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第4話 盲導犬からのおねがい

 目が見えない同居人と相棒の盲導犬が居室に引っ越して来た。


 死んでから意識がはっきりした後からの久しぶりに見る生きた動物で、しかも大好きな犬にあたしのテンションも爆上げだ。


「ユーリちゃん、可愛いなぁ」

《ありがとうございます》

「お利巧さんだぁ」

《恐縮です》


 盲導犬のユーリちゃんは九歳の雌。ご主人様であるまりなさんを愛して心配をしていることが、話し合っていく中で分かる。


 一緒にまりなさんの生活を見守っていくことが楽しくなっていくのがわかったけど、同時にユーリちゃんの衰えも、目に見えて分かっていく。


 体調面を聞くことをあたしも躊躇してしまう。もしも、悪かったとしてあたしがまりなさんに伝える術は――相手に恐怖を与えることになるのだから。


 あたしとユーリちゃんの心配を他所に、目が見えないながらにまりなさんも働く。帰って来てから横になって、朝になっていることもある。


 妹のすずなさんが寄った日にはきちんと食べて、風呂にも入っているのだけど。彼女のことがあたしも心配だ。


 生前のあたしみたいになってしまうことが、堪らなく怖かった。


 人間関係や時間にも束縛されない地縛霊。そんなあたしだからこそ、彼女がが引っ越さない限りは見守り続けることが出来る。


 誰かと一緒にいる生活は、両親以外では初めて。しかも、引っ越して来て年単位の同居人も初めてで、盲導犬のユーリちゃんも可愛いし最高だよ。


 死んでからこんなに幸せを味わえるなんて思いもしなかったな。


《キリコさん。折り入ってご相談があります》


 雪が降る前の出来事。


 ユーリちゃんがあたしに真剣な口調で話しかけて来た。それにあたしも一抹の不安に心が揺れたけど、どうかしたの? と平静を装って聞き返した。


 すると、ユーリちゃんはあたしに頭を下げたの。


「ユーリちゃん。どうかしたの?」

《先日、死に神の方がおいでになりました》

「は? 死に神って、ちょっと、冗談は――」

《キリコさんに言うべきか、正直迷いました。しかし、このままではまりなさんが、……わたし以外の盲導犬を飼うでしょう》


 言いたいことが分かる。


 ユーリちゃんは、新しく貰われて来る盲導犬に嫉妬をしているんだ。自身以外の盲導犬が、まりなさんの寵愛を受けるのが嫌なんだと、あからさまな態度で言葉の端から読み取れるよね。


「うん。そうじゃないと彼女は生活が出来ないもん、仕方ない、んじゃないかな」

《ですので、キリコさんに折り入ってのご相談なのです》

「うん。どんな相談なのかな」


 安請け合いではなく、どんな相談なのかと軽く聞いたあたしに、わたしの全てをあなたに差し上げますのであなたは生きて下さい、と説明された。


 当然、ユーリちゃんが言っている言葉の意味が理解出来ない。あたしが困惑をして無言でいると、ユーリちゃんは言葉を続けた。


《猫なら年齢で猫股になります。犬ならどうでしょうね、……獣人なのでしょうか》

「人面犬」

《それはまた違うかと思うのです》


 噛み合わない会話にあたしは口を閉ざした。

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