第5話 ココロの在処
《キリコさんは幽霊ですから、わたしがいなくなった肉体に入って受肉してください》
ユーリちゃんはベッドの上に寝込んでしまったまりなさんを見ながら、あたしに感情を抑えた口調で言う。
盲導犬が落ち着いて話していることもあってあたしも、感情的にものをいうことは出来ない。してはいけないとさえ思ったの。
《そうしていただければ、わたしの肉体も腐敗せずに済むでしょう》
「そういう、ものなのかな? 空の器の中に魂があればOK的な、ものなのかな? どうなの?」
《いいのだと、思いたいんです。お願い出来ますか?》
「いつ、……お迎えが来るの」
死に神から何日の何時なのかとか、教えられていないかと思ったから、つい、あたしも聞いてしまったんだ。聞けば、もう、するということは決まってしまうことも分かっているの。
偽善だと思われるかもしれないけど、彼女と寄り添え会えるのも、ユーリちゃんの想いを成し遂げられるのは地縛霊の――あたしだけ。
《実は……今晩なのです》
動いた心臓があったのなら、どんなリズムを刻んでこの場所にいたんだろう。地縛霊のまま、何の感情もないまま――この場所にいたあたしだったらどう応えていたんだろうな。
何もない空っぽの方が詰め込められたのかもしれないのに、どうして、地縛霊になった後、どうして感情なんか戻ってしまったんだろう。
何もなければ、こんな悲しい想いをしなくて済んだのに。生きた人間みたいになってしまったのは、どうして。
きっと神様や仏様が、あたしの願いを聞いて奇跡を起こしてくれたんだ。……なんて残酷な真似を、いまさらしてくれたんだろうな。
身体が手に入ることを嬉しいと思うだなんて、ユーリちゃんを可哀想と思わないあたしは酷い奴だ。
《引導を渡せる誰かがいて、本当によかったです》
「あたしは地縛霊だよ」
《言い換えましょう》
横にいるユーリちゃんの心臓音が弱くなっていくのが聞こえる。
間もなく魂は止まり、死に神のお迎えがある。そのとき地縛霊のままならあたしもおまけで連れて行かれるかもしれない。それは避けたいよね。
《身体のない魂が在ってよかった》
「うん。あたしに身体がなくて、本当によかったわ」