定。
しかも、召喚魔法もトラック転生も介さず、ただの登山中に迷い込んだパターン。
一番リアクションに困るやつ。誰に文句言えばいいの?
――私、ついに異世界デビューしてしまったのだ。
なんか……人生、急にスケールアップした気がする。
四十路になって大転換期。
なんでこの歳になって急にハードモードに突入するかなぁ……
私、これからどうすればいいの?
異世界初心者なんだけど?
とにかく異世界上級者ってどこにいるの? いたら今すぐ攻略本的なやつください。
とりあえず、今いるこの場所は――もう「展望台」ってことでいいよね。
四方ガラス張りで見晴らし抜群。夜景があったらデートスポット認定されてるとこだわ、ここ。
……ただ、これがただの観光なら最高なんだけど。
問題は、どうやら“片道切符”っぽいってこと。戻る気配ゼロ。説明書もナビもなし。
ってことは、ここで生活していくしかない――の、か……。
凶暴な獣がいる森の中に突然放り出されたわけでもないのはまだよかったけど……
寝床もあるし。天蓋付きベッドなんて、生まれて初めてだし。
トイレとお風呂もあったしね。うん、快適。誰のか知らんけど、今は気にしないスタイルで行こう。
あっ、トイレはもう使っちゃったし。既成事実成立。
で、問題は食料と水。人間、そこが一番大事。いくら部屋が可愛くても、水とご飯がなきゃ人間はすぐ干からびる。
手持ちのミネラルウォーターは、ペットボトルがあと2本。……多く見積もっても、2日持てば奇跡。
あ、そういえばトイレの横に洗面台があって、ちゃんと水は出たっけ。
うん、蛇口から水出るだけでテンション上がるの、もはやキャンプ初心者みたいなメンタル。
最悪、あれ飲めばいいよね……たぶん。いや、飲めるよね? きっと安全だよね?
誰もいないので自分自身に向けて確認してみる。
……というか、そもそも異世界の水道って、どこの業者が管理してるんだろう。
やばい、考えれば考えるほど、喉が乾いてきた。
とにかく、食べ物!
生きていくには、まずご飯! どこだ、ご飯!!
トイレもお風呂もあったんだから、キッチンくらいあるよね。
よし、冷静にキッチンを探そう。
さっきの部屋の反対側、螺旋階段を挟んで向こうにあった扉が怪しいと私の勘が告げている。
人間社会の基本構造として、キッチンはリビングの近くにあるもの。ないと困る。特に私が。
ここにはベッドもあるし、トイレも風呂も完備。
どう考えても誰か住んでた形跡があるよね? いや、むしろ今も現役で住んでて、ちょっと外出中とか?
……その場合は素直に謝ろう。
「すみません、勝手にキッチン拝借して、あとトイレも使いました」って。丁寧に。心から。
でも、もしもう誰も住んでないなら――
食べ物、もらってもバチは当たらないよね? ね?(圧)
ということで、ドキドキしながら例の扉をそっと開けると――
よっし!
思わずガッツポーズ。
壁際にシステムキッチン。 真ん中にはダイニングテーブル。
この部屋、見た目は乙女チックなのに、キッチンだけ異様に現代的。
IHコンロ完備って何? 魔法と電化製品の共存、どうなってんのこの世界。
しかもその横には、見覚えのあるフォルムの棚……
これはまさか、あの……日本全国どこの家にもある……食器棚ーっ!!
開けちゃっていいよね?
というか、開けない選択肢がどこにあるの!?
食べ物が潜んでいるかもしれないし。
私はじわじわと、まるで開かずの扉を探る勇者のごとく、食器棚の扉を開けていった。
棚は三列の両開き式。私の身長より30センチも高い。
まずは一番右の列。
おぉ、ちゃんとお皿やコップが並んでる。これだけで文明を感じる。感動。
続いて、中央と左の列を開けると――
小瓶、びっしり。
しかも中身は透明の液体で、うっすら色付き。赤、緑、紫……やけにパステル調でポップな見た目。
……これ、もしかしてポーション?
異世界によくあるやつ。HP回復、MP回復、あとは「飲むと鼻がムズムズする」みたいなやつ。
いや、もしかしてこのキッチン、アイテムショップを兼ねてる!?
「いらっしゃいませ~」って誰もいないのに聞こえてきそう。
そして最後に開けた、左下の扉。
中には、さくらんぼくらいの大きさのゼリーのような何かが入った丸いガラス容器が3つ。
色は、赤・黄・青。まさかの信号機カラー。
やけにカラフルだけど、食べられるよね。
ゼリーで間違ってない?
色分けで味が違うとか? それとも食べると性格が変わるとか、変な効果があったりしないよね?
判断がつかないけど、とりあえず黄色いゼリーが入った容器を手に取って、蓋を開けてみた。
すると――
ふわっと、甘い香りが鼻をくすぐる。
あれ……意外とちゃんとスイーツっぽい?
見た目はちょっとアレだけど、香りは完全にデザート。
ゼリー? プリン? それともスライムの親戚?
うーん、食べても平気かな。
飢えて死ぬか、食べて死ぬか……究極の選択。
でも、毒だと決まったわけじゃない。
こんな無造作に毒を置くはずない……たぶん。
食べてみなきゃわからないし、まずは少しだけ――
いただきます精神で、いざ実食!




