表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

第5話 ココロの在処

《キリコさんは幽霊ですから、わたしがいなくなった肉体に入って受肉してください》


 ユーリちゃんはベッドの上に寝込んでしまったまりなさんを見ながら、あたしに感情を抑えた口調で言う。


 盲導犬が落ち着いて話していることもあってあたしも、感情的にものをいうことは出来ない。してはいけないとさえ思ったの。


《そうしていただければ、わたしの肉体も腐敗せずに済むでしょう》

「そういう、ものなのかな? 空の器の中に(あれ)があればOK的な、ものなのかな? どうなの?」

《いいのだと、思いたいんです。お願い出来ますか?》

「いつ、……お迎えが来るの」


 死に神から何日の何時なのかとか、教えられていないかと思ったから、つい、あたしも聞いてしまったんだ。聞けば、もう、するということは決まってしまうことも分かっているの。


 偽善だと思われるかもしれないけど、彼女と寄り添え会えるのも、ユーリちゃんの想いを成し遂げられるのは地縛霊の――あたしだけ。


《実は……今晩なのです》


 動いた心臓があったのなら、どんなリズムを刻んでこの場所にいたんだろう。地縛霊のまま、何の感情もないまま――この場所にいたあたしだったらどう応えていたんだろうな。


 何もない空っぽの方が詰め込められたのかもしれないのに、どうして、地縛霊になった後、どうして感情なんか戻ってしまったんだろう。


 何もなければ、こんな悲しい想いをしなくて済んだのに。生きた人間みたいになってしまったのは、どうして。


 きっと神様や仏様が、あたしの願いを聞いて奇跡を起こしてくれたんだ。……なんて残酷な真似を、いまさらしてくれたんだろうな。


 身体が手に入ることを嬉しいと思うだなんて、ユーリちゃんを可哀想と思わないあたしは酷い奴だ。


《引導を渡せる誰かがいて、本当によかったです》

「あたしは地縛霊だよ」

《言い換えましょう》


 横にいるユーリちゃんの心臓音が弱くなっていくのが聞こえる。


 間もなく魂は止まり、死に神のお迎えがある。そのとき地縛霊のままならあたしもおまけで連れて行かれるかもしれない。それは避けたいよね。


《身体のない(ココロ)が在ってよかった》


「うん。あたしに身体がなくて、本当によかったわ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ