第7話 ギフト
「ゆ、ゆーりはいたくは、なかったの?」
「はい、おそらくはなかったかと思います」
「なにもいわないで、かってに、さきにいくなんて、あのこらしっ」
地縛霊で得た能力が役に立ったことは間違いない。初めてすることでも上手くいく自信があった。失敗するかもなんて考えもないくらいに成功を思い描いていたの。
くっつけたおでこが淡く光り出すと、いたた、とまりなさんが目の痛みを訴えた。最初は左目を痙攣させて、そして、右目が同じように痙攣を起こして、痛みをあたしに報せた。
「っつぅ、……え、うそ、でしょう」
うっすらと開けた瞳から見える光景にまりなさんの絶句と声を上げた。
分かりやすい感情の声に成功だと、あたしも泣きそうだ。
ユーリちゃん、これでよかったんでしょう。
あなたのご主人様には、もう盲導犬は必要なくなったよ。
***
0.1程度しかなかった視力が2.0になったんだから、現代社会では起こり得ない奇跡が起きたとか、かりつけの医者に驚かれたよね。
健常者になったまりなさんは夢を叶えるべく、夜勤で働きながら大学に通い出した。
「まりっぺ。起きないと大学に遅刻しちゃうよ」
「……遅刻? 今、何時?」
「ぇえと。ああ、バス、もう行っちゃったかも」
携帯のアラームが鳴る前からあたしは何回も、起こしましたよ。弁当だってちゃんと作ったし、折角作った朝ごはんも無駄になっちゃったじゃない。あんまりだよ。
居室にある大きな姿見鏡に大きくため息を吐くあたしの姿が映し出された。
最初は犬が二本立ちした容姿だったのよね。
でも、そのうち頑張り続けたら、顔だけが人になって、全身はラブラドールレトリバー。まさに人面犬よね。
そこからさらに頑張り続けて、顔面は人間で髪の毛と耳は犬、そして身体も人間の形になって短い毛が服のようになっていた。その身体にエプロンと頭には三角巾が被さっている。
獣人といえる容姿に替えることに成功したのよ。
地縛霊だった頃からは想像もしない展開だわ。
すべてはユーリちゃんのおかげ。
「キリちゃんっ、大学まで走ってくれるよね! ねぇ!」
「しょうがないなぁ」
「キリちゃん♡」
バタバタと身支度を済ましたまりなさんが「おまたせ♡」と両手を合わせて苦笑を浮かべた。
大学に遅れるのもダメだしで、あたしは獣人からラブラドールレトリバーに戻った。
この姿の目はなくなったが、地縛霊のときの杵柄もあって視界に支障はない。
「行こう!」
「うん♡」
見えるようになった彼女と寄り添う元地縛霊のあたしは、贈られ貰った能力のおかげで幸せです。
――了——