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アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します  作者: 梅丸みかん
第一章 塔の上から見た異世界

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13, いつから人形?

 次の部屋は、ちょうど五つあるアーチの真ん中。そこに足を踏み入れた瞬間――


「……うわ、天井高っ!」

 本棚の壁が、まるでビル。天井を突き抜ける勢いで本がびっしりと並んでいる。


「ここは資料室じゃ。この世界に存在する文献がずらりとそろっておるぞ」

 師匠の説明を聞きながら、私は口をぽかんと開けて本棚を見上げる。


 いや、構造おかしくない!?

 この塔、何階建てなんだ。どう見ても天井、階をぶち抜いてるし。

 あの最上段の本、どうやって取るの?

 そもそも梯子どころじゃないぞ、あれ。


「すご……」

 思わず感嘆の声が漏れる。これだけ大量の本を目にするのは初めてかもしれない。


「どうじゃ、すごいじゃろう。妾が五百年かけて集めたのじゃ!」

 どや顔で胸を張る人形――いや、師匠。


 ……え? 五百年?


「えっと、師匠。その“五百年”って、もしかして封印される前の話?」

「そうじゃ。封印されてからは動けぬからのう。その前に集めておったのじゃ」

 ……うん、だよね。つまり、封印される前に五百年活動してたってことは――


「……師匠って、いったい何年生きてるの?」

 もはや人間としてカウントしていいのか悩ましい。

 それよりも、いつから人形なんだろう?


「ふむ、そうじゃな。封印されている時間も含めれば一千年とちょっと、というところじゃな」

「封印される前はその姿じゃなかったの?」


「当たり前じゃ。この姿でどうやって山を越え谷を渡り本を集めると思うておる?」

 確かに、今の見た目では図書館に入ることさえ叶わないだろう。


「封印される時、妾は“呪い”によってこの姿にされてしまったのじゃ」

「呪い……って、マジで?」

「そうじゃ。“メデューサの呪い”にかけられたのじゃ」


 メデューサ? どこかで聞いたことあるような……

 私が首をかしげていると、師匠が解説を始める。


「お主は異界から来たのじゃから、知らなくても無理はないな。メデューサとは、髪の毛がすべて蛇でできた魔物じゃ。目が合うと――人形にされるのじゃ」


「……え? 石じゃなかったっけ?」

 つい、口に出してしまった。私の知識では、たしかギリシャ神話のメデューサは“石化”のイメージ。


 人形化は初耳なんだけど……異世界仕様なのか?

 私は思わず、再び首をかしげた。


 それにしても、すごい。本の数……。

 図書“室”なんて呼び方じゃとても足りない。


 これはもう立派な図書“館”。

 いや、むしろ図書“城”でも通じそうなスケール感。


 窓際には重厚な木製カウンターがいくつも並び、そこから差し込む陽の光が、ほんのりあたたかく空間を照らしている。

 天井まで届く本棚の圧迫感が、この光のおかげで少しだけ和らいで見えた。


 私は一番近くにあった本を、そっと手に取ってみた。

 分厚くて重い、そしてやたらと渋い色合いの背表紙。


 明らかに古書で、年季が入りすぎていて、ページを開くのがちょっと怖いレベル。

 ……いや、これ絶対貴重なやつだよね? 下手に開いてバラッとかならないよね?


 恐る恐るタイトルを確認しようとしたけど、表紙には見慣れない文字が踊っていた。

 なんだろう、アラビア文字……っぽいけど、ちょっと違う?


 中を開いてみると、案の定中身も全部その文字。

 ページのあちこちには挿絵が挟まっているけど、どれもファンタジー全開で説明になってない。

 

 何の本なのか、全ッ然わからん。

「……読めない……」


 思わずつぶやいた私に、すぐ隣から師匠の声が飛んできた。

「そりゃそうじゃ。この世界の文字じゃからな」


 ん? この世界の文字?

 そりゃそうか、ここは異世界だから、異世界の文字で書かれているのは当然だ。


 そういえば、私さっきから師匠と話してるよね……日本語で。


「あれ? ちょっと待って。師匠って、なんで日本語喋ってるの?」

 ようやく重大な矛盾に気づいた私が問いかけると、師匠は「フフン」とドヤ顔(人形なのに)をしながら答えた。


「なかなか博識じゃろう? 封印されてからも妾は思念体であちこち、旅をしていたのじゃ。特に思念体を飛ばせるようになったここ百年間は、ほとんどは異界に行っておったのじゃ。じゃから、ミカのいた世界のほとんどの国の言葉を習得しておるのじゃ」


 ほとんどの国? なにそれ、すごくない?

 それよりも私は肝心なことに気がついた。


 え? ちょっと待って、私、この世界の文字も話し言葉もまったく分からないじゃん。読めないし書けないし、話せない。つまり――

 師匠以外と会話できる可能性、ゼロ。


「……あれ? もしかして私、この世界での話し相手、ずっと師匠だけ……?」

 うわ、それめっちゃ寂しいやつじゃない?

 一歩間違えるとホラーじゃん。

 人形と一生語り合う異世界生活って、斜め上すぎる。


「私、この世界の言葉、聞いたこともないし、読めないし、そもそもこんな森の奥に人がいるとも思えないし……ああ、もしかして私、このまま本も読めずに一生会話相手は人形オンリー……なのかも」


 しょんぼりしてボソボソつぶやく私を見て、師匠がちょっとだけ得意げに鼻を鳴らす(人形なのに)。


「心配するでない。妾が術を施したものを使えば、この世界の言葉なぞすぐに覚えられるわ!」

 おお、救世主か!?


 と、一瞬だけ感動しかけたそのとき――

 脳裏をよぎった、アレ。


 そう、不完全なまま私を異世界にぶっ飛ばした、あの“ダメっ子魔導具”――ファンシー部屋の見た目だけおしゃれな姿見。


 師匠が術を施した……ってところが引っかかる。


 「すぐに覚えられる」って、まさか一晩中頭に文字を投影し続けて強制暗記とか、睡眠学習モード搭載のヘッドギアとか、そういう拷問チックなやつじゃないよね?


 私は師匠の自信満々な態度に嫌な予感が拭えず、うっすらとイヤな汗をかいていた。



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